『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「どこの誰か知らぬが、神に弓引く愚か者に容赦はしませんよ」
ルゼーブはその可愛らしい顔を醜悪に歪め、眼前の二人にそう語りかけた。
そして、この苛立ちをどう解消させようかと思いを巡らせていた。
散々煮え湯を飲まされたデカルチャーズのワレラを、じわじわとなぶり殺しにしてやろうと楽しんでいる最中だったというのに、いきなり現れて邪魔をしようなどとは……
ルゼーブの内心は煮えたぎる油の様な激怒に染まっていた。
彼はワレラを最初に見た時から、その身から溢れ出る膨大な魔力に気が付いてはいた。それはルゼーブがかつて出会ったどの英雄をも遥かに超えるレベル……そう、神に匹敵するほどの絶対感を感じていたのだ。
だが、彼のデカルチャーズの男はそのあまりある魔力に対し、自分からたいした行動をとることはなかった。
その放つ魔法は強力ではあっても操作は稚拙であったし、その行使も場当たり的なもの。
散発的に魔法を使い、口八丁手八丁で、のらりくらりと誘導しようとする小癪な姿に苛立ちつつ、ルゼーブは次々と自身の隠し玉を失うはめとなった。
ことここに至ってルゼーブは、邪神カーディスとの融合を果たし、その身も魂も滅びの権化となったことで、もはや多少強い人間の魔導士ごときを相手にする必要もなかったが、苦痛に泣き叫ぶワレラの姿は彼にとって愉悦そのものであったのだ。
そうであったというのに……
ルゼーブはその深紅の瞳を細め、眼前でこちらを睨む二人を、ジッと観察する。そしてその能力を見定めようと試みた。
瀕死のワレラを抱きとめ、その魔力の
一方、さきほど自身の腕を切断してくれた、金の鉤爪を腕に嵌めた鬼の面の女からは、魔力こそはそれほど感じないものの凄まじいまでの
狂っているのか……まるで、己が操ってきた、怒りの精霊【ヒューイ】が憑依でもしているかのように狂暴で恐ろしい気配に神となったその身でさえも竦んでしまう。
そう、ルゼーブは確かに恐怖を感じていた。
この女は危険だ。
いかに自分が不滅の存在になったとしても、度重なるダメージは蓄積され、マナで形成された自身の心身を摩耗させることになる。
神という絶対者であっても、この世界に現界できなくなる可能性があることをルゼーブは理解しているのだ。
だが、だからといって己の愉しみを邪魔してくれたこの二人を決して許す気はない。
どんなに強大な力を持っていたとしても、油断さえしなければどうということはないのだ。
彼は『用心が過ぎるな』と多少自嘲しながらもここで侮って自身の貴重な力を浪費する必要もないと判じた。
それと同時に、圧倒的な力でもってこの眼前の二人を殺す。そうそれだけだ。
どんなに強かろうと、この二人も絶望に叩き落としてしまえばいい……もう反抗できるだけの気力を削いでしまえばいい。そして、その上で嬲り殺す。彼はそう考え直した。
ワレラと同様に手足を腐らせ、全身を腐らせ、絶望に叩き落としてやろうか、それとも、いっそ一思いに一人ずつ消し去ってやろうか……
確かに多少強いようだが、この二人からは
くくく……そうだな、別段俺が手を下すまでもないか……
ルゼーブは湧き上がる愉悦にその顔を再び歪めた。
もはやなにも怖れることなどないことを改めて確信したのだから。
「では君たちには彼らの相手をしてもらおうか。『いでよ、亡者ども。破壊の女神の眷族にして、生と死のはざまを彷徨う者どもよ』」
彼が右手を振り上げると、周囲全体に魔法陣が展開され、そこから次々と重装備の
そしてその穿たれた両の目のくぼみに怪しく魔力の光を灯し始める。
そんな大量の竜牙兵を前に、その朱色のぬののふくの男はぽそりとつぶやいた。
「おめえは絶対ゆるさねえぞ」
静かに、全身に怒りを纏って睨む男。
その様子を見て、口角を上げたルゼーブは、その右腕を振り上げて自身が召喚した死の軍団に命じた。
「やつらを殺せ」
その言葉を合図に、一斉に竜牙兵達はその骨の体躯を軋ませて、二人に躍りかかる。
と、眼前で今までジッと佇んでいた夜叉が、その黒髪を振り乱して、人の言葉ではない咆哮を上げた。
「ゥラァアアァアアァアアアアアアアア!!」
竜牙兵達はその声に吸い寄せられるかのように一様に彼女に迫る。
そしてそれを待ち構えていたとでもいうかの様に、般若の面を被ったその美女は、目映く耀く鉤爪を振り上げて、竜牙兵達の只中へと、跳躍して飛び込んだのだった。