『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
バーバリアン(♀)に解放された俺は、身体中の骨が砕けてないか、ボキボキとならしながらストレッチした。
まったく……
本当に死にかけたじゃねえか。
なんで戦闘後にダメージ受けて瀕死にならなきゃなんねえんだよ。ここは毒の沼地かバリヤーか!!
それでもバーバリアンは俺のそばを離れようとしないし……って、なんで、由比ヶ浜のやつも、バーバリアンとならんで目をキラキラさせてんだよ?
お前らは抱きつく前の犬か!?
と、とりあえず、構っていると時間が掛かりそうなので、今のところは無視。
俺は改めて炎に照らされたその広い空間を眺め見た。
俺たちの侵入してきた壁の穴から見て、ちょうど正面に巨大なステンドグラスの窓が見える。
床は戦闘の痕でぼこぼこに荒らされてしまっているが、よく見れば、鏡のように磨かれた石の床であったことが分かる。壁には調度品などは無いものの、精巧に象られた悪魔とでもいえば良いのか……1階だけでなく、2階部分の手すりなども含めて、柱等に禍々しいがまるで生きているかのような見事な生物の彫刻が刻まれていた。
「ここはなにかしら?」
「さあな……俺の僅かばかりの知識から言えば、教会みたいに見えるが……いくらなんでも不気味すぎるだろう。フェルズ、お前は知らないのか?」
雪ノ下が呟くのに俺は何となく印象で答えたわけだが、もっと詳しく知っていそうな奴にそのまま質問した。
フェルズも顎に白骨の指を当てて唸っている……ように見える。
「私にも分からん。様々な神の教会を見てきたが、こんな異形の彫像を私は今まで見たこともない。それにこれは神というより……」
フェルズはなにかを言いかけて、止めた。そして首を振る。
その仕草が何を物語っているかは、よく解らないが、この世界の御長寿魔術師でも悩むほどの何かということは確かなようだ。
「メラ」
俺は落ちている木の破片を、メラで着火して松明とした。それを持って、暗くなってきた空間を照らしながら、左手に開いた大きな穴……もとは大きな扉が聳えていたのであろう、それを目指して歩き始める。
それにしてもこの松明……まんがとか、映画とかだと結構燃えてて明るいし使いやすいように見えるけど、木の切れっぱしに火をつけても大して明るくないし、なんかだんだん手元に向かって火が侵食しきてて、超怖い。
映画のランボーとかだと、洞窟の中を一人で松明片手に逃亡するシーンがあるけど、あんなにボーボー燃えるわけない。あ、あれ、灯油つけてるんだっけ?
あーあ、こんな時に便利なのが魔法じゃねーのかよ。辺りを明るくするじゅもんなんて知らね……あ。
「そういや雪ノ下。お前魔法使いだろ?『レミーラ』は使えないのか?」
俺の問いに雪ノ下は少し考えてから答えた。
「『レミラーマ』のことかしら?あれは近くに何かがあれば関知する、金属探知機みたいなじゅもんよ?」
ま、言い得て妙だが、あのじゅもんはどっちかといえば『ダウジング』だ。そういや昔の井戸堀はダウジングで地下水探してたんだっけな。別に今、井戸掘る訳じゃねーけど。
「ちげーよ。レミーラっていうのは、辺りを明るくするじゅもんのことだ。ドラクエ1のじゅもんなんだが、お前なら出来るかと思ったんだが……」
「そう……でも、そういうじゅもんは知らないわね。いっそメラゾーマとかベギラゴンを唱えた方が早くないかしら?」
「お前な……こんな地底の建物の中で下手にじゅもんぶっぱなして生き埋めにでもなったらどうすんだよ」
「あら?真っ先にベギラマを唱えたのはどこの誰だったかしら?」
「いや、それは非常事態だからであって、なんともないのに使うのはあれでだな……」
まったく、こいつはいつもすぐに噛みついてきやがるし……
そんな俺に助け船を出したのは、黒ローブの白骨の紳士。
「明るくすれば良いのか?ならば、私のこの魔法が役にたとう。『光となり輝け、万能なる力よ……』」
フェルズがそう唱えると同時に、光の玉が頭上へと現れ、辺りを明るく照らした。
まあ、懐中電灯みたいなかんじだ。
「お前、こんな魔法も使えんだな」
「なに、これは古代から受け継がれてきたコモン魔法のひとつだ。魔術師なら大体は学ぶ魔法だな」
「その魔法、私にも教えていただけないかしら?」
フェルズの言葉を聞いて、雪ノ下が目を輝かせて懇願する。
どうしたのお前?なに、いきなり学習意欲に目覚めちゃってんの?
