『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
ずずーっと、紅茶を飲んでからみんなを見渡すと、一色と小町は唖然呆然とした顔をしていた、が、由比ヶ浜はといえば、たははと半笑いで頬を掻き、雪ノ下は音を立てて紅茶を啜った俺をにらんでいた。いや、本当にごめんね。
「と、まあ、そんなわけで、黒幕っぽかったルゼーブも倒したし、こうやって一色も無事だったしな。とりあえずは万々歳ってとこだろ。ただ、あの後はちょっと大変だった」
「あの後って、あのヒッキーが呪文を使った後ってこと?なんか、すんごいのが、どばーって、どどどばーって穴から出てきて、雲がなくなっちゃったんだよ!ぐわぁあああっっって!」
というのは当然由比ヶ浜、身ぶり手振りを加えているが、なんのこっちゃさっぱりわからない。
「ま、要はあのじゅもんの後だな。当然だが、威力がでかすぎて、崩落しちまったんだよ。あわや生き埋めだった」
「なら、どうやって逃げ出したのかしら?全員助かったようなのだけれど、偶然……というわけではなさそうね」
「その通りだよ、雪ノ下。あの時、咄嗟にフェルズたちを探したんだが俺には見付けられなかった。が、そこでとーちゃんだ。どうも、気配でどこに誰かいるか分かるらしくてな、落ちてくる岩石を吹き飛ばしながら、壁に穴開けたりしながら、フェルズとゼノスたちはおろか、途中で俺たちに襲いかかってきたやつらも纏めて助けちまったんだ。ま、最後の最後で急に暴れだした平塚先生がみんなを殺そうとしたもんで、とーちゃんが先生をぶん殴ってふっとばしたら、どうもそっちがダンジョンだったみてえでな、二人してそのまま、またダンジョンに入っちまった。で、俺たちはといえばリレミトで脱出したってわけだ。でも、驚いたよ。まさか地上でまだあのジャイアントとかが暴れてたからな。ルゼーブ倒したから、てっきりもう安全だと思ってたのに」
「あー、それねー。あたしたちも大変だったよ。なんかさ、あの幽霊みたいなの倒せる人他にいなくてさ。ずっと二フラムつかってて疲れちゃったし」
「そうね、私にはゴースト用の魔法がないからひたすら由比ヶ浜さんの援護に努めていたわ」
と、言いつつ頭を差し出してくる二人。俺はいつも通りなでりなでり……
「ま、本当に無事でよかった。お疲れさん」
「うふふ」「えへへ」
「ストーップ!」
と大声をあげるのは小町。
なんでそんなに目をつり上げてにらんでんの?お兄ちゃん泣いちゃうよ?
「ちょっとお兄ちゃんたち。さっきから聞いてればワケわかんないことばっかりだよ。平塚先生があの骸骨を倒しまくった?オルテガさんがあのでっかい巨人を3体も瞬殺した?んで、おにいちゃんが邪神の人をやっつけた?そんなの信じられるわけないでしょ?」
「ないでしょたって……なあ?」
「ねえ……」「そだね……」
「って、先輩たちなんで当たり前みたいな反応なんですか?だってあの巨人ですよ?オラリオのみんなが寄って集って全然歯がたたなかったんですよ?それを先生とオルテガさんの二人だけでなんて……」
「あのね、いろはちゃん」
由比ヶ浜が一色の肩に手をおいて、にこやかに微笑む。
「オルテガさんだから、仕方ないよ。考えても無駄だよ」
愕然となる一色と小町。
由比ヶ浜のおっしゃる通りごもっとも。考えるだけ無駄無駄。あの人に常識は通用しない。
そんなことを思っていたら、階段をとんとんとんと降りてくる足音が。
「ただいまー、はあ、つかれたぁ~。あ、八幡くん、やっと気がついたんだね、良かった良かった。あれ?ダークエルフさんは?」
言いながらこの部屋へ入ってきたのはルビス様……と、真っ黒なローブをすっぽり被ったフェルズの二人。ルビス様はキョロキョロと辺りをみまわしているが、フェルズの奴はまっすぐに俺にむかってあゆみよって、そしていきなり抱きついてきた。っておい、抱きつくのはやめろ!!骨が、骨が刺さってるから!!
