『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(19)ある天気のいい日の一幕

 トンテンカン、トンテンカンと、金槌を振るう音が、人通りの少ない石造りの路地にこだましている。

 陽も高くなり辺りに春の温かさを送るなか、ドワーフやら獣人やらの男たちが10人以上、俺たちの新しいホームに集まってきていた。

 で、何をしているかと言えば、日曜大工ならぬ、ホントの大工仕事。

 どこから運び込んだんだか、巨大な丸太や、レンガを使って、件の幽霊屋敷のリフォームの真っ最中だ。

 割れた窓や、腐った内壁なんかをさっきから剥がしまくって、ボロボロだった洋館がすっかり伽藍堂に。そこにすでに板を張り付けたり、屋根を貼ったりと、見てるそばから、家が形作られていくのは圧巻の一文字だ。とにかく手際が良い。良すぎる。

 

「いよぉ、大将。昨日はあんまり眠れなかったみてえだな」

 

 そう言いながら、近づいてくるのは、革のジャケットを羽織った、頬に傷のある中年の男。肩に巨大なハンマーを担ぎながら俺に話しかけてきた。

 

「えと……ボールス……さんだっけか?なんか悪いな、こんなことさせて」

 

「いいってことよぉ。あんたらのおかげで、こちとら命拾いしたしな。これくらいどうってことねえぜ。それに、【リヴィラの町】も今回は派手に壊されちまったし、ギルドの調査もあってしばらくは立ち入り禁止だしな。やることもねえから、こっちとしても丁度いいんだよ。遠慮しねえで恩を返させろや」

 

「はあ……ま、そういうことなら……」

 

「それによ、あんたらの活躍を信じねえやつばっかでよ、こっちも鬱憤溜まってんだよ。だからな、ここをあんたらに相応しいスゲーホームに作り変えてやっから楽しみにしてろや。リヴィラ魂魅せてやるぜ」

 

「お、おう」

 

 そう言って、俺の背中をバンバン叩いてニヤリと笑ったボールスさん……確かこの人、リヴィラの町の元締めみたいな人だったよな。

 リヴィラの町も壊れるたびに建て直してるみたいだし、まあ、こんなにやる気になってんなら、任せておけばいいか。

 

 リヴィラの町は、ダンジョンの中層、18階層に作られた冒険者の町の名前だ。

 18階層はダンジョンの内で例外的にモンスターが湧かない階層の一つで、巨大な空間に森や湖が存在する不思議エリアだ。しかも天井にある巨大なクリスタルが陽光のごとく光を発し、しかも、その輝きによって、昼夜を作り出している。

 そんな神秘的なその階層は迷宮の楽園(アンダーリゾート)なんて呼ばれるくらい美しい景観の世界なのだが、どういうわけか、そこに住み着いたガメツイ冒険者達が町を作った。

 そこがリヴィラの町なわけで、今回、俺たちがその階層に転移してきた直後に、例の強化種ゴライアスの大量発生があり、町は一瞬にして壊滅、そこにいた冒険者たちは命からがら逃げだしたってわけだ。

 モンスターの群れに関しては、俺たちやとーちゃん(ほぼとーちゃんの独壇場だったが)によって排除したもんで、それで恩義を感じてくれてるらしく、恐ろしくみんな協力的だ。

 

「はいはーい。ごはんですよー」

 

 そう声が掛かって、顔を上げれば、そこにはたくさんのおにぎりの載ったトレイを持った一色や小町達、うちの女子メンバーの姿。みんなエプロンや頭巾を被って食事を運んできた。

 

「おお!待ってましたー」

 

「へへー。おむすびかー。確か極東の飯だったな、旨そうだ」

 

 なんて言いながら、にやけた親父たちがぞろぞろ集まってくる。

 小町に色目使いやがったら、消し炭にするぞ、コラ!!

