『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(45)カーディスと踊ろう

 光輝く魔方陣を前に、俺たちは再び言葉を失っていた。

 

 これはいったいどういう状況なんだ?

 

 暴言を吐きまくったルゼーブのことを、黒剣で刺し貫いたイケロス。

 イケロスは昔語りでもするように、ルゼーブのことを話し、そして自分の本当の名も言おうとしていた。

 だが、その途端に突然の奇行に走り、死にかけのルゼーブの身体を魔方陣の中央へ放り投げ、かつ、自分の腕を切り裂いて、その吹き出した鮮血を魔方陣へと注ぎ、魔術が動き出すとともに、カーディスの召喚を高らかに宣言した。

 

 どう考えても、ルゼーブのやつがイケロスの身体をのっとり、そして、カーディスの復活の儀式を遂行したとしか思えない。

 

 だが、果たして本当にそうなのか?

 

 一色を助けたことで、依り代を失い、カーディスの復活はたち消えたかと思っていた。

 だからこそ、あのカーディスの骸を精霊たちを使って操って、俺たちを殺そうとしていたと思っていたのだ。

 

 それなのに、依り代に選んだのは、自分の身体?しかも死にかけのだ。いや、そもそも依り代は本当に必要だったのか!?

 ここまでのルゼーブ……まあ、今はイケロスなわけだが、まず、あいつ自身は、超高位の魔術師に間違いない。

【空中浮游魔法(レビテーション)】に【身体崩壊魔法(ディスインテグレート)】。

 やつが使ったこの二つの魔法を考えただけでも、このオラリオのどんな魔法使いよりも優れていると云うことが理解できる。

 それと、あの精霊達だ。いや、精霊王達というべきか……

 少なくとも、エフリートやジンやベヒィーモスといった精霊王は確認できた。(やつも呪文の詠唱の中で名前を呼んでいたしな)

 そんな多数の精霊王達を使役する事自体が異常なことであり、さらに、それぞれの持つ最上位の魔法でさえも、ルゼーブは操っていた。

 こちらに、アストロンとかベホマがなければ、いったい何回死んでいたか、解ったもんじゃない。

 その上にだ……

 精霊王単体でさえ、気候をねじ曲げ、緑の大地を砂漠へ変えたりとか、ひとつの国の軍隊を一瞬で壊滅できるだけの力があるというのに……(ロードス島戦記の炎と風の部族の戦争のところね)……あろうことか、それら全てをあのカーディスの骸へ押し込め、そして、その力を更に増幅させてこちらへ攻撃して来た。

 

 まあ、結局は俺たちが倒したわけだが、常識的に考えて、ルゼーブって、カーディスに頼らなくても、十分世界を何回でも破壊できる力を持ってるんだよな……

 

 少なくとも、このオラリオを滅ぼしたいのなら、エフリートたち火の魔神を大量に召喚しちまえば、それこそ、七日もあればオラリオはおろか世界だって……げふんげふんっ。

 

 と、それを阻止しようにも、アストロンクラスの絶対防御がなけりゃ、あの【ディスインテグレート】で原始分解必至だし、多分、さらに上位の隕石召喚【メテオストライク】なんかも使えるんだろうしな……正直、あっという間にアルマゲドンだろう……もしくはディープインパクト!

 

 そもそも、こいつの動機はなんなんだよ。

 

 カーディスを復活させて、やることって言ったら、

 

①世界を滅ぼすこと。

②闇のカーディスの力でもって、不死の王(ノーライフキング)になること。

 

 くらいだったはずだけど、①はさっき言った通り独力で可能で、②については、すでに不死身のダークエルフだったわけで、わざわざキン骨マン……じゃなかった、フェルズみたいな骨の怪物にクラスダウンすることもないしな……

 そもそもあのダークエルフの面の時点で超イケメンだし、イケロスになった今なんか、更にイケメン具合増してるし、そのへんのイケメン好き肉食ビッチなら一発で落ちるレベル。

 くっそ、なんかむかつくな。この変態リア充メ!

 あれ?なんか激しいツッコミが聞こえるような……気のせいか?

 

 いずれにしてもだ、これだけの破壊の力をもともと持っていたのに、わざわざこんな地下でカーディスの骸を前に、召喚の術を使って、しかも、その生贄に自分の身体を使っちゃうとか、どんだけ回りくどいことしてんだよ?こいつは。ホント笑っちゃう!いや、別に笑わねーけど。

 

 となれば、なんだ?

