『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(37)八幡「俺の命に替えても必ず一色を助けてみせる」結雪「え?誰?」

「おや、こちらに近づいて何をする気ですか。この娘は渡さないと、すでに申し上げたはずですが?」

 

 一歩一歩と歩み寄る俺に、ルゼーブが声をかけてきた。案の定、言うだけでなにも行動に移ろうとはしない。

 俺は、じっとルゼーブを見ながら言った。

 

「別にその娘を返してくれとはもう言わない。だけどな、お前ともう少し話がしたいと思ってな。この世界を壊すってことについては興味がある。俺もこんな訳の分からない神様だらけの世界には嫌気がさしてたところだしな」

 

「ほう……」

 

 ゆっくりと近づく俺に、ルゼーブは頬を緩ませる。まあ、嘘は言ってない。さっさともとの世界に帰りたいってのにいろいろ先に進まないのは神の気まぐれのせいでほぼまちがいないしな。

 だがこの反応……

 俺の予想はそれほど外してはいないということか。

 

「まあ、でもな……あんたが世界を滅ぼすのは勝手だが、それに巻き込まれで死ぬのはまっぴらごめんだ。だから、俺から提案したい。世界を滅ぼすんじゃなくて、この世界を手に入れるってのはどうだ?腐った神様どもを駆逐して、力で支配するってのは?それなら世界を滅ぼす必要はないだろう?だったら俺は一口のるぜ。別に世界の半分を寄越せとか俺は言わねえからよ」

 

 ルゼーブは目を細めて俺を観察し始めた。

 

「は、はち……ワレラくん!?な、何をいってるんだ!!」

 

 俺の後ろで、フェルズが絶叫する。

 あ、そういや、こう言うってフェルズには言ってなかったな……

 ええい、めんどい。

 

「言った通りだよ。俺はこいつに手を貸すことにするぜ。さっき見た通り、こいつの魔法の力は本物だ。その辺の一級冒険者と比べても段違いのだ。俺は勝ち馬にのるぜ」

 

 そう言ってルゼーブのすぐ正面までやってきて奴を見た。

 その距離3m。すでに接近戦の有効範囲の上、大概の魔法の効果範囲でもあるはずだ。

 だが、それでもやつはなにもしてこない。

 はて?

 いくらなんでもここまで何もしないのはちょっとおかしい気が……

 だが、まあ、殺されずにここまで来れたことには感謝しよう。え?誰に?

 この場合は神様なんだが、どの神様にだ?

 とりあえず、千葉神社の千葉大妙見に感謝しておこう。地元だしな。

 

 ルゼーブはその思った以上の長身で俺を見下ろし続けている。

 俺もそこそこ背は高いと思うのだが、こいつはそれ以上。

 上から見られるってのは、やっぱ圧迫感あるもんだな。

 褐色の肌に長い耳。間違いなくダークエルフのそれは年齢的には30そこそこのまだ壮年と言うには若い姿にしか見えない。

 これが永遠を生きる生物なのか……と、感慨深いものも感じるが、神様連中みたいに肉体を自由に操って生き続けているのもいるからな、そう思うとありがたみも薄れる。

 

「ふむ……その瞳は、何かを為そうとしている男の目だな。興味深い、すぐに殺すのは惜しいな」

 

「殺すのは勘弁しろっての、だいたい、俺の目は腐ってるって評判なんだよ。あんたの目のほうこそ節穴じゃねえのか?マスク越しだってわかんだろ?良く見ろよ、俺のこの目の淀みを!!」

 

 ぐっ……自分で言っててなんか悲しくなってきた……

 そのとき……

 

「ヤアアアアアアアア!!」

 

 俺たちの頭上から声がして、見上げてみれば直上から急降下してくるアンの姿。アンは一直線に一色に向かって隼のように飛び込んで近づいていく。

 そんなアンにむかって、ルゼーブが何か呪文を詠唱しようとしているが、それよりも速く、俺は右手をつきだした。

 

「ライデイン」

 

「キャアアアアアアアア」

 

 瞬間に凄まじい電撃が青白い光を帯びて俺の全身からそのスパークを迸らせる。そしてつきだした右手を砲身に見立てて一気に迫り来るアンにむかって放出……雷光拳よろしく雷撃が一気にアンを吹き飛ばした。

 

「大人しくしてろよ、アン。俺は今こいつと話してるんだ」

 

「素晴らしい魔法だ。ここまで洗練された電撃魔法を私は見たことがない。本当に惜しいな……殺すのは……。出来ることなら私と一緒に来てもらいたいが……」

 

 来てもらいたい……

 俺は全身にじわりと汗が吹き出るのを感じつつ、じっと奴を見た。

 そんな俺に声がかけられた。

 

「ま、まさか本当に裏切る気なのか……、わ、私は君のことを信じていたのだ……どうして君はそんなことを……なぜ、アンくんを……」

 

 虚空の口を大きく開いて、フェルズのやつが俺に絶叫している。

 俺はそんな奴を振り返って言った。

 