そんな雪ノ下を見下ろしつつ、白骨の紳士がたじろぎながら答える。
「う、うむ……ま、まあやる気があるなら、教えてやらないでもない……こともないことなんて、ない」
なにお前うれしがってんだよ!まわりくどく。
骨しかないけど、明らかに広角あがってんだろ、今。
そりゃまあ、嬉しいに決まってるか。普通に会話なんて久々なんだろうし。
骨になってから、話し相手なんてあのいかついウラノスと、ペットのフクロウくらいのもんだもんな。確か500年だっけ。
なに、このぼっち。俺より相当ランク高いじゃん。
そんなフェルズの反応に雪ノ下がニコッと微笑んで、俺を振り向く。
「八幡、私も頑張って覚えるから……その……応援して……くれないかしら」
「お、おお……」
なにこの可愛い反応。さっき俺が明かりのじゅもんのこと話したからこんなことやってんの?
いやいやいや……ちょっと待て、俺。
そりゃいくらなんでも自意識過剰すぎだろう。こいつは、魔法に興味があっただけ。うん、そうそれだけ。
そんあことを思っていた俺のわきで、今度は由比ヶ浜が……
「あ、あたしも……なんか新しい魔法覚えてみよっかなー、みたいな?」
なにその俺の様子うかがってる風全開の反応。
お前、勉強苦手なんだから、レベルアップで覚える以外で魔法とかまず無理だろう……
でも、これはあれだ。下手に否定するより、本人のやる気に任せるべきだな。
機嫌損ねて不貞腐れられても洒落にならんし、事を荒立てる必要もないし……
「じゃ、じゃあ、もっと強力な眠りのじゅもんとか、頑張ってみてくれよ……応援すっから」
「うん!!」
おおう、由比ヶ浜の尻に尻尾が見えるようだ……
なんだよ、めっちゃ可愛いじゃねえか。誰もいなけりゃ思いっきりハグしてたとこだ。
それにしても、フェルズのやつ、雪ノ下に続いて、由比ヶ浜にも頭を下げられて、あいつ、相当喜んでんな。
ま、ボッチでも、人恋しいってのは理解できるからな。あいつも魔法教えながらちょっとは気分転換にもなるだろう。
だが、まあ、この緊迫感のなさは、戦闘慣れしていないから仕方ないって言えばそれまでなんだが、ちょっとアブねえな。
俺たちのじゅもんが強すぎて今まで敵なしだったしな。でも、この先もそうとは限らねえし。
「今は魔法覚えるより、一色を助ける方が先だ。このまま進むぞ。また、さっきみたいなイカれた連中が出てくるかもしれないからな」
「うん」「そうね」「行こうお兄ちゃん」
みんなの声を聞きながら、フェルズの光の球を先頭に歩き始めた。
このときの俺の危惧は見事に現実のものとなる。
そう……最悪の方向で……
俺たちの相手は想像もつかないほど、悪辣で卑劣で最低な存在であったのだ。
だが……
俺たちがその事を思い知るのは、まだ大分先のことにではある……
× × ×
明かりに照らされた天井の高い廊下はさっきの部屋とは違い、薄汚れてはいるがそこまで傷ついてはいなかった。
そんな長い廊下を進む中、途中で何度か黒覆面の連中に遭遇したが、どれもこれも殺さずに撃退に成功。
バーバリアン達の突進力もさることながら、俺と由比ヶ浜の『ラリホー』の威力が半端なくて、大概の奴は一瞬で意識を刈り取ることができた。
そんな無双状態で進む中、途中の豪奢な金と赤で縁取られた扉を潜ると、そこには大きくて立派な椅子が正面に鎮座していた。
真っ赤な絨毯に、貴章の入ったタペストリー。
一見して玉座の間と分かるそこは、広さこそアリアハン城のそれと似ているが、豪奢な感じの他は、やはりというか、禍々しすぎる。
どちらかと言えば、『王様』というよりは『魔王』のそれ。
サイズこそ人間サイズだが、この雰囲気は、バラモスとかゾーマの居城のそれに似ている。
こんな恐ろしい椅子に座るのは、いったいどんなやつなんだ?
