『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(48)ロキ・ファミリアVS死の軍団

 まったく、厄介なことを押し付けてくれたもんだよ、ロキ……

 

 小人族(パルゥム)の勇者はそう心の内で自らの主神にぼやいていた。そして、ぴくぴくと痺れてさえもいる自分お親指をじっと見た。

 

 そう、ロキが不安そうな顔をしていた時点で嫌な予感は確かにしていたんだ。

 だが、それと同時に慢心ともいえる傲りも確かに自分の内にあった。

 

 今回のこのクエストは降って沸いたものだ。

 ダンジョンの深層探索を終えてからというもの、立て続けにトラブルに巻き込まれ、オチオチ休養も出来ずにいた。

 そんな矢先に、朋友でもある自身の片腕、このハイエルフのリヴェリアの慌てふためく様に、惑わされてしまったのかもしれない。

 彼女は、この世界に危機が迫っているとなんの躊躇いもなく僕達に告げた。

 こんなことは初めてのこと。

 この聡明で冷静沈着なハイエルフは、いつだって狂暴な僕の心を癒し、僕を支えてくれた正に盟友。

 そんな彼女はホームへ戻るなりすぐに、僕とロキとガレスへ血相を変えてそう話を切り出した。

 折しも、ちょうどそんな僕らの手元には、ギルドから最高難度クエストが届けられたところであり、その内容がリヴェリアのそれとほぼ合致したことで、僕は危険を承知でこのクエストを受諾することにした。

 ロキ自身が珍しく僕にこのクエストを受けるように頼みこんできたことも当然その理由の一つなのだが。

 

 今となっては浅はかだったと言わざるを得ない。

 

 ギルドの発行したそれは、『必要レベル6以上、オラリオ外周に出来た大穴内への侵攻と、その内部勢力の掃討』

 そしてリヴェリアの情報では、その大穴深部に邪神の骸と闇派閥(イヴィルス)と思われる集団を多数確認されており、それらが邪神復活の儀式を行おうとしているらしいとの事。

 正直、僕にとって、この『邪神』という言葉は軽いものだった。

 かつて、自らをそう称した神々の話はかなり聞き及んでいたし、その残党として忌み嫌われているのが、その闇派閥の連中であった。そして、その時の僕は、『邪神討伐』の栄誉を掴みたい欲求に、なにより囚われたいたのだと思う。

 一刻も早い我が同胞……小人族(パルゥム)の栄誉の回復……

 そのもっとも最短の道がここにあると……

 そう、これは慢心だ。

 僕の内にあった邪神軽視の気持ちと、強く成長しつつある仲間達への信頼感、なにより僕自身が、自分たちこそ最強であると、心の何処かで思い込んでいたことが一番の原因だろう……

 信じるべき自分の『勘』を、僕はついに侮ってしまった。

 

 だが、もはや後悔の時ではない。

 

 目の前に立ちはだかる者はなんであれ排除する。

 もう僕らにはそれしかないのだから。

 

 目前の圧倒的な暴力の前に、流血しながら戦う自身の家族達の姿を見て、勇者(ブレイバー)は剣を鞘から抜き放った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「なに、こいつら、かった~い!!私の大双刃(ウルガ)で叩き切れないなんてー」

 

「ティオナ一旦下がって、リヴェリアの回復を受けて!!」

 

「えー?、大丈夫だよー、まだ10体しか倒してないし」

 

「バカっ!そんだけ血まみれになって、10体しか倒せてないんだから下がるんでしょ?周り見てみなさいよ」

 

「うへえぇ……うじゃうじゃいるぅ~」

 

「ケッ、雑魚はすっこんでろ、俺が全部やってやる!うらぁあああ!!」

 

「あっ!バカ犬!抜け駆けすんなー」

 

「これは、予想以上だわい。ワシの戦斧を受け止めるとはの……こんな戦い……久々よ……どっせええええええい!!」

 

「『エアリアル』…………行くよ…………」

 

「フィン。くれぐれも無茶はするなよ」

 

「ああ、わかってるさリヴェリア。今日は後詰めだ。だが、苦しいな」

 

 崩落した大穴からオラリオの市壁に向かうその途上にて、彼らは扇状に布陣して迫り来る竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリア)たちを迎え撃っている。

 だが、その旗色は甚だ悪い。

 そもそも彼らの戦力は白ローブの魔導士を含めて9人。

 対する敵勢戦力はといえば、軽く2Mを越す巨大な竜牙兵がその数500体以上。

 実際はそれを遥かに上回る数のバンシーがオラリオを目指して飛翔を続けていたが、亡霊たちは白ローブの二人の魔導士が片端から強力な魔法によって消し去ってまわっていたために、それらに襲われる心配はなかった。

