『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

140 / 184
(20)よし!ここまでの話をまとめてみよう。

「あれ?さっきのギルドのおねえさん、帰っちゃったの?」

 

 辺りを見回しながらお団子ヘアーが揺れている。

 

「ああ、とりあえず今日はもう用事が済んだしな。それに明日の予定も決まったから、これから説明するよ。悪いけど、地下室にみんなをあつめてくれねえか?」

 

「あ、うん、分かった。あ、えとね、あたしも用事があってヒッキーを呼びに来たんだった。えとえと、今アスフィさんが来てるよ」

 

「そうか?じゃあ、丁度いいや、みんなまとめて話ちまおう」

 

 俺がそう言いながら、由比ヶ浜の頭をくしゃくしゃっと撫でたら、赤い顔をして俺に向かって唇を突き出してくる。

 これは、あれだよな、ちゅ、ちゅーだよな?

 俺はとりあえず、チラリと周りに目を向けると……

 四方八方に殺意むき出しの鋭い眼光……

 

 ははは……これはヤバいな……

 

「あ、あのな?由比ヶ浜……みんな見てるし、そ、それにまだ明るいから……」

 

 そう言いながら肩を掴んで引きはがすと、ちょっと拗ねたような顔になる。で、一言。

 

「じゃあ、夜、暗くなってから……ネ!」

 

 パチリと目配せもされて、体が震える。

 は、白状しましょう……今、かなりドキドキしてしまいましたね、かなりいい感じでした。ハイ。

 手を上げて離れていく由比ヶ浜を見ながら俺は、そろそろ一線越えてもいいかなぁーなんて、不埒なことを考えていた……おっさん達の強烈な負の視線を浴びながら……

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 作業を指揮しているボールスさんに声をかけてから、俺は屋敷の地下室へ入った。

 中には既に必要な人員は全部揃っている。

 壁沿いのベッドには小町とアンとルビス様が並んで腰をかけ、大きめのダイニングテーブルの椅子には由比ヶ浜と雪ノ下と一色。そして、ソファーにはアスフィさんと……フェルズが。

 

「なんで、あんたがここに居るんだよ。昼間なのに」

 

「いや、その言い方はオカシイぞ、八幡君。私は当然昼間でも行動出来る。ただ、目立たないように姿を隠しているだけなのだが」

 

 HA・HA・HAと乾いた笑いのフェルズにはこちらの意図がまるで伝わってない、というか、骨だから潤いはもともとないか……

 

「一応、傷つかないレベルで言っておくと、俺たちの世界じゃ、お化けは夜に出るんだよ、以上」

 

 一気にズーンと項垂れるフェルズ……あ、実は結構ナイーブなのかも……を見ながら、俺は話を始めた。

 

「まず、この世界に来てから、ここまでの話を整理しようか」

 

 そして俺は今日までの出来事を順を追って話した。

 

 18階層での戦闘と、そこからの脱出。

 デカルチャーズとしての活躍とそこで得た収入。

 アンとの遭遇

 謎のローブの女ダークエルフと、黒ローブの集団。

 原作にない、神イケロスの接近。

 原因不明の集団凶暴化事件。

 そして、ギルドに正式に【ルビス・ファミリア】が認められたということ。

 

「とまあ、こんなことがあった訳なんだが……正直原作にない話ばかりで俺にもよくわからないだな、これが」

 

「先輩も分からないんですか?もうお手上げじゃないですか?」

 

 慌てた感じで声をあげるのは一色。その声にみんなが一斉に一色を見る。一色の奴、フェルズの視線(?)は怖いのか、顔を背けてるな。

 

「仕方ねえだろ、原作はまだ完結してなかったし、俺だって途中までしか読んでねえし。ま、分からないことも多いが、今のところは原作をなぞってはいる。ただ、なんでこんなにイレギュラーが起きているのかが不明なんだ」

 

「『バタフライ・エフェクト』じゃないかしら?」

 

 ポツリと雪ノ下がそうこぼす。

 

「それって、過去にタイムスリップしたときとかに、良く云う奴だろ?」

 

「まあ、タイムスリップに限ったことではないのだけれど、一羽の蝶の羽ばたき一つの影響で、世界の未来が劇的に変化してしまうこともあるということの比喩表現ね。今回の場合はそれが『蝶』ではなく『私たち』ということになるのかしら?」

 

 口に手を当ててそう話す雪ノ下に、今度は小町が発言。

 

「ですよねー。今回はお兄ちゃん達が魔法バンバンつかっちゃってますし、この世界からしたら、蝶の羽ばたきっていうより、天災みたいな感じじゃないですか?」

 

「おい、人のことウサミミの爆乳科学者みたいに言うのはやめろ、心外だ!」

 

「そ、そうだよ……ヒッキーは別に爆乳じゃないし!」

 

 と、爆乳娘がビーチボールを揺らして叫ぶので、もはやコメント不要。べ、べつに、ジロジロ見てなんかないからね。それと、雪ノ下が胸に手を当てて、ちょっとしょんぼりしているのも見ていないし!

