『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(39)八幡VS邪神カーディス②

「ぐっ……ぐうう……お、おのれ……」

 

 そのダークエルフは忌々しげに静かに声を漏らしている。

 彼はこの今の状況を呪っていた。

 こんなはずではなかった。こんな捨て身の行動に出る必要など本来はなかったのだ。

 

 カーディス降臨の準備は全て整っていた。そして、そのための生け贄も、そのための餌も全て手はず通りで万端のはずであった。それなのに……

 

 目障りなのはあのデカルチャーズと名のる、白衣にマスク姿の正体不明の集団。

 とくに、あの黒いマスクの男には状況の大部分を悟られてしまっているように感じていた。

 

 まったく……

 

 忌々しい……

 

 ダークエルフは歯噛みした。

 

 ここには【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】などの強豪ファミリアの超一級冒険者が集まって来るはずであった。

 それなのに、彼の予定よりもかなり早く、このデカルチャーズなる集団がここに辿り着いてしまった。

 

 これはまったくのイレギュラーであった。

 

 精霊憑依で強化した冒険者どもの肉の壁もほぼ無傷で突破し、重度の傷も見たこともない魔法で癒して進んでくる。そして何故かこのデカルチャーズの一団には支配の王錫の精神支配も効かなかった。

 しかも、あの転移魔法だ。

 

 ダークエルフは怒りに震えていた。

 

 まさか、この俺がカーディスの依り代に選んだ女を連れ去られてしまうとは……

 しかも、動けなかったとはいえ、俺の目の前でだ……

 これほどの屈辱はない。

 

 だが……

 

 もう遅すぎた……

 

 術は発動している。

 カーディスを降臨させ、そして、その力をこの空間に満たさねばならない。

 依り代の女を失った以上、不死であるこのダークエルフの男の体を依り代とせねばならないと、彼は考えていた。そして、それは当初の予定とは全く違う使い方であった。

 だが、もはや猶予はなかったのだ。

 

 男は自らが契約する全ての精霊を解き放ち、そして、その力をカーディスの骸へと注ぎ込んだ。

 不滅のカーディスの骸は男の野望の成就になくてはならない存在である。

 予定よりも幾ばくか早いが、もはや完全な異物である目の前のデカルチャーズどもは、儀式の贄とする。

 

 

 今少し……

 後少しで術は完成する……

 

 そして、カーディスがこの世界に舞い降りたそのときこそ……俺は……

 

 男は、カーディスの骸を操りつつも、内に持つ膨大な量の魔力を魔方陣へと注ぎ込み続けていた。

 魔力の放出はその類い稀なる生命エネルギーを宿した不死の肉体をも傷つける。

 その激しい痛みを全身で味わいつつ、男はにんまりと喜色を表していた。

 

 もう少し……もう少しだ……

 

 くくく……

 

 激痛に微笑みながら、男は新たな精霊魔法を唱える。

 

「『大地の精霊王ベヒィーモスよ。今こそここにその大いなる力を示せ。【アースクウェイク】』!!」

 

 詠唱とともに魔力をカーディスへと注ぐ。

 邪神はそれに呼応し、男が注入した魔力の数万倍の魔力を痙攣しながらも全身から迸らせる。そして奇声を発し、その両足から大地へとエネルギーを放出した。

 

 眼前には氷の中で身動きを取れなくなったデカルチャーズ達。

 そんな彼らを中心に、カーディスの放った強烈な大地魔法が直撃した。

 足元が陥没し、壁や天井が崩れ落ち、そして、周囲の岩という岩が魔力によってある一点に向かってまるで驟雨のように襲いかかっている。

 その礫の一つ一つはさながら研ぎ澄まされた槍の穂先であり、これを叩き込めばその中にいる生物という生物は間違いなく刺し貫かれて即死するはずなのである。

 男は、この一撃で間違いなく彼らを屠ることに成功したと確信していた。

 

 これで、漸く儀式が進む……

 

 男は殺したデカルチャーズ達の魂を確保すべく、ある作業に移りろうとしていた。

  

