『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(30)ダイダロスの迷宮へゴー!

「な、なんだ、こいつらは~」

 

 思わずそうこぼした俺に、アンが抱き付く。

 そして、涙を湛えたままで叫んだ。

 

「いろはが……ツカまったノ」

 

「なに?」

 

 俺の肩をその翼で揺すりながら嗚咽するアンを俺は宥めてから問いかけた。

 

「どういうことだ?それに、このモンスター達はなんなんだ?」

 

 アンは上手く喋れないままでいたが、急に後ろに立っている真っ赤な牛頭が俺に向かってのっしのっしと近づいて来たので、アンを抱いたまま、慌てて跳びしさった。

 やつは、ブフーっと荒い鼻息を吐いて俺を睨む。気がついたら、残りの蛇と蜘蛛も近寄っていて、完全に取り囲まれてしまった。

 隣の雪ノ下も由比ヶ浜もブルブル震えていて、もはや白目を剥く寸前って感じだ。

 

「だ、だから、お前らはなんなんだよ!」

 

「『異端児(ゼノス)』みたいだよ。アンさんと同じね」

 

「へ?」

 

 モンスターが近すぎて姿は見えないが、そう答えたのは、多分ルビス様。

 牛頭の鼻息がうるさすぎてイマイチ聞き取りにくいが、確かにルビス様の声がした。上の方から……

 

 って、見上げたその牛頭の頭の上に、見慣れた白ローブの幼女の姿が。

 

「どこ登ってんだよ、ルビス様?危なくねえのかよ?」

 

「ブモーーーっ、ブモーーーーーっ」

 

「って、お前ホントにうるさいな。なに?お前らもゼノスなのか?なら、俺の言葉分かるのか?」

 

 その問いに、牛頭はコクコクと頷いて返した。

 それで、よく見れば、蛇も蜘蛛も同じように首?を動かしてる……って、もう本当にでかすぎて、気持ち悪いな……

 雪ノ下達は……

 あらら……はい、終了ですね。白目剥いちゃってるよ。

 

「どうどう……あんまりお兄ちゃん達に近づかない。ほら、こっち来る」

 

 と、小町が言うと、その3匹?は、翻って小町の方に。

 

「お、おい、小町は平気なのか?」

 

 その言葉に小町はグッとサムズアップ。

 

「うん!ほら、小町、カーくんと仲良いし」

 

「って、カマクラと同レベルなのかよ」

 

 不気味で巨大な3匹をなでりなでりする小町にドン引きしつつ、俺は雪ノ下と由比ヶ浜を担いでソファーに寝かせた。

 ちなみに、カーくん……カマクラとは、比企谷家で飼っていた巨大な猫である。あ、知ってる?そうですね。はい。

 

「で、そのゼノスのお前らがなんでここにいる?それと、一色がどうしたんだよ」

 

 俺がもう一度聞くと、未だ泣いたままのアンの脇で、牛頭の頭から降りてきたルビス様が言った。

 

「実はね、昨日八幡くんといろはさんが帰ってきた後、どうやら、このアンさんといろはさんが二人で出掛けたようなんだよ。ちなみに私は寝てたから気がつかなかったの……」

 

 と、ルビス様がちょっとしょんぼりしている。

 

「は?出掛けたって、どこに……あっ……」

 

 俺はこのとき、急に思い出して、慌てて腰に縛り付けてあったはずの巾着を探すが、どこにも見当たらない。

 

「な、ない……巾着が……『ダイダロスの目玉』がない……って、まさか……」

 

 俺の言葉に、アンがようやく声を出した。

 

「いろはがね、ミンナをタスケようって、イッタの……だから、アン、イッショにイッタの……」

 

「まさか、おまえらだけで、アイツらのアジトに行ったのか?」

 

 俺のその怒声に、アンはビクリと震えた。そして再び嗚咽を始める。

 

「ご、ゴメンなサぁーい……ふぇぇーーーーん……」

 

「おお、よしよし……怖くないからね……」

 

 泣いたアンの頭を撫でつつ、ルビス様が説明を始めた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 昨夜俺が一色をホームに送り届けた時、偶然か故意かはわからないが、一色は俺の巾着を手にしていたようだ。

 一色はそれを見せながらアンに、すぐに仲間の救出に行こうと声を掛けたらしい。

 なんで一色がいきなりそんな無謀な申し出をしたのかはわからないが、すぐにでも仲間を救いたかったアンはそれに乗ってしまった。

 そもそも、あの『ダイダロスの迷宮』の入り口をなんとなくでも知っているのはアンだけだし、アンの案内は不可欠だったわけだが、一度捕らえられ、しかも殺されたこともあるわけだから、本来ならレベル1の一色とアンの二人で突入するのは自殺行為以外のなにものでもないわけだが、どうやら、一色は自分のスキル『色欲』に相当の自信を持っていたらしい。

 あの神フレイヤの魅了をも上書きするほどの権能だ。

 そして、その自信は実際の効果として現れた。

 

 血塗れのアンを見つけた、あの路地の近くの地下に、目玉が反応する壁があり、そこを開けて中に侵入してすぐに、数人のやくざ風の冒険者に遭遇した。しかし……

 その連中は一色を見るやすぐにデレデレになってしまい、全員戦闘不能に。

 そして、そいつらからゼノスの居場所を聞き出して(ってお前は峰不二子か!?)、それからすぐにアンにピオリムをかけさせ、一気にその囚われの場所まで進行。

 そこにも数人の冒険者の男がいたようだが、そいつらも一色に魅了されて戦意喪失させ、あとは、檻の鍵を外させてゼノスの連中を解放した。

 

 うん、なんというか、一色のスキル凄すぎだろう。

 傾国の美女の話とか、色々知ってるけど、今の一色にかかれば、世の男どもは全員手玉にとれるんじゃねえのか?