 

 俺の感覚からすれば、世界を滅ぼすわけでも、不死身になるわけでもなさそうな感じなんだけどな……

 

「くくく……、『ワレラ』とか言ったか……まさか、ここまで俺が追い込まれるとは夢にも思わなかった。貴様は本当に素晴らしい」

 

「そりゃどうも」

 

 やっぱりルゼーブだった。

 光がどんどん強くなる魔方陣を見下ろしながら、イケーブ(仮)※(イケロス+ルゼーブ)が俺にそう声をかけてきた。浮遊したままのやつは、その周囲の空間におびただしい数の魔方陣を次々に展開していくが……いったいなにをやってんだ?

 正直俺にはさっぱりだ。

 

 イケーブはその頬を緩ませ、にやけたままで再び俺を見た。

 

「……ここまでのことは素直に称賛しよう。だが、それも、終わりだ。この俺を愚弄し、追い込み、歯向かったこと……決して許さん。貴様には後悔してもしきれない程の苦痛と死を与えてやる」

 

 いや、ちょっとそれ八つ当たりだろう?

 先に手を出してきたのはそっちだし、俺の話をきかなかったのもお前じゃねえかよ……

 イケーブはそんな無言の俺を見ながら目を細める。

 

「ほう……そうか……貴様はこの俺の行動に疑問を感じているのだな?なぜこうまでして邪神を復活させるのか?そして、邪神復活の鍵はなにか……と……くくく、いいだろう、ならば、死ぬ前に貴様に教えてやる」

 

 って、誰もそんなこと知りたがってもいねえし、疑問にも思ってねえよ。

 というか、そこまで発想なかったし!

 なんだお前、実は、しゃべりたくてうずうずしてたんだろ。お前は火曜サスペンス劇場の追い込まれた犯人か!?山村美沙スペシャルかよ!!

 本当にまったく聞く気はなかったのだが、イケーブは勝手に話し始めた。

 

 まあ、ちょっと長かったので、割愛(笑)するが、要約するとこうだ。

 

 あの18階層に俺たちが転移してきたあの日、天空から巨大なドラゴン(神龍な)が現れ、一瞬でオラリオの外に巨大な穴を穿って地中に消えた。

 それは、ダンジョンの周囲に無数に張り巡らされた人造迷宮(クノッソス)、『ダイダロスの迷宮』の大部分も破壊しながらダンジョン18階層へ侵入。その巨大な竜が作った大穴は深部に隠された巨大な人工物の姿ををこの世界に現わすきっかけとなった。

 当時、人造迷宮内にいた【イケロス・ファミリア】のディックスらがこの人工構造物を発見。その内部へ足を踏み入れ、さらにその構造物の地下の大空洞にて地中に埋もれたカーディスの骸を発見した。

 地上へ戻ったディックスたちは、この情報を闇派閥の連中に売り、そして突然姿を現したたのがあのルゼーブ。

 ルゼーブは、すぐに徒党を組んで大穴を進みカーディスの骸を確認。

 それと同時に、邪神復活の儀式を始めた。

 カーディスの復活に必要なものは、『二つの鍵と一つの扉』。

 『二つの鍵』は、ロードス島戦記の話の通り、『生命の杖』と『魂の水晶球』なのだが、それらはルゼーブの手元にはなかった。

 そして『一つの扉』とは、亡者の女王ナニールの魂の入った人間の肉体であったのだが、当然今の世にナニールの転生者は存在していない。なぜなら、ナニールの魂はすでに浄化され消えているのだから……

 そしてなにより問題なのは当のカーディスの魂自体が、この世界とは隔絶された亜空間、『無限牢獄』に囚われているとのこと。

 肉体をこの世界のどこかに封印し、さらに、魂は強力な結界を施した異空間に封じ込める。

 これがこの世界の神々の神意だった。

 そして、それのことをルゼーブは知っていた。

 その上で、邪神の復活を望んだルゼーブはある魔術を選んだ。

 

『邪神召喚』

 

 いやいや、クトゥルフのTRPGじゃないんだから、そう大見得をはられてもなーとは思ったが、黙って聞いた。

 要は無限牢獄のカーディスの魂をある方法でむりやり引きずりだして、この目の前の転移魔法陣から現わせようということらしいのだが……

 

