『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「な、な……」
骨の口をカタカタと震わせるフェルズが、カーディスを見上げながら愕然となっている。
バーバリアン達モンスターズも同様だ。
目の前のカーディスはその均整のとれた裸身を晒したまま、両の手を大きく開いてゆらゆらと身体を揺するように蠢いている。
見ようによっては酷く淫靡な感じとも受け取れる情景ではあるが、そう思う余裕は微塵もなかった。そのとき、絶望的な死への恐怖に俺たちは支配されてしまっていたから。
とにかく怖い、怖すぎる。
あの原作ですらカーディスの復活はなかったっていうのに、まさかそのその一番最悪な瞬間に立ち会っちまうとは……
ただ……少し様子はおかしい。
目の前の女巨神は確かに動いてはいるが、原作での降臨のようにいきなり死の呪いをかけてきていないように見える。
ロードス島戦記の邪神戦争の最後、あわや降臨となったあの瞬間でさえ、多くの兵士たちの魂が刈り取られて、死体の山が出来ていた(アニメで)。それが復活ともなればどれほどの規模での『死』が訪れるのか……想像はしたくないが間違いなく大量死は免れないはず。なんかこう書くと、赤潮の発生後の牡蠣の養殖棚みたいだな……いや、俺牡蠣、そんなに好きじゃねーけど。
だが、まあ、確かに超怖いし、すぐ殺されそうではあるが、突然死は起きてはなさそうだ。
とかなんとか、悠長に考えていたら、突然カーディスがその長大な左腕を振り上げた。
その腕を中心に視界が霞むほどの強烈な風が渦巻いている。
俺は慌てて右腕を前につきだして呪文を詠唱。
「い、イオラ!!」
カーディスの左腕を囲むように空間に黒いエネルギー球がいくつも発生し、瞬間に爆縮……強烈な光と音を伴ってカーディスの左腕を爆炎が包み込んだ。
あの、18階層のゴライアスの頭を吹き飛ばした爆発系じゅもんだ。倒せないまでも時間稼ぎくらいは……
「無駄だ……『風の精霊王ジンよ……その見えざる真空の刃で奴らを刻め!【ヴォーテックス】』」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアア……』
ルゼーブが呪文を唱えたとたんに、カーディスは苦悶の表情のままで、神経を侵してくるかのような金切り声で絶叫した。そして、イオラの爆発をものともせずに、その左腕を俺たちに向かって一気に降り下ろす。
「バーバリアン!!」
「ぶ、ブモッ!!」
俺が声をかけるとほぼ同時に、バーバリアンが俺とフェルズを抱えて後方の壁の方へと全速で走った。
他の2匹を見る余裕はないが、バーバリアンが大きく横に跳躍したそのとき、バリバリと激しい音が聞こえ、俺たちのすぐ真横、ちょうどさっきまで走っていたラインの地面が裂けた。
そう、裂けてしまった、まるで地割れのように……
壁際までたどり着いて振り返れば、地面だけでなく正面の壁も天井もまっすぐに切り裂かれてる。
ま、マジかよ……
俺はそのあまりの惨事に竦み上がった。
だって、その切り裂かれた地面の幅が5mくらいあるんだもの!?
なにこの威力!?
確か、風魔法って由比ヶ浜のバギみたいにつむじ風というか、竜巻というか、そんなので切り刻むんじゃなかったけ?
これ完全に『絶対殺すマン』だよ。というか、当たったら消滅だろう!?
生唾を飲み込んでもう一度カーディス達を見ると、またルゼーブの声が。
「…………【アイスストーム】」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……』
再び金切り声とともに、今度はカーディスの右手が振るわれる。
その一薙ぎでまたもや空間が軋み、そして凍てついた猛烈な氷の嵐が吹き荒れた。
今度は逃げ場がない。
連続の必殺の魔法の数々に対応しきれない俺は、次の行動が思い浮かばずその時、呆然としてしまっていた。
肌を突き刺すようなその強烈な冷気を浴びて、わずかに脳が動く。
や・ば・い……ど・う・す・る・?
その時……
俺を包み込むようにフェルズと3匹が覆いかぶさってきた。
みんなの体温が俺を冷気から守っている。
大丈夫、大丈夫なんだよ……もしもの時はアストロンを使えばいいんだ。お前らだってさっきそれで助かったんだから、分かるだろ?だから、こんなバカな真似止めろって……
「ブ……ブフッ……」
「お前ら、どけ、どけよ!」
苦悶の声を漏らすバーバリアン達を見ながら、渾身の力で押しのけようとするのだが、今の俺では全く歯が立たない。そして、次第と力の抜けてくるその腕が、俺を外へと押し出した時、辺りは一面の氷の世界になっていた。
「バカが!お前ら!ベホマ!ベホマぁ!」
床の氷とほぼ一体化してしまった3匹に俺はベホマをかけてまわる。
これで傷は癒えるはずだが、体力気力的な部分はどうなのか……
遠く先ほどの位置には変わらずに佇むカーディスとルゼーブの姿が。
「は、八幡君……ちょっといいかね……」
サンダー・スネイクの腹の下から這い出てきたのはフェルズ。どうやら完全に下敷きにされてたようだが。
「どうしたフェルズ。回復なら自分でやってくれよ」
ベホマじゃ多分死ぬしな……
「い、いや、回復のことではないのだ。あの女神のことなのだが……あれは多分……」
フェルズは俺に耳打ちでもするように顔を近づけて話す。
「あれは多分、『ゴーレム』だ」
「ゴーレム?どういうことだ?カーディスだろあれは?あのプレッシャーで偽物なわけないだろ?」
そもそもあの存在感からして尋常じゃない。
今現在のこの圧倒的な攻撃力もそうだが、さっきのルゼーブの言葉からでもあれが全くの嘘だとも思えないし。
「いや、そうではない。多分あの邪神の骸は本物だろう。それくらいは私にもわかる。だが、それは骸ではあるが、カーディスという神では多分ないということだ」
「だから、どういうことだって?」
「おそらくだが……先ほどの精霊?たちを媒介にあのカーディスの骸に魂の代わりとなる『核』を作り、ゴーレムとして動かしているのではないか?その証拠に魔法の発動はルゼーブと名乗ったあのエルフが行っている。カーディスは詠唱ごとにその身体を動かしているに過ぎない。それに、そもそもゴーレムに関しては私は一家言あるのでな。先ほどの詠唱は【コマンド・ゴーレム】であったと思っている」
なるほど、確かにフェルズの言う通り、呪文の詠唱をルゼーブが行ってるな。ゴーレムっていうなら、確かにカーディスそのものじゃないから、死の呪いは発生しないか……でも……
「って、結局、カーディスじゃないにしても、あの魔法の威力だぞ!何回も死にかけたろうが!!」
俺のその絶叫にフェルズが骨の口をカタカタ揺らす。
なに、お前ひょっとして笑ってんの?
そんなフェルズが腕を組んで話始めた。
「なに、八幡君。私にいい考えがある」
「はい?」
この絶望的な状況でなぜか強気のフェルズ。
お前、本当に大丈夫か?
今までの、いろいろやらかしてるお前の経緯からして、あんまり信用はできないんだが……
フェルズはようやく動けるようになったゼノス達のそばに近寄る……と、その向こうで、邪神が再び口を大きく開いていた……。