『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
とは、言っても、結局修業気分のとーちゃんは平塚先生と一緒にダンジョンに潜ったままだし、俺達のターゲットである黒竜……邪竜ナースもどこにいるんだかさっぱり見当もつかないわけで、ならばやはり俺たちでなんとかしないといけないわけだ……はあ。
ルビス様に恩恵を授けてもらって分かったこと……。
俺達は無駄にレベルは高いが、実際のところの身体レベルは1で、紙装甲……というか、ちり紙クラスだった……、で、いずれにしても、大概のダメージで即死とか、もう笑えない、ほんと。まあ、生身だしな……こんなもんか……はあ。
そんでわけのわからないスキルをみんな持ってはいるけど、使い道もイマイチわからないし、はっきり言って実用性は皆無。
もうね、無理ゲー過ぎるでしょ。
気分はあの伝説の、『トランスフォーマーコンボイの謎』をノーミスクリアー目指してる感覚。あれ、2周目クリアーしても特になにもなかったのは哀しかったな……
「八幡さん、お一人ですか?」
「お、おう?……あ、アスフィさんお疲れ」
今日も今日とて、ステータスだ、【イケロス・ファミリア】の動向がどうだと、またもや大分話し込んでしまい、すっかり夜になってしまっている。
ボ―ルスさん達、リヴィア組も、夕方には引き上げたし、アスフィさんに、もう遅いから夕飯でも食べてけよと、さっき誘ったのだが、『ここは居心地が良すぎるので、そろそろ帰ります』と、苦笑半分で断られたところだった。
俺は今日もいろいろあったもんで、一人で庭の工事資材の角材に腰を掛けていたところに、アスフィさんが声を掛けてきたわけだ。ちなみにフェルズはいつの間にかいなくなっていた。
「隣……いいですか?」
「え?は?」
いきなりアスフィさんが俺のそばに近寄ったかと思うと、妖しく微笑みながら顔を近づけてきた。両ひざに手を置いて腰を折ってくる。ちょ、ちょっとそれ、胸が腕に挟まれてなんかぽよんぽよんしてますけど……!?
ごくり……
「べ、べ、べ、別にいいでふよ」
ぐっ……噛んだ。
「ふふ……じゃあ、遠慮なく」
彼女は俺の腰に自分の腰を寄り添わせてぴったりと体を俺に密着させて座る。
って、なんで、いきなりゼロ距離スタートなんだよ!
パーソナルスペース浸食しすぎだろ!!
「ちょ、ちょっと!?なにしてんの?アスフィさん?」
流し目で俺を見る彼女は微笑んでいる。
ま、まさか、また俺のわけのわかんないあのスキルの所為か?そうなのか?
逃げるようにのけぞる俺にアスフィさんは口を開いた。
「いえ、八幡さんにどうしても聞きたいことがありまして……聞いてもいいですか?」
「い、いいい、良いけど……答えられることなら……」
「いえ、別に簡単なことですよ。はいか、いいえで答えてくれればいいだけですから」
「ま、まあ、はい……どうぞ」
「では………………んんんっ……八幡さん……わたし、どうやら貴方のことを好きになってしまったようなのです。お付きあいしていただけませんか?」
「はぁ?」
「ダメ………………ですか?」
俺の腕に自分の胸を押し当てつつ、ずずいと顔を近づけてくるアスフィさんは物欲しそうな上目使いで俺を見る。
俺はすかさず、答えた。
「ダメでしょう、それは」
「え?」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。アスフィさんが女性として魅力がないとかそういう話じゃないから、むしろ、魅力云々でいえば、はっきり言って今まで会ったどの女性よりも高いまでありますよ。でも、そういうことではなくて、まず、出会って数日で、しかもこんなわけのわからない異世界人を好きになるなんてあり得ないから。というかそう思ってるならそれ、勘違いだから。それに、多分俺のスキルがそうさせてる可能性もかなりあるし。あと、俺には心に決めた女の子がもう二人もいますし、悪いけど俺の方にも余地はもうないわけです、はい」
「そ、それって……」
尚も食い下がろうとしてる風のアスフィさんに向かってさらに言葉を重ねた。
「それに!アスフィさんだって、本当に好きな人は別にいるでしょう?別に誰とは言わないけど、あんたのことを大事に想っていて、大切にしてくれる人。ま、まあ、その人が俺の思ってる通りの人だとすれば、色々障害とか困難とかあるとおもいますけど、例えば、寿命とかね。でも、もしアスフィさんがそうしたいなら、不死身になる方法はフェルズが知ってるし、もし、肉体も不老にしたいなら、あんた万能者っていうくらいなんだから、自分でその方法を見つけちまえばいい。なんか、この世界は魔法の元みたいなのがたくさんあって、なんでもアリみたいだしさ。その気になれば、若いまま年を取らずに、永遠に生きて、その好きな人と一緒に居ることも可能なんじゃないですか?そんなのがもしできたら、フェルズも肉体取り戻せるかもだし、そしたら、万々歳だし……って……あれ……?」
「…………ふふふ……くふ……くふふ………」
必死に言葉を繋いで、あれやこれや話しながら、ふとアスフィさんを見やると、口許に手を当てておかしそうに笑ってるし。
なんだ?なんで笑ってんだ、この人?
