『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「う……うう……ん……、あ、あれ?こ、ここは……?」
「あ、気がついたぁ!良かったー、いろはちゃん!!」
「本当に良かったわ。どうかしら?気分が悪かったりはしない?」
目を開けると、すぐそばに心配そうに見つめてくる、マスクを被った結衣先輩と雪ノ下先輩の二人の顔。
そして、その向こうには、高く聳える厚そうな壁と、その奥にどこまでもどこまでも天へと伸びていくかのような高い塔が見えた。
あ、あれ、バベルだ……
私……
私はどうして……
痛いっ!!
色々思い出そうとして集中した途端に、頭が割れるように痛くなる。
どうしてこんなに……
「あ、あの……ここは……?」
その私の声にすぐに結衣先輩が反応してくれた。
「ここは大穴の外だよ。本当に良かった、もう大丈夫。もう怖くないからね」
「ゆ、結衣先輩?」
ぎゅうっと、私の頭を抱えるようにに、結衣先輩がきつく抱き締めてくる。
い、いたい~っていうか、く、くるしいです~!!
なんですか!この巨大なマシュマロはぁ!!
スイカですか、殺人兵器ですか、私へのあてつけですかー!!
「く、くるしいです、結衣先輩」
「あ、あ、ご、ごめんねいろはちゃん」
パッと離れた結衣先輩がそう言って謝ってくれる。
ま、まあ、別にいいんですけどねー。気持ち良かったですしー……
そう言いつつ、身体を起こして周りを見れば、一面の荒野で、後ろの方には、火山の火口を思わせる巨大なクレーターと、その中央に巨大な大穴が開いていた。
「え?え?あれ、なんです?わ、私、なんで……はっ!!」
唐突に溢れてくる記憶……
先輩の持っていた『目玉』を袋ごと取って、アンちゃんと一緒に迷宮に入ったこと。
そして、冒険者に遭遇しながらもそれをみんなかわして、アンちゃんの仲間のゼノスさんたちのところへ行ったこと。
そこで、蜘蛛と蛇と牛の化け物を見たこと。
そうだ。
私は、あの時怖すぎて意識が飛んでしまったんでした。
でも、そのあとは……
いったいなにが……?
先輩……先輩はどこ?
辺りをきょろきょろ見回しても、ここにいるのは結衣先輩と雪ノ下先輩のふたりだけ。
「あ、あの……せ、……比企谷先輩……は?」
その言葉に、雪ノ下先輩が静かに視線を向ける。
「彼ならまだ残っているわ……きっと戦っているんでしょうね……まったく、そんなに強くもないくせに」
「残る?戦う?え?なんですか、それ?どうしてそんなことになってるんですか?あ、あの……」
「あのね、いろはちゃん……ヒッキーはね……」
そう教えてくれた結衣先輩の話に、私の身体は一気に凍り付いた。
私が黒装束の集団に掴まってしまったこと。
そんな私をみんなで助けにきてくれたこと。
生贄にされそうになった私を逃がすために、先輩が自分をおとりにしたこと……
そして、そのままそこに残ったということ……
分ってるんだ。どうしてこんな事になってしまったかくらい……
私のせい……
私が勝手なことをしたから、きっと先輩は助けに……
怖い……
怖いです……
恐怖に心が染まり、震えが止まらなくなった。
自分の身体を抱いて必死にそれをこらえる。
もし……
もし先輩が死んじゃったらどうしよう!!
もし、もう二度と先輩の顔を見れなかったらどうしよう。
なんで、私にはちからがないの?
どうして私は先輩たちと同じじゃないの?
どうして?
