『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(31)ダンジョン・クエスト

「行っけー、アーボック!『へびにらみ』!!」

 

『シャアーーーーー!!』

 

「続いて~!デンチュラ!『くものいと』!!」

 

『キュルキュル~~』

 

「とどめだよ!バッフロン!『ハリケーーーーーーーーーーン・ミキサーーーーーー』!!」

 

『ブモォ――――――――――――――――!!』

 

 

「「「「「ぎゃあああああああああああああああ……」」」」」

 

 

 アダマンタイト製の硬質に光り輝くそのダンジョンに絶叫が木霊している。凄まじい突進力で行く手を塞ぐ黒装束たちに、小町がゼノスのモンスターたちを、ポケモン宜しく襲い掛かからせてるわけなんだが……って、いうか、最後のバーバリアン、あれバッファーローマンの技だろ!超人強度1000万パワーかよ!!モンゴルマンいたら、ロングホーントレインとか出来ちゃうじゃん!

 

 とか、なんとか、呆然としていたら、額の汗を拭う小町が一言。

 

「バッファローマン!よくやったよ!」

 

『ブモブモォ~♪』

 

「って、マジでバッファローマンって言っちゃってるし!?お前もそれでいいの?」

 

『ブモぉ?』

 

「もう、小さいこと気にしない!さ、お兄ちゃんたち、行くよ!」

 

 意気揚々と拳を振り上げる小町と、3匹の御伴。俺達は唖然としながらも床で無残にも泡を吹いて転がる黒装束たちを見ながら、後についていく。

 

 周りを見れば、幅・高さ3Mにきっちりとキューブ状に組まれた硬質の壁の通路がひたすら続いている。その道を、先ほどの3匹、バーバリアン、サンダー・スネイク、デフォルミス・スパイダーを先頭にして、その後ろに小町、俺、雪ノ下、由比ヶ浜、そして最後尾にアンが後ろを警戒してくれているといった隊列だ。

 俺が比較的安全な位置にいるのはご愛敬。どうせ、マジバトルになったら、前に出ないとだし、今くらいは別にいいだろ。

 モンスターたちと小町以外は、みんな白装束のデカルチャーズスタイルだ。あと、アンもだな。

 今回はほとんどの敵が黒ローブの闇派閥が相手っぽいんで、白と黒で、見分けがつきやすい感じ。

 そして装備なんだが、とりあえず、俺は細身の片刃の剣を一本持ってきた。ヴェルフに貸してある雷神の剣は今の俺には重すぎるし、かといって丸腰ってのも不安だったから、工事に来てたボールスさんに頼んで適当な奴を一本借りたわけだ。ついでに、由比ヶ浜と雪ノ下の分も融通してもらった。出刃包丁くらいのサイズのショートソードをふたりとも腰にさしている。とはいえ、この二人は対人戦はおろか、モンスターだって切り殺したことがない。よくもまあ、そんなんでゾーマとか倒したって話なんだが、実際肉弾戦をするより、魔法で殲滅する方が早かったし確実だったてのが実情だ。

 いずれにしても、剣での戦いなんて初めての経験になるわけで、しかも相手は人間の可能性が高いわけで、この剣は万が一の護身用。流石に素手のままは怖すぎるってだけだから、二人に戦わせるわけにはいかない。

 そんな心配を思いつつ、この通路に侵入したんだが、結果としてはもう小町達の独壇場で俺達の出番はほとんどない。

 

 まあ、たまに魔法みたいなのを使おうとしてるやつがいたり、『壁走り』みたいなことをして立体的に襲い掛かってくる奴もいたが、そんなのは俺と雪ノ下がメラで撃ち落とした。

 

 そんなこんなで戦闘は順調。

 

 ただ問題なのはこの同じような景色の続く、キューブ状のダンジョンの方だった。

 

 はっきり言って、今俺にはどっちを向いて立ってるのか分からない。アダマンタイトの壁はどこまで行っても同じ模様だし、目印らしいものもないと来てる。

 気分はウィザードリィやってる感覚。進んでも進んでも同じ壁に、頭が痛くなってくる。

 