俺、なんか変なこと言ったか?いや、言ったな。相当に恥ずかしい台詞ぶちかましちまったな……ぐぬぬ……穴があったらはいりたい……
「ふふ……ご、ごめんなさい……あ、あんまり八幡が真剣な顔で話すものだから、可笑しくなってしまって……ふふ……」
「い、いや……そこ、笑うとこじゃ……ん?んんん?は、八幡?お、お、お、おま、おま、おま……」
「あら?気がついてしまったかしら?これは失敗だわ」
と、言いながら彼女の体を、霞が掛かったように薄い白いモヤが覆う。そして、暫くして現れたのは……
「ゆ、雪ノ下!?お、お前、アスフィさんにモシャスしてやがったのか!?」
そこにいたのは、澄ました顔で微笑みながら俺を横目に見る、黒髪長髪の少女。
「ふふふ……どう?驚いたかしら?」
言いながら、雪ノ下は俺の腕にぎゅうっと強く抱きついてきた。
「お前なあ、どういうつもりなんだよ?こんな悪戯して……だいたいアスフィさんにモシャスするとか、悪ふざけにもほどがあるぞ」
その俺の言葉に、雪ノ下は可笑しそうに微笑んでいた。
『モシャス』
ドラクエの数ある呪文の中でも、一際異彩を放つ変身呪文。その効果は、呪文の行使者の見た目、体型ばかりでなく、その筋力や魔力、行使可能な呪文までをも完璧に対象者そのものをコピーする。
ドラクエの世界では、この呪文を使うことのできるモンスターも存在する。
「あら?……アスフィさんの姿がそんなに気に入ったのかしら?あなた、ずいぶんと彼女と仲が良さそうだったから、ひょっとして好きになってしまったのかもって、ちょっと試してみたくなったのよ」
そう言いながらも、俺に抱きつく雪ノ下は嫌そうな顔はしていない。どちらかと云えば安心しきった表情とでも言おうか……
「と、とにかく……こんなのは悪趣味すぎだ」
「ふふ……でも、あなたが間髪入れずに断ってくれて本当に嬉しかったわ……まさか、あんな風に私たちのことを言ってくれるなんて……私……ちょっと見直したのよ」
「お前なあ、その言い方結構ひどいぞ。なに?なんか俺お前ら蔑ろにしたことあったか?お前の方こそ、アスフィさんになって、なんか変なとことか触ったりしてたんじゃねーか?」
「し、し、し、してないわ……その……し、してなんかないわよ」
とかいって、自分の胸に視線落とすんじゃねーよ。間違いなくしまくってんじゃねーか。
「はあ……ったく……で?俺がもしアスフィさんに靡いちまったらどうする気だったんだ?」
「思いっきり殴るつもりだったわ」
「ちょっ……おま……いきなりそりゃねーだろ。お前に誘導されたあげく、いきなり暴行とかマジ勘弁しろよ。だいたいレベル4の全力で殴られたら、俺、絶対死ぬから!」
「まったく貴方というひとは……人がせっかくいい気分になれたのだから、もう少し優しくなれないものかしら……」
「うっ……す、すまん……なら……これでいいか?」
「きゃ……」
俺は隣でひっついていた雪ノ下の腰と腿に手をまわしてそのまま俺の膝の上に抱き上げて座らせた。
雪ノ下の頭は俺より少し上の位置。しずかに俺の首に手を回す雪ノ下と俺の顔の距離はすぐにでも触れてしまいそうな程に近い。
そして、目をトロンとさせて俺を見下ろす雪ノ下の瞳を見ながら、そっと、口づけをした。
彼女もゆっくりと目を閉じてそれに応じる。
星以外に明かりがなにひとつない、その庭先で、俺達は互いに唇を吸いあった。
暫くして雪ノ下が俺を強く押して唇を放した。俺は突然に離れてしまったことに寂しさを感じつつ、やっぱり残念そうな顔をしている雪ノ下の顔を見た。
そして、彼女はぽつりとこぼした。
「これ以上は、結衣さんに申し訳ないわ。私ばかり……その……ズルいもの……」