自然と涙が溢れる。
怖さと、後悔と、悔しさで身体の震えは酷くなり、思考もまとまらない。
そんな私を結衣先輩たちは優しく抱いてくれた。
「大丈夫だよ、いろはちゃん。ヒッキーは約束してくれたもん。『大丈夫だ』って。ヒッキーは嘘はつくけど、約束は破らないよ。だから大丈夫」
優しくそう囁いてくれたとき、私の中の何かが弾けた。
「な、なんですか、それは!?比企谷先輩がどうなってもいいんですか?なんで、助けにいかないんですか!力があるのに、なんで何もしないんですか!ズルいです!ズルいです皆さんは。私だって、私だって色々できるはずなのに、先輩たちみたいにしたかったのに、いつも助けられてばっかりで……なのに力があるのに、何もしないなんて……最低です!酷いです!あんまりです!!これで先輩が死んじゃったらそのときは……あ……」
そこまで言って、私の肩を抱く結衣先輩の顔を見ると、ぎゅっと口を固く結んだまま、顔を真っ赤にして両目から涙を止めどなく流し続けていた。
そして、歪んだ顔を不器用に変えて、その口許を優しい微笑みに変えた。
「ごめんね、ごめんねいろはちゃん。あたし……バカだからさ……こんな時本当にどうしていいか分かんないの……でもね、あたしはヒッキーを信じたい……ヒッキーが帰ってくるのを待ちたい。それじゃ、だめかなぁ」
一切嗚咽をあげずに、優しくそうささやく結衣先輩に私は何も言えない。
言えるわけないです。だって、私が一番許せないのは、私自身なんですから……
結衣先輩だって、絶対に私が原因だって思ってるはずなのに……
……なんでこの人はこんなに優しいの?なんでこんなに強いの……
ああ……敵わないや……
呆然とする私に、立っていた雪ノ下先輩が見下ろしながら話した。
「私と由比ヶ浜さんは彼と、貴女を絶対守ると約束したの。だから、ここは素直に守られて頂戴。それで良いかしら?」
凛と佇む雪ノ下先輩は、まるで女神の彫像のように綺麗で、そしてとてもとても怖かった。
言って少し間をおいてから、私をもう一度見て、優しく微笑む。
「言いたいことはお互いたくさんあると思うのだけれど、それは彼が帰ってきてからにしましょう……、ね」
「う、うう…………うああぁぁ…………」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
沸き上がる感情は言葉にならず、嗚咽となって辺りに響いた。
自分ではどうしようもなかった。
そんな私を変わらず笑顔の結衣先輩が抱き締めてくれていた。
そのとき……
「あぁあん!?なんだなんだ、辛気クセえ。こんなくそみてえなとこでお通夜でもやってやがんのかぁ、ああ!?」
「黙れベート。お主はほんの僅かな時間でさえ静かに出来ぬのか、まったく……」
「あっれー?アルゴノゥト君は~?居ると思ったのになー」
「あんたねー、さっきあんたとアイズの二人でぼこぼこにしたばっかでしょー。まったくレベル2相手に何やってんだか」
「えへへ……そうだったそうだった」
「ベル……大丈夫……かな……?」
「ふう、まさかこんな訳の分からんクエストに駆り出されることになるとはのぅ?これで歯応え無い相手であったら、ギルドへ怒鳴りこんでやるわい」
「そこまではしないでおくれよ、ガレス。僕の立場がまずいことになるからね。それにそうはならないだろうな……どうも嫌な予感がする……」
そう言って親指を舐める子供のような見た目の冒険者を中心に、複数の重武装の集団がこちらへと向かってくる。
一人はまるで子供。軽装で腰にショートソードを帯びて悠然とこちらを見据えている。
一人はドワーフ。背は低いけど、そのまるで筋肉の塊のような身体に、重そうな鎧兜をまとって、その肩に巨大な両刃斧を担いでいる。
一人はエルフ。若草のような艶やかなグリーンの衣に身を包み、その手に木製のスタッフを抱えている。
一人は双子の褐色の少女の一人目。露出の高い赤の衣装で腰にナイフをさげている。
一人は双子の褐色の少女の二人目。やはり露出の高い衣装に身を包んで、でも、こちらは先程のドワーフよりもさらに巨大で太い剣?を担いで歩いている。
一人は獣人。鋭い眼光でこちらをにらみながら、ポケットに手をいれて向かってくる。ふ、不良です、怖いです。
最後の一人は、金髪の女剣士。シルバーの薄手の甲冑に身を包んで、その腰に剣を帯びていた。
と、美男美女ばっかなんですけどー(ドワーフさんはまあ、渋カッコいいってことで!)
「おーーい!お義姉さんたち~!」
彼らの後ろから声がして、視線を向ければ、こちらに向かって手を振る小町ちゃんとアンちゃんの姿。
彼らを追い越そうとしたそのとき、一瞬子供のような冒険者がアンちゃんをするどい視線で睨んでたけど、大丈夫かな?
なんかその間を遮るように獣人の人が立ってたけど、あれ、ひょっとして守ってくれたのかな?
小町ちゃんとアンちゃんが近寄ってきた。
「良かったよー、いろはさん気が付いて、心配してました~、大丈夫ですか?」
「アンもシンパイだったよー、いろは、ヨカッター」
「あ、う、うん、ごめんね、本当に……ごめんね……」
また涙が出そうになる。そんな私を結衣先輩がまた抱きしめてくれた。
その脇で小町ちゃんが大仰に手を振って、マイクを持つような仕草で話始めた。
「おっほん!!では、ご紹介いたしまぁす!!えー、こちらがお兄ちゃ……あわわ、わ、ワレラさん達救出作戦に参加してくれることになった、【ロキ・ファミリア】のみなさんでーす!どんどんぱふぱふっ~!では、自己紹介を~……」
「すまないがお嬢さん、その時間はなさそうだよ」
「え?」
小町ちゃんの肩にポンと手を置いた、その子供のような人が若草色の衣のエルフの方を振り返った。
「リヴェリア、たのむ」
深刻そうな顔でこくりと頷いたエルフは、全員の前に立ってその大きな杖を掲げて呪文の詠唱を始める。
「舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め。我等を囲え大いなる
徐々にエルフの周囲に緑色の光が輝きを増しそして、私たち全員を囲むような巨大な緑の円が浮かび上がった。
「———我が名はアールヴ!!」
詠唱が完了すると、私たちの周囲を透明な壁が一気に覆う。と、次の瞬間!!