「なあ、さっきからずっと同じ景色なんだが、本当にこっちで合ってるのか?」

 

「ダイジョウブ、マスター。こっちでマチガイナイ、匂いあるし、それに、カゼもあるし」

 

「風?」

 

 アンの答えに俺と由比ヶ浜、雪ノ下はく首を傾げる。

 風と言われても、そんなのは感じないし、匂いだって当然分からない。ただひたすらにカビ臭いだけだ。

 だがまあ、間違ってるとも言えないだろう。

 このダンジョンがいったいどれだけの広さがあるかは不明だが、こう何度も闇派閥の連中に遭遇するってことは、目的地に近づいている証拠だろう。まさか、ダンジョン全域に連中が散らばってるわけじゃないだろうしな。

 

「ねえヒッキー、いろはちゃんだいじょうぶかな?ここ凄く寂しいし、不安なんじゃないかな?」

 

 そう呟くのは由比ヶ浜。俺はそれに相づちを打ちながら答えた。

 

「だから、さっさと助けてやろうぜ。その空飛んでた黒ローブのやつがどんな奴かはわからねえが、もしもの時はギガデインで吹き飛ばしてでもやっつけてやる」

 

 それで安心したのか、由比ヶ浜は俺を見ながら微笑んでいた。

 ま、本気で人間を殺すなんて真似は俺にだって出来そうにないが……それでも、一色の方が大事に決まってる。だから、もしもの時は俺が……

 

「あれはなんかしら?」

 

「あん?」

 

 今度は雪ノ下の声。三叉路を左に行こうとしていた俺たちだが、雪ノ下は右手の方を見つめていた。

 そこはすぐそこが行き止まりらしく、暗がりにうっすらと壁が見えるのだが、その手前の床になにかある。

 

 俺たちは、とりあえずそっちへいってみることにした。

 その暗がりの床にあった物。それは……

 

「宝箱だな……」

 

「宝箱ね……」

 

 近づいて見れば、そこにあったのは、人の棺桶ほどのサイズの意匠を凝らした箱。一見して宝箱と分かる物が、二つならんで床に置かれていた。

 

「ま、普通のゲームなら、開けて物色するとこだろうが、開けてびっくりトラップとかだと洒落になんねえし、ここはスルーで……」

 

「えー、お兄ちゃん開けてみようよー。ほら、きっと、すっごい魔法のアイテムとか入ってるよ、きっと」

 

「いや、小町。このダンジョンは、ダイダロスとか云うダンジョンオタクの一族が私財をなげうって作り続けてる、言わばサグラダ・ファミリアのダンジョン版だぞ?そんな貧乏人どもに、宝なんて用意できるわけねえだろ」

 

「えー、でもでも~ひょっとしたら神様から貰ったアイテムだとかー、なんかすんごいのがあるかもだし、小町見てみたいなー」

 

「むむ……、ま、まあ、小町がそこまでいうなら」

 

「ちょっと、ヒッキー?」

 

「ふう、相変わらず、小町さんには弱いようね」

 

「ま、まあ、いいだろべつに……」

 

 これが千葉の兄妹というものだ。デフォなんだから仕方ない。うんうん。

 ふふんと隣で楽しそうにしている小町の頭を撫でつつ、俺は宝箱の前で腕を組んだ。

 流石にこのまま開けるのは怖いな。

 俺は雪ノ下を見ながら言った。

 

「なあ、雪ノ下調べてくれるか?」

 

「え?あ、ああ……そうね、わかったわ」

 

 一瞬悩んだ顔をした雪ノ下が、頷きながら宝箱に向き直る。そして、右手を突きだしつつ呪文を詠唱。

 

「インパス」

 

 精神を集中した雪ノ下は目の前の二つの宝箱をじっと見つめている。

 こちらからは特に変化が見えないため、雪ノ下の言葉を黙って待った。

 

『インパス』

 このじゅもんは目の前の物体の危険性の判断に用いられる一種の検査用の魔法。

 ドラクエの世界では、宝箱に罠が仕掛けられていたり、モンスターが擬態していたりと、なかなかに危険が多い。そのため、開く前に危険の有無を探知するためにこのじゅもんは開発された。