 だが、それを差し引いたとしてもどうしようもない現実がそこに広がっていた。

 

 彼ら……自他ともにオラリオ最強と認める【ファミリア】、【ロキ・ファミリア】の精鋭中の精鋭、レベル6となった7人の戦士が相対したのは、ダンジョンの深層で現れる骨のモンスター『スパルトイ』に酷似した二足二腕のアンデットを思わせる骨の怪物。だが、その骨の体躯はスパルトイを遥かにしのぐ強靭さであり、しかも、その全身はフルプレートに覆われ、その手には業物のハルバードと方形(ヒーター)シールドが握られている。

 言うなればスパルトイの正規兵……まるで、軍隊のごとく、湧いてでたそれらは、隊列を組んで襲いかかってきていた。

 

 戦端は一瞬で開いた。

 

 大双刃を構えたティオナ・ヒュリテが竜牙兵の只中に飛び込み、その格段に威力を向上させた必殺の一撃を叩き込んだ。そう、このレベル6まで到達した彼女の身体から繰り出される会心の一撃は、ダンジョンの深層の大型級のモンスターでさえ一掃することができる。

 しかし、眼前の怪物は普通ではなかった。

 野性的な感覚で応戦する通常のモンスターの反応のそれではなく、その虚空の瞳は彼女の挙動を注視しつつ、冷静に方形シールドで斬撃を受け流し、その流れのままに腰の入ったハルバードの一閃を放つ。それはその狙いを定めた一体だけの行動にとどまらず、周囲に展開していた数体の竜牙兵が一斉にその槍突を繰り出してきた。

 元来、その驚異的な身体能力によって、攻撃を躱すことに主軸を置いたティオナ・ヒュリテの装備はほぼ皆無に等しく、その洗練された兵士の如き反撃によって、緒撃で腹部に負傷を負ってしまう。

 

 それでも、そこに居合わせた竜牙兵の数体を一瞬で屠った事実は、彼女が並々ならぬ修羅場を経験してきた猛者であることの証明であった。彼女は押し寄せる兵たちの刺突を躱しつつ、重武装の竜牙兵をフルプレートごとに叩き切り、一体また一体と破壊して進んだ。

 

 そんな彼女を先頭に、【ロキ・ファミリア】の精鋭たる彼らは、津波のように押し寄せてくる死の軍団を、僅かな人数とはいえ、真向から迎え撃つ。

 

 大地を叩き激震させる巨大な両刃斧。

 強力な風を剣に纏わせ切り裂き進む剣士。

 炎を噴くメタルブーツがフルプレートをも焼き貫く。

 そして、2振りの婉曲剣で的確に身体である骨を切り捨てる。

 

 竜牙兵達の頭部を破壊し、両腕をへし折り、脚部を薙ぎ払う。

 まるで一級の戦士の様に応戦する竜牙兵に対し、彼らはそれ以上の奮戦を見せ、一気に数体を相手に戦い続けた。

 だが、痛みを感じず、疲れも知らず、倒しても倒してもひたすらに起き上がり挑み続けてくるその死の兵を前に、彼らも苦戦を強いられる。

 そして、辛抱強く戦線を維持し続けた彼らの耳に、あの頼もしい声が聞こえてきた。

 

 

「『間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅———』」

 

 巨大な魔力を放出し始めた淡い緑のローブをはためかせたのハイエルフ。その杖を高らかに掲げ、凛と通った声音で呪文を詠唱する。

 その声を聴きながら、全員がほぼ同時に敵を押し返す。

 そして、一気に飛びし去ったその時……

 

「『———大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ』」

 

 ひときわ強い光が辺りを包んだ次の瞬間、カッと目を見開いた彼女、リヴェリア・リヨス・アールヴは自身最強の殲滅魔法の完成を宣言した。

 

「『レア・ラーヴァテイン』」

 

 超巨大な紅蓮の炎が目の前を席巻する。その渦巻く焔は数百体の竜牙兵たちを飲み込み、そして、苛烈なまでの獄炎によってその身体をプレートメイルごと溶解させていく。

 この渾身の一撃は、『九魔姫(ナイン・ヘル)』と呼ばれる所以でもある彼女の超長文詠唱による、最大出力の魔法力によるものであった。

 

「くっ……」

 

 自らの放出する魔法力によって、身体に激痛が走る。

 苦悶に表情を歪ませた彼女は、それでも毅然と杖を構え続けた。

 

「すごい!!」

「やったの!?」

 

 眼前で絶叫を上げるかのごとく顎部を大きく開いて天を仰ぎ見る竜牙兵達を見つつ、歓声を上げる二人のアマゾネスに、小人族(パルゥム)の青年の冷静な声が応じた。

 

「いや、まだだね。リヴェリア、ポーションを使用して少し休め」

 