そう言いつつも、寂しそうな顔のままの雪ノ下の頬にそっと手を当てて、そして、もう一度だけ、そっとキスをした。そして、俺から顔を離す。
「ひどいわ。ダメだって言ったのに……」
「その……なんだ……じ、実は、寝てる間に、たまに由比ヶ浜とその……こっそりしてた……って、お、おぃ……んぷ……」
と、言った途端に、雪ノ下が押し倒さんばかりに俺に飛び付いて唇を重ねてきた。そして思う様に俺の唇を吸い、そして激しく舌を入れてきた。
そのまま押し倒された俺の上に馬乗りになったまま、何度も何度も唇を吸われる。そのあまりの快感にいよいよ我慢できなくなりそうになったところで、漸く雪ノ下が離れる。そして一言。
「まあ、これで許してあげるわ」
「なんだそれ?これ、俺的にかなりご褒美なんですけど?」
「あら?女に上に跨がられて、自由を奪われたまま唇を吸われるのがなぜご褒美なのかしら?変態ヶ谷君?」
いや、それ完全にご褒美以外のなにものでもないから……というか、口で説明されると余計に興奮してきて……げふんげふんっ!
「ま、まあ、悪かった!こっそり二人でしてたのは本当に悪かった!」
「初めからそう謝ってくれればいいのよ」
何故かすごく満足そうな雪ノ下さん。
本当に知らないって、怖いなとおもいました。うんうん。
俺はもう一度雪ノ下の腰を抱くと、再び俺の横に座らせた。このまま俺の上に居させたら、もう俺のアレが辛抱たまらなくなりそうだっりなかったり……まあ、別にいいだろ。
二人で並んで夜空を見上げる。
そこには満点の星空。あまりの星の多さに、どれが一等星で、どれが二等星だとか、全くわからない。
煌めく星々の間を、長く尾を引いた流れ星がいくつも走っていた。
暫く黙って見上げて、微かに風がそよいでいるのを感じた。
さっきまでのイチャイチャのせいで少し体が火照っていて、頬を撫でるその夜風が心地いい。
ふいに、雪ノ下が俺の腕を抱いたまま、語りかけてきた。
「ねえ、八幡……、前にもこんな風に星空を見上げたことがあったわね。貴方と私と結衣さんの3人で」
「ああ、そうだな……」
あれは、まだ俺達がアリアハンにいた頃、どうすりゃいいのか良くわからないながらも、なんとか出来ることをこなしていたあの時、俺は正直不安でいっぱいだった。
あの世界で気がついて、周りを見てみれば、まさかの異世界。
そりゃ、原作ゲームの知識があったから、やるべきことは分かったけど、それでだからどうなんだよ……ってな。 あの時の俺は半ばやけくそだった。
頑張ってレベル上げてどうなる?
魔王を倒してどうなる?
それで、その先はなにが待ってる?
帰れないのになんの意味がある?
だが、そんな時、前を向かせてくれたのは由比ヶ浜だ。
あいつが俺達を励ましてくれた。
あいつが俺に勇気をくれた。
あいつが俺達に道を示してくれた。
「私ね……結衣さんに感謝してるのよ。あの時、彼女がこのままでもいい、3人で一緒に居ようって言ってくれた時、心から救われたの。私には、どうすればいいかなんて全然想像もできなかったし、決めることも全くできなかった。そんな私を結衣さんが肯定してくれて、本当に嬉しかったの。でも、あなたが即座にそれを拒絶したのだけれどね」
雪ノ下は可笑しそうに笑いながらそう言う。あの時、あの由比ヶ浜の言葉がなければ、本気で二人と一緒に帰りたいなんて、多分思いつかなかった。
「俺も同じだ。由比ヶ浜にいつも背中を押してもらってる。だから、俺はあいつを守りたいんだ。雪ノ下……お前には悪いが、そういう意味じゃ、俺は由比ヶ浜のことを特別扱いしてる。すまない」
「ええ……でも、謝ることではないわ、だって私も好きなんだもの」
「ああ……ん?」
あれ?その好きだは誰のことを言ってるんだ?俺……じゃなさそうだな……ひょっとして由比ヶ浜のことか?