 ……とは、絶対ドモリそうなので言わないが、とりあえず、メラは準備。

 

「はい、ヒッキーの分!」

 

 急に声を掛けられて顔を向けると、そこには由比ヶ浜がおにぎりの載った皿を差し出していた。

 

「あ、えと、あ、あたしが握ったの。た、食べてよ」

 

「お、おう……」

 

 差し出されたお握りは、お世辞にも形が良いとは言えない不格好で大きさもマチマチのものが3つ。

 正直、由比ヶ浜の作ったものに関しては色々と物申したいこともあるのだが、彼女なりに努力していることを俺は知っているし、なにより、俺の為に頑張ってくれてるわけだから、それを足蹴になんてできない。

 俺は、そのうちの一つを取って、大口で頬張る。

 

「ど、どうかな……?」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。その……旨いよ、ありがとうな」

 

「うん!」

 

 ちょっとしょっぱいけどな……とは、嬉しそうな由比ヶ浜の顔を見たら言えなかった。

 

「マスターマスター、アンのも、アンも食べて」

 

「い、いや、アン?お前、その言い方色々誤解招くから気をつけて」

 

「八幡、私のも食べてほしいのだけれど」

 

「せんぱーい、私のも食べて欲しいですー」

 

「お兄ちゃんはー、小町の味が一番だもんねー」

 

「ちょ、ちょっとお前ら……そんなに食えないからな、俺」

 

「おお!八幡君が女の子に群がられてる。これは私も混ざらなくては!」

 

「い、いや、ルビス様まで来なくていいですから……それにおにぎりのことですよね?そうですよね?」

 

 などと、せっかく頑張ってくれてるおっさん達そっちのけでキャイキャイ始まっちまった。いや、あの……お願いですから腐ったもの見るような目で見ないでくださいな、皆さん。

 俺、そんなに節操ないわけじゃねーからな。全然説得力ないけど。

 

 

 

 そんなこんなで、俺たち異世界組は青空の下で今日はだらだらと休日を謳歌してるように見えるわけだが、別にただ遊んでるというわけでもない。実はある人物の来訪を待っているところで、誰が来るのかというと……

 と、その前に、ここまでの成り行きを説明しよう。

 

 夕べ、フェルズの奴に言われて来てみたはいいが、まさかのお化け屋敷で、正直こんなとこに寝泊まりなんて……と全員がかなり不満たらたらだった。実はこの場所、後で知ったことだが、フェルズの隠れ家の一つだったようだ。

 見た目、窓も戸も壊れて、防犯もへったくれもない建物だったので、どこに寝りゃいいのかなあと悩んでいたのだが、中央階段下に結構な広さの隠し部屋があって、そこにフェルズが俺たちの寝具やら、食料やらをすでに運びこんでくれていた。

 その部屋に関しては、清掃も行き届いてるし、簡易の手洗いや洗面所もあって、すぐにでも暮らせる感じだったもんで、そこに泊まった。まったく、どこの3代目の泥棒のアジトだよ。

 ただ、部屋は問題なかったんだが、当のフェルズが完全な骸骨野郎なもんで、見た瞬間に一色と小町が絶叫の上気絶。しばらくして、起きてから、まだフェルズが居たもんで、再び失神しそうになるのを、みんなで大丈夫だなんだと必死に説明してなんとか落ち着かせた。

 ちなみに、雪ノ下や由比ヶ浜は、ドラクエの世界でもっと気持ち悪い連中とさんざん遭遇してるから、別に骸骨が動くくらいならもう平気みたいだ。俺もそうだが、あんまりこういうのには慣れたくないな。

 それから、この建物が幽霊屋敷と呼ばれる原因も、どうやらフェルズの所為らしく、夜な夜な、真っ白い髑髏が徘徊してる……みたいなうわさがあることをポリィが言っていた。本当に人騒がせなやつだ。

 

 という夜だったが、朝起きてみたら、さっきのボールスさん達が家の前に集まっていたというわけだ。

 これについても、フェルズが裏から手をまわして、俺たちがここに住むという情報をリヴィラの町の住民連中に教えていたようで、早速駆けつけてくれたってことだな。まったく手回しが良すぎて気持ち悪いよ。どこのセバスチャンだよ。

