『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
微睡みのなかで、俺は目に陽の光を感じて思わず身を捩る。
すると、柔らかい感触を胸と腿辺りに感じて、でも、まあいつものことだと、同衾しているはずの二人に掛け布団をかけ直そうと布団の中で手を動かして、そして……
たゆん……
「ん……ぁん」
艶かしい吐息混じりの声が耳元で聴こえたかと思うと、なにかいつもと違う感じに一瞬困惑した。
おかしいな、いつも通り、はだけてる掛け布団を直そうとしてるだけなのに、なにかもちもちとした素肌に触れているような……
「んん……」
俺が身体を動かしていると、今度は反対の方からも淫靡な声が……
「って、お、お、おおおおおおお、お前らぁ!!」
慌ててガバリと起き上がって二人を見て、そのまま失神しそうになるのに耐えながら、慌ててかけ布団を二人に被せた。
「あ、あ、あー!、ひ、ヒッキー……!」
「は、はちまん!!」
と、目覚めた二人は、せっかく俺がかけた掛け布団を払い除けて、そして、そのままで素っ裸で仁王立ちしてる俺にぎゅうううっと抱きついてきた。そう、二人とも……由比ヶ浜も、雪ノ下も全裸のままで。
や、や、や、やめろー、とくに下半身はやめろー!
朝だから!今、朝だから、ほんとヤバイから、ヤメテー!!
「良かったー、良かったよ、ヒッキー……ふえぇぇぇぇん」
「本当に良かったわ、八幡。貴方にもしものことがあったらって、もう……私……本当に……」
「お、おい、やめろぉ、は、離れろって……」
いや、ほんとやめろください!!
心でもそう叫んでいるのに二人はまったく離れない。もう、目から涙を流したまま裸で俺を抱き締めてくるし。
え?これってどういう……
「感謝するのだな彼女たちに。君は今度こそ本当に死ぬところだったのだぞ。二人の献身がなければな」
「え?」
急に、少し離れたところから声がして、そっちに顔を向けてみれば、銀髪のダークエルフの女。着ていた黒いローブは今は脱いで、白のショートパンツに、丈の短いやはり白の皮の服で大きな胸を覆っている。彼女は腕を組んで部屋の隅の壁に背をもたれかけさせてこちらを見ていた。
って、よく見てみれば、ここ、ホームの地下室じゃねえか。壁の上方にある、明かりとりの窓からは、まばゆい陽光が差し込んでいて、今が朝だということを物語っていた。
俺たちはその部屋の隅に並べられたベッドのひとつの上に立っていた。
「あれ……せんぱい……?……っ!?」
「お兄ちゃん……んにゃ、むにゃ……って、ええっ!!お、お兄ちゃんたち……、ま、まさか、朝っぱらからー?しかも公衆の面前でぇー!?」
「い、いや、小町、ち、違うんだ、なんだかわかんねえけど、とにかく違うんだぁ!!」
隣のベッドから顔を真っ赤にしながらのそのそと起き出してきた一色と小町に、俺は裸の泣いてる二人に抱きつかれたまま訳もわからずに、弁解したのであった。
なんだこれ?
× × ×
「はあ、つまり、俺はベルくん達と一緒にあのじゅもんを放った直後に、マナが枯渇した上に心臓も止まって、ほとんど死んでたってわけか。で、雪ノ下と由比ヶ浜が俺にマナの供給をしながら、俺を素肌で温めてくれたってことなんだな?」
俺の言葉に、赤面した雪ノ下と由比ヶ浜の二人が無言でコクコク頷いていた。
こいつら、今ごろになって、凄まじく恥ずかしくなっちまったらしい。二人で肩を寄せ会うようにして、部屋の隅で小さくなってやがるし。
ま、当然だろうがな。さすがに、命がけだからって恥も外聞もなしに俺を助けようとしてくれたってことだが、それは瀕死の俺であって、元気な俺じゃない。
緊急事態が終わったあとで、大勢の前でしかも全裸で自分から男に抱きついてるなんてのを見られた日には、もう生きていけないくらいきついだろう。
だから、俺も顔を緩ませちゃまずいな、うん、まずい。役得とか思っちゃ……げふんげふん。
「本当に感謝するんだな。彼女……結衣さんが『
そう恐ろしいことを話すのは銀髪のダークエルフ。
相変わらず壁に寄りかかったままで動こうともしていない。
「『
「あ、うん。なんか地上でさ、幽霊とか骸骨とかを魔法で倒してたら、レベル上がったみたいなの。それで、その時にさ、この魔法使えるようになってたんだよ」
由比ヶ浜のその言葉に俺は思わず首をかしげた。
いまだにゲームの名残でもあるってのか?まさか、ここにきてレベルアップするなんて思いもしなかったし、レベル上がって、しかも覚えたのがロードス島戦記の神聖魔法とかって、これどういう仕組みなんだか。まあ、僧侶とプリーストってことで云えば同じようなもんだから、問題ないのか?いや、あるか?
