『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
修学旅行で一人の男子生徒が心に深い傷を負った。
信じていたはずの仲間は彼を蔑み、罵り、そして見捨てた。
彼が助けたはずの男子も、そして依頼を匂わせていたはずの女子も結局はなにもなかったかのように振るまい、そして日常へと戻って行った。
そう……
全ての人を助けたはずの彼は、誰にも理解されることなく、再び孤独へとその身を投じることになったのだ。
× × ×
彼は自分の所属する奉仕部の部室の扉の前で、深くひとつため息をついた。
この中にいる二人の女子。
かつて、彼が助けようと心を、その身を砕いた存在。
今、その二人に相対することを、彼は恐れていた。
だが、それでも彼は扉へと手をかける。
この後に起こるであろう事態を予期しながら……
ガラガラ……
「あ……きたんだ……ヒッキー……」
「ふう……あれだけのことをしておいて、良く顔が出せたわね。私たちがどれだけ辛かったか、理解できたのかしら?」
キッと目を吊り上げて睨むのは、同じ部員の雪ノ下と由比ヶ浜の二人。
あの修学旅行の告白の手伝いの時、今の関係を壊したくない葉山と海老名、振られたくない戸部、そして行動できずにいたこの二人の全てを助けるべく、彼は海老名へ嘘の告白をして振られるまでの演技をとった。
結果、海老名は彼を振り、そして、誰とも付き合う気がないことを宣言し、告白を未然に防がれた戸部は行動の全てを無かったことにすることができた。
これだけ機転を効かせたというのに、だがしかし……
この二人だけは、納得することはついになかった。
あの場において最善となるこの方法を思いついた彼ではあるが、それを実行に移す際、しっかりと彼女たちに問いかけたのだ。
『俺の方法でいいのか』と。
そのとき、彼女達は『任せる』と確かに頷いた。
それなのに……
彼は彼女らに激しく糾弾された。
なぜあんなことをしたのか、と、なぜ人の気持ちを考えないのか?と。
そんなことを言われる筋合いはない……
彼は言われながらそう沸き上がりかける憤懣を自らのうちに押し込めたのだ。
なぜわからない?なぜわかってくれない?
俺は確かに確認をとったんだ。
俺は何も悪くなんかないはずだ。
お前たちを守ろうとしただけだ。
それなのに……それなのに、なぜこうまで俺は否定されなければならないんだ!!
それが今の彼の本当の思いだった。
「あら?何も話せないなんて本当に最低ね。やはりあなたには人の気持ちは理解できないのね。国語学年3位はただの飾りね」
「ヒッキー、謝るんなら早くした方がいいよ。あたしもいい加減ムカついてるし。そのキモい顔で見つめるのやめて欲しいし」
二人の罵声に彼はぎゅっと拳を握る。
それと同時に急速にこころが冷えて行くのを感じた。
そして理解する。
ここには、俺の求める本物はないんだ……と。
彼はそのまま席へは着かずに戸口へと引き返す。
「帰るのかしら?なら別に止めはしないけれど、平塚先生に断りもなしに辞められるなんて思わないことね」
その声を背中に受けながら、彼は振り返らずに部室を後にした。
そして、少し間を置いてから再び扉が開く。
そこにいたのは、茶髪の爽やかなイケメンであった。
「あ、隼人くん、やっはろー?あ、そ、そうだ!あたし用事があったんだ!!じゃあね、ゆきのん、またねー」
「ええ……さようなら、由比ヶ浜さん」
彼……葉山隼人と入れ違いで、彼女……由比ヶ浜結衣は慌てて部室を出ていった。
その場に残された雪ノ下雪乃と葉山隼人の二人。
葉山は静かに口を開く。
「あいつ……ヒキタニは辞めたんだな」
「ええ、そのようね。でも退部届けは受理されていないからまだ在籍はしているのだけれど」