「邪神カーディスの魂は比類なきもの。そんな邪神を降臨させるにはそれなりの対価が必要なのだが……それと等価になりそうなものなど、この世界には存在はしない。だがな……俺はある方法をすでに確立したのだ。いずれ来るこの時のために、俺は長い長い時の中で絶えず準備を進めていたのだ。くく……。この世界において、万物の新たな理となったそれ……世界の根幹ともなったこのシステムを俺は利用してな……」

 

 言って、手を大きく振ったイケーブは、目の前に無数に出した魔法陣から次々と、巨大な氷をゆっくりと生み出し始めた。

 最初俺は、それが俺達に対しての攻撃なのだろうと身構えたのだが、じわじわと現れる氷塊で危害を加えるようなそぶりはまったくない。

 そして、それを怪しんで見ていた俺達は驚嘆することになった。なぜなら……

 

 その氷塊の中には、人の姿が……、そう、その多くの氷の中には、数多くの絶世の美男美女達……

、たくさんの人の姿が存在していた。

 あれって、あのイケメンと美女達って、ひょっとして……

 それを唖然と見つめている俺達にイケーブは言う。

 

「見せてやろう貴様たちに。この世界の理というものを!……さあ、やれ!!」

 

「や、やめろ……やめて……く……れ……」

 

 さっと支配の王錫を振り上げたイケーブがその杖を振るった先にいたのは……なんとかつての自分の身体。そして、そんなそのルゼーブだった死にかけの身体は、ゆっくりと立ち上がると同時に、そう呟きながら、両手を前に突きだした。その手の先から放出されたのは、長くうねった光るひも、それは、まるで光の鞭。

 うねうねとまるで生物のようにうねりながら動くその光るひもは、ルゼーブの身体の動きに合わせて右へ左へと蠢く。……と、イケーブが支配の王錫を振り下ろしたそのとき、光のひもは猛烈な速度で伸び、つぎつぎに氷へと突き刺さり、その中に封じ込められた人もろとも、串刺しにしてまわった……

 刺し貫かれた数々のその人々は、光のひもが引き抜かれると同時に、氷から解放され、地面へと落下していく。そして、まるで腐った果物を落したときのように、どちゃりと不快な音を立てて一瞬で骨を残して溶けた。

 その数、数百体。

 

「やめろ……」

 

 光の鞭を振るい続けているルゼーブの身体が、微かにその口を動かし、苦しそうな声を漏らしている。

 

「くふふ……くはは……良いぞ……素晴らしい、本当に素晴らしいぞ……くはははははははは……」

 

 これは……

 この状況は……

 イケーブの奴は殺させているのか?自分の元の身体に、あの氷の中の連中を?なぜ……

  

 はっ……

 

 そうか……

 

 奴が狙っていたもの、それは……

 

「経験値(エクセリア)か」

 

「ほう?ようやく理解したようだな……」

 

 イケーブは俺のつぶやきに満足そうな笑みをこぼす。

 そして、言った。

 

「その通りだ!邪神カーディスの魂を牢獄から解き放つことは不可能だ。カーディスを縛る以上、それ以上の強力な結界が当然張られているからな。だがな、ある方法を俺は見つけることができたのだ。くくく……この世界の良いところはな、まず第一にたくさんの神が闊歩していることだ……かつて、邪神と自らを嘯いた矮小な神もいたがな……そんなくだらない連中から俺は邪神復活の手段を得ることができた。くくく」

 

「うああああああああああああああああ!!」

 

 すべての氷塊を光の鞭で刺し貫いたルゼーブの身体が、魔法陣の中心で咆哮する。その背中には光り輝くステータスが浮かびあがり、次々にその数字を変えていく。

 これは、レベルアップしてるのか。俺達みたいに?

 

「……【ヴァルキリージャベリン】!」

 

 俺の隣のダークエルフが精霊魔法を詠唱!鋭い光の矢を放って、今回は魔法陣中心で叫ぶルゼーブの身体を狙った。しかし……

 その光の矢はルゼーブの手前。光り輝く魔法陣の縁で搔き消えた。

 

「無駄だ。すでに邪神召喚の術は発動している。あの魔法陣の内へは何人も侵入はできん。ふむ、だが、邪魔をされても手間が増えるだけか……『眠りをもたらす安らかな空気よ…』」

 

 そう言って、イケーブが手を振るうと同時に、辺りに白いもやが漂い始め、バタバタっと、俺の背後で音がした。

 振り返れば、フェルズと3匹のモンスターが倒れ伏している。

 

「くっ……」

 

 隣をみやれば、ダークエルフの女も額に手を当てて呻いているし……これはあれだな、『眠りの雲(スリープクラウド)』だな。ロードス番ラリホーだ。しょっちゅうみんな使ってたしな。

 俺達を見るルゼーブが微笑みをうかべた。

 

「ほう……さすがに貴様には効かんか……ならばこれはどうだ……『大地の精霊よ。地より出て、かのもの達を捕らえよ!【ホールド】』」

 

 その詠唱とともに、地中からものすごい勢いで木の根のような蔓のようなものが生え伸びて来て、俺とダークエルフの全身に絡み付く。それはもう一瞬で!

