『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(32)黒い胎動

「いやはや、本当に助かった。感謝する」

 

 そう言って棺桶(?)からのっそり出てくるのは白骨の身体の元賢者。

 フーデッドローブを被り直して着崩れたそれを整えてる。

 

「って、なんでお前、こんなとこで宝箱に喰われてんだよ」

 

 俺のその問いかけにフェルズは頭を掻いている。

 

「いや、まったく面目ない。君たちに教えて貰ったダイダロス通りの地下を調べている最中に、黒装束の連中に出くわしてな、連中が壁から中に消えたもので、私も一緒に入ったわけだ。そして、その後この地下迷宮を調べて回っていたのだが……」

 

 ふっと、フェルズが視線をおとして声をと切らせたので、なんとなく俺が後を繋いで話した。

 

「……宝箱があったもんで、興味本意で開けてみたら喰われたわけか……おまえ、油断しすぎだろ……」

 

 フェルズはうつむいたままで返事。

 

「まったくもって、面目ない」

 

 ま、仕方ないか……

 この人食い箱を調べてみたら、魔力封じを施されてたし、内側に閉じ込められたらフェルズの奴もどうしようもなかったってことだろう。こいつ魔力特化らしいしな。

 

 その後、フェルズに一色のことを説明し、俺たちに同行して救出に向かうことにした。

 こんな敵地のど真ん中で別行動をとってもなにもメリットはないしな。

 

 俺たちは再び、アンたちの案内で先へと歩を進める。

 

 直線的な通路の組み合わせのこの迷宮を、右へ左へ、ときにはスロープを降りて進んだ俺たちは、とくに妨害にあうこともなかった。

 あまりに誰にも遭遇しなかったもんで、道を間違えてるんじゃないか?と不安になり始めたところに、アンの声が。

 

「ここだヨ、ここでいろはがツレテかれたの」

 

 正面から強い風を頬に受けながら、見据えたその先には、巨大な縦穴が広がっていた。その大空洞は、まるで俺たちのいるこの通路を寸断したかのように、直上から真下にむかって広がっている。

 俺たちの通路もそこで終わっているわけだが、その空間との境の部分は、超硬質のアダマンタイトのブロックが完全に粉砕されてしまっている。

 

「なあ、これって……」

 

 俺は由比ヶ浜たちを見ながら言った。

 

「ひょっとして、しんりゅうが通った穴なんじゃねえの?」

 

 俺の言葉に二人は黙って頷く。

 穴の直径といい、形状といい、問答無用でダンジョンの18階層の天井をぶち破ってきたしんりゅうの巨体が通ってきたと思わせる跡だった。

 

 はるか上方を見上げてみれば、小さな丸い点のようなところから青空が覗いている。

 多分あそこからオラリオの外にも出られるのだろう。

 

 間違いなくこれはあのときの穴だ。

 

 でも、そうだとすればおかしいな……と、思う。

 

 これだけの大空洞を作って、さらに、地上にも大穴を開けたわけだ。ここに、誰も調査に来ないなんてことあるのか?

 俺はこの辺の事情を一番知ってそうな奴に声をかけた。

 

「なあ、フェルズ。お前この大穴のこと知ってたのか?」

 

「ああ、知っていた。まさか、地下のこの迷宮と繋がっているとはわからなかったがな。この穴の調査に関しては『ガネーシャ・ファミリア』が執り行うことになったのだが、実はまだ一般には知らせてはいないが、調査に赴いた彼のファミリアの先見隊が先日、全滅しているのだ」

 

「はあ?」

 

 フェルズは俺に視線を向けながら説明を続ける。

 

「そして、現在ギルドにてこの大穴の調査を最高難度クエストとして公示するかどうか話あっている最中だろう。調べたところでただの神の気まぐれで作られた大穴、くらいの認識だろうが、人死にも出てるからな、捨ててもおけないということだ」

 

 つまり、今後ここにふたたび調査が入る可能性もあるわけか……たが、それを待っているわけにもいかない。

 あいつの現状を思えば、一刻の猶予もないしな。寄り道しておいてなんだが……。

 さてと……ここで一色がつれ拐われた以上、どこかにきっと手がかりがあるはずなんだが。

 

 穴の縁でその光の届かない真っ黒な空間を見下ろす。

 十中八九穴の下に降りたということで間違いはないだろう。

 

 ん?あれは……

 

 足下の壁沿いに何か光るものが見える。

 しゃがみこんで触れてみると、それは壁に打ち込まれた金属製の杭。その杭には鎖が繋がれていて、壁沿いに這うように鎖が伸びていた。

 さらに良く見れば、鎖に沿って壁が抉られていて、足場を形成していた。

 

「黒装束の連中の通路みたいだな。ここから降りられそうだぞ」

 