「ねえお兄ちゃん、この部屋おかしいよ。行き止まりで窓も開いてないのに、風が流れてきてるよ」
「風?そういやそうだな」
その小町の言葉を受けて、俺達はその風の正体を探すべく部屋の内部へと侵入した。
風の流れのもとは思いのほか簡単に見つけることができた。
その大きな玉座の奥、カーテンに仕切られた先の小部屋の壁が破壊され、その壁の奥に地下へと続く階段が続いていて、その暗がりから風が吹き上げてきていた。
俺はフェルズに指示して、その穴の奥にライトの球を飛ばさせた。
目に写るのは、天然の鍾乳洞のような丸みを帯びた壁と、それに一体化したような石造りの螺旋状の階段。
俺たちは慎重にその階段を下りる。
辺りに響くのは、カツーンカツーンという、俺たちの足音だけ。
特に妨害に遇うでもなく階段を下り続けた俺たちは、次第に正面から、ライトの魔法の明かりではない、明かりが差し込み始めていることに気がついた。
そして、そのまま、階段の終焉……明かりに照らされたその広い空間へ足を踏み込んだその時、俺たちに向かって声がかけられた。
「おやおや、これはデカルチャーズの皆さんではありませんか。ふむ……これは予想外でした。私はてっきり【ロキ・ファミリア】あたりが乗り込んでくると思っていましたが……これも……世界の導きのようですね……」
突然真昼のように明るくなったせいで俺たちは、視界を遮られてしまっていた。
だが、なんとか声の主を探そうと、眩しさを堪えて顔をあげると、そこには、宙に浮かぶ一人の黒いローブ姿の男と、下半身が地中に埋もらせたままになっている超巨大な女神像。
「なっ!?」
俺はそのあまりに常識外れな光景に思わず絶句。
俺だけじゃない、周りにいる全員が声もなく、目の前の男と女神像に釘付けになった。
とにかくその威圧感が半端ない。
確かに俺はこの巨人像を『女神』と判じたが、それは外見上女であるということだけで、ヴィーナスやアフロディテの彫刻のような美しさは微塵もない。当然だが、ルビス様や、ヘスティア様みたいなマジ神とくらべても、あんな一部の人が大興奮しちゃうような感じの可愛らしさがあるわけでもない。
そこにあるのは、憎悪と憤怒に囚われた厳めしい醜女の形相。だが、その全身が纏うオーラとでも言えばいいのか、その存在感はまさしく神そのもの。
そして、その存在は、その怒りが収まればきっと美しいに違いないその容貌を醜く歪めたその表情で、俺たちの心に強い絶望を植え付けた。
なにも喋れないでいる俺たちを見ながら、その宙に浮いた黒ローブの男が、女神像を振り返りながら言う。
「ほう……あなた方もお分かりになられますか……どうです?とても美しいお姿でしょう?このお方こそ、世界を築き、そして世界を滅ぼすための至高なる存在……滅びの化身として数多の神々と戦い、その身を削りながら、世界の理を築き続けてきた、死と破壊の権化……この世のすべての闘争、争乱は、彼女の手により産み出され、そして、その手により全てを終わらせる絶対神…………」
男は、愉悦にうち震えるかのように、手を掲げて女神像を仰ぐ。
だが、次の瞬間、男は自分が被るフードを剥ぎながら不快感を表した顔を俺たちに向けた。
そこに現れたのは、それほど老け込んでもいない壮年のイケメンの顔……冷たく鈍く光る金の瞳に、褐色の肌、長い銀髪から覗くのはピンと長く突き出た特徴的な耳……その姿はエルフ……それも、この前俺たちが遭遇したダークエルフの女の特徴に酷似していた。
息を飲む俺たちにはお構いなしに、男は話を続ける。
「だが……愚かな神々は、自らの滅びを怖れ、このお方を自身が怖れた滅びの力で封印したばかりか、その御身さえも地中深くに隠してしまった。まったくもって不快千万。慈愛と調和?正義と平等?はんっ!!他の神々こそ惰弱で保身に走る蒙昧な存在でしかないというのに……」
滔々と語るその男から視線を逸らし、辺りを確認する。
正面には巨大な女神像だが、その周囲はまるで祭壇のように装飾された上かがり火が焚かれている。
床には何かの紋様が、まるで魔法陣のようにびっしりと刻まれている。
そして、の紋様の中心……そこに、仰向けに横たわる少女を俺は発見した。
一色だ!!