 あまりの速さに、俺も彼女も逃げられずに、全身をグルグルに拘束された。ご丁寧に、口まで塞がれて、これじゃあ、声を出せねえ。

 となりのダークエルフに視線をむければ、胸や尻を残すように巻き付いてて、なんかものすごく卑猥な感じに~。い、いや、別によろこんでなんていねえし……、って、俺を睨むんじゃねえよ。なにも邪なことかんがえてねえから!そもそも視線を逸らそうにも動かせねえんだよ。

 

 身動きできない俺たちに、イケーブが言った。

 

「そこで大人しくしているのだな。貴様らは最後に殺してやる。この儀式を最後まで見届けてもらうぞ。くくく……もう賢い貴様なら分かっているだろう?封じ込められた邪神を召喚する方法はな。だが、あえて教えてやろう」

 

 イケーブはその表情を邪悪に歪め、そして、口角をあげる。

 

「邪神と対等な魂と置換すれば良いのだ。俺はそのために、この世界でもっとも経験値の高い存在……英雄と呼ばれた連中を狩りまくった。やつらは経験値の塊だからな。だが、カーディスの魂には届かなかった。次に狙ったのは神だ。数が少ないとはいえ、いまやこの世界には数千人の神が降臨している。しかも奴らは自由気ままだ。俺はそんな神も狩り続けた。だが、それでもカーディスには足りない。所詮この世界に湧く神など、ごみも同じだ。俺はさらに、殺したこいつらをアンデットとして蘇らせ、何度も何度も殺した。だが、それでも足りなかった。くくく……そう、足りなかったのだ。どれだけ殺しても、何度殺しても、俺の経験値はカーディスには届かなかった。だからな俺はこの地を探り当てるのをひたすらに待った。この世界において、邪神カーディスに匹敵する唯一のもの。それは……」

 

 イケーブは破壊され横たわるカーディスの骸に視線を向ける。

 そういうことか……

 

「カーディスに匹敵するのはカーディス自身。そう、俺はこのカーディスの骸を使い、それを滅ぼすことで、カーディスの魂に匹敵する魂を手に入れることにしたのだ。それなのに……」

 

 目を吊り上げ、俺を睨むイケーブは叫んだ。

 

「貴様がスベテをぶち壊した。脆弱な身体しか持ち合わせていないくせに、貴様は俺のカーディスを倒してしまった。本来であれば、このオラリオ屈指の冒険者たちの強靭な魂を動力源にカーディスを動かし、この俺が少女を操りカーディスを倒させることで得た魂を用いて、その身体に邪神を降臨させるはずだった。俺様が長い長い年月の中で築いてきたものを、貴様らのせいで一瞬でご破算だ!!だから、俺の得とくしたすべての精霊の力を使い、カーディスを動かしてお前らもろとも世界を滅ぼしながら経験値を貯めたこのカーディスを俺が利用しようと考え行動したというのに……貴様はそれさえも潰してしまった」

 

 憤怒の形相で震えていたイケーブは、再びその顔に満面の笑みをうかべ、俺を見下ろす。

 だから、それ言いがかりだっての?こいつ、完全に自己完結タイプだな。

 

「だが……俺にもまだまだツキは残ってたようだな。まさかここで、この俺が求めていたカーディスにならぶ太古の神の一柱の魂を手にいれることができるとは……まさに、奇跡、まさに運命~!!いや、これも必然か~……万全を期した俺の勝利だ……くくく……そう、この俺が編み出した【身体渡りの呪法】によってな~」

 

 身体渡りの呪法……さっき、となりのダークエルフはたしか、移し身の呪法と言った。つまるところは同じようなものなのだろが、要するに相手の身体をのっとるということだろう。

 その条件ははっきりしないが、見ていた感じ、やつを殺すか、殺す間際まで痛め付けるかで魂の移譲が始まるようだな……ん?ひょっとして入れ替わってるのか?

