『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「べ、ベル・クラネル!?き、貴様、なぜ、そんなに……つ、強くなった!?」
「僕だって……いつまでも、守られてばかりじゃないんだぁー‼『ファイアァ・ボルトォオー‼』」
その時、オラリオの全市民はあの時の炎の煌めきを再び見た。
紅蓮の炎に包まれ吹き飛ばされるその城壁を‼
そして、崩壊していく廃城を‼
この日……
【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】で行われた
だが、これは開始直前にはかなりのオラリオ市民がこうなるであろうと予想していたことでもあった。
なぜなら……
【ヘスティア・ファミリア】にはこのオラリオにとっての『英雄』が存在していたのだから……
× × ×
【ヘスティア・ファミリア】が今回投入した戦力は全部で5人。
一人は言うまでもなく、首魁であり、たった今廃城ごとヒュアキントスを吹き飛ばしたベル・クラネルである。
この戦……彼には4人の仲間がいた。
一人は【ヘファイストス・ファミリア】より移籍した『ヴェルフ・クロッゾ』。
そしてもう一人、正体不明の謎のフードの人物。
この二人が先陣を切り、たった二人で城を囲む城壁を破壊した。
そう、二人が使ったのは魔剣。
だが、普通の魔剣ではなかった。
ヴェルフが用いたのは幅広の大剣。その魔剣からはとてつもない炎の激流が放たれ、廃城の壁をみるみるうちに焼き崩した。
謎の人物の持つのは細身の直刀。その魔剣からはあの日、天を焦がしたあの稲妻を髣髴とさせる雷撃が放たれ、獄炎でぼろぼろになった壁をあっという間に吹き飛ばした。
だが、その攻撃は止まなかった。
通常の魔剣は、その自身の放つ魔力によりその刀身を焼き、そして数度の使用の後に損壊することになるが、彼らの魔剣は違った。振るえども振るえどもその威力は衰えず、そしてその剣はまるで生きているがごとく強く強く輝きを増していった。
後に、彼、ヴェルフ・クロッゾが使用した魔剣は『雷神の剣』、そしてその謎の剣士が使用した剣はヴェルフ自身が鍛え上げた『雷光剣』(ただし、ヴェルフはこの剣を『
その二振りの魔剣により、完全に廃城外部は崩落。
そんな中を一人の東洋人の女剣士が突入した。それは【タケミカヅチ・ファミリア】から移籍した『ヤマト・命』であった。彼女はかつてベル・クラネルたちを死の縁に追いやった行為への自責の念もあり、今回移籍し加勢したわけだが、そんな彼女は突入と同時にあるアイテムを湧き出る相手にむかって投げつけた。
それは冒険者たちの上空で炸裂し、そしてあたり一面にその粘着性の高い白い糸をまき散らした。
これによりその場にいたほぼすべての【アポロン・ファミリア】の団員が行動不能に。
この白い糸の正体が、あのダンジョン深層に生息する、デフォルミス・スパイダーの糸であることを理解できる者はこの場に居なかったわけだが。そもそも、粘着力の強い糸を獲得しようとしたら、なるべく早めに採取しなくてはならず、当然こんな地上で得ることはできるわけがないわけだから気が付かなくても仕方がない。
命は、ベル・クラネルから受け取ったこのアイテムの出どころはわからなくとも、躊躇いなく使用した。そうすることで彼への贖罪が叶うと信じていたから。
そんな行動不能に陥った敵陣の真っただ中に、あるモンスターが突如として現れた。
小柄なその体躯は人間の子供ほどの大きさ。だが、その顔はシワが刻み込まれ醜く崩れており、そしてその頭部には特徴的な深紅の帽子が。
『レッド・キャップ』と呼ばれる、上位種のゴブリンのいきなりの登場に【アポロン・ファミリア】の団員は驚いた様子をみせるが、たった一匹のこの種のモンスターに集団で遅れをとるはずがない。通常であればの話だが……