「お前に話す必要はないな、それに俺はもう十分に目的を果たしてるわけだし……」

 

「ん?」

「え?」

 

 俺のすぐそばでルゼーブが短く声を漏らす。フェルズも同様に不思議そうな顔。

 俺はそんな二人に声をかけた。

 

「良く見てみろよ、さっき俺がいた場所を……そこにいるモンスターたちだけだったか?」

 

 フェルズも慌てて後ろを振り返るのだが、そこにはバーバリアン、デフォルミス・スパイダー、サンダー・スネイクの3匹の巨体があるだけ。その背後に由比ヶ浜たちはいない。

 

 どこにいるかと言えばそれは……

 

「ヒッキー!!おっけーだよ!!」

「お兄ちゃん!」

「八幡!!先に行くわ。気をつけて」

「マスター……」

 

 視線を横の魔方陣に向ければ、そこには一色を抱き抱える由比ヶ浜、小町、雪ノ下の姿。そして、その傍らにはまったく無傷のアンの姿も。

 

「早く行けお前ら!」

 

「ヒッキー……」

 

 泣きだしそうな由比ヶ浜に、サムズアップで返し一言。

 

「大丈夫だ!!」

 

 って、俺は剛田猛男か!!思わず、好きだーって心のなかで叫んじゃうとこだったじゃん。

 

「お、おのれ……貴様ら……」

 

 あ、やばい……

 目の前で震えだしたルゼーブを見て、おれは雪ノ下に視線を投げた。彼女は強く頷いて、じゅもんを詠唱。

 

「リレミト」

 

 その瞬間、その場の5人は強烈な光に包まれてその姿を消した。

 リレミトって、外から見るとあんな感じなんだな。いつも自分が使うから知らなかった。

 

「八幡君、私は信じていたぞー」

 

 とフェルズが絶叫!!

 嘘つけ!さっきまでさんざん俺を疑ってたくせに。

 

「初めからこれが狙いだったのだな……」 

 

 顔を真っ赤に紅潮させたルゼーブはが俺をにらむ。

 

「まあ、だましたのは悪かったが、お前があの娘を開放しなかったせいだからな」

 

「は、八幡君。だが、どうやって……」

 

 フェルズのその問いかけに、俺はルゼーブから後ずさりながら答えた。

 

「なに、簡単なことだ。俺がおとりになって、あいつの注意をひきつつ、さらに、アンに奇襲させることであいつの警戒心を弱まらせたんだ。あ、アンには雪ノ下の魔法反射呪文『マホカンタ』を掛けさせてあったから、俺は出力を抑えたライデインを放って、当たる瞬間にアンに魔法で弾かれたように飛ばさせたんだよ。『ピオリム』をかけたアンの全速力なら、ライデインの反射もこちらへは届かない。なにせライデインよりもアンの方が速いんだからな。で、後は、その最中をこれまた雪ノ下の『レムオル』で姿を消させて、こっそり一色に近寄らせたんだ。まあ、あの魔法陣になにか仕掛けがあるといけないから、その確認の為にもアンを魔法陣に突っ込ませた上に、そこに呪文をぶち込んだんだ……ま、なんともなかったわけだが……」

 

 俺の説明にフェルズは声を漏らした。

 

「わ、私には『動くな!』としか言わなかったではないか。説明くらいしてくれても……」

 

「だから、そんな時間なかったってーの。そもそも一色を助けるのが目的だったわけだが、奴の説明で一色だけじゃなく、小町もアンも雪ノ下も由比ヶ浜も同じ危険があることがわかったんだよ。だから、さっさと逃がすのが先決だったんだ。それに……」

 

「それに?」

 

「それに、俺一人だけじゃ、心細いじゃねえか。だから、フェルズ、お前には残ってもらいたかったんだ」

 

「ふぇ?」

 

 なんか、フェルズが変な声を上げてるぞ。大丈夫か、こいつ。

 

「そ、そ、そんなことを言っても、私は君のことを許したわけではないんだからな!ま、まあ、そこまで言われたら助けてやらないでもないが……うん……」

 

 おっさんのくせになにをツンデレてるんだよ、気持ち悪い。

 少しづつ話しながら下がっていく俺の前で、ルゼーブが真っ黒な瘴気を放ちながら囁き始めた。

 

「まさかこの私が人間ごときに出し抜かれるとはな………なにかあるとは思っていたが……そうか、これは敬意をもって当たらねば失礼になるな……では……『炎の魔神エフリートよ、いにしえの盟約により命ずる。我が召喚に応じよ……』」

 

 俺は慌ててフェルズたちのもとに走る。

 背後には明らかに膨れ上がる、巨大な火の塊が……

 

「フェルズ!!防御魔法だ!!」

 

「な!そ、そんな、いきなりは……ええい、『万能なるマナよ、その大いなる力で、炎を跳ね返せ【氷雪の壁(ブリザードウォール)!】』

 

 一瞬辺りに冷気が渦巻いた。

 そして次の瞬間、俺たちの回りを囲むように凍りついた地面から、鋭い太い氷柱が何本も突き聳える。

 

「す、すげえなお前……でもあれだ……」

 

「あ、ああ……すまん……」

 

 フェルズが速攻で打ち立てた氷の柱の向こうに超巨大な炎の人形が揺らめいている。

 この大空洞の天井にその頭をつけてしまうのではないか……半身を埋めたカーディスよりもさらに巨大なその影は、間違いなく炎の精霊王【エフリート】。

 はっきりいってデカすぎる。パース狂ってんじゃねえか?