「あ……雪ノ下?お前、由比ヶ浜のこと……」
「ええ、好きよ……愛しているわ」
「あ、愛……?ってちょ、ちょっとお前、好きだは分かるが、愛してるって、一人の女性として愛してるって意味か?」
雪ノ下はちょっと小首を傾げてから言う。
「あなたが何を聞きたいのか分からないのだけれど、私は彼女を貴方と同様に愛しているわ」
「お前なあ……なに、彼氏に向かって、ガチ百合宣言してんだよ。じゃあ、何か?お前由比ヶ浜にもキスとかしたいってのか?」
「そうね……それも……そ、それも……いいわ……ね」
「って、何、後半ちょっとニヤケながら言ってんだ!?ったく、お前の恋愛の形ってどうなってんだよ?男の俺としたり、女の由比ヶ浜としたがったり……」
「あら?同時に二人の女性と付き合って、あまつさえ同時に口づけをしまくっている男の言うセリフじゃないわね。そもそも、結衣さんへの愛の深さで言ったら、私の方がよっぽど深いわよ」
「いや、何言ってんのお前。そんなの俺にきまってるだろうが!」
「いいえ、私よ!」
「いや、俺だ!」
「私!」
「俺!」
「私………」
「………」
気が付けば二人で顔を突き合わせて……
「むちゅ……んはぁ……ぴちゅ……むちゅ……」
何故か雪ノ下と思いっきりキスしてた。
何やってんだ!俺!
「ヒッキー……?ゆっきのーん?いるのー?ご飯だよー…………って、あーーーーーーーー!!もうっ!二人して何キスしてんのぉ!!もう!ズルい!ズルい!ズルい!」
言いながら、俺達に駆けよってくる由比ヶ浜を見ながら、雪ノ下が言った。
「良いところに来たわね、結衣さん!あなたに聞きたいことがあるのだけれど」
「へっ?」
「おお、そうだ!由比ヶ浜正直に答えろ!俺と雪ノ下、どっちの方が好きなんだ?」
「へっ?え?ええええ?な、なに?なんで……?」
「良いから早く答えなさい!これは非常に大事なことなのよ。当然私よね?結衣さん!」
「ちょ、ちょっとまって……え?な、なに?」
「いやいやいや、待て、いきなり女子に迫られたら怯えるにきまってるだろうが。それに俺は由比ヶ浜が好きだ。だから、由比ヶ浜も俺が好きだよな?」
「えへへ……好き、好きって言われちゃった……えへ……」
「貴方卑怯ね、その言い方。私だって結衣さんのことは大好きだし、私にとって結衣さんはもうかけがえのない存在なの。結衣さんなしの人生なんてもう考えられないわ……」
「ゆ、ゆきのん……う、うれしい、うれしいよぉ……あたしもゆきのんとずっとずっと一緒にいたいよぉ」
「って、雪ノ下!?なに勝ち誇った顔してんだ、お前。お前の方が卑怯じゃねえか!結衣を百合百合空間に引きずりこみやがって!結衣はノーマルなんだよ。俺がリードしてやんなきゃいけねえんだよ」
「い、今……あたしのこと、結衣、結衣って言ってくれた!わぁ、う、嬉しい……」
俺と雪ノ下の間で右往左往する由比ヶ浜。
「さあ、結衣さん!あなたが好きなのはどっち?私?それとも彼?」
そう迫られて、由比ヶ浜の口から出た答え……
それは。
「あ、えとえと、んとんと……そ、それは……ね?……うん、二人とも……うん!あたしは、二人をおんなじくらい好き!えへへ!!」
当然だが、その答えに俺と雪ノ下は直立不動。
そして、しばらくして雪ノ下が嘆息。
「ふぅ……あなたには教育が必要ね。どうもこの男の影響のせいか優柔不断の度合いが増しているようね。結衣さん、あなたにきっちり私が愛を教え込んであげるわ」
「へえ?な、なんで?」
「まあ、こうなるとは思ってたけどな、由比ヶ浜。お前をガチ百合の世界に墜とすわけにはいかねえから、きちんとした恋愛が出来るように、俺も頑張るからな」
「え?ひ、ヒッキーが頑張るの?えへへ、それちょっと嬉しいかも……って、ゆ、ゆきのん!?手、そ、そんなに引っ張んないで!あ、歩くから、ちゃんと歩くからぁー……って、ヒッキーもなの!?ふえぇーん、これじゃあ、捕まった宇宙人みたいだよぉ……」
由比ヶ浜を引きずりながらホームに戻る……
この後、3人でくんずほぐれつしたとか、しなかったとか……
【ルビス・ファミリア】結成初日。
今日はとっても平和な一日でした。