『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(42)八幡VS邪神カーディス⑤

「よし、準備はいいな」

 

 俺のその問いかけに、フェルズとバーバリアンがコクリと頷く。

 そして、そんな隠れている俺たちの目の前には、煌々と深紅の瞳を輝かせた死の女神の美しい顔。彼女はまっすぐに俺たちを見つめている。

 

 どちらにしても逃げられはしなかったか……

 

 背筋に嫌な汗が流れるのを感じながら、俺はさけんだ!

 

「行くぞー!!ライデインーーーーー!!」

 

 正面につきだした俺の右手から、青く光輝く一条の電撃がカーディスの胸にむかって炸裂した。

 カーディスはその電撃に体表を焦がしながら、絶叫を上げ大きく仰け反る。

 俺たちを乗せたバーバリアンはその隙に一気に駆け出した。

 目指すはカーディスの上半身。

 先程と同様に、もう一度カーディスの体内にギガデインをぶちこむ。

 今度は、最後までだ。

 やつの中にあるという核(コア)を完全に破壊してやる。

 

 そう思いながら見上げた先に、巨大なカーディスが胸から灰色の煙を立ち上らせながら俺たちに鋭い眼光を向けていた。

 さきほどのライデインが直撃した胸部は……

 煙が薄れると、そこはまったくの無傷……美しく形の良い乳房がそこにあるだけだった。

 

 まあ、これは承知の上だ。

 ギガデインでさえ体表を傷つけるのは難しいのだから、あの陽動のライデインでどうにかできるなどとは端から思ってなどいない。

 

「おい、フェルズ。コアがあるとしたら、どの辺りなんだ?」

 

 俺の質問にフェルズは上方のカーディスの身体の中央を指差した。

 

「普通は身体の中心部分になるが、あの女神は不滅の肉体と聞いているからな。だとすれば、身体を切り開いて埋め込んだとは考えにくい。となれば……」

 

 そう言いながら俺を見たフェルズと視線がかち合う。

 

「「口の中」」

 

 二人でそう言ったその時、甲高い魔法詠唱の声が。

 

『……【アイスニードル】!!』

 

 上空に先ほどの吹雪の魔法のような冷気の渦が巻き起こり、その渦の中心からまるで電柱のような巨大なつららが次々と現れ、俺たちに向かって猛烈な勢いで飛んできた。

 いったいこれのどこが『ニードル』なんだよ。

 さっきフェルズのやつが頑張って打ち立てた氷の柱より、全然でかいじゃねえか。

 

 バーバリアンはその氷槍の連撃を高速でかわしつつ、カーディス目掛けて前へ前へと進む。

 

『……【ファイアストーム】!!』

 

 再びカーディスの声。

 細かく動いて逃げ回る俺たちに業を煮やしたのか、再びあの火炎地獄の魔法を唱えた。

 っていうか、さっきからなんなんだよ。大量破壊魔法しか使ってきてねえじゃねえか。たまには、魔法レベル1の【ファイア・ボルト】とか使ってくりゃいいじゃねえか。

 あ、ちなみに、ベルくんもこの【ファイア・ボルト】を使うけど、もとは火の下位精霊『サラマンダー』の使役魔法で、ロードス島戦記では大量に召喚したサラマンダーの大群が一斉に【ファイア・ボルト】を放って大惨事になったりもしたのだよ……一応、豆知識。

 

 バーバリアンは、渦巻く火炎の嵐が地面を焦がす寸前に、高く高く跳躍……ちょうど降り下ろしてきていたカーディスの右腕を身を翻してかわすと、その上腕に着地し、そのまま顔を目指して一気に駆け上がった。

 

 今さらだけど、こいつ、すげえ身体能力だな。

 オリンピックとか出たら、とんでもねえことになるじゃねえか……

 まあ、モンスターの時点でパニック必至だろうが。

 

「ブモオオオオオオオオオオオ!!」

 

 そんなことを考えている脇で大きく踏み込んだバーバリアンが、右手に持つ長大なへびランスをカーディスの首に深々と突き立てた。

 

『ァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァアァァァア』

 

 耳をつんざく絶叫を上げたカーディスが、喉元に食らい付く俺たちを右手で払う。と、それをくもシールドで受けつつ、引き抜いたへびランスでもう一度カーディスの首を横凪ぎに払おうとしたその時、唐突に2匹に掛けていたアストロンが解けた。

 

「なっ!!」

 

「キシャっ!」「キュル~?」

 

 当然状況が飲み込めない2匹はバーバリアンに絡み付く。

 攻撃が不発に終わったバーバリアンが体勢を崩すのを、カーディスは見逃さなかった。

 

 咄嗟に逃げようと上方へ高く跳び上がった俺たちに対し、カーディスは身体を急激に屈め、空中に取り残される形になった俺たちに向かってまたもや魔法を発動した。

 

『【ヴァルキリージャベリン】』

 

 カーディスの周囲から再び無数の光の槍が突き出る。

 そしてその槍は落下を開始した俺たちに向かって一気に放たれた。

 殺到する光の槍。

 真下には口許を緩ませて、笑みを浮かべた死の女神。

 そしてその周囲の空間は一面の火炎地獄。

 

 俺は迷わずじゅもんを唱えた……

 

 

 フェルズたちに向かって。

 

 

「アストロン!!」

 

「は、はちまんく……」

 

 一瞬で鋼鉄となったフェルズたちに捕まったまま、その落下に身を任せる。

 光の槍は鋼鉄の彼らに衝突し、まばゆい光と熱を放って四散している。

 そんななか。熱に身体を焼かれながら、俺は必死ににタイミングを計った。

 

 まだだ……

 

 まだだ……

 

 まだ……

 

 

 

 

 

 今!!