 

「ま、まあ、そういうことなんだろうな……俺たちもそうだが、今回は化け物みたいなとーちゃんも来ちまったし、なにより、この世界を作ったルビス様と神龍まで来ちまったわけだからな。流石に何もない方が不思議なくらいだろ」

 

「ええっ!?る、ルビス様がこの世界をお創りになられたのですか!?」

 

 驚愕しているのは、アスフィさんとフェルズ。そういや、この話まだしてなかったな。というか、ウラノス様とかヘルメス様とか、もう俺達とつるんでるんだからちゃんと自分の子供には教えとけよ。

 で、ルビス様は、「ん?そだけど」なんて、逆に疑問符交じりに首かしげてるし。

 

「でも、創ったのは私だけど、この世界に来たのは数万年ぶりだから、最近のことはよく知らないよ?」

 

 どこからどこまでが最近なんだか、甚だ疑問ではあるが、まあ、そこを追及してもしかたないだろう。

 

「えーと、ルビス様に聞きたいんだけど、この前俺たちは確かにダークエルフの女に会ったんだ。でもな、今はそういう種族はこの世界にはいないらしいんだが昔はいたのか?」

 

 その俺の質問にルビス様はローブ毎その短い腕を組んで悩み始める。そして……

 

「確かに、大昔は居たね。まだこの世界に色んな神や神獣が存在していた頃、永遠の命を持ったハイ・エルフと、それに対をなした邪精霊の担い手ハイ・ダークエルフがいたかな……でも……私が最後に来たときは邪神も邪精霊も世界から姿を消していたからね。いついなくなったかは分からないけど、もう大分前のことじゃないかな?」

 

 なんかその話、ますます呪われた島と、封印の神々の話に重なってくるんだが……

 

「ちょ、ちょっとお待ちください、神ルビス……」

 

 慌てて呼びかけるのは、イケメンガイコツ、通称イケボーンのフェルズさん。まったく表情はないが、たぶん冷や汗かきまくってる。

 

「私も数百年の歳月をかけて、この世界の歴史はさんざん調べましたが、ダークエルフなどという種族のことは知りません。それに、妖精の血脈のエルフとはいえ、永遠の命などと……それでは、まるで神ではありませんか?」

 

 なるほど、イケボーンさんは確か、永遠の命を得ようとして『賢者の石』を作り上げて、結果としてその身を不死身のガイコツにしたんだったな。流石に永遠の命と聞いたら、居てもたってもいられなかったか。

 

「えとね、エルフはもともと精霊なの。特にその血の濃いハイ・エルフとかハイ・ダークエルフは、ほとんど神と同じだよ。でも、血は薄まるからね。特に、下界に住んでると環境に色々影響を受けちゃうからね。多分長い長ーい年月で、エルフの不死も長寿くらいになったんじゃないかな?それに、寿命がないって言っても、大けがしたりすれば命を失うこともあるし、もし仮にダークエルフさんが居たんなら、その大昔の一人がひっそり生き残ってたってことなんじゃないかなぁ?私にはこれくらいしか言えないよ。見てないから」

 

「は、はあ……あ、ありがとうございます」

 

 フェルズはがっくり肩を落としてうなだれている。でもまあ、あのダークエルフの存在が少しだけ浮上したな。あれ、顔汚れてただけだったりしたら、俺ホント立場ないな。ま、まあ、あれだけ美人で顔汚したままとかは、さすがにないだろ。

 

「それにしても神ルビス、こんなに重要な話を、私たちのような眷属でもない下界人に話していいのですか?」

 

 そう言ったのはアスフィさん。

 至極まっとうな疑問だと思う。

 それに対してのルビス様の答え。

 

「え、ダメなの?」

 

 はい、これだ!世間知らず通りこして、もはや有害レベルの歩くスピーカーになってる。しかも本人無自覚。

 

「あ、ルビス様?ほかの神様達は、必要以上の情報は子供たちには言ってませんよ。まあ、俺達は教えてもらった方がありがたいんで、別にとめませんけど」

 

「ふーん、変なの?でも、私に聞きたかったら別にいいよ。知ってることなら教えてあげるから」

 

 と、言って、ドーンと小さい胸をルビス様は叩いた。

 見た目小さくてこんなんだけど、実はこの世界のどの神様よりも偉いという不思議。

 

「話をもどそうか。俺たちデカルチャーズに接触してきたこのダークエルフの女と、酒場に現れた黒ずくめの集団が仲間かどうかは別にしても、ほぼ同じような恰好だったし、連中が酒場のあの集団催眠みたいなのを引き起こしたことはほぼ間違いないことだと思う。問題なのは、あの催眠状態の異常な強さだ。あの時、ベル君達を襲った【アポロン・ファミリア】のヒュアキントスと、【ロキ・ファミリア】のベート・ローガが戦ったが、どう考えてもレベルの低いヒュアキントスの方が押していた。レベル3がレベル5より強くなるなんてあり得るのか?それともう一つ、俺達の会話を盗み聞きしてきた神イケロスだ。あの時、デカルチャーズだった俺達を異世界人だと知ってそのまま姿を消したんだが、本気で探ろうとするならわざわざ俺たちに顔を見せないはずだ。あの神の思惑も気になるところだな」

