『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「な、なにやってんだ!ババア!」
思わず絶叫するベートと声もなく震えるエイナ。その二人の目の前で、もっとも尊大であるはずのエルフ、それも王族でもあるリヴェリアが跪いているのだ。
【ロキ・ファミリア】の副団長としての彼女が団員の母のように振る舞うその姿を見ていたとしても、あの神ロキに対してさえ態度をかえることのない、このエルフの姫としてはのその姿はあまりに異様であった。
彼女が頭を下げる、その褐色の肌のエルフのような女は、その目深に被ったフードをそのままに静かに囁いた。
「その名を聞くのは随分と久しいな……面を上げよ、深き森の民の末裔よ。私は貴女に敬われるような存在ではない」
「ですが……」
困惑するリヴェリアを見つつ、ベートが吠える。
「てめえ!どこのどいつだ。しれっとした顔しやがって、さっさと吐かねえとぶち殺す……」
「控えよ!ベート!」
その鋭い眼光がベートを刺し貫いた。さしもの第一級冒険者の猛者も、長い年月を生きた研ぎ澄まされた迫力をはねのけることは叶わなかった。いったいこの細身の身体のどこにそんな覇気があるというのか……隣のエイナも一気に萎縮してしまった。
そんな二人に、リヴェリアは口を開く。
「このお方を我々と同じと思うでない。このお方こそ、我ら一族を……」
「もういい、リヴェリア・リヨス・アールヴ。今の私にとっては不要な話だ。それよりも、そこのハーフエルフ」
「は、はい!!」
突然話を振られ、エイナは心臓をわしづかみにされた様な感覚に陥る。
目の前の褐色のエルフは、自分が敬愛してやまないリヴェリアがかしずく相手。ただの冒険者ではないことは明白であり、そしてその相手がとてつもなく高位な存在であることだけは理解していた。
「盗み聞きをしてすまなかった。ことこう露見したからには少し話を聞きたいのだが、その『邪神』とは、石化した邪悪な女神像のことではないか?」
その問いにエイナは目を見開く。そしてしばらく逡巡したそぶりをとった。ギルドで得た情報は他人に漏らしてはならない。これは当然の事項ではあるが、つい先ほど、目の前のこのリヴェリアに自ら口を開いてしまっているのだ。当然それを後悔している。それでもエイナは全てを伝えることを自らの意思で決めた。
眼前の存在はすでに自分たちと同じ視点に立っていないと確信したから。
「は、はい。生還した方の話では、大穴深部に巨大な空間が広がっていたらしく、そこに禍々しい巨大な石の女神の上半身が埋もれていたと……」
そして、その場に現れた黒ずくめの集団に襲われ、パーティは全滅……その生き残った一人も命からがら逃げだし、大穴途中で待機していた他の団員に救助されたというところまでを話した。
その話を聞いていたその女エルフは目を鋭く光らせ呟くように零した。
「これが奴の狙いか……まさかカーディスの神殿がそんなところに埋もれていようとはな……」
「え?カー……ディス?」
そのエイナの疑問に女は答えた。
「古に封印されし破壊の女神だ。彼女が蘇れば……この世界は滅ぶ」
「ええーーーーーーーーーーーー!」
絶叫するエイナの横で、表情を全く変えないその女エルフにリヴェリアが声をかけた。
「お待ちください、シェール様。我々には神より授かりし恩恵がございます。それに、この地には多くの神々が降臨されておられるのです。いくらなんでも一柱の女神だけでそのようなことは……」
その問いに彼女は忌々し気に言う。
「単に受肉しただけの新しき神になんの力がある?破壊と死を司る女神になんの躊躇いも感慨もありはしない。世界は再び灰燼に帰すことになるだろう。我々にできることは、彼の女神の復活を阻止すること……ただ一つ……」
だが……すでに手遅れかもしれないがな……
掠れるように囁かれたその小さな声を、スキルで強化されたベートとリヴェリアの耳は聞き逃すことはなかった。