遠目に動きもなく、まさか死んでいるのでは?と不安に駆られたが、強化された視覚で注意深く観察したところ、胸が上下に微かに動いているのが分かった。
息はしているようだ。
それにホッと安堵しつつも、目の前のあまりに異常な光景に俺は尻込みしていた。
いつもと同じであればラリホーなどのじゅもんを男に放ったうえで一気に吶喊して一色を助けるところなのだが、明らかに眼前の相手は異質だ。
空中浮遊している時点で、なにか強大な魔法を使用できる可能性も高いし、何より、突然に素顔を俺達に晒したことで、俺達に対して何も脅威を感じていないということが理解できるからだ。色々やらかしているデカルチャーズということを知っていてもなお。
つまり、俺達は簡単に始末できると……
そんな相手につっこむことができるほど、俺に度胸はないって……
「ブモオオオオオオオオっ!!」
突然俺の脇に控えていたバーバリアンが雄叫びを上げて、途中で拾った冒険者の剣を振り上げて男に向かって飛び上がった。
デフォルミス・スパイダーもサンダー・スネイクもそれぞれ蜘蛛の糸と雷撃を放出している。
男はそれを冷ややかに見下ろしながら魔力を放出する。
「愚かな……『……混沌より生まれしものよ、混沌に帰れ!!【ディスインテグレート】……』
「やばい!!【アストロン】!!』
男の周囲に禍々しい黒い障気が現れると同時にバーバリアンたちが黒い靄に包まれる。
その刹那、ぞわりと身の毛のよだつ感覚に俺は慌てて、完全防御じゅもんを3匹にかけた。
しかし……
この魔法、俺は知っているぞ……
ガァアン!!と鋼鉄となったバーバリアンが床に落下し頭から突き刺さった。
他の2匹も鋼鉄の状態で身動きできなくなっている。
それを見た男は感嘆した様子で言葉を漏らした。
「ほう……すばらしい。生物を無機物へ置換してこの破壊の法を逃れるとは……、まさかこんな防御の手段があったとは……長く生きてみるものだな……実に愉快だ!!」
こっちは不愉快千万だよ、まったく。
俺の後ろには、震えながらローブを掴んでいる雪ノ下……いや、今はデカルチャーズでいたほうが良さそうだから、コンダとロリーか……あと、小町の3人がいる。
俺は3人をかばうように一歩前に出た。
ダークエルフの男は睨んだ俺を見下ろしつつ、ゆっくりと下りてくる。
俺は、全身が恐怖に強張るのに耐えながら、その男を見据えて必死で脳をフル回転させた。
俺はさっきのあの魔法を知っている。
ルビス様から邪竜ナースだとか、太守の秘宝だとかの話を聞いた時から、なんとなくこの世界に『あの世界』が地続きになっているような気はしていたが、まさか、本当にその力を目にすることになるとは……
そうなると、相当にヤバイ、ヤバすぎる……
『あの世界』の本当の恐ろしさは、何をおいても魔法の威力の高さにあるからだ。
一瞬で空間を飛び越えることができる転移魔法に、悪魔や精霊や死者を召喚する術式。そして、炎や氷の渦ですべてを壊滅させる驚異的な攻撃魔法の最上位には、大量の隕石を天空より降らし都市を壊滅せしめるだけの大規模破壊魔法も存在するのだ。
そして、そんな世界に存在する神には、この、今いるオラリオの神達のような力の封印も人間のような意思や思考は存在しない。
純然なる愛、純然なる正義、そして、純然なる悪……
こんなおどろおどろしい城の地下に封印された半身を地中に埋もらせた女神といえば……
『死と破壊の女神』
最悪だ……
相手はイケロスの団員の片割れくらいに思っていたし、気楽だったのは、今までの経験上人間相手ならラリホーが絶対的に有効だったからだ。
それがどうだ。この目の前のダークエルフには多分だが通用しないだろう。というか、通用する気がまったくしない。
『ディスインテグレート』
魔術師が使う最高位に位置する破壊魔法……ザキやザラキのように死をもたらすのではなく、その体を原子単位に分解して消滅させてしまう。マジで超怖い魔法。
アストロンで防げたのは僥倖だが、2度目は同じ手はつかえないだろう……
さて、どうする……
一か八かで相手にむけて最大攻撃じゅもんを撃ちまくるか……それともでマホトーンとか、マヌーサとかで気をそらして、一色に駆け寄ってみるか……
すぐそばには一色が横たわってるし、速攻で助けてリレミトで脱出したいとこだが……
俺は身震いしながら、地に降り立った男に声をかけた。
「お前は誰だ。なぜその少女(身内だとバレるのいやだからな)を連れ去った」
男は俺の言に微笑みながら答えた。
「こんなに愉快なことはない。永劫の時の中でこの私に対等に口を利く者が現れようとはな……しかもそれに見合った実力まで兼ね備えて……ふふ……まったくもって愉快だ!!」
何回喜べば気が済むんだこいつは……
にらみ続ける俺に向かって、男は言葉を続けた。
「では答えようか……ふむ、名前か、そうだな……私の名は……そう、『ルゼーブ』。この偽りの神々によって改変された世界を憂いし永遠を生きる者……そして、その我が意を汲んで世界を終焉に導くこのお方こそ、終末の女神『カーディス』!!そこな少女はその神の新たな肉体として選ばれたのだ。その身に宿した『悪魔の魂』に導かれてな」
狂喜に彩られた金色の瞳に射抜かれ、俺たちは身動きひとつ出来なかった。