『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(25)アポロンの宴の陰で……

 閑静な高級住宅街の一角の、このとある大邸宅の周りには、煌びやかな装飾の馬車が何台も控え、柔らかで上品な楽曲の調べが夜の空に優しく流れている。

 そこに集まるのは、豪華に着飾った絶世の美男美女達。そう、まさしく超越した美を誇る神々の宴が、今日、ここで執り行われていた。

 豪奢な造りのこの施設は、ギルド保有のものであるらしく、このような催事……とくに、拝し奉るべき神々の申し出に際して対応出来るだけの最高品質にて設計され、失礼の無いようにと細心の注意を払って管理され続けられている。

 言わば、高級スウィートならぬ、神級御殿なのである。

 

 今日、俺は、この催し、アポロンの『宴』にて不測の事態に備えるべく潜入しているわけだ。

 と、言っても、非合法にここにいるわけではない。

 本来、このようなイベントは、【ファミリア】を構える神であれば、必ず招待されることが通例であり、参加の如何はその神次第。よって、すでに結成された我が【ルビス・ファミリア】もその例外なく本来であれば招待されてしかるべきなのだが……

 

 いかんせん、結成が遅すぎた。

 

 流石に昨日の今日で招待がどうのなんて、こちらからねじ込むことがまあ出来なかったわけだ。でも、ルビス様って確か一番偉かったはずなんだが、普通に断ってきたこのアポロンって神様、結構アホなんじゃなかろうか?

 まあ、そんなことはさておき、となれば、別の手段をつかってでも潜入しておきたかった。

 

 理由は簡単。

 

 先般の焔蜂亭での、ベル君たちと【アポロン・ファミリア】の喧嘩の際、あれだけのイレギュラーの続発の中でも、なんとか正規ルートへ繋げられたかと思っていたのだが、その後のベル君の様子に一抹の不安を覚えてしまったからだ。

 なにせ、怯え方が尋常ではなかった。

 狂ったままのヒュアキントスに、レベル5のベート以上の力で剣で串刺しにされ、逃げ場を防がれた上で殺されそうになった。

 すぐに由比ヶ浜が治療してたから、外傷なんかは残ってないわけだけど、俺にも良く分からんが、あれは心にかなりのダメージを受けたんじゃないかと思えた。

 よくTVなんかでアメリカのベトナム帰還兵の心の病の特集なんかをやってるけど、殺したり、殺されそうになったりした実体験を元にその時の恐怖で心身喪失状態になり、下手をすれば命を投げ出してしまうこともあるなんて聞いたこともある。

 ベル君はそれになってしまったのじゃないか……

 俺はそれが心配だったわけだ。

 

「ほらほら、いくらアルバイトだからって、ボサッとしないの!今日はウチらと同じ扱いなんだからね!」

 

「ダフネちゃん、あ、あんまり慌てさせるのは良くないと思うの……余計にまちがえちゃうから……」

 

「あんたももっとテキパキ動きなさいよ!」

 

「あうぅ……」

 

「いい?しっかりやんのよ!」

 

「は、はい……ダフネさん、カサンドラさん……」

 

 目の前には、超絶に可愛らしいメイド服姿の【アポロン・ファミリア】の二人の女冒険者。某双子の鬼姉妹メイドよろしく、フリルのついた丈の短いエプロンドレスをひらひらさせて舞うように給事している様は、はっきり言って目の毒だ。

 これでもう少し優しくしてくれれば文句なしなんだが……

 でも、まあ、今の俺の立場的に、文句は言えない。なぜって、そりゃ、今日の俺はただのアルバイトだからな……

 

 はあ……思いついたときはいいアイデアだと思ったんだが、結局こき使われて仕事しまくってるだけだし……

 

 何気に俺の発想って、こき使われる路線多い気がする。実はこうやっていたぶられんの、好きなのかも!?

 

 昨日、ギルドのエイナさんに、帰り際、このイベントの手伝いをしたいから、スタッフとして入らせてくれと頼んだ。

 通常、この手のイベントは貴賓相手だから滅多なことではアルバイトなんか雇わないようだが、そこはそれ。こちとら、一応最高神のルビス様のファミリアなわけで、身元ばっちり、さらに神ウラノスのバックアップもあるから、一も二もなく採用してもらえたわけだ。

 とはいっても、前述の通りこきつかわれてるわけで、あまりメリットはなかった。はあ。

 

「せ、せんぱーい……た、たすけてくださいよぉ」

 

「なにやってんだ!?お前!?」

 

 すぐ近くから良く知った声が聞こえて顔を向けてみれば、大勢のイケメンに囲まれて身動きできなくなっている一色の姿。

 

「ねえねえ、君どこの【ファミリア】?僕のとこにコンバートしなよ!」

 

「貴女のような美しいヒューマンを知らなかったなんて、神の名折れ……どうか許しておくれ、ハニー」

 

「ふむう、漂う色香……これはたまらん。お主に今宵の伽を許すぞ。光栄に思え」

 

 なに言ってんだ、こいつら?頭おかしいんじゃねえか?

