『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「悪魔の魂って、なんのこと?」
突然ルゼーブに向かって問いかけちゃってる由比ヶ浜に思わず愕然。
って、なんでそれ今聞いちゃうんだよ!悪魔の魂っていうのはお前らのスキルのことに決まってんだろ!!って、俺そのこと話してないじゃん!ていうか、自分で納得しただけだった、つい、今。
焦る俺をしり目に、ルゼーブはその金の瞳を細めて、探るように由比ヶ浜たちを見つめ始めた。
あ、やばい。
一色のスキルを知っていた以上、ひょっとしたらあいつ何かの方法でステータス確認とかもできるのかもしれない。そうしたら、俺達のスキルとか筒抜けになるじゃねえか。
俺は慌ててやつに声を投げかけた。
「な、なあ、ルゼーブさん。そ、その娘に悪魔の魂がいるってんなら、そこに神様入れたらまずいだろう……ほら、早い者勝ちっていうか、先にいるのを追い出すのはなんか申し訳なくないか?それに、素直に出ていってくれないかもだし」
俺のことばに、フッと笑みをこぼしてルゼーブが俺に向き直る。
「それは大した問題ではない。器に注がれた神の魂が全てを包み一体としてしまうからだ……悪魔とはいえ、まだ幼生……それに、そこの娘はただの人だ……抗うことはおろか、知覚することすら不可能であろう。むしろ神の一部となる栄誉を喜ぶべきだろう」
「だ、だけどな、その女神カーディスが蘇ると、みんな死ぬだろう?俺もあんたも含めて……そ、それはちょっと遠慮したいような……」
「案ずることはない。世界は滅び再生する。そして、われらはその礎となるだけのことだ」
「あ、あと、ほら、邪神を復活させるには、太守の秘宝の『生命の杖』と『魂の水晶球』が必要だろう?それもないとまずいんじゃないの?」
俺は咄嗟にそんな質問を投げた。まあ、ただの時間稼ぎなんだが、あることを思い出したからだ。
ロードス島戦記の原作で、カーディス降臨の際に、古代カストゥールで作られた五つの祭器のうちの生命の杖と魂の水晶球が降臨の為の二つの鍵だったはずだ。
で、今その祭器はダンジョンの深奥で五色の魔竜によって守られていたという話だが、そのうちの3匹が逃げ出していて、その3匹が所持しているのは、邪竜ナースが『知識の額冠』、魔竜シューティングスターが『支配の王錫』、んで水竜エイブラが『魂の水晶球』だった。そのうちの魂の水晶球は今、ギルドが管理しているはずだ。討伐後に回収されたって言ってたしな。
それに、生命の杖は金鱗の竜王マイセンが所持しているし、ダンジョンから逃げ出してもいない以上、この目の前のルゼーブがそれを手にしているとは考えにくい。
というか、原作でほとんどの古竜は退治されてんだよな。いまさらだけど、なんでみんな生き返ってんだろ?
「よく知っている。私は、あなた方という存在に非常に興味が湧いてきましたよ」
満足そうに微笑むルゼーブに俺も苦笑で返した。
正直俺は、あんまり相手したくないんだけど、
「確かに私が所持しているのは、この『支配の王錫』ただひとつ。だが、心配は必要ない。祭器がなくともすでに術式は完成しているのだから」
ルゼーブはそう言いながら、自分のローブの内から白く輝く一振りの錫杖を抱えあげた。
げえっ!!
なに?『支配の王錫』持ってんの?
あれ、確か原作だと火竜山の火口に落ちて遺失したはずじゃないの?
とういか、確か古代のカストゥール王国の連中は、あの王錫の支配の力で、すべての蛮族をマインドコントロールして使役してたんじゃなかったっけか?
ってことは、あの王錫で誰でも彼でも意のままに操れる……って、まさかあのヒュアキントスとか闇派閥の連中とか酒場に出てきた暴漢とか、全部支配の王錫の力で操ってたってのか?
しかし、それしか考えられないか……支配の王錫の権能がどれほどのものかは不明だが、こいつは、ダークエルフの世界最強クラスの精霊術師。王錫の力でなんらかの術をブーストして操ってた可能性もあるのか……
それにしても、なんでこいつはいちいち答えてくれるんだ?
俺達に興味が出たってのは嘘じゃないと思うが、この状況でなんでこんなに……そもそも術は完成してるんだよな。
こいつは本気で世界を滅ぼす気なのか……
だったら、さっさと……
あれ?
「どうしたの?お兄ちゃん?」、
小町が俺の脇から俺を見上げて声をかけてきた。
俺は小町の頭をくしゃりとなでながら自分の中に生まれたひとつの感覚と向き合っていた。
俺が感じたのは『違和感』。正直、あまりに急展開すぎたのと、こういうシチュエーションに馴れていないせいも手伝って、俺はまったく気にもならなかったのだが、そもそもこの今の状況はおかしすぎるのだ。
俺はあらためて、周囲を確認した。
目の前には超巨大女神像と、地に降り立った一人のダークエルフ。そして、床の魔法陣のような紋様の中心に寝かされた一色。
そして、このルゼーブと名乗った男が話した内容を思い出す。
やっぱりおかしい。
この俺の違和感がもし間違っていないのならば、ひょっとしたら、このピンチから脱出できるかもしれない。
相手は、生物を粉々に消し飛ばしちまう、キラークイーンみたいなやつだ。超怖い。
一か八かの賭けにはなってしまうが、俺の想像通りなら、一色を助けることは可能だと思う。
だが、そうだとしたなら、奴の本当の狙いはなんなんだ?
その時……
「キシャシャー……」「ブフゥ……」
鋼鉄の塊となっていた3匹が元に戻り、慌てた様子で大きな音をたてながらこちらへと引き返してきた。
何が起きたのか把握できてはいないようだが、少なくとも今はこの目の前の相手を警戒しているようではある。そして、そんな3匹へとルゼーブは視線を送っていた。
俺は、このタイミングを逃すわけにはいかないと、近くにいたアンに視線を送りそして手招きして俺のそばへと近寄らせる。
そして、手早く必要なことを伝える。
それから、雪ノ下と由比ヶ浜の二人にも指示を出した。小町とフェルズには別の指示。
よし、やるぞ!
3匹がこちらへと辿り着いたその時、俺は恐怖に震えるのに必死に耐えながら、一人足を踏み出してルゼーブへと近づいた。
ルゼーブはそんな俺に冷ややかな視線を送ってきている。
さ、さあ、一色救出作戦の始まりだ!