「あ、ああ」

 

 魔力回復薬を手にした子供族、フィン・ディムナが魔力ダウンで膝を着いたリヴェリアへと声を掛け、そして再び視線を戦場へ戻す。

 

 炎に撒かれた竜牙兵たちは確かに溶解したが、その背後にはまだ多数の存在がある。

 ここまでの戦闘で、確かに1対1であれば、自分たちの側が優勢なのは明白ではあったのだが、訓練された兵士なみの行動をとる完全武装の敵に対して、少なくとも1対多数では分が悪すぎた。

 フィンは、ここで拙速に味方へ突撃の指示は出さなかった。

 なぜなら、その理由としては、彼が、その竜牙兵たちの更に背後に、彼女たちの存在を確認していたから。

 

「イオナズン!!」

「バギクロス!!」

 

 遥か遠方でそうじゅもんを唱えた声が、彼らの強化された耳に確かに届いた。

 

 その瞬間、左右に大きく開いた残り数百体の竜牙兵たちの左翼側のあちらこちらに、黒い球体が次々に出現。それらは、まるで力を籠めるかのように見えなくなるほどに小さく圧縮され、そして、強烈な爆裂音とともに大爆発を巻き起こし、敵の多くを粉々に吹き飛ばした。

 そして右翼側では、目で視認できるほどの巨大で鋭利な空気の渦。見る間に竜牙兵たちがその風に飲み込まれ、そのまま風の刃に全身を鎧や盾ごと切り刻まれていく。

 残されたのは、赤茶けた大地で溶解した骨の残骸と、巨大な爆発跡のクレーターと、猛烈な竜巻に抉られ、モンスターたちの残骸の四散した荒地。

 

「す、すごい」

「ちっ」

 

 ぽかんと口を開けたティオナの横で、狼人のベートは舌打ちを鳴らした。

 彼にとっての強さとはあくまで一体一に特化したものである。

 ここに至って彼自身の能力は比類なきものではあったけれど、包囲殲滅ということとなれば、魔法にやはり分がある。それも当然分かってはいても、目の前で行使されたその破壊力を見せつけられればやはり強きを望む自身としては悔しさも滲むのである。

 

 そんな彼らを見つつ、団長のフィンは声を張り上げた。

 

「残敵を掃討しろ。ただし、用心するんだ」

 

「はい!!」

 

 ティオネがその大きな胸を揺らしながら返事をして、まだ動く竜牙兵に駆け寄ろうとして、ふと足を止めた。

 

「ねえ、団長?あそこ、あの抉れた地面のところ、なにか光ってるよ」

 

 言われて視線を向けてみれば、さきほどの魔法で抉られた地面から、赤い輝きが漏れ出ている。その光はところどころ抉れた箇所から立ち上っており、その範囲はかなり広いように彼らには見えた。

 

「あれは、魔法陣……たぶん『召喚門』だ」

 

 疲労を回復できたのか、生気の戻った表情のリヴェリアがフィンに並んでそう口を開く。

 

「召喚門?」

 

「ああ、地中に魔法陣を何らかの方法で展開したのだろう。多分だが、あの死霊や竜牙兵たちはあそこから召喚されたのではないか?」

 

「だったら、あの魔法陣を壊せば終わりだよね。ウルガで殴れば消えるかな?」

 

「バカじゃないの、切って消えるなら、さっきの爆発とかでもう消えてるでしょ!!まったく」

 

「そっかー、あはは」

 

「ふむ……完全な魔法の解除にはならないかもしれないが、あの魔法陣を消すことは多分可能だ。私が魔法陣を上書して効果を相殺させよう」

 

 オラリオ随一の魔導士の言葉に、その場のほぼすべての物がこれでおしまいかと安堵の息を吐いた。一人、親指の疼きを抱えた小人族を除いて。

 

「くるぞ」

 

「え?」

 

 ふと、顔をあげたフィンの眼前で、魔法陣から、未だに産まれ続ける竜牙兵の背後に巨大な影がせりあがった。

 小山ほどもあるその深紅の塊はまるで鮮血を浴びたかのような凄惨なイメージを彼らに与える。

 ゆっくりゆっくりと立ち上がったその巨体は、あの階層主ゴライアスをはるかに凌ぐ体躯……。

 燃える炎のような深紅の瞳に深紅の身体。まるで塔のように聳えるその威容は、オラリオの外壁に匹敵するほどのサイズを誇っている。その全高は50Mを越えようか……

 

炎の巨人(ファイアジャイアント)……」

 

 全身から蒸気を上げつつ完全に立ち上がったその怪物を呆然と見つつ、再び絶望の色にその瞳を染めたハイエルフが、ぽつりとそう呟いた。

 

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