「そうか、でも時間の問題だな。なあ雪ノ下さん。俺は君が心配だったんだ。彼のようなおかしな人間は何をしでかすか本当にわからないからな。それが今回の件で良くわかったろう?だからこの際辛いかもしれないが、彼にははっきり言ってやった方がいいんだよ。君に言われて相当堪えただろうし、これで彼もやっと普通の一般生徒に戻れると思うんだ。だからあまり気にしないことだよ」
肩に力が入っていたのだろう、雪ノ下はフッと安堵のため息を吐いて柔らかな表情を葉山へと向けた。
「ええ、本当にその通りね。ありがとう葉山君。あなたの助言のおかげでしっかり彼には厳しく言えたわ」
「いや、たいしたことではないよ。俺はいつでも君のことを心配しているんだ。だから頼ってくれていい」
「本当にありがとう。今度お礼をさせてもらうわね」
その雪ノ下の言葉に葉山は表情には出さずに内心ほくそ笑んだ。
こんなにも上手くことが運んだということに……
× × ×
「もうゆきのんとの話は終わったの?」
「ああ、ばっちりだよ。ありがとう結衣」
「べつにいいよ、だって友達でしょ?」
にこりと笑った由比ヶ浜結衣は、サッカー部の更衣室のそばの木に背中を寄りかからせて目の前にいる葉山に話かけた。
葉山もそれににこやかに応じる。そして、カバンから少し厚くなった茶封筒を取り出して彼女に手渡した。
由比ヶ浜はそれを確認もしないで自分のカバンの中へとねじ込む。
そして薄く笑いながら「ありがと」と一言発した。
「それにしても隼人くん。こんな回りくどいことしなくても、ゆきのんに声をかければすぐに仲良くなれたんじゃないかなぁ?別にあんな人の気持ちも考えられないウザい奴相手にしなくてもさ」
ウザいやつ……
その一言に、葉山は腹の底から込み上げてくる笑いを必死にこらえて、そして答えた。
「ああ、そうだね。でも、俺はヒキタニが許せなかったんだよ。俺がこうして何年も雪乃ちゃんとの仲を回復させられないで苦しんでいるというのに、あいつは安穏と彼女のそばにその身を置いている。そしてあろうことか、馴れ馴れしく口を聞いて、それに一緒に活動してきた。俺にはそれが許せなかったんだ」
「ふーん。ヒッキーもかわいそう。これだけ嫌われてるのに全然気がついてないんだもん。同情しちゃうよ」
「いや、彼は君がいたからあれだけ図々しくいられたんじゃないかな?結衣のことを結構意識してたと思うけど」
「や、やめてよ。あたしだって選ぶ権利はあるよ。隼人君に頼まれなきゃこんなことやったりしないってば」
頬を膨らませて首を振る彼女に、いよいよ彼は耐えられなくなって吹き出してしまった。
「あ、憐れだな、ヒキタニ。自分に好意を持ってると思ってた結衣にまでこんなことを言われるなんて」
その言葉に由比ヶ浜はいよいよ不機嫌になる。
「なんか、やな感じー!あたしが悪いことしてるみたいだし。そんなこというなら、隼人君の方が悪いし。ゆきのんだけじゃなくて、優美子も姫菜も騙してるでしょ?おんなよけの盾?だっけ?大変だねー、隼人くん」
それに葉山は何も答えずただただ笑みを深くした。
そう、彼は満足していた。
自分の回りをまるでハエのように飛び回る鬱陶しいヒキタニ八幡をここまで追い込めたことに、至上の喜びを感じていた。
これでヒキタニは奈落の底。
そして俺は雪乃ちゃんと新しい関係を少しずつ築くことができる。
くくく……
ああ、たまらないなぁ……
由比ヶ浜とそのまま別れた葉山は、表情を引き締めなおして、サッカー部へと向かう。そう、主将の顔をして。
だが、そんな彼はついに気づけなかった。
校舎の影から彼を覗き見ていた存在には……
× × ×
奉仕部の部室を出た比企谷八幡は、虚ろな瞳のままでふらふらと自転車置き場へと向かっていた。
しかし、その途中、急速に気力がなくなり、動くことができなくなる。
彼は急遽自分のベストプレイスへとその行き先を変更した。