 

 一気に話して、みんなの様子をうかがう。

 口火を切ったのはアスフィさんだった。

 

「たぶんあの強さは、魔力付与(エンチャント)だったんだと思います。精神を錯乱させたうえで、身体強化して……」

 

「だが……」

 

 くぐもった声で応じたのはフェルズ。

 

「いくら何でも、あそこまで強くはなるまい。レベルの差が絶対とは言わないが、どんな魔法であっても自分の身体の極限を越えて作用できない。つまり、あの時の錯乱した者たちは、別人の体になった、とでも言えばいいのか……」

 

「つまり、外見は変わらないまま、内側では別人になったってのか……なあ、フェルズ、そんな魔法あるのか?」

 

 聞きながら、そういや、俺達には内側は変わらないまま、外見を変える魔法が確かあったな……なんて考えていたら、フェルズがゆっくり首を横に振った。

 

「残念だが、私もそんな魔法は見たことも聞いたこともない。もし可能性があるとすれば、ルビス様がおっしゃた太古の世界の失われた技法ということになるのではなかろうか?」

 

「と、いうことらしいのですが、いかがですか?ルビス様?」

 

 またもや聞かれてうーんと唸るルビス様。

 そしてその答えは……。

 

「ごめん、覚えてないや、てへり」

 

「いや、今その反応要らないですからね?真面目にいきましょう」

 

「そういわれても、覚えてないよ。民たちだって、日進月歩でどんどん新しい術を作ってたし、私もずっと居たわけじゃないし……」

 

 困った顔で唸るルビス様。この話はもうこれくらいかな。

 

「じゃあ、神イケロスについて何か知ってる人、手ぇあげて」

 

「うわっ!先輩、いきなりぞんざいになりましたね」

 

「いきなり突っ込むなよ一色、俺は最善の質問を投げかけただけだ」

 

「要は面倒臭くなったということかしら、変わらないわね、ペテガヤ君」

 

「雪ノ下、まさかと思うけど、面倒くさい→怠惰→ペテルギウス→比企谷のパターンじゃねえよな?遠い、遠いよ、これ!なに?『あなた怠惰ですねぇ~』とか言わなきゃいけないの!?ていうか、ここ、まだアニメでやってもいねえし!」

 

 雪ノ下の奴、勝ち誇った顔して、鼻ならしてるし……、

 

「おまえ、『ふふん』はいいけど、ちょっとムカついたから後でお仕置きだかんな、覚えとけよ!」

 

「え?あ、はい……」

 

 って、なんで頬染めて嬉しそうにしてんだよ。ったく……

 はあ、なんか、今日はいろいろ彼女達からみの宿題がたまって来てるな。今日、寝れるかな?ちょっと不安。

 

「で、誰か知ってる人は?」

 

「はい!」

 

 と、手を挙げたのはまさかの由比ヶ浜。はいどうぞ、と、手で促す。

 

「えと、イケロスって、蝋の翼で太陽に向かって飛んで、羽が熱で溶けて落ちて死んじゃった人のことだよね」

 

「人じゃなくて、神な。それはイカロスのことだろ。みんなの歌でやってたから、超有名だよな。じゃなくて、イケロスは悪夢を見せる神様のことだよ。で、確か見せる悪夢の種類は……」

 

 俺の言葉をつないでくれたのは、白骨の紳士だった。

 

「神イケロスが見せる夢、それは『獣の夢』……夢の中で、様々な醜い怪物に変わる自分を見るのだと聞いたことがある」

 

 自意識のあるモンスター狩りをしている神が……まったくどんな冗談だよ……

 俺はあの黒く深く沈み込んだ漆黒の瞳を思い出して、思わず身震いした。

 そんな俺を見ながら、アスフィさんが話す。

 

「神イケロスは、アルカナムとは関係なしに、催眠術の使い手です。彼に瞳をのぞき込まれれば、精神を侵されてどんな状態に陥るかわかりません。ただ、今回私たちのところに来た彼に、私たちを害そうとする気はないように感じましたが」

 

「つまりは、今のところはなんにもわからないってことだな」

 

 ため息を交えたその俺の言葉に、みんな押し黙る。

 そんな中、もう一度アスフィさんが口を開いた。

 

「いいえ、わかっていることもあります。一つは【イケロス・ファミリア】の団員がダンジョンから引き上げたカーゴの内容ですが、すべてダンジョンの戦利品でした。中にアンさんのお仲間は見当たりませんでした。それともう一つ、かのファミリアは直接オラリオ外にゼノスの方々の販売を行っていることも確認できました。つまり……」

 

「つまり、ダンジョンからゼノス達は引き上げていないが、ゼノス達の販売は行っている。じゃあどこからか?」

 

 と考えて、俺はアンを見てはっと思い出す。

 

「そういえば、アンは地下通路から突然生えてきたって言ってたよな?」

 

 それにコクリと頷いたのは当然アン。俺はぐるりとみんなを振り返って言った。

 

「なあ、どっか別の場所にダンジョンの出入り口が、あるんじゃねえか?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。