 カサンドラさん達と同じようなメイド服姿の一色は、イカレタ男神達に群がられて、ぷるぷる震えてるし……

 俺はそいつらを掻き分けて近づいて、一色の手をとって引きよせた。そして一言。

 

「あー、すいませんねー、こいつ俺の妻なもんで、手を出さないでもらえます?」

 

「「「「「「「「「な、なにぃ!!」」」」」」」」」

 

 一色を抱き寄せたままの俺を見ながら、その場の神々が絶叫。

 

「あの幼さで人妻だと!?」「それはそれでそそる……」「いやいや、さすがに旦那の前でそれ言うのはまずいだろう……」「神は浮気してなんぼ(笑)」

 

 うわぁ、こいつら、ホントにろくでもねえな。

 見た目、超がつくイケメンなだけにたちが悪い。こんなのに関わってたらろくな目にあいやしねえな。

 俺は一色を連れて、厨房脇の廊下に逃げ出した。

 その間、ずっと一色の手を握ってたわけだが、こいつ真っ赤な顔して……そんなに嫌だったか……

 

「す、すまん、手え、触って……それと、妙なこと口走って……わりぃ」

 

「…………い、いえ、別に……分かってますから……本気で奥さんにする気がないくらい……あ、ありがとうございました。助けていただいて……」

 

「お、おう……ま、大丈夫だ」

 

 一色のやつも真っ赤なままで目をつり上げてはいるが、少し落ち着いてはきたみたいだ。

 

「はあ、それにしても、神の連中は本当にどうしようもねえな。お前も危なかったな……っていうか、やっぱり無理に来なくて良かったんじゃねえか?今日は雪ノ下と由比ヶ浜も別行動だし、ここは俺ひとりでも……」

 

「そ、それじゃあ、いつまでたっても距離縮まんないですし……あんなの見せられて……ぶつぶつ……」

 

「ん?なんて言ったんだ?はっきり言えよ……」

 

「な、なんでも、ないですっ!!別にいーじゃないですかそんなこと。先輩だって私が周りの人達の相手してあげてる間にベルさん達と話できたんですから……私だって、全く役に立たなかったってわけじゃないでしょ?」

 

「そ、そうだな、確かに助かったよ。サンキューな」

 

「わ、わかれば……いいですよぉ……」

 

 と、急にもじもじ始める一色。

 

 本当にこいつの言う通りである。

 潜入とは言っても、所詮はアルバイト。やれ、これを運べだ、これを片付けろだ、鬼のメイド長、もとい、ダフネさんに指示をされまくって、もうてんてこまい。

 そこに、この一色だ。

 なぜか、一色の奴は俺と違って、周りの連中から妙にちやほやされて、舞い込む仕事は周りの連中がテキパキ手伝い始める。

 それはもう、普通じゃない感じで、至れり尽くせりのこのメイドさんは、メイドの格好してるくせに仕事を殆どしていない。

 

 確かにこいつは平均以上にかわいいとは思うが、まさかここまで初見殺しだとは思わなかった。というか、異常だ。男女問わず一色に熱い視線送ってるし、ボディタッチこそしてきていないが、今にも抱きつかんばかりの妙な動きしてるやつもいたし……

 

 ということで、多分なんだが、これは一色のスキル『色欲』の権能が働いているくさい。

 もう、読んで字のごとく、みんな一色のエロ香……いや、色香に惑わされてるって感じだ。

 これしかないだろうって思い至ったのは、ついさっき、ワインを一色とふたりで運んでいる時に、偶然あの妖艶な女神フレイヤに近づいちまったら、その取り巻きの男神連中が突然全員一色に群がってきやがったからだ。

 こいつ、美の女神の魅了を打ち消して、自分に男神どもを惹きつけやがった。どんだけすげえ誘惑能力なんだよ!!

 

 それで、その後も色んなやつに言い寄られるのを、一色はあざとく上手いこと全部かわしてきてたので、みんなが気を取られてる隙に、ベル君やアスフィさんや、ヘルメス様に接触して色々話すことができたわけだ。

 

 まあ、こいつのセリフじゃないが、このくそ忙しいバイトの最中に、一色がいなけりゃ当初の目的の一つである、ベル君の様子見も出来なかったわけだ。

 

 だから、当然感謝してるに決まってるわけで、もう少し機嫌よくしてくれると嬉しいんだけどな。

 

