『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(29)異変

 意気揚々と拳を突き上げたヘスティア様を見ながら、俺は由比ヶ浜……ロリーの手を引いて、後ろへ下がった。

 さっきまで、一緒にいた冒険者たちは、既にベル君たちを取り囲んでいる。

 もはや、周囲の冒険者たちはこの熱狂に飲まれて、こちらに視線を向けるものすらいなかった。

 俺たちは大きな建物の影まで素早く移動してから、周囲に人の目がないのを確認してからロリーを抱いた。

 って、別に何かエッチなことをしようとかしてる訳じゃないぞ!

 

 いやホントに!

 

 俺は頬を赤く染めたロリーを見つめながら、じゅもんを唱えた。

 

「ルーラ」

 

 上空へと運ばれた俺たちはそのままある場所へと転移した。

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーー

 

 

「ゆきのーん、お疲れー!」

 

「お疲れさま。そっちはどうだったのかしら?」

 

 目を開くと、そこには白ローブのコンダ……雪ノ下がちょうどマスクをはずしているところだった。彼女は俺たちを見てすぐにそう問いかけてきた。

 

「ああ、こっちはバッチリだよ。ベル君もやる気にはなったみたいだしな……まあ、まだちょっと心配ではあるが……。それよか、お前の方は大丈夫だったのか?お前、自分で魔法とか全部受けてたろ」

 

 そう言った俺にマスクを外した雪ノ下はニコリと微笑んだ。

 

「ええ、大丈夫よ。私を含めたあの場の全員に、スクルトとマホカンタを重ね掛けしたから、全員ほぼ無傷のはずよ。もっとも、イオナズンでどこまで吹き飛ばされたかは分からないのだけれど」

 

「うわぁ……」

 

 雪ノ下の言葉に同様にマスクを外した由比ヶ浜が苦笑を浮かべた。

 

「おまえなあ……いくらなんでもやりすぎじゃねえか?あの辺一帯クレーターみてえになってたぞ?イオラくらいで良かったんじゃねえか?」

 

「私も、まさかあそこまで規模が大きくなるとは思わなかったわ……本当にあの辺一帯を封鎖していて正解だったわね」

 

「本当だよぅ……」

 

 もはや苦笑いしか出ない俺たちは、うちの【ファミリア】そばの空き地に転移してきていた。

 一応俺たちは今、デカルチャーズに変装している。

 この正体を知っているのは、うちの連中を除けば、アスフィさんやフェルズ、イケロスくらいなもんで、安全面や自由な行動を確保するためにも、まだまだ正体を明かすつもりはない。

 シスの暗黒卿だって、普段は普通のおじいさんだったしね。

 だから、さすがに現在進行形で改築工事をしているホームに直接転移するわけにもいかず、予め目星をつけていたこの空き地を集合地点としていたわけだ。

 ここにした理由……

 

 だって、この空き地……

 

 丸い柱が横倒しに、下に2本、その上に1本きちんと積まれていて、まさに、『THE空き地』だったんだもの……

 うん、あの上でリサイタルしちゃうまであるな。

 

 ここで変装を解いて、ホームまで歩く道すがら、3人でさっきの出来事をおさらいした。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 まず俺たちがしたことは、あの辺一帯の人の存在の有無の確認。

 昨日、俺と一色がアポロンの『宴』の手伝いをしていたころ、雪ノ下と由比ヶ浜の二人があの辺りを徹底的に調べた。

 もともとほぼ廃墟と化した一帯だったから、ほとんど人はいなかったようで、何人かその廃屋に住み着いていたホーム○スっぽい人たちには、少し小金を渡して立ち退いてもらうようにした。

 これは、どんな事態が起きても被害を最小にするための措置ではあったのだが、今回はこれに助けられた。

 

 原作ではベル君は悉く追っ手を振り払って、無傷のまま逃げ切り、でも、このままでは埒が明かないと悟ったヘスティア様の言葉で、アポロンへと喧嘩を買いにいくのだが、この世界のベル君はちょっとダメージを負いすぎている為、不測の事態を考慮した訳だ。

 案の定彼は、恐怖により行動不能に陥ってしまい、危う命の危険もあったわけだが、今回それは雪ノ下によって防がれた。

 さっきの話の通り、彼女はあの場に現れた全員に対して、完全魔法反射じゅもん『マホカンタ』と、防御力増強じゅもん『スクルト』を執拗なまでに重ね掛けして、ほぼほぼ、魔法被ダメージ、物理被ダメージを無効状態にした上で、彼女の持つ最大の爆発系じゅもん『イオナズン』をぶっ放して、彼ら全員を含めた辺り一帯を吹き飛ばした。

 おかげで、本来なら【ヘスティア・ファミリア】の本拠地の廃教会が崩れる程度の被害だったはずが、まるでコロニー落としでもしたようにそこに荒野をつくってしまった。 

 まあ、はっきり言ってやり過ぎた。

 とはいえ、俺たちにピンポイントで一人ずつを無傷のままに行動不能にするような器用なことが出来る訳もなく、特に雪ノ下は眠りのじゅもんも使えないときてるから、仕方ないと言えばそれまでだけど、あの立ち上るきのこ雲を見たときはさすがに肝が冷えた。

 

 でも、そのあとベル君や吹き飛ばされた連中が元気に走っていたから、ちょっと安心はしたのだが……

 

 その後は、俺と由比ヶ浜だ。

 