一様に武器を構え、そのモンスターの排除にうつろうとした彼らの前で、レッド・キャップはその醜く広げられた口をつり上げ、舌を出して笑みを浮かべた。そして……
『ばあっ‼』
声を上げ、そのまま袖からするりと伸ばした小さなロッドを冒険者たちへと向ける。と、その刹那……
急に光だしたそのロッドに取り付けられた青い石から、冒険者へ向けて凄まじいエネルギーの奔流が光となって溢れだし彼らを飲み込んだ。
周囲に木霊する絶叫。そう、彼らは、あっという間に吹き飛ばされ一瞬で全員戦闘不能に陥った。
もしこのとき、あの地下深層にてワレラたちとカーディスの死闘を目撃した者がいたとしたなら、この極太レーザーがあのカーディスやカーラが放った『ライトニングボルト』の魔法と同じであったことを理解できたであろう。
そう、このレッド・キャップの使用したロッドこそ、あのファイアジャイアントが落としたドロップアイテム、『ロッドofライトニング』であったのだ。
あのジャイアント戦の最後、この発見されたアイテムの占有を巡り、止めを刺したデカルチャーズのワレラ、リヴェリア、ベルの3人のうちで、ワレラとリヴェリアが辞退したことでベル・クラネルがその所有者として選ばれることになった。もっとも、レベルも低く、もっとも果敢に挑んだ彼を称賛する声も多くこれは当然の結果ではあったのだが。
そんな彼がその貴重なアイテムを託した人物こそ、今ここでその魔力を解き放ったレッド・キャップであり、そしてそんな
『ベル様……リリはお役にたてましたか?』
× × ×
「勝った!勝ったよ、ベル君!ねえ、ヒッキー、ゆきのん!」
「ああ」「そうね」
俺は隣でぴょんぴょん跳んではしゃぐ由比ヶ浜を見つつ、俺は目の前で起こったあまりのワンサイドなヌルゲーに冷や汗をかく。
そんな俺たちは今、オラリオの東メインストリートの上空に展開された、巨大な遠隔透視魔法のスクリーンを大勢の市民たちと一緒に見つめていた。
勝負が決した瞬間、ここに集った大勢の民衆……いや、オラリオ全域で喝采の声が上がり、空気が振動したのだ。
その熱狂振りたるや凄まじいもので、ここは浅草のサンバカーニバルか三社祭かと見間違えるほどの白熱ぶり。もうね、人混みに酔ってふらふらですとも。
そしてそこかしこで、ベル君たちを絶賛する声が上がる。
「さすがは『リトル・ルーキー』だぜ!俺はずっと応援してたんだよ」
「まてまて、もうその二つ名は古い。いまや『エンシェント・ジャイアント・ロード・スレイヤー』だろ。俺はあの城みたいな巨人を炎で焼き尽くすとこ、確かに見たんだからな」
「すげーなお前。でもあれだろ?その称号持ってるのは【ロキ・ファミリア】の7人と、デカルチャーズの聖者ワレラさんもだろ?だったらその呼び名より、『
「ほんと素敵だわー。それにかわいいし、ワタシ彼に抱かれた~い」
「だめよ、彼は。なんでもあの【剣姫】と付き合ってるみたいよ」
「ええ!?違うでしょ?あたいが聞いたのは、女神様がお相手だってことだよ。それも何柱もタラシこんだって聞いたわ」
「「「「「「ベルさま~~~ん」」」」」」
喜色満面でベル君を称えたり、黄色い声をあげたり、そこかしこで尾ひれをつけまくられた噂が飛び交ってしまっている。
おいおいお前らいったいなんの話をしてるんだよ。
ベル君は頑張っただけだぞ、これホント。
というか、やばい……マジでアイテム渡しすぎた。
まさかこんなにベル君のワンサイドゲームが巻き起こるなんて夢にも思わず、あのファイアジャイアント戦やその後の調査云々や、ベル君たちの表彰の流れで時間のあまりとれなかったベル君たちについ、力を貸しすぎちまったみたいだ。