俺もあの戦いの中で、レベルアップしたしなーとか思っていたら、ダークエルフの女が俺にむかってツカツカと歩み寄ってきた。
「まったく……、なんとか修復できた身体だったというのに、なけなしのマナであんな攻撃魔法を放つなんて、本当に何を考えているんだ。貴方はもう、3日間も眠り続けたままだったのだよ。さて、君にはいろいろと聞きたいことがある。いったいいつから彼の者の存在を追っている?神ファラリスとの関係は?」
豊満な胸に、肉感のあるその肢体は、綺麗というより、むしろエロい。
というか、この容姿には見覚えがあったし、それにその額の人の瞳を模したサークレットにも。
今、この部屋には、このダークエルフと、俺、雪ノ下、由比ヶ浜、それと、一色と小町の計6人がいる。
俺は、周囲の連中を見渡してから、彼女に言った。
「いや、待て。聞きたいのはこっちの方だっての。まず、俺は自分の置かれた状況もいまいち思い出せていないとこなんだが……、あのファイアジャイアントは倒せたのか?それに、ルゼーブは?あの時やつは本当に死んだのか?それと、フェルズやバーバリアンたちは?本当にみんな脱出出来ているのか?あと、イケロスは……」
「そこまでだ」
ダークエルフが俺の前に手のひらを開いて突き出してきた。これはあれだな。もう喋るなと。
口をつぐんだ俺に、ダークエルフははあと、ため息をついてから近くの椅子に腰を下ろした。そのままその長い足を優雅に組む。うわ、めっちゃ様になってるんだが。エロ方面で。
「ふむ……どうやら、私が聞きたいこととも重なっているようだな。では、質問を変えよう。貴方たちは何者だ?なぜ、そんな特異な力を持っている?」
この人、けっこうぐいぐい来るな。こんな人だったのか?
ていうか、ここ一応俺たちの家だよな?なんでこの人こんなに偉そうなの?
「あのですね、人に聞く前に自分の話をする方が先なんじゃないすかね?そもそも、俺たちからすればアンタの方がよっぽど異様だし、ルゼーブとかイケロスとかとも知り合いみたいだったし……、ま、大体俺は見当ついてんだけどな」
俺のその言葉に、彼女は目を細めて微笑む。
「ほう……、それは興味深いな……。では、私の正体とやらを明かして貰おうかな。当てずっぽうでもなんでも構わない。いいから言ってみたまえ」
何かいい感じで彼女に誘導されてんな、俺。はあ仕方ねえ、そんなに言わせたいんなら言ってやるか。
俺は興味深そうに俺を覗き見るそのダークエルフへ向かってずばりと言ってやった。
「あんた、『灰色の魔女カーラ』だろ」
その一言に、彼女は、ほうっと大きくため息を吐いて、微笑を浮かべながら両手を上げて降参のポーズをとったのだった。
× × ×
「確かに、私は名を『カーラ』という。すでにそう呼ぶものは皆無ではあるがな」
そう首を振る彼女に、俺はもう一言添えた。
「それと、その身体だが、多分『ピロテース』なんじゃないのか?」
今度こそ彼女はその目を大きく見開いた。
初めて恐ろしいものでも見たかのような、そんな表情を。
「まさか、この身体の本当の持ち主の名前まで知っていようとはな。貴様、何者なのだ?」
ま、驚くのもの仕方ねえか……。
ロードス島戦記の時代から何年経ってるのかもわからねえが、この時代にたどり着くまでに途方もない時間が流れてるはずだ。
まさか物語読んでたからって言っても信じちゃくれないだろうが、でも嘘吐いてもあとあと説明が面倒なだけか……
俺は彼女に向き直って告げた。
「信じちゃくれないかもだが、俺たちは別の世界から来たんだ。で、この世界のこととか、あんたが生きたロードス島の話……魔神戦争だとか、邪神戦争だとか、その辺の話を本で読んだことがあってな、それでまあ、本と同じっていうんなら、俺にはそれだけは知識があるんだよ」
「ちょっと、ヒッキー、全部話しちゃっていいの?」
俺の脇にきた由比ヶ浜が小声でぽしょぽしょとそう言ってくる。って、耳がこそばゆい。
「しかたねえだろ、上手く説明なんてできねえよ俺には。そもそも実際に本で読んで内容見たんだから、嘘つきようがねえじゃねえか」
小声で返した俺に由比ヶ浜が少し怯えた感じになってるが、俺は構わず続けた。
「だから、あんたがカーラで、身体がピロテースで、あれ?シェールに名前を変えたんだっけ?じゃあ、アシュラムはどうなったんだ?ん?バルバスはーーーーーーー」