 フェルズの打ち立てた氷も十分でかいが、こっちは平屋の一軒家で、向こうはポートタワーだ。え?サイズが分からない?なら、一回千葉港まで見に行ってくれぇ!

 要は『焼け石に水』、いや『エフリートに氷』だな。

 

「『……そして敵を残らず焼きつくせぇっ!【ファイアストーム】!!』」

 

「みんな伏せろー!」

 

 俺がそう叫ぶと同時に、バーバリアンが俺とフェルズに覆い被さってきた。

 俺は、されるがままにしておいた。本当にどうしようもなければ、またアストロンを掛けるつもりだが、あれは完全に行動を封じられちまうから本当の本当に最後の手段だ。

 でも、そんなことを知らないでやってるこのバーバリアンの行動に、俺はなんとも言えない申し訳なさと嬉しさを感じていた。

 そして、次の瞬間には、凄まじい炎が俺たちを包んでって……

 

「あれ?」

 

 そんなに熱くないのに驚きつつ、顔をあげてみれば、俺たちを包むように、白い膜のようなものが取り囲んでいる。

 見れば、デフォルミス・スパイダーが、糸で俺たちを包み込むように繭を作り続けていた。

 確かに炎からは守られているが、繭の外側は燃え続けているのだろう、デフォルミス・スパイダーはひたすらに糸をだし続ける。

 その表情は読めないが、明らかに衰弱してきている。

 

「ベホマ」

 

 俺は一緒にいるやつ全員に回復じゅもんをかけた。……って、おっとフェルズにはかけてない。この前ホイミで大火傷してたからな。ベホマかけたら、完全に成仏だろう。

 

「ブフウウ……」

 

 次第に高くなる温度に苦しいのか、バーバリアンも苦悶に顔を歪めている。

 マジでどうするか……

 

 一色を逃がすのには成功した。

 あのルゼーブが、すぐに世界を滅ぼす気がないことは分かっていたからな。

 そもそもカーディスを復活させるだけなら、なにもここである必要はないんだ。

 この世界に神はいくらでもいるが、基本やつらは天界と言われる精霊界にいるらしい。

 一色のからだが本当に邪神降臨の【扉】なのだとしたらなおのこと。天界のどこかにいるだろうカーディスにむけて降臨の儀式を発動させればいいだけだ。ま、邪神は滅ぼされた云々って話だったから、本当にカーディスがまだいるのかも怪しいところだが……

 とりあえず、ここが一番落ち着いて儀式を執り行える場所っていうのはなんとなくわかるが、やつはすでに俺たちが来る前に、術式を完成させていると言った。俺たちに見栄を張る状況でもない以上、それは本当だろう。

 それとあの長口上だ。明らかに次のステップへ行くのをためらっている感じだったしな。

 

 そうだとすれば、奴がここに居続けていたのは邪神降臨とは別の何か理由があるはずなんだ。

 だが、その理由が俺には分からない。

 ここにあったモノと言えば、眠っている一色と埋もれたカーディスだけ。

 まさか、一色に惚れて監禁してたわけではないだろう、いくらなんでもな。だとすれば、カーディスの骸だが……あんなデカ物をどうするってんだ?まさかアレを動かそうとかってわけじゃあ……

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 灼熱の火炎の音が収まり、熱さも和らいだかと思ったその時、突然地鳴りが響いた。

 そして、大空洞に反響するルゼーブの大音声!!

 

「『そなたの新たなる主人として、我、ここに汝に命ず。甦れ暗黒の女神。その力を我へと示せ』」

 

 俺達が防火の繭を破いて表に顔を出すと、そこにはエフリートをはじめとしたたくさんの巨人……巨大な精霊の姿が……

 そして、そんな精霊たちが、次々と苦悶の表情を浮かべつつカーディスの口の中へと吸い込まれていく。

 

 げっ……あいつ、精霊を食べてやがるのか……

 エフリートまで一口かよ、マジでこれはやばい。

 そして、次第に光を灯し始めるカーディスの瞳……

 すべての精霊を喰わせたルゼーブが宣言する。

 

「愚かな人間どもよ。私はもはや容赦はしない。この世界で受けうる最大の苦悶を味わいながら死にゆくがいい。さあ、抗え!そして、オレを殺してみせろぉ!!」

 

 一歩もその場を動かないルゼーブの背後に、巨大な死の女神が立ち上がった。

 

 

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