「え!?」

 

 由比ヶ浜達は明らかに嫌そうな顔。だって仕方ねーだろーが、ここ降りなきゃ行き止まりだし、ご丁寧に道があるんだから……

 

「俺が先にいくからお前らついてこい。鎖にちゃんと掴まってりゃ大丈夫だ」

 

「う、うん……」

 

 不安そうな由比ヶ浜を見ながら、俺は鎖を掴んで壁を降りた。

 大丈夫だとか言ったはいいものの、正直なんの根拠も無いから超怖い。だいたいこの鎖つけたのだって、あの連中なんだろうし、いつ杭がひっこぬけるか冷や冷やもんだ。

 

 俺はそろりそろりと、足下の切れ込みを歩いた。なんとか行けそうな感じだ。

 

「おい、大丈夫そうだ、もう来てもいいぞ……ってお前ら……」

 

 見れば、デカイ白い籠のようなものに入っているうちのメンバー。その籠は、デフォルミス・スパイダーの糸で作られたらしく、お尻から出た糸でぶら下がっていて、まるでエレベーターのように穴の下へ降りていく。

 其の脇を、小町を背負ったバーバリアンがフリークライミングよろしく壁の突起を掴んでさっさと素早く降り、サンダー・スネイクが器用に壁を這って下へ向かう。

 籠の中の由比ヶ浜が気まずそうに俺を見ながら一言。

 

「なんかごめんね」

 

 ぐっ……べ、べつにいいもん!泣いたりなんかしないし!

 

「あ、マスター、アンがツレテったげるね」

 

 と、言いつつ、飛んでいるアンが俺の背中から器用に足をまわして組つく……と、慌てた俺はそのままアンの太股にしがみついた途端に、身体がふわりと飛び上がった。

 

 俺たちはそうして、暗いくらい大空洞を降りていった……

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 たくさんの冒険者が詰めかけたギルド本部は、すでに収集がつかないくらいの大混乱に陥っていた。

 それと言うのも、突然に開催宣言された【戦争遊戯】が原因である。ただでなくとも血の気の多い冒険者が多いこの都市において、【ファミリア】の存続をかけた【戦争遊戯】は神はおろか一般の市民だって熱狂する一大イベント。

 しかも今回はあまりに非常識な組み合わせに周囲は沸き立っていた。

 オラリオでも中堅クラスに位置する【アポロン・ファミリア】が対戦相手に指名したのは、発足したばかりの上、団員がたった一人しかいない超弱小【ファミリア】、【ヘスティア・ファミリア】である。

 この弱小【ファミリア】の唯一の持ち味といえば、最速レベルアップを果たしたニューフェイス『リトル・ルーキー』の存在だけであろう。しかし、レコードホルダーとはいえ、彼のレベルは2。一人で中堅【ファミリア】に対抗できるとは到底思えない。

 前代未聞のこの戦争に、オラリオの全市民は色めき立っていた

 そして、そんな噂が先行した中での市民がとる行動はただひとつ。

 開催を取り仕切る窓口ともなるこのギルド本部へと問い合わせに来る……というわけである。

 

 窓口に我先にと顔を突っ込むのは、冒険者だけではなく、それぞれの町の顔役や商人、それに報道関係もそろっている。皆一様に、このイベントの開催の有無の確認と、開催地、開催日時、それと、遠隔透視による放送はされるのかどうかなどの問い合わせがほとんど。

 ギルド側としても、未確定事案がほとんどのため、後日追って公表する旨を伝えて回るが、人の波は収まることがない。

 

 そんな慌ただしさのなか、応対を続けるハーフエルフのエイナ・チュールは焦っていた。

 ただでなくとも今回の当事者が自分にとっても憎からず思っているベル・クラネルなのである。一刻でも早く彼に会って、事の真相を問いただして、叱りつけたいと思っているのに……

 ここは、ギルドの中でも重要な客を応対するための場所。この部屋は階下の喧騒を離れ静かではあるが、エイナは居心地の悪さに辟易としていた。

 目の前には彼女を見据える凶悪な目付きの第一級冒険者の顔。

 

「おい、いつまで待たせんだよ、てめえ。只のレベルアップの申請にいったいどんだけかかってんだ、オラ!」

 

 カウンターに身を乗り出してそう吠えているのは、最近レベル6になった、【ロキ・ファミリア】の凶狼、ベート・ローガ。

 この【ファミリア】はベート・ローガだけでなく、同じ団員のティオネ・ヒュリテ、ティオナ・ヒュリテの双子の姉妹もレベル6となり、今やレベル6の団員を7人も擁し、且つ、ダンジョン最深探索記録を樹立した名実ともにこのオラリオナンバーワンの【ファミリア】である。