 とすれば、今あのルゼーブの身体にいるのは、イケロス……

 

「さあ、いよいよだ。俺が数千年の歳月をかけてあのダークエルフに貯めた経験値、さらに、今改めて完全に殺した神々と英雄達の経験値をすべてくらい、今こそかの暗黒神の魂を用いて、邪神を降臨させる!!さあ、今こそ、出よ、カーディスゥーーーーーーー!!」

 

 そう叫ぶイケーブのむこう、ルゼーブの身体……というか、あれイケロスだよな?なら、ルゼロス?……ええい、もうワケわからん!!

 とにかく、魔方陣の中心のルゼーブの身体(イケロス)は頭を抱えて呻き声をあげていた。

 そして、いよいよ光を増した魔方陣からはいくつもの光の手が生え、そして中央にいるイケロスを掴んで魔方陣へと引きずり込み始める。

 無数の手は、ぼろぼろのルゼーブの身体を初めにに触っていたが、次第にその身体が割れ始め、浮き上がってきたのはイケロスとおぼしき超巨大な光の人形……あれがイケロスの神体なのか……

 だが、そんな強大に見える神の姿であっても、無数の光の手から逃れることは叶わないのか、苦悶の表情をうかべながら、少しずつ下方に引き込まれている。

 そして、その顔が土中に没するその間際……

 人の声ではないなにか……

 直接脳に刻み込んでくるような声がはっきりと聞こえた。

 

”………………”

 

 魔方陣はいよいよ輝きを増す。そんな中、イケロスの神体は完全に吸い込まれた。

 俺たちはただただそれを呆然とながめることしかできない。

 そして次の瞬間、魔方陣の光が大爆音とともに弾けた。

 

 辺りにはもうもうと煙が立ち上る。

 そんな魔方陣の中心には人影が……

 

 ルゼーブだ。

 

 まっすぐに直立したその姿からは、瀕死の重症を負っているとは微塵も感じることができない。

 

 そして、そんな圧迫感すら漂わせるルゼーブに近づいていくのは、いつの間に地上に降りたのか、右手に深紅に輝く宝石を持ったイケーブだった。

 やつは、スタスタと近づいていくと、ルゼーブの身体の正面に立ち、そして、いきなり、その胸に右腕を突き刺した。紅い宝石ごとに……

 ルゼーブはそれでも微動だにしない。そして、しばらくすると、今度は突然イケーブがその身体をぐらりと揺らして地に倒れた。

 動けない俺にはいったい何が起きているのか、まったく理解できないし、どうしようもない。

 残ったのは、腹と胸に大穴を開けて、表情を失して立つルゼーブのみ。

 だが、やつは、次第とその姿を変え始めた。

 腹部と胸に開いた大穴がみるみる塞がり、その長身だった身長はグングン縮んでいく。

 そして、今度はそのはだけた胸元がもこもこと盛り上がり始め、こころなしか尻も丸みを帯びていくような……

 手足もだんだんと細くなり、そのもともと長かった銀の長髪はさらに長く伸び、そして、その長く尖った特徴的な耳が次第に小さくなり、肌の色も白く……そう、まるで雪のように白い素肌に……

 

 身体が縮み、その身を覆っていた衣服がぱさりと脱げる。そして、目を瞑ったままで床に伏せるイケーブを跨いでこちらへ歩みよるその裸体には見覚えがあった。

 何度も強烈な精霊魔法を放ちまくり、俺たちを殺そうとした巨大な狂神。

 俺たちが必死になってなんとか倒したはずの、すぐ俺たちの脇に仰向けで倒れる超巨大な屍……それが、すぐ目の前に立っていた。かなり小さくなって…… 

 

 か、カーディス?

 

 そう、カーディスの骸にそっくりだ。声が出せない俺は心のなかで呟いた。

 くっそ、てことは、完全に復活しやがったのか!?

 口を塞がれてちゃ呪文が放てねえ……

 何がくる?ザラキか!?ザラキなのか?ザラキっちゃうのか!?

 慌てる俺のまえで、そのカーディス(美少女)がその深紅の瞳をゆっくり開いた、そして……

 

「くくく……くはーっはっはっは……くはははははははははは……、やったぞ……ついに俺はやったぞ、俺は、神になったーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 と、いきなり絶叫。

 

 あ、やっぱりルゼーブだった。

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