『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「なんだったですかね、今の」
一色がいつの間にか目を覚まし、俺に抱き着いたままで、不安そうにそう呟くのと同時に俺は、手のひらで握っていたさっきの目玉をもう一度見た。
イケロスはこれを『カギ』だと言った。
つまり、これであいつらのアジト……というより、中層への秘密の通路を開くことが出来るというわけか……
それにしても分からないことだらけだ。
イケロスはゼノス狩りの主犯とも言える【ファミリア】の主神なのに、俺に、ゼノスの救出の手助けをするとか、その自分の眷属を見捨てるような真似をしているわけだ。
それに、あのダークエルフのことだって、ろくに聞きもしないで終わりにしやがるし、あいつ、何の見返りもないままにこちらの有利なものだけ提供して終わりにしやがった。
普通に考えれば、罠だろうな……
奴らの隠し通路への入口は、あのダイダロス通りのはずれの地下なんだろうし、そこ以外は考えられない。
なら、そこへ俺達が侵入した途端に殲滅するって作戦が常套だが、そもそも、これを俺が思いついてる時点でそれが成功しないわけだ。なぜって、罠を想定して、大群で押し入ったり、精鋭で取り囲んだり、色々方法はある。
その罠に誘導する気なら、もっと細工をくわえて誘導すべきだろうしな。
俺があれやこれや悩んでいると、一色が俺に声を掛けてきた。
「せんぱい、いつまでそんな気持ち悪いもの眺めてるんですか?もう、用が済んだら、早く戻らないとダフネさんに叱られちゃいますよ?」
「げっ……そ、そうだった……」
と、慌てて俺はその目玉を腰の巾着へ押し込んで、急いで厨房へと戻った。
このとき俺はもっと注意深く見ているべきだった。
俺は全く気が付かなったのだ。
一色が俺のその巾着に、尋常ならざぬ視線を送っていたことに……
× × ×
その後、程なくして『宴』は幕を閉じた。
神々も、今日のアポロンの余興ともいうべき、あの戦争遊戯宣言で相当満足したらしく、各々、楽しそうに帰途についていた。
そして、俺たちは……
「ほら、さっさと片付ける!!」
「は、はひっ!」
鬼のダフネさんになぜかめっちゃ目の敵にされ、深夜まで働かされ続けた。彼女とマンツーマンで!
これも『女難の相』の権能のせいなんじゃねえか?
ダフネさん、俺を罵りながら、チョー嬉しそうだったし。このひと、マジでSだろ!!
その影で一色はというと、なぜかアイドルよろしくみんなにちやほやされて、なんかジュースとか飲んでくつろいでるし。
まあ、あんまり調子に乗ってると、痛い目見そうだったから、途中から無理矢理俺の仕事手伝わせたけどな。
結局、解放されたのは日付が変わる頃、俺はもうふらふらで、なにもする気が起きなかったが、とりあえず【アポロン・ファミリア】の連中の動向だけを少し確認することにした。
会場の豪邸の向かいの空き地の木の影に身を隠し、連中の動きを監視した。
というか、ほぼ最後まで残ってた俺は、たいして待つこともなくそれを見ることができた。
一部のスタッフを残して、多くの連中が鎧等をすでに身に付けて出てきていたからだ。
襲撃の準備は万全ということか。
「みんな何してるんですか?」
一色にそう聞かれ、俺は答える。
「ああ、これからあいつら、ベル君を襲うんだよ」
「ええーーー!!」
「ばっ……声、でけえ……」
慌てて口を押さえると、もごもご呻く一色が顔を一気に紅潮させた。
ま、このまま見つかってもおもしろくねえな……
「おい、一色、ちょっと飛ぶぞ」
「んん~!?」
俺は一色の口を押さえたままで、じゅもんを唱えた。
「ルーラ」
上空へと身体を運ばれながら見た一色は白目を剥いていた。
× × ×
ホームに戻った俺は一色をアンと小町に預けて、その足で【ヘスティア・ファミリア】のホームである、西方面のうらぶれた教会へと向かった。