彼女はマントを翻し、後ろを向く。そしてもう一言だけ呟いた。
「それからな……私のことを……シェールとは呼ぶな」
そして呪文を詠唱した。
「万物の根源にして、万能の力…………我が双脚は時空を超える」
その刹那、彼女は姿を消した。
「お待ちください、シェー……くっ……い、いったいどちらへ……」
慌てるリヴェリアへベートが声を掛けた。
「もう奴はいねえよ。姿を消したわけじゃねえな、完全に消えちまった」
「まさか、転移魔法なのか?やはり失われた魔法をお使いになられているのか……」
「おい!今の奴はいったいなんなんだよ!」
問い詰めるベートに、珍しく焦りを表にだしたリヴェリアが声を荒げてエイナに向き直る。
「エイナ・チュール、すぐに神ウラノスへ取次ぎを頼む。ベート、我らはいったんホームへ戻るぞ。ロキと話さなければ」
駆けだす二人を見送りながら、ハッと我に返ったエイナは、急いで階下へ向かった。
× × ×
穴の深さは想像以上に深かった。かなりの時間下降した俺達は、明らかに周囲の壁とは違う色の地面に降りる。
周りの岩が石灰を含んだような白っぽい色をしているのに対し、足元に広がるのは赤茶色の金属質の地面。
仮に……といっても、ほぼ確実に、この大穴はしんりゅうが空けたものに間違いなさそうだが、ここまで掘り進めた先のこの蓋のような地面は、間違いなくダンジョンの外殻になるのだろう。つまり、この外殻の向こう側が、18階層の天井部分ということになりそうだ。
ダンジョンが自己修復されることは知っていたが、金属質とはいえ、この赤茶けた見た目は、生物の皮膚を思わせる。この大穴の中で唯一自動修復されたこの個所は、いうなればダンジョンの瘡蓋のようなものなのだろう。
俺はそれを思い、身震いした。
「全員いるか?」
「ええ、居るわ」
雪ノ下がそう答えるのに合わせて、俺は全員を確認した。
改めてこのメンバーを見て、そのバランスの良さに驚く。
俺(勇者)
由比ヶ浜(僧侶)
雪ノ下(魔法使い)
フェルズ(魔法使い)
小町(妹)
アン(飛翔)
バーバリアン(前衛)
デフォルミス・スパイダー(前衛)
サンダー・スネイク(前衛)
総勢9人(?)のこのパーティ、モンスター交じりとはいえ、人語は解してるし、コミュニケーションも小町のおかげでばっちり。前衛をこの3匹に任せられるから、俺達は後衛から魔法をガンガン使えるし、回復も、補助魔法もあるから、実はパーティーとしては超優秀だ。
え?俺は前衛じゃないのかって?
無理に決まってんだろう、大抵の攻撃一発で死ぬしな。こういう時無理しちゃだめなんだよ。絶対に。
全員を確認した俺は、あらためて松明をかかげ周囲を警戒する。
周囲に人影はない。それに不気味なくらいに静まり返っている。
よくよく調べてみれば、壁の一角に明らかに人工物と分かる石詰の破壊された壁がむき出しになっていた。
そして、その一部に空洞があり、そこから侵入できそうな感じである。
「どうやらあそこが目的地らしいな。ここから先は多分ボスゾーンだ。慎重にいくぞ。セーブポイントが欲しいとこだけどな……」
言いながら、俺は先に立ってその割れた壁をくぐった。
と、その時、俺は背後から猛烈なタックルを受けて前のめりに倒れる。それと同時に聞こえてきたのは複数の風切り音。複数の矢が、俺めがけて殺到していたのだ。だが、その矢は倒れた俺を素通りし、俺に被さる巨体に突き刺さる。
「ブフゥッ……」
苦悶の表情で唸るのはバーバリアン。
「お、お前……」
人一人しか通れないこの穴から明かりを持って現れたわけだ。当然狙うに決まってるよな。
俺は自分の安穏さに後悔した。
肩から血を吹き出しつつ、俺をかばったバーバリアンは俺を抱えながら横へ飛びのく。
俺も松明を投げ捨て、辺りに視線を送るが、真っ暗闇の中で相手の位置どころか人数も把握できない。
入口からは、後続の由比ヶ浜たちが進入しようとしていた。