 あ、先にベル君の話をしておくと、見た感じも、様子も問題なさそうだった。

 俺がいるのを見て、最初こそ驚いていたが、まあ、普通に話せるし、ドレス姿のヘスティア様の後ろで小さくなってるし、だいたい原作の通り。

 ヘスティア様が、神タケミカヅチや、神ミアハ、それに神ヘファイストスや神ロキなんかと話してるその脇で、その眷族達と会話もしていた。

 そこで、はじめて、このラノベのもう一人の主人公、アイズ・ヴァレンシュタインを見たのだが、こりゃベルくんも惚れるわ。

 純白のドレスに身を包んで恥ずかしそうに佇むその様子は、剣士というより、まるっきりのお姫様。で、恥ずかしそうにチラチラベル君を覗き見るその視線はまさに小動物のそれ。

 本来のレベル6のアイズの姿はよくわからんが、今のこのお姫様容姿から想像するに、もしこれで膝枕でもされようものなら、完全にノックアウトものだろう……俺だったら間違いなく勘違いのうえ、告白して振られるまで想像できるし。うんうん。

 っと、ベル君はノックアウトずみだったな。

 

 まあ、その後もベル君は原作をなぞるように、ヘスティア様についてあっちやこっちについてまわってたわけだ。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 厨房でコップに水を汲んで、それを一色に渡してふたりで飲みながら小休止。

 それで少し落ち着いたのか、一色がほぅっと大きく息を吐いてから話した。

 

「それで……比企谷先輩は私のことどうですか?」

 

「どうですか?ってなにがだよ?」

 

 俺の言葉に一色がまた目を吊り上げる。

 あれ?俺なんかまちがった?

 

「だ、だからあれですよ……ほ、ほら!他の神様たちみたいに、私を見て。ドキドキっとか、ムラムラ~とか、ムクムクっとか……なんかないんですかぁ!?」

 

「って、怒るんじゃねえよ。ねえよ、別にない。なんにもないから安心しろよ」

 

 と、言った途端に、顔をくしゃっとさせて泣きそうになりやがるし。

 

「なんですかぁ、なんなんですかぁ、そんなに私のこと嫌いなんですかぁ?酷いです……酷すぎですぅ……えく……んく……」

 

「お、おい、泣くんじゃねえよ。違う、ちげえよ、そうじゃねえ、逆だ。俺はお前を守ってやりてえから、そんなスキルの能力ごときで誘惑されたりしねえってだけだ。元からお前ががんばり屋だってことも、良いやつだってことも、可愛いってことももう知ってるんだよ、俺は。だからあんなクソ神どもと一緒になんかするな」

 

「え?それって……」

 

 少し呆けた顔になった一色がなにか言いかけたその時、ホールの方から地響きのような歓声があがった。

 俺は慌ててホールへ急いだ。

 そこでは……

 

「アポロンがやらかしたァーーーーー!!」

 

「すっっげーイジメ」

 

「逆に見てみたい」

 

 なんか、ホールのまわりにいる神達がニヤニヤしながらそんな言葉を言ってるし……

 ということは……

 

 ホールの中央に視線を向ければ、そこにいるのは、包帯ぐるぐる巻きの小人族(パルゥム)を伴った、長身のまるで王様のような出で立ちの美男子と、その前に立つ小柄なヘスティア様とベル君の二人。

 

 つまり、これはあれだ。

 

 神アポロンの『戦争遊戯(ウォー・ゲーム)』の宣言!

 

 どうやら、原作通りに、ベル君欲しさにヘスティア様達になんくせつけて、宣言してくれたようだ。

 

 それにしても……

 

 あの小人族(パルゥム)、ルアンって言ったか?

 酒場で、思いっきりヒュアキントスにぶったぎられてたけど、良くもまあここにでばってこれたな。その図太さに関心しちゃうよ、俺は。

 

 神アポロンは何事かをヘスティア様に言ったあと、しばらくして、ヘスティア様がベル君の首根っこを捕まえて、ひきずってホールから出ていった。

 

 これはあれだ。ヘスティア様が断ったってことだな……

 

 さあてと、これでひとまずは安心だ。あとは、明日の早朝か……

 この分ならなにも問題無いとは思うが、一応雪ノ下と由比ヶ浜が保険かけてくれてるからな……とりあえずは心配はないか……

 

「せ、せんぱい……あの……」

 

「ん?どうした?」

 

 一色に声をかけられて振り返る。

 

 俺たちが入ってきた通路の入り口……その脇の柱の影の方を見つめながら、一色が怯えた感じで俺に抱きついてきた。

 ってちょ、おま……

 

「お、おい、抱きつくんじゃねーよ……」

 

 か、勘違いしちゃうだろ……ほんとに……

 

「あ、あの……、そ、そこに、き、気持ち悪い人がぁ……」

 

「はあ?」

 

 言われて、その影の方に近づく。

 すると、そこにやはり人影が……

 暗がりに浮かび上がるのは、真っ黒なスーツに全身を固めた痩身の美男子。

 相も変わらず、その口許をにやけさせたままで、彼は俺に近づいてきた。

 俺はすかさず声をかける。

 

「待ってましたよ。イケロス様」

 

「ヒヒッ……」

 

 ここで、俺は今日最大の目的の人物と向き合った。

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