 ちなみに、術者にのみ知覚できる光で通知される。安全な場合は『青』、危険な場合は『赤』。

 

「どうだ?」

 

 俺の問いかけに雪ノ下が答えた。

 

「そうね……右側は青で安全そうね。でも、左は赤よ」

 

「は?赤?まさかこっちの世界にも人食い箱とかいるのかよ?」

 

「ええ!?人食い箱!?絶対いやーーーーーー」

 

 そう体を震わせるのは由比ヶ浜。まあ、無理もない。

 ドラクエの世界で冒険している途中で、人食い箱に遭遇したとき、とーちゃんがおもむろにそれを由比ヶ浜に投げて寄越したことがあった。面白半分で!

 そもそもあのときレベル40を超えていた俺たちにとって人食い箱はもはや雑魚でしかなかったわけで、噛まれようが体当たりされようがまったく問題なかったのだが、あろうことかあの人食い箱は由比ヶ浜を気にいっちまったようで、ベロベロなめまくりだった。おかげであの時の由比ヶ浜は粘液まみれで卑猥な感じになっちまうし、トラウマになるくらい相当ショックだったみたいで、あのあとはベロの長いモンスターはとにかく嫌がってたな。

 ああ、それでか……あのゼノスたちに近寄らないのは……

 サンダー・スネイクとかバーバリアンとか舌長いもんな。

 

「なら右のだけ開けてみるか」

 

 と、俺は右の宝箱に手をかけた。

 

 

 ギギィー……

 

 

 錆びた蝶番が軋んだ音をたてながら、その箱は開いた。

 俺は、暗がりをのぞき込むようにしながらその箱の中を見る。

 

「お、お兄ちゃん……なにが入ってるの?」

 

 その小町の言葉に振り向きながら答えた。

 

「……なーんも……、からっぽだよ」

 

 そう、宝箱は空っぽだった。なにも入っていない。ま、そりゃそうだわな。こんな通路のすぐそばにおいてあれば、誰かが開けるに決まってる。あの黒ローブたちだって、イケロスの連中だっているわけだしな。

 

「ま、そうそううまい話はないってこった。じゃあ、行こうぜ……って、おま」

 

 

 ガパッ……

 

 

「あ、マスター?なんか、アン、カマレちゃってる」

 

 見れば、となりにおいてあった宝箱が、人食い箱よろしくアンにかじりついてる。

 と、言っても、別に牙があるわけでもないし、当然ベロもない。ただ、口をパカパカさせてるだけ。

 アンもそんなに痛くないのか、噛まれるままにしていた。

 

「アン?お前勝手にそんなことしちゃだめだろ?」

 

「だって、アンもアケタカッタから……」

 

 パカパカと一生懸命アンを食べようとしているかのようなその宝箱なのだが、翼を開いたアンの力に負けてしまっている。こっちからはじゃれて遊んでいるようにしか見えない。

 いつまでも遊んでるわけにはいかないと、俺は剣を抜いて、その動く宝箱に近づいた。そして剣で思いっきりぶっ叩いた……蝶番を。

 一撃で蝶番が吹っ飛んだその箱は、その勢いのまま上蓋が飛んでいき、ピクリとも動かなくなった。

 やっぱこういう時は、可動箇所を狙うのが最適だな。車ならタイヤ、動物なら関節、これ動きを止める基本。

 

「大丈夫か?アン?」

 

「うん!アンだいじょうぶ。マスター、スキー」

 

 言いながら抱きついてくるアンの頭をなでながら、宝箱を振り返ると、ちょうど小町達が中をのぞき込もうとしているところ。そんなに宝物欲しいのかよ……

 

 だが次の瞬間……

 

「きゃああああああああああああああああああ!」

 

 小町の悲鳴が辺りに轟いたかと思うと、その箱の縁に現れたのは、中から伸びてきた『白骨の手』!

 

「って、またお前か……いい加減にしろ、フェルズ」

 

「うう……助かった……」

 

 這々の体で箱から出てきたのはリビングデッド(生きた死体)ならぬ、生きてるガイコツ、フェルズさんだった。

 

 お前お約束すぎだろ。

 

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