 魔法を放ったその空間には、その残滓ともいうべき土埃が舞い上がって視界を遮っている。その靄を払うために風魔法を放とうとした次の瞬間……男は目を見開くことになった。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 土煙の中から、雄叫びを上げつつ電光石火の勢いで接近してくる巨大な影。

 それはいったいなんなのかと、注視していた男の目の前で、その影は一気に跳躍した。

 あまりの素早さに目で追うのも難しい。だが……

 その巨大な影の行動が男を凍りつかせた。

 

「ブモモオオオっっ!!」

 

 空中でその影が手にした得物を大きく振り被る。そして次の瞬間、それを凄まじい速度でカーディスの左肩へと叩きこんだ。

 そして、信じられないことが起こる。

 不変不壊であるはずの邪神の身体……

 その身体を、鈍く銀に光るその長い得物が……

 

 

 

 叩き切った!!

 

 

 

「な、なにいいいいいいいいいい!?」

 

 

 その光景に、男は思わず絶叫する。

 そんなはずはない。あり得ない。

 男は、目の前で起こった現実を認識できないでいた。

 あのオリハルコンでも傷一つつけることが叶わないこの邪神の身体を切断できるはずがないのだ。

 だが……それは起きてしまった。

 

 カーディスは苦悶に顔をゆがめ、切り落とされた左肩から凄まじい量の火花を散らせ、呻きながらのたうっている。

 だが、そんな邪神へさらなる追い打ちが掛けられる。

 

 一度着地したその影が再び飛び上がり、その切断面に先ほどの銀の長い得物を一気に深々と突き立てたのだ。影はその得物を足場としてカーディスへと密着する。そして、そんな影の上から現れた一人の男。カーディスの傷口に手を当てた白ローブの男が素早くじゅもんを詠唱した。

 

「ギガデインッ!!」

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……』

 

 凄まじい電撃が男の手からカーディスの中へと注ぎこまれていく。その青白いスパークはカーディスの全身を包みそしてそこかしこから火花と黒煙を吹き出させた。

 苦しいのだろう、カーディスはその全身を捩り、暴れ狂う。

 

「ギガデイン!ギガデイン!ギガデイン!ギガデインッ!!」

 

 ローブの男は何度も何度もじゅもんを唱える。そのたびにカーディスの全身が膨張し、そしてエネルギーは出口を求め体内中を駆け巡っていた。カーディスは残された右腕で頭を掻きむしる。

 

 そのとき……

 

 カーディスの瞳が妖しく輝いた。

 

「やばい、離れろ!!」

 

 白ローブの男の声でその大きな影は、得物を引き抜いて一気に跳躍。

 次の瞬間、彼らのいたそこに、カーディスの右腕が振るわれていた。

 

 間一髪。

 

 地面に着地した彼らの前で、全身を電撃でボロボロにしたカーディスが憤怒の形相で彼らを睨みつける。そして……

 

『……【ヴァルキリー・ジャベリン】!!』

 

 唐突にカーディスがその口から甲高い声音で呪文を詠唱。次の瞬間、カーディスの背後の空間から次々と光の槍が現れ、それらが猛烈な速度で、地上のその影へと殺到……目標に当たった瞬間にまるで太陽の様に光り輝くその槍の所為で、あたりはまるで真昼のように明るくなった。

 

 その邪神の放った凄まじい光の奔流の中、またしてもあり得ないことが起こった。

 

「ぶふぅ……」

 

 その影は、必殺の光の中でも生き残っていたのだ。

 そんな影をカーディスは暗い瞳で見つめていた。

 

 

 それら一連の光景を男はただ黙して見つめることしかできなかった。

 

 いったい何が起きている?

 なぜカーディスを傷つけることが出来たのだ?

 なぜカーディスは勝手に動いた?

 なぜだ!?

 

 男は混乱した思考の中で、だが、ただひとつだけ真実にたどり着いていた。

 

 そう……

 

 事態は自分の思惑の外に出てしまったのだと……

 

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