ドドドドドドドドドドドドドドッ……
「きゃあ」「キャア!!」「わあ!」
立っていられないほどの激しい揺れ……
地震……?
かと思ったその刹那、目の前の大穴から、火山の噴火を思わせる激烈な勢いで青と黄色の稲妻と炎が吹き上った。
そのエネルギーの奔流は私たち全員を軽く飲み込み、背後のオラリオの外壁をも焼いてしまっている。
そして、立ち上るその稲妻と炎は遥か上空の厚い曇天の雲をも吹き飛ばした。
そのあまりの凄まじさに、防御呪文を唱えたエルフもその顔をしかめる。そんな彼女に、子供のような青年が声を掛けた。
「大丈夫かい?リヴェリア」
「ええ、ただの余波だから、問題はない。しかし、直撃であったらと考えると肝が冷える」
「なにこれー!?噴火?じゃなくて、グランドキャノンかな!?絶対死ぬ~」
「こんなのどうしろって……」
「ちぃっ!!」
二人の背後では、やはり同じように青い顔をしたロキ・ファミリアの面々が口々に何か言い合っているけど、今の私には何も聞こえなかった。
あの稲妻は見たことがある。
あれは、先輩の……
あの穴の下に先輩が……
次第とエネルギーが収まりを見せはじめたかと思ったその時、またもや地面が激しく揺れた。そして、
ドドオオオオオオオオン!!
耳をつんざく爆裂音とともに、目の前のクレーターは一気に崩落。
大穴だったところはさらに深い穴がとなり、でも、穴は完全に埋まってしまった。
「せ、先輩!!」「ヒッキーーーーーーー!!」
今度こそ、結衣先輩も絶叫。涙を溢れさせながら……
「感慨に耽っている場合じゃねえぞ……てめえら、下がってろ」
チャリ……
と、音がしたと思ったら、私の目の前には細身の剣を構えて正面を向く、獣人の人の姿が。
ほかの冒険者の人たちも、手に手に武器を構えて、緊張感を高めている。
いったい、なにが……
ボコ……、ボコボコ……
周囲から耳慣れない音が聞こえ始めたかと思うと、そこかしこの地面から、何か大きなものが這い出てきた。
「ええ?なんでこんなところにスパルトイが出るの~?」
見れば、手に手に武器のようなものを持った骨の怪物の大群が……
でも、それをはっきりと視認したエルフの女性が慌てた声をあげる。
「い、いや、あれはスパルトイではない……ま、間違いない、
辺りには、それだけではなく、空中をさまようように飛翔する透明なもの……あれは幽霊?
「気を付けるのだ、バンシーまでおるぞ!魂を刈り取られてしまう!」
「ええー!?どうしろっていうのよー」
「オバケなんて戦ったことないんだけど」
「魔力を武器に纏わせれば通用するはずだ。全員にエンチャントをかける、急いでわたしのもとへ……」
そう、エルフが声を上げたその時、私の前で白ローブの結衣先輩が右手を上空へ突き上げて立ち上がった。
「絶対にヒッキーの帰る場所を守るんだ!!邪魔はさせない!!【二フラム】!!」
その掛け声とともに、まるで太陽が現れたかのような強烈な光が周囲を包む……
その光は、さまようバンシーたちを次々と飲み込み、瞬く間に搔き消していった。
「そうね、私も絶対に諦めないわ!!【ベギラゴン】!!」
雪ノ下先輩の呪文は、わたしたちの周囲の地面から巨大な火柱を次々に上空へ向かって打ち立てている。そして、その神秘の火炎は上空のバンシーたちを巻き込みながら消滅させていった。でも、そんな凄まじい火炎のなかであっても、竜牙兵たちは悠然と歩んで近づいてきていた。
「あのバンシーはあたしたちがなんとかします。皆さんもよろしくお願いします」
そんな結衣先輩を見ながら、呆然としてしまっているエルフの前に立った小柄な青年は剣を振り上げた。
「やることはいつもと同じだ……いくぞ!オラリオ最強をここに示せ!!」
「「「「おう!!」」」」
私たちの目の前で、