「ふふふ……ふはぁっはっはっは……」
急に笑い始めたカーラに俺は驚いて転がりそうになった。なんで急に笑い出すんだよこいつは。
カーラは、しばらく大口を開いて笑うと、その顔に微笑みを称えたまま、テーブルの上の黒いローブを掴んでバサリと身に纏った。
そして、俺をもう一度見る。
「まさか、ここにきてこんな話になるとはな……愉快だよ、比企谷八幡。信じよう、貴方の言葉。まあ、せっついて話すのは勿体ない。今度ゆっくり酒でも飲みながら話すとしようか。君となら楽しい話ができそうだ。それに、せっかく命を拾えたのだ。仲間とゆっくりする時間も必要だろう……ではな」
そう言うと、彼女は微笑を浮かべたまま霞が掻き消えるように、唐突にその空間から姿を消した。
「あ、まだお礼を……」
雪ノ下が立ち上がりながら、彼女に声を掛けようとするも、もはやその声は届かなかった。
残されたうちのメンバーたちは一様に唖然としてしまっている。
彼女が消えた空間を見つめていると、隣に由比ヶ浜と雪ノ下が寄ってきた。
「彼女が貴方を救う方法を教えてくれたのよ」
「ああ、そうだろうな。何せ死にかけた俺を助けてくれたのも彼女だ」
「ええ?死に?ヒッキー、そ、そんなことになってたの?」
「あ?なんだ、聞いてなかったのか?あ、いや、まあ、確かにあの時は乱入されたしな、まあ、いい。その話はあとだ……一色!!」
「ひゃいっ!!」
さっきからずっと静かだった一色が俺の言葉にびくりとその身体を震わせていた。
綿で編んだ若草色のチュニックを着た一色はベッドのヘリでかちんこちんになって固まっている。
あ、ちなみにこのチュニックワンピースはご近所さんでもあるポリィに聞いて、近所の衣料品屋で買ってきたうちの女子達の部屋着兼寝巻きのようなものだ。服に関しては、色々こだわりがあるようで、小町や一色のベッドの周りにはすでに服の山が出来つつあるが……それは今はいいか。
俺は、ゆっくり一色へと近づいていく。
一色は俺を恐る恐るといった具合で見上げていたが、近づくにつれ、その身体の震えが強まり、そして、ぎゅっと目をつぶった。
俺はそんな一色のそばに立って……誰にも聞こえないように声をかけた。
「大丈夫だったか?何か、その……されたりしなかったか?……ひどいこととか……」
「へ?え?」
小声でぼそぼそと話す俺の言葉に一色はポカンとなってその顔をあげてくる。
そして、わなわなと震えながら、口を開いた。
「怒らないんですか?」
「え、なんで?」
「!?」
一色はいよいよ顔を真っ赤にして俺を見た。
そうだな、鳩が豆鉄砲食らったような顔ってこういうことなのかな?でも、なんでこいつ話を逸らすような言い方してんだ……
え?まさか、やっぱりそうだったのか?やっぱりルゼーブのやつに……力づくで……!?
俺はもう、なんて声をかけていいかわからずに、ガクガク震えてた訳だが、そんな俺に、一色がポフンと抱きついてきた。
こ、ここれは、いったいどうしろと!?
やばい、どうしよう、こんな状況の対処のしかたなんて俺にはわかんねーよ。
「い、い、い、いいいい一色‼だ、だ、ダイジョブだ‼なんもシンパイすんな‼俺も雪ノ下も由比ヶ浜もみんなついてるからな。だ、大丈夫だから‼」
「え?せ、先輩、急になんで……はっ!?」
俺が必死に慰めようとしている目の前で、一色がやかんでお湯が沸いてしまうんじゃないかってくらい、真っ赤になった。
で、さらに何か言うのかと思っていたのだが、何もしゃべらず、両手で顔を覆ってしまう。
うわぁ、ま、まじでどうすれば……
「あのね、八幡……、一色さんはその、本当に大丈夫だったのよ」
「そうだよ。いろはちゃん何もされてないから、安心してね」
「え!?」
慌てふためく俺の横で、二人がそう静かに耳打ちしてくる。
「じゃ、じゃあなにか?一色はめちゃくちゃにされたんじゃねえのか、ルゼーブの奴にレィ……げぼぁっ‼」
「ちょ、ちょっと信じられないです‼な、なんで声に出して言おうとしてんですか‼そんなわけないじゃないですか、何もされてませんし、私は当然まだちゃんと処女のままですよぉ……はうぁっ‼」
突然一色の抜き手を腹に受けて、悶絶していた俺の前で何かを叫んでいたが、なにこいつ、武闘家の素質あるんじゃねーの?