俺たちのホームからはバベルを挟んで対極に位置するため結構な距離があるが、まだ俺はそっち方面に行ったことが無いためルーラも使えない。
おかげで、ただでなくとも、慣れない労働で疲れ切った状態のままで深夜の路地を移動することになり、正直もう限界だった。
「あ、ヒッキーお疲れー。遅かったね」
「こんばんは、八幡。ん?随分お疲れのようね」
もともと合流予定にしていた、廃屋になんとかたどり着き、中に入ると、破れた窓のへりに雪ノ下と由比ヶ浜の二人が腰を下ろして毛布にくるまっていた。
「はあはあ……まあ、めちゃくちゃ働いてきたからな。おかげでもう筋肉がパンパンだ」
「そう?それは良かったじゃない。最近ろくに運動もしていなかったでしょう?これで少しは強化されたんじゃないの?実質レベル1谷君」
「って、おまえもそれ一緒じゃねえか、というか、名前が市ヶ谷になっちゃってるし」
「もう、そんなこと良いから、ヒッキーも毛布に入ってよ。疲れたんでしょ?」
そう言って、由比ヶ浜が、毛布を捲ってくるのを見ながら言った。
「いや、なんで3人で毛布一枚なんだよ。普通一人一枚だろ?」
「え?だって3人でくっついた方があったかいし。えへへ……早くおいで?」
ぐふっ……この子アホなの?あ、アホだったな。もう、なんでそんなに俺とくっつきたがるのこの子は。
「ま、まあ、そこまで言うなら……」
と、俺はそそくさと由比ヶ浜の脇から毛布に手を伸ばしたのだが、座った途端に由比ヶ浜が俺をまたいで場所を移動してきた。
「ヒッキーは真ん中、ほら、早く」
「お、おう……」
言いながら、ぐいぐい押されて、気が付けば、俺が真ん中で雪ノ下と由比ヶ浜と完全なサンドイッチ状態に。
というか、くっつきすぎだろう……
「あ、あの……雪ノ下さん?由比ヶ浜さん?その……もうちょっと離れて……というか、俺の腹とか太ももとか触んないでくれる?」
「えー?なんでー?あたしはほら……マッサージ!そうマッサージしてあげてるだけ!うん!」
「そうね、私もここをほぐしてあげるわ……あ、あなた結構腹筋ついてて……」
「って、それ明らかにセクハラだから?なにしてんの、お前ら……」
言ってもやめないし……
なんなんだよもう。我慢できなくなっちゃうだろ?
とか思ってたら、由比ヶ浜が俺を見ながら言った。
「もう!ヒッキーうるさい。そんなに言うなら、あたしをマッサージしてよ。ほら」
「って、するわけねえだろ!お、おい、雪ノ下、お前なに上着脱ぎだしてんだ。やらない、俺はやらないからな!マッサージ!?」
そんなこんなで3人でわちゃわちゃやってたら、妙に疲れた上に熱くなってしまい、雪ノ下の『お茶にしましょうか?』の一声で、とりあえず小休止となった。ってなんの休憩だよ。
「で、状況は?」
俺の質問に由比ヶ浜が速攻で答える。
「さっき、ベル君とヘスティア様が帰ってきたよ。あの二人、あそこで二人だけで暮らしてるんだね。きゃー!」
「いや、その反応はいいから……で、ベル君の様子は?」
「そんなに変わった様子はなかったと思うのだけど、ヘスティア様の機嫌は相当悪かったようね」
「ま、そうだろうな。とりあえず俺の方も予定通りだ。このままいけば明日の早朝に……というか、もうすぐか……襲撃があるだろうよ」
雪ノ下は俺に紅茶を私ながら相づちをいれる。
「そう……一応、貴方に言われた通り、準備はしてあるわ。はい、これ」
そう言いながら、彼女は俺に白い布を差し出してきた。
「おお……サンキューな……さてと、わりぃが、俺割りと本気で疲れてるからちょっと寝かせてもらうわ。紅茶、旨かったよ」
「ええ、それは良かったわ。ではまだ少し時間もあるようだし、私が見張っておくからゆっくりお休みなさい」
「頼むな。じゃあ、おやすみ……」
俺はまた、二人に挟まれるような格好のまま、睡魔に抗えずに深い眠りに落ちた。
温かくて柔らかい感触を感じたままで……