 俺達二人は西通路の路地の一角で、治療屋を開いていた。

 もっとも今日は金は貰っていない。

 馴染みとなった高レベルの冒険者に無料で治してやる旨を伝えて人を集めたのだ。

 

 理由は簡単。

 ベル君が行動不能になるのを見越して、追っ手である【アポロン・ファミリア】の連中を黙らせるためだ。

 アポロンの連中の平均レベルは2。

 団長のヒュアキントスでさえレベルは3だ。

 当然だが、自分よりも高レベルの相手に対して無謀な行動を起こすやつはそうそういない。

 だから、あえて俺たちが手を加えなくても相手を黙らせるために、レベル3以上の奴に絞って声をかけたわけだ。

 

 ちなみに、この声かけをしてくれたのは、あのバベルの俺達の店の隣の食堂のドワーフのおじさん。

 俺達の事を聞かれることも多いらしく、とくにレベル3以上のやつにこのことを触れこんで貰ったというわけだ。

 今度、何かお礼しなくちゃな。

 一色にでも頼んでケーキでも焼いて貰ってもっていこうかな。

 

 とまあ、結果は御覧の通り。

 予想以上に効果があって、ベル君もやる気が出てくれたみたいだったし、本当に良かった良かった。

 

 ただ、まだ大丈夫とは言えないかもだけどな……

 

 原作でもベル君は、多少なりともヒュアキントスにのされた事に恐怖を感じていたし、そのままでは勝てないからと、あのアイズたんに2度目の剣の稽古をしてもらって、最終的にはレベル2でオールSS、敏捷のみSSSとか、ほんとマンガみたいな成長を遂げて彼を打ち破る展開になるのだが……

 さっきも述べた通り、ベル君の心の傷がちょっと深すぎる気がする。

 いくらなんでも、あそこまで動けなくなるとは思いもしなかった。

 ほんと、新兵がよくかかる病気になっちゃったんですかね?リューさん……じゃなかった、リュウさん。

 

 それと、あのヒュアキントスだ。

 たぶん『エンチャント』系の強化魔法の結果なんだろうが、あのベート・ローガでさえ独力では倒し切れなかった。

 つまるところ、もしあの状態のヒュアキントスが現れたりしたら、いくら限界突破までしたベル君でも、勝つのは不可能ということだ。

 

 本当にあれはなんだったんだ?

 

 この後ベル君たちが絡むことになる、狐人(ルナール)のサンジョウノ春姫だって、レベルをプラス1出来る特殊スキルだったけど、ほんの1程度上がったくらいじゃあそこまで強くはならない。というより、あの時確実に洗脳状態だったから、単純なレベルブーストではないだろうしな。

 

 なんにしても、今のベル君には確実性が乏しい。原作通りの試練を越えたところで、同じ結果が得られるかどうか怪しいところだ……

 

 ま、今はそうは言ってもスタートラインには立ったわけだから、今はよしとしておこう。

 今日はまだ他にも重要な案件があるしな……

 俺達は、そんなことを話しつつ、改築工事中のホームに向かっていた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 路地を出て、少し広目の通りに出ると、トンカントンカンと金槌の音が響いてきた。その音が近づくに連れて、工事の人たちの姿もちらちら見えるようになってくる。

 

 おお、今日もやってるなー。と思いつつ、正面の門に向かって歩いていると、突然、そこから小町が慌てて飛び出してきた。

 そして、俺達を見つけると目を血走らせて駆け寄ってくる。

 

「ん?小町、どうした?」

 

 その俺の言葉に、血相を変えた小町が荒い息づかいのまま大声をだす。

 

「どうしたじゃないよ、お兄ちゃん!いろはさんが……いろはさんがね……」

 

 慌てすぎているのか、ぜーはー言いながら言葉を吐き出そうとしている小町は、次の言葉が出ないでいた。それを雪ノ下も由比ヶ浜も心配そうに見ている。

 

「落ち着けって。一色がどうしたって?」

 

 肩に手を置いた俺を見て、小町が叫んだ。

 

「いいから、ちょっと、一緒に来て!」

 

「は?え……って、おい」

 

 言われて、ぐいぐい引っ張る小町に連れられて、俺達は、ホームの地下室……俺達の仮住居へと向かった。

 

 地下室への階段を駆け降り、扉を開けた小町は、荒い息づかいのまま、振り返る。

 

「とにかく、これを見てくれれば全部分かるから」

 

 そして、開け放った扉の内側に居たもの……それは……

 

「え?なに?いろはちゃんがどうかしたの?って…………ヒッ…………」

 

 俺よりも先に扉を潜った由比ヶ浜が、中に入った途端に小さく悲鳴を上げて絶句。

 その後を追った、俺と雪ノ下も同様に、息を飲んでしまった。

 

「あ、マスター!マスター、いろはさんガ、いろはさんガー」

 

 そう言って駆けよってくるのは、全裸のアン……だが、俺達の視線はそこに向いてはいなかった。

 

「フシューーーー……ブフッ!ブモゥ!」

「シャシャシャーーーーー」

「キュラキュラーーーーー」

 

 そこに居たのは、巨大な異形のモンスター……

 

 真っ赤な体皮のでかい牛頭と、電撃を纏った青くて長い蛇、それと毒々しい赤と紫のツートンカラーの巨大な毛むくじゃらの蜘蛛……だった。

 

 あ、やばい……気絶しそう……

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