 先日の集団昏倒事件の時といい、なぜかエイナはこの狼人の青年と接する機会が多かった。そして、もともと論理的に思考するエイナにとって、ここまで乱暴な態度に出る相手は不得手でもあった。

 

 

「落ち着けベート。お主が吠えたところで何も変わりはせん」

 

 そう横から助けを入れるのは、細身で長身の絶世の美女。

 さきほどからエイナが震えているのはどちらかといえば、この高貴な美女の存在の影響が大きい。

 それもそのはずで、この人物はこの世界においてもっとも高貴な身分を持った長寿族、エルフの王族、ハイエルフの【リヴェリア・リヨス・アールヴ】その人であった。ハーフエルフのエイナからすれば雲の上の存在。今すぐにでもひざまづきたいのを必死で堪えていた。

 

「うるせえぞ、ババア!でしゃばんじゃねえよ。俺はまだ肝心なことこいつから聞いてねえんだよ。オラ、あのデカルチャーズの奴の居場所も教えろ!俺はあいつに用があんだよ」

 

 そう叫ぶベートに、エイナは慌てて答える。

 

「ちょ、ちょっとお待ちください。彼らはギルドと契約しているとはいっても、あくまで商売としての契約です。他人にそうそう住所をお伝えなんてできませんよ」

 

 と言いながらも、かの集団の住所が架空のものであることをエイナはすでに知っていた。

 しかし今それを言ったところでなんの解決にもならない。彼らの身柄に関してはギルドの神ウラノスが全権を持って保証しているため、末端の彼女が気にかけることもできない。

 

「ちっ……つかえねえ女だな」

 

 吐き捨てるように呟くベートに、エイナは愛想笑いを浮かべることしかできない。

 そんな狼人の頭に、魔力を帯びたワンドが降り下ろされた。ゴスっと、鈍い音が辺りに響く。

 

「いってえな!なにすんだ、このくそババア」

 

「たわけ。お前が話すとろくなことにならん。すこし黙っておれ。色々と迷惑をかけたな。すまなかった」

 

「い、いえ、そんな……め、滅相もございません」

 

「ふむ……許してくれるか。ところでな、少し気になる噂を耳にしたのだが……なんでも、最近オラリオの外で全滅したパーティーがいたとか……それも高レベルの」

 

 エイナはこのとき焦っていたのだろう……リヴェリアの瞳を見つめていたエイナは、普段の冷静な彼女らしからぬ、安直な応対に移ってしてしまう。

 

「は、はい。実は先日都市壁の外側に穿たれた巨大な穴の調査に【ガネーシャ・ファミリア】の6人の冒険者が向かったのですが、一人を残して全滅してしまいました。その一人も気が触れてしまったようで、『邪神を見た』などと繰り返しているようで……す…………はっ!!」

 

「ふむ、少し話しやすいように暗示をかけさせてもらった。許せよ。では失礼しようか」

 

 自分の失態にワナワナと震えるエイナを横目に、少し申し訳なさそうにしたリヴェリアが後ろを振り返った時、ベートが声を発した。

 

「まだ終わっちゃいねえぞ……てめえ何者だぁっ!!クセエンだよ、さっきからプンプン匂ってらぁ、出てこい!ごらぁっ!」

 

 リヴェリアとベートが立つすぐそば、先程まで彼らがもたれていたカウンターの端に向けて、ベートは爪を降り下ろす。

 

 ひゅんっ……と風切り音のすぐ後、その人物は音もなく忽然とその姿を現した。

 

「まったく……これだから獣人とは、度し難い」

 

 黒のローブを全身に纏い、その頭部を隠すフードからは、光輝く銀の長髪が溢れている。その頭衣の暗がりから覗かせるのは褐色の肌に金の瞳を煌めかせた美しい女の顔。

 

「あ、貴女は……」

 

 その容姿にリヴェリアは驚嘆のあまり絶句する。なぜなら、その女性の顔には見覚えがあったから……

 

「ま、まさか……」

 

「あん?どうしたってんだよ、ババア!!この黒い女、知ってやがるのか?」

 

 この直後、その場に居たベートとエイナの二人はあまりの事態に、その衝撃の大きさに身動きできなくなる。

 

 なぜならば……

 

 リヴェリアがその黒ローブの女性へ、首を垂れ、膝をついて跪いたためだ。

 

「「○×△□※%……!?」」

 

 そんな二人におかまいなしにリヴェリアは滔々と口上を放つ。

 

「ハイエルフの長を勤めさせていただいております、リヴェリア・リヨス・アールヴともうします。御尊顔を拝し恐悦至極にございます……『シェール』様」

 

 その異様な光景をベートとエイナは見守った。……白目を剥いて。

 

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