「八幡君、本当に良かった。良かったぞ!わ、私はずっと心配していたのだぞ」
「いいから、わかったから離れろ、フェルズ!もう大丈夫だから、なんともないから」
渾身の力で奴をひきはがしてから、俺も立ち上がった。
まったく寝てたら誰にどうやって襲われるかわかったもんじゃない。
「んで、ダークエルフさんはどこ?」
まったくなにも気にした様子のないルビス様が椅子によじ登ってちょこんと座ってそう聞いてくる。
「ああ、さっき俺が起きてから帰ったよ。今度飲もうって言ってたから、また会えんだろ」
「そうなんだー。ちょっとあの娘に聞きたいことあったんだけど、ま、いっか。それよりも八幡君。これ」
「なんすか?」
ルビス様はローブの内からごそごそと紙切れのようなものを3枚と、金色の大きなメダルを取り出して、俺に差し出してきた。
これがなんなのか、俺にはさっぱりわからない。由比ヶ浜も雪ノ下も同様に不思議そうな顔になっている。
ルビス様はそんな俺たちの顔を見ながら説明を始めた。
「まずはこれね、ギルドからの『感謝状』。今回の邪神討伐と人命救助についてのだって。でも、邪神がいたってことは伏せておいてとか言ってたよ、なんでかな?よくかんなかったけど、『ありがとー』って貰っておいたよ」
「へー」
そんなのがあるのか。言われてみれば、卒業証書とかに似ていなくもない。周りに金色でなんかの紋様があしらってあるし、ま、なんて書いてあるか全然読めねえけど。
邪神のことを秘密にしろってのは何となくわかる。桁違いの力を持ったやつらが実は裏で暗躍してましたなんて聞いた日には、それこそ今のオラリオの平和はおしまいだろう。そもそも原作にカーディスなんか出てこないしな。
それを受け取った俺に、今度は少し大きめな細長い羊皮紙と、金のメダルを差し出してきた。
「これは?」
「えーとね、なんか八幡君たちが今回倒した『ファイアジャイアント・ロード』がね、伝説級モンスターになるとかで、止めをさした八幡君たちに称号を与えるんだって。えーとなんだったかな?たしか『エンシェント・ジャイアント・ロード・スレイヤー』とかなんとか」
「ふ、ふーん」
もらった紙には大きく何かの文字が書いてあるが当然読めない。でも、そのエンシェントなんとかって書いてあるんだろう。もらった金のメダルにもなにかそれっぽいことが書いてあるように見えた。
なんというかこそばゆいな。
別にたいしたことはしてないしな。それを言ったら、あの巨人とほぼ同じ奴を3体瞬殺したとーちゃんの方がよっぽどすごいだろうって話だが、どこにいるんだか分からないし、そもそもとーちゃんの存在自体がこの世界最大の脅威と言えなくもないまであるしな、はは……。
それにしても舌を噛みそうなくらい長い称号だな。もっと短くならんものか、『ジャイアン・スレイヤー』とか。いや、名乗ったとたんに間違いなく仕返しされちゃうな。うん。
「んで、その最後の奴はなんですか?」
俺は最後まで持っていたきっちりと細かい文字がたくさん書かれた紙を見つめてそう問いかけた。
ルビス様はそれを持ち上げながら、ひらひらと揺らして眺めているが……
「あ、これね。私もよく分かんないんだけど、これを持って返ってみなさんで相談してくださいって、ウラノスさんが言ってたんだよ。どういうことだろうね?」
って言われても、俺にわかるわけねえし、でも、なにか嫌な予感がぷんぷんするんだが。
「え、えと、ルビス様?ですから、それはなんなんですか?」
「えとね、私の『契約書』だって。えと、そもそも『契約書』ってなに?」
「「「「!?」」」」
全員同時にびくりと跳ねた。
というか、ルビス様が契約書を知らないで契約書持ってる時点でもはや大やけどの予感しかしないのだが。
俺はあわてて隣にいるフェルズに声をかけた。
「おいフェルズ、お前この契約書の内容知ってるだろ?教えろ」
俺の言葉にびくりと反応するフェルズ。
そして奴はその白骨の顔面にひや汗を垂らしているようにしか見えないほどの、怯えた挙動で話始めた。
「知……っている。それは、君たちがこの世界にきてすぐに、ルビス様が
「「「「え?」」」」
やばい、もう嫌な予感しかしない。
もう聞きたくないからぶんぶん首を横にふって合図しているのに、フェルズのやつもぶんぶん横に首を振りながらガクガク震えながら口開こうとし始めるし。
「そ、そ、そ、そそそその契約の内容は……」
やめろー。いや、やめろください。
俺の願いもむなしく、ついにフェルズが口を開いてしまった。
「『異世界人の居住を認める代わりに、異世界人が起こした全ての事案に対し、損害の保証をルビス様が負う』と。つまり、今回壊れた全ての家屋、道路、オラリオの外壁、それに被害に遭った人々への見舞金や生活補償金……云々かんぬん……」
「だからね、お金払わなくちゃいけないんだって。いくらだっけ、フェルズさん?」
あっけらかんとそう聞くルビス様。
俺はゴクリと唾を飲んで、フェルズの言葉を待った。
「い、い、い、……」
ガタガタ震え始めたフェルズ。俺たちはそのやつの言葉を聞いて真っ白に燃え尽きたのであった。
「いっせん……億、ヴァリス……」
「だって、私お金のことよくわかんないから、八幡君たち宜しくね」
てへりと笑ったルビス様。
契約は、ちゃんと理解できる人と一緒にしてね……
と、そういえば昔、実の母親に、絶対にその場で契約はするなって言われたなーとか、そんなことを俺は思い出していた。