うずくまる俺を囲むようにみんなが集まっている。
そして、なんとか苦しいのに耐えて顔を上げてみたら、目の前に一色が立っていた。
彼女は暗い顔のままで改めて、俺をまっすぐに見つめてくる。
「その……私勝手なことしちゃって、それに、みなさんを危険な目に合わせちゃって、ほ、本当にすいませんでした」
ぺこりと頭を下げる一色。
俺は別に一色をしかるつもりも、罰を与えるつもりも一切ない。
こいつなりに今できることをしようとしていただけだってことは分かるし、結果として掴まっていたゼノス達も解放できた上に、世界滅亡の危機も未然に防ぐことが出来たわけだしな。結果オーライだが、ホント、俺良く生きてたな?
「もう気にすんなよ、お前が頑張ってくれたことは良く知ってる。俺もこいつらもなんとも思ってなんかねえし」
って、言ってから雪ノ下と由比ヶ浜を見ると、微笑んで頷いてる。良かった、思わず先走っちまったからな。
「でも、あんまり心配はかけんじゃねえぞ。それだけだ」
一色は涙ぐんで俺を見上げてくる。
そして首をぶんぶん振って、なにか言おうとしていたが、結局は何もないままに、コクリコクリろ頷いたのだった。
ま、仕方ねえよな。
こいつは
そうか、こいつ、俺達みたいに強くなりたかったのか……
なら、今度冒険に連れて行ってやるか。少し落ち着いたら誘ってやろう。
よし、頑張れよ一色、応援するぞ。
俺がうんうん納得した先で、一色が首をかしげているが、まあ、もうこれで大丈夫だろう。
俺は改めてみんなに言った。
「そういやルビス様がいねえみたいだがどうしたんだ?それに、色々聞きたいんだが、あの
それに雪ノ下達が答えてくれる。
「あ、えとね。
「そうか」
あのルゼーブとの戦いの最後に一か八かで気合入れてリレミトをつかったんだが、気絶させた黒装束の連中もみんな脱出させられたみてえだな。
あのまま生き埋めで殺すとか、マジで目覚め悪いもんな。
「それで、
「そりゃそうか……まあ、無事ならよかった。それでルビス様は?」
「あ、ルビス様とフェルズさんはお兄ちゃんがここに運ばれる前からずっと神ウラノスさんのとこに行ったままだよ。全然帰ってこないから何をしてるのかは知らないけどね。あ、あと、上の建物は冒険者の人たちが突貫で工事してくれてるから、もうじき住めるようになるみたいだよ。それと、食料の買い出しとか、
「そうか」
小町にそう教えてもらって俺もほっと安堵した。
とりあえず、悲惨な状況は回避できたようだ。
あれだけ痛い思いをして、死にかけてとりあえず、今の状況に進めたのは僥倖だろう。
でも、今どれくらい原作から離れちまったか、その辺が心配で仕方ないが、それは贅沢すぎる心配か。あの時、ベル君もアイズたんも居たわけで、しかもあの超巨大なファイアジャイアントを相手に戦っちまったし、それに【ロキ・ファミリア】の連中もいっぱい居たみてえだしな。なんか頭痛くなってきたかから、考えるのは今はやめとこう。
そんな俺を囲むようにして、由比ヶ浜が聞いてきた。
「あのね、ヒッキー。さっきのカーラさん?だっけ……?も詳しくは教えてくれなかったんだけどさ……。あたし達が脱出した後に何があったの?死にかけったって本当?」
「その、何があったか教えてくれないかしら?」
その二人に同調するように、一色と小町もゴクリと唾を飲み込んで俺を見つめてきた。
俺は……
「腹減った……、まずは何か食わせてくれ」
思わずとーちゃんみたいなことを言うと、みんなはガクリとその場に崩れた。
【後日談】
「よーし、一色、お前のショートソードと胸当て買ってきたぞ。一緒に
「は?なんですか、バカなんですか、なんで私がダンジョン行かなきゃなんないんですか、一緒に冒険してつり橋効果期待するとか気持ちは分かりますけどちょっと安直すぎるので出直して下さいごめんなさい」
「…………」