 ジャグラーどころか、中国雑技団ばりに曲芸させちゃうんじゃねえか?もしくは木下大サーカス。

 マジで超怖い。小悪魔いろはすマジおそるべし。

 

 だが、まあ、良い話はここまでだった。

 

 助け出したゼノスは、要はこの3匹。

 

 1匹はねじれ曲がった二本の大角、黒の体皮、赤の体毛、ミノタウロスに似た二足二腕 の大型級に匹敵する筋骨粒々のモンスター、バーバリアン。

 

 1匹は赤と紫が混色した、八本の足と八つの複眼を有した巨大蜘蛛、デフォルミス・スパイダー 。

 

 1匹は長大な体躯をくねらせ、全身に稲妻を迸らせる凶暴な顏の蛇、サンダー・スネイク。うん、決して激しく動き回る、ヲタ芸のあれではない。

 

 ただでなくともモンスターなんてアンくらいしか見たことがない一色が、こんな巨大な、そして、さらに言えば、ダンジョンの深層にしか現れないような凶悪なモンスターを見て驚かないわけがない。

 それが、いくら知性のあるゼノスと謂えどもだ。

 おまけにこいつら、言葉は分かっても、喋れないときてるし。

 

 つまるところ、一色はさっきの由比ヶ浜達同様に気をうしなってしまったということらしい。

 

 そこで慌てたのは、『色欲』の権能に囚われていた『イケロス・ファミリア』の連中。

 一色が気を失った途端に我に返ったそいつらは、逃げ出したゼノスを捕まえようと一斉に襲いかかったようだが、自由になった深層のモンスターが少数の冒険者に遅れをとることはなく、一色を担いで逃げ出すことは出来たようだ。

 

 だが、その途中で道に迷い、巨大な縦穴に飛び出しそうになったところで、さっきの冒険者ではない、黒ローブの集団に取り囲まれ、アン達全員が剣で串刺しにされそうになったその時、宙に浮いたまま、その縦穴を降りてきた銀髪の黒ローブの男に、一色は連れ去られてしまったのだという。

 そして、いよいよ殺されそうになったその時、サンダー・スネイクが電撃を放出して自分達もろとも、黒ローブ達を黒こげにし、アンとバーバリアンが肉弾戦で道を開きつつ、デフォルミス・スパイダーが生き残りを糸で拘束しながら、あとは一目散。

 ひたすら地上を目指して4匹は逃げ出してきたということらしい。

 

 ちなみに、このときの電撃でアンの一張羅は丸焼き。地下からの脱出の際の『鍵』は、途中で倒した『イケロス・ファミリア』の団員から奪った『ダイダロス・オーブ』を使用したらしい。そしてその出口の地下通路は、このホームのすぐそばまで繋がっていたようで、先日発見した地下水道から、この地下室へと全員移動してきたから、地上へ出て見つかる心配は無かったようだ。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 アンはこのルビス様の説明の間もずっと泣いたままだった。

 一色を見捨ててきてしまった後悔が本当にきつかったのだろう……アンはそれに押し潰されてしまっていた。そんなアンを、先程起きた雪ノ下と由比ヶ浜が慰めているわけだが……

 

 俺はその場にいる全員に向かって言った。

 

「すぐに一色を助けに行くぞ」

 

 みんなは一斉に俺を振り返った。

 そして、なにも口にしないままで、コクリコクリと頷く。

 

 そりゃそうだ。

 ここで、見捨てるなんて選択肢は俺たちにはない。

 一色はただの仲間じゃない。俺たちと同郷の、しかも可愛い後輩で、ただこの異常事態に巻き込まれただけの一般人だ。そんな一色にどんな落ち度があろうと、助けに行くに決まっている。

 その思いは、雪ノ下も由比ヶ浜も同様で、それに、アンも、他のゼノス達も同じ思いに見えた。

 

 俺はアンにも白のデカルチャーズのローブを渡した。ま、裸でいたからってのもあったが、これは俺たちにとってはもはや戦闘服だ。この姿であればどんな状況でも全力で戦える気がしていた。そう、この姿であるときの俺はすべてのじゅもんを解放して戦う覚悟を決めていたからだ。

 

 そんな俺に声がかかった。

 

「お兄ちゃん、小町にもそれないの?」

 

「は?」

 

 見れば、小町が俺たちの白ローブを指差して物欲しそうに指をくわえてる。

 

「えーともうないけど……は?なに、お前は戦えないだろ?まさかお前まで行くとか言うんじゃねえだろうな」

 

 その俺の言葉に、小町は辺りをきょろきょろ見回して、タンスの上においてあった赤いスカーフを頭に巻いて、俺にウインク。

 

「小町も行くに決まってるでしょ!もう置いてきぼりなんてイヤだよ」

 

「イヤだよ……ったって、お前戦えねえだろが……」

 

「だーいじょーぶ、小町にはこの子達がいるから」

 

 言って、小町は牛頭と蛇と蜘蛛を撫でる……って、おまえそれ……

 

「じゃあ……『バッフロン』、『アーボック』、『デンチュラ』、みんな行くよ!ポケ○ンマスターに小町はなる!!」

 

 いや、それポ○モンじゃねえから……

 

 目の前で意気揚々と拳を突き上げる小町と、はしゃいでいる(ように見える)3匹を見つつ、俺は心の中でツッコムのだった。

 

 

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