俺が回復したあと、気になってベル君を見にいけば、その周りをファンに埋め尽くされていた。
ジャイアント戦での功績を認められ、一躍『オラリオの危機を救った英雄』として称えられたベル君は、どこへ行くにも何をするにも取り巻きに群がられた。なにせあの【ロキ・ファミリア】を蹂躙した巨人を、たったレベル2の彼が助力があったとはいえ、討ち滅ぼしてしまったのだ。
しかも公衆の面前で。
見た者たちが熱狂しないわけがない。
止めを刺した片割れの俺はといえば、あの白装束でまだ出歩いていないから影響はまったくないのだが、もともと素性のわからない
それとリヴェリアさんに関しては、仲間があれだけぼろぼろになって自分が無傷で称号を得たことを恥じて、決して個人で称賛を受けとることはしなかった。むしろそんな声に対して、「それは違う、倒せたのは共闘した者たち全員のお陰だ、自分の力は関係ない」と反論を唱え続けたために彼女を追い回す輩は現れなかった。
だからなのか、そんな群衆の思いが一気にベル君へと集まってしまったように思うのだが……
そんなわけで、彼は訓練もままならず、原作の流れで、苦しんでいたリリを救いだすこともできず、時間を浪費し続けるはめとなった。
だから俺は力を貸した。原作の知識のあるこの俺がだ。
まず、破壊された教会では生活もできないし、熱烈なファンが詰めかけてきていたため、俺はベル君たちを俺たちの隠れ家へと招いた。
そして、そこで寝泊まりをしつつ、彼のために訓練の場を用意した。
人目につかず、激しい戦闘にも耐えられ、このホームにも出入りが可能……
そう、俺はベル君に
と言っても、別に俺のもちものというわけではない。まだ他の神々にも知られておらず、ギルドの調査も行われていないこの場所を、正気に戻った【イケロス・ファミリア】の生き残りであるディックスたちと、穏便に、穏やかに、優しい雰囲気の中で、鍾乳洞のような彼らの隠れ家をライデインで木っ端微塵に粉砕しながら交渉しただけだ。
今後は真面目に冒険者稼業に着くことを条件に、この人造迷宮のことを内緒にすること、そして、この中を俺達も利用していいということを認めさせた。
というのも、なんだかんだ言って、この迷宮を作ったのはディックスの一族。無断で地下にこんな大迷宮を作ったのは問題でしかないが、その1000年の情熱たるや俺の一存でどうにかしていいとは思えなかった。
だから、全てを不問とする代わりに、俺達にもここを使わせろと迫ったわけだ。当然だが、フェルズと神ウラノスにもこの件は了承させた。ゼノスのことといい、この
ま、どちらにしろディックスは快く応じてくれたのだがな。半べそかいてたのは見ないことにした。
こうして調達したこの広大な修練場にベル君だけでなく、稽古につきあってくれていたアイズたんとティオナさんの二人も招待した。もちろん、この場所のことは秘密にすると約束させた上で。
ここで彼らは数日間猛特訓に励んだ。
というか、どんな修行をしていたのか俺は知らないのだが、毎日帰ってくるたびにアイズたんが真っ赤になってベル君を見つめていて、それが日に日に熱を帯びてきているようでなんとも見ていてむずがゆかった。
と、そんな俺の後ろで、嫉妬の炎をメラメラと上げているヘスティア様が超怖くて怖くて、目を合わせられなかったがな。
ベル君はあのファイアジャイアントを討伐したことでレベルが一気に二つ上昇してこのときレベル4。
レベル2の成長限界だけでなく、レベル3の成長限界すら突破してしまったベル君が、いったいどれだけのアビリティの値だったのかうかがい知れないが、彼は現状すでにレベル4でオールSを獲得している。