 

「おりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 俺はそのとき、無我夢中だった。

 どうしてあの時、あそこまでしてしまったのか、後になってから何度考えてもその理由が俺にはわからなかった。

 しかし、あえて言うなら、そう……

 

 ぼっちになりたくなかったから……?

 

 俺は落下するフェルズたちを蹴り飛ばし、その反動で、一気に見上げるカーディスの顔目掛けて跳んだ。

 刹那、邪神の深紅の瞳と、目と目が合ってしまった。

 うん、超綺麗だ。

 もし、普通に同じ体格のサイズで町かなんかで出会ってたら、告白して振られるまであったな。

 というか、今さらだが、怖い、怖すぎるーーーー!!

 自然落下がこんなに怖いとは……

 

 だが、これしかないんだ!!

 

 衝撃に頭を守りつつ、身体を丸めた俺はまっすぐに飛びこんだ……

 

 そう……カーディスの口の中へ……

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「べ、べホマ」

 

 身体中がバラバラになってる感覚……

 たぶん間違ってない。頭を庇いはしたけど、たぶん両手両足全部イカれてる。

 感覚が無さすぎて痛みもまったくないのだが、怖くてその惨状を見る気にもならなかった。

 はあ、でも、べホマ使えてマジで助かった……

 即死さえしなければ、なんとかなるとは思ってたからな。

 全身の麻痺がとれて、次第と感覚が戻ってくるのを感じてから、俺はゆっくり目を開いた。

 体はなんともない。べホマさまさまだ。骨折だろうがなんだろうが完全に治してくれる。

 というか、このずぼんの膝に空いた丸い穴って、ひょっとして足の骨が飛び出した跡なんじゃねえの?

 

 しなきゃいいのに、余計な想像をして、ちょっと気分が悪くなった。うええぇ……

 

 それにしても、本当にやっちまった。

 あのやられる瞬間、フェルズたちを助けることをまず考え、アストロンをかけることを決めた。

 あの光の槍と火炎地獄から助けるにはそれしかなかったからだ。だが、そのあと閃いた。

 カーディスのコアは口の中にあるんじゃないかって話だ。んで、ちょうど真下にカーディスの顔。

 となれば、そこに飛びこめばなんとかなるんじゃねえか?みたいに思い付いたのが運のつき。相変わらず俺は貧乏くじをひく星の元に生きてるようだ。自分で言うのもあれだがな。

 

 しかしまあ、よくまんまと口に飛び込めたもんだ。

 ちょっとでもずれてれば、普通にただの飛び降り自殺だぞ。

 

 運がいいのか悪いのか、俺は生きているのを実感しつつ、激しく振動を続けるそのカーディスの体内で立ち上がった。

 

 揺れるのは苦しさにもがいているからなのか。回りを見回すが、歯だとか舌みたいなのは見えない。

 ひたすらにつるんとした光輝く黒曜石のような黒い床。

 壁も天井もない。本当にここ、カーディスの口の中なんだよな?

 まさか4次元ポケットみたいな感じなのか?

  

 

 そんなだだっ広い空間の先に赤く輝くなにかが見えた。

 

 それは巨大な真っ赤なクリスタル。

 イメージ的にはラピュタのデカイ飛行石の色違いとでも言えばいいのか……

 それが浮遊しながらくるくる回転していた。

 

 うーん、あからさま過ぎるけど、たぶんあれが例の核なんだろうなぁ。

 

 あれを壊せばいいのか?

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 近寄ろうとしたそのとき、俺の足元が震えだし、そしてまるで床の黒い石が奈落にでも落ちてでもいくかのように、崩れ始めていた。俺は慌てて、そのクリスタルに向かって走る。

 ここがどんな空間なんだかわからねえが、あの大穴に落ちたらどうしようもなさそうだ。

 

 全力で駆けて一気にクリスタルに接近する。

 よし、このまま全力でじゅもんかまして一気に決着つけてやる。

 

「ギガデ……」

 

 走りながら手を伸ばし、クリスタルに向けてじゅもんを放とうとして、俺は慌ててそれを止めた。

 なぜなら……

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 足元の床は絶え間なく崩れ続ける。

 俺はどんどん失われていく足場に注意を向けつつも、目の前の真っ赤なクリスタルから目を離せないでいた。

 

 なぜなら、そのクリスタルの中には人の姿があったのだから……

 しかもそれは……

 

「い、一色……!?」

 

 赤いクリスタルの中に全裸で浮かぶ一色の姿を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

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