「くっ………ベギラマ!!」
俺は狙いも定めずに正面に向かって、灼熱の火炎じゅもんを唱えた。
苔むしたようなかび臭い空気が一気に振動し、そこかしこで火柱が立ち上る
「ぎゃあああああああ!!」
「あ、あついー」
「わああああああああ」
途端に周囲から絶叫があがる。
そこにいた何人かに火炎が直撃してしまったらしく、背中から衣服が燃え上がっていた。
立ち上る火の光に照らされた中で30名ほどの人影がはっきりと写った。黒装束の連中だけではない、冒険者風のいで立ちの輩も何人か含まれている。多分【イケロス・ファミリア】の連中だろう。全員目を血走らせて、明らかに正気ではない。
そう、これはあの、焔蜂亭で出くわしたヒュアキントスや暴漢どもとそっくりだった。
そうだとすれば、相当にやばい相手だ。
なにせ、単なるレベルブースト以上の戦闘力を発揮しちまう。少なくともあの時のヒュアキントスはマジやばかったし。
「ブモォ!!」
肩に刺さった矢を自分で抜き去ったバーバリアンが雄たけびを上げながら、その連中に突進していく。
だが、信じられないくらいの俊敏さで連中は動き、あの強烈なバーバリアンの突進さえもいなしていた。
「なにこれ?」
「どうなってるの?八幡」
俺に走り寄る二人の手を掴んですぐに指示。
「由比ヶ浜は俺と一緒にラリホーだ。雪ノ下は俺達全員にスクルト。急げ」
言った直後に前方に右手を突き出して俺はじゅもんを唱えた。
「ラリホー」
「ラリホー」「スクルト」
俺に続いて、由比ヶ浜たちもすぐさま詠唱。
じゅもんの効果はすぐに出た。
俺達に近い方から順に、バーバリアンにとびかかる黒装束たちがバタリバタリとその場に倒れ伏しはじめ、そして、繰り返し唱えることで、この広い空間のほぼ全域の敵の動きを封じることに成功した。
そして、その空間にアンと小町が入ってきた時には、完全に戦闘は終了していた。
俺達は床に転がるその連中を一か所に集め、くものいとで完全に拘束したあとで、全員のけがの治療もしておいた。一応このまえと同じで正気に戻るかもだし、死んだら死んだで夢見も悪いからな。
「ブフッ……フゥ……フゥ……」
「お、おい、大丈夫か?」
片膝をついて肩で息をしているバーバリアンに俺は近づいてそう声を掛けた。
さっきの弓の傷からはいまだに真っ赤な血が流れ続けている。おまけに、暴漢どもとやり合ったときのモノだろう。全身に刀傷が刻まれ、特に左太ももには骨まで達した生々しい傷が口を開いていた。
「お前……俺を助けてくれたのか?」
「ブモゥ……」
バーバリアンは震えながら、俺の頬を指でなでる。心なしか、喜んでいるようにも見えた。
俺はそんなバーバリアンの胸に手を当ててじゅもんを唱えた。
「ベホマ」
いつもの青白い光にバーバリアンが包まれる。
体中の傷はみるみる内に癒え、あれだけ深かった腿の傷もあっという間にふさがった。
それに合わせて痛みも消えたのだろう。
不思議そうに自分の両手両足を動かすバーバリアンは次の瞬間。
「ブモーーーーーーーーーーーー!!」
「ちょ、やめろ!」
いきなり俺を抱え上げて飛び跳ね始めた。
「お前、やめろ、いい加減に……、お、おい、小町、こいつやめさせてくれ。これじゃあ、俺が死んじまう」
小町は首を振ってやれやれといった具合で、
「あーあ、この娘お兄ちゃんのこと気に行っちゃったみたいだねぇー。もう観念して思う存分したいようにさせてあげれば?」
「おま、それじゃあ俺が死ぬ……って、『この娘』だと?じゃ、じゃあ、なにか?こいつメスなのか~?」
小町はしれっとした顔で言う。
「そうだよ。知らなかったの?」
言われてみれば、このバーバリアン、胸が大きいような……
って、そんなの関係ねえー。
「し、死ぬ~、死んじゃう~」
「ブモ~」
嬉しそなバーバリアンは力いっぱい俺を抱きしめて……って、完全なサバ折状態の俺は、死ぬ前に自分にベホマをかけたのは言うまでもない。
お前はファイナルファイトのアンドレか!?