 

 それで、今に至るというわけだ。

 

 改築工事は進んでいるが、現在の居住スペースの地下室には手を加える必要がないので、特に困ることもない。

 せっかくだから、どんなホームにしたいか色々聞かれたんだが、正直俺にはそういうのはよくわからんから、小町達にまるっと、全部投げた。女子連中が朝から色々注文つけてたみたいだけど、はてさて……どんな風に変わることやら。

 

 そんな回想も、急に声を掛けられたことで、終わりを告げる。

 

「あの……、神ルビスの一団の方々ですね」

 

 そう言って現れたのは、俺が待っていたその人、ハーフエルフの可愛いお姉さん。そう、ギルドのエイナさん。

 ここ最近、デカルチャーズとしてはほぼ毎日顔を合わせているわけだが、ノー変装の今の俺たちに気が付くもんかね?ま、ギルドに関しては、裏も表もつながりができたから、今なら素性バレてもそんなに気にしないけど……

 

「わたし、ギルドのエイナ・チュールと申します。初めまして、宜しくお願いします」

 

「あ、はい。俺は比企谷八幡です。よ、よろしく」

 

「はい!ヒキガヤハチマンさん!」

 

 にこりと微笑んだエイナさんの表情は微塵も揺るがない。この人……原作でも思ったけど、ちょっと抜けてるとこがあるかもな……あと、目は悪い、悪すぎだと思う。全然俺の正体に気が付いてない感じだ。

 完全な初対面対応に徹したエイナさんは、ルビス様や俺たち全員を交えて、色々な手続きを進めてくれた。

 一つは、【ルビス・ファミリア】の結成についてのギルドとしての承認。

 非合法下で勝手にファミリアを名乗ることも可能ではあるが、正式なファミリアとなることで、ダンジョンへの進出とギルドの援助を受けることが出来るようになるわけだ。

 もう一つは、俺たち全員のオラリオ在住資格証明書の発行。

 全員異世界人なわけで、本来住民登録なんてあるわけないのだが、ギルドの公認としてもらうことで何か問題が発生したときには、ギルドが保証人みたいになってくれるということらしい。確かに、いきなり冤罪とかで事件に巻き込まれても、味方になってくれる組織があるかないかでは、その後の身の振り方もかなり変わろうというもの。

 ついでにアンも異世界人として登録してもらった。

 なんかこの子、どんどん人間としての地盤が固まってて、下手したら、その辺の酔っぱらいのおっさんより身分保証されてる感じなんじゃねーか?

 これらに関しては、先方の配慮に感謝するべきだろう。

 こっちには、非戦闘員の小町や一色もいるわけだし、安定して生活出来るってのはそれだけでも有り難い。

 

 たんたんと、保険のセールスレディばりに事務手続きを進めるエイナさんが、ぽつりと思い出したようにつぶやいた。

 

「そういえば、明日なんですが、【アポロン・ファミリア】がギルド施設で面白い趣向の『宴』を開くことになりました。みなさんはお聞きですか?」

 

 聞いてはいない。聞いてはいないのだが、この流れは知っている。

 あの乱闘騒ぎで、有耶無耶になるんじゃないかと肝を冷やしたが、神アポロンは予定通り『宴』を催してくれることになったようだ。俺はそのことに素直にホッと一息ついた。

 面白い趣向というのは、参加する神が、一人だけ自分の眷属を連れて来れるというアレだろう。

 どの神も、自分の眷属の子供は自慢したいわけのようだし。

 そして、その会場で、センセーショナルな先制(オヤジギャグ)を神アポロンが神ヘスティアに叩きつけるわけだ。

 

 しかし、わが【ルビス・ファミリア】は本日結成したばかりの上、当然招待状も届いていないため参加はできない。だから、当然その現場を見届けることはできない。

 そこで、俺は……

 

「あの、エイナさん……ちょっとお願いがあるんですが?」

 

「なんでしょう?」

 

 かくんっと小首を傾げたエイナさんが、可愛らしく微笑んでいた。

 

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