つまり、この時点で彼は並居るレベル4冒険者を凌駕しており、さらにレベル5の冒険者をも脅かす存在になってきているということ。げに恐ろしきは、
そんな訓練の合間で俺は原作に準じてリリを、『神酒』の力で世界を支配していた【ソーマ・ファミリア】の呪縛から解き放とうと行動していた。
ただ、これに関しては結構簡単だった。
リリが【ソーマ・ファミリア】に対して持っていた2000万ヴァリスの借金を、要は誰かが肩代わりすれば良かっただけだったのだが、実は【ソーマ・ファミリア】の闇酒の密売の片棒を担いでいた【イケロス・ファミリア】は俺の手の内。
ディックスに優しくお願いして、【ソーマ・ファミリア】との縁も完全に切ってもらった。
これは俺達と悪事はもうしないという約束にもつながってくるため、ディックスは当然従った。
これに激怒したのは、【ソーマ・ファミリア】の団長ザニスだ。
ディックスが手を引いてしまったがために、『神酒』の密売ができなくなり、彼の【ファミリア】では、リリの裏切りについての処分云々どころの話ではなくなり、怒り狂ったザニス達が、ディックスや俺達を襲撃しようと動き始めたところへ、逆にベル君を突入させて一気に殲滅。ま、俺達も一緒に突入するつもりだったのだが、レベル4のベル君、マジで強すぎだ。疾風怒濤の勢いだった。
要は、リリを内へ隠し続けたザニス達をあぶりだすための、ディックスたちを使った芝居だったわけだが、見事に抗争状態になってくれたのでリリも無事に救出出来てこれで終わり。後は、原作の通り、ヘスティア様とベル君が神ソーマに身請けの為に、原価2億ヴァリスのヘスティア・ナイフを差し出して、そして、応じた神ソーマがリリの『
それにしても……
なんというか、リリのベル君を見る目が、まさしく恋する乙女のそれでもう半端ない。
原作でも、まだ弱くて、必死なベル君が、命がけでリリを救いに来たことで、それに心を打たれたリリは一気にベル君ラブに突き進んだのだけれども、今目の前でまさに英雄然とした戦いを繰り広げたベル君の姿を見たリリは、完全に目がはーとになっていた。
い、いかん……お、俺の後ろで唸るヘスティア様がめっちゃ怖い。
そんな中、原作で大活躍だったヴェルフはなぜか全くその姿を現さなかった。
理由は簡単。
雷神の剣のような、
で、
命姐さんは、ずっとヘスティア様とベル君のフォローを続けていた。が、その傍らで日本刀にしか見えない超鋭い刀で居合切りの稽古をし続けていたのだが、この人の刀切れ味良すぎて超怖い。あんなの触れただけで真っ二つだとか思ってたら超怖くなって、流石に殺人しまくられても嫌だなと、地下水道に身を隠しているデフォルミス・スパイダーに糸をもらって、簡易蜘蛛の糸爆弾を作ってベル君に預けたわけだ。
そして最後のメンバーとして参戦したあの謎の剣士。まあ、正体はリューさんなんだけど、彼女はベル君と俺の二人でお願いに行ったら、快く引き受けてくれた。
18階層で俺達が彼女達を助けたこともあるし、ベル君が一生懸命だってのもあるわけだけれども。
さて、そんなこんなで準備も万端。いざ
ルゼーブに操られていたとはいえ、ベル君は一度あのヒュアキントスに殺されかけているし、なんだかんだ今の流れは俺の知っている原作とはだいぶ違ってしまっている。
だから、万全を期して俺は、ヴェルフに雷神の剣の使用を許可して、さらにあの蜘蛛の糸爆弾の使い方もベル君に教えた。そして、ドロップ・アイテムの『ロッドofライトニング』も使った方がいいとベル君を説得した。
もうこれで大丈夫かな?忘れ物はないかな?
とか不安に胸をドキドキさせながらついに始まった
まあ、結局開始5分で決着はついてしまったのだけれども。
こうしてここに、新たに誕生した『英雄』の晴れの舞台としての