階段に腰をおろし、ふっと遠くに目をやると、テニスコートで部活をするクラスメートの戸塚彩加の姿。
いつもならこちらをみとめて手を振ったりしてくれるのだが、今日は相当練習に集中しているようで、ちらりとも見てくれない。
それに一抹の寂しさを覚えて、比企谷八幡は、はあ、とため息を吐いた。
そのとき……
「あ、あの……比企谷……さん?」
背後からおそるおそるといった具合で、か細い女子の声が……
女子に話しかけられるなんてあり得ないと思いつつも、彼以外に比企谷なんて名前のやつはそうそういないことを理解していた彼は、そっとその視線を後ろへと向けた。
そこにはメガネを掛けて手にプリントの束を抱えた地味な雰囲気の女子生徒。
肩までで切り揃えた黒髪からは、真面目な印象を受ける。
そんな彼女の腕には腕章が……
『新聞部』
比企谷八幡はそれをいぶかしげに見たあと、再び視線を正面に戻した。
彼にとって新聞部はあまり歓迎したくない相手であった。
なぜならば、彼は過去に新聞部の記事によって必要以上の中傷をうけることとなったからだ。
彼が奉仕部として手伝った文化祭。
そのさなか、自暴自棄になった実行委員長の相模を舞台へと戻すべく、彼は自らを犠牲にして相模を必要以上に糾弾。周囲の生徒……葉山たちへ見せることで、反感を一身に受けつつ、『彼の存在のせいで相模が仕事を全うできなかった』、そういうこととした。
しかし、事態はそれで収まらなかった。
この実行委員長の返り咲きを美談とすべく、葉山の献身的な行動を中心に学内新聞として張り出されたのだ。
当然だが、これによって浮き彫りになるのは、相模を貶めた比企谷八幡の存在。
記事にも一部、彼に関しての記載があり、実名がなくとも学内中に知れわたるのに然程の時間を有しなかった。
彼にとって新聞部とは悪感情はあっても良いイメージは全くない。だからこそ、彼は無視を決めた。
だが……
「あ、あの……比企谷さんがあの記事のことで辛い思いをしてしまったことは当然理解しています。わ、私は、それを謝りたかったんです。本当にすいませんでした。ごめんなさい」
彼の背後でがばりと、お辞儀をする衣擦れの音が彼に届く。
彼女は頭を下げたまま言葉を続けた。
「あ、あの記事を書いたのは、わ、わ、私なんです。こ、こんなに比企谷さんを傷つけてしまうなんて思いもしなくて……ほ、ほんとに、……本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさ……」
「あ、も、もういいです……よ」
「へ?」
彼はスッと立ち上がると振り向いて、その新聞部の少女に視線を向けた。その顔には恥ずかしそうな、申し訳なさそうな表情が見てとれる。
少女はその瞳に涙を溜めたまま、顔をあげた。
「その……あれは俺が悪かったんだ。あんたが記事を書いたことは関係ない。でも、謝ってくれて嬉しかったよ。ありがとうな」
その言葉に少女はにこりと微笑みを浮かべた。
そして、改めて彼をまっすぐに見つめた。
「わ、わたし、
「あ、お、お……僕は、ひ、ひきゃ、ひきぎゃやはちまん……です」
と、ガチガチになって答える彼に、彼女はにこりと微笑んだ。
「あ、知ってますよ。よろしくお願いします、八幡さん」
真っ赤になった彼に近づいた彼女は、深呼吸をしてから彼に改めて話かけた。
「あの……私、こんなことをいきなり言うのは違うと思いますけど、それでも、苦しんでる貴方を放っておけなくて……け、軽蔑されちゃうかもだけど、全部言います」
意を決した様子の彼女は真剣な目付きで彼を見つめる。
「あの……あなたのご友人の、葉山隼人さんと由比ヶ浜結衣さんですが……じつは……」
彼女はそう切り出した。
そう、彼女は全て知っていた。
あの文化祭での葉山隼人と比企谷八幡との確執から始まり、修学旅行であの結果を導き出すためにとった葉山の数々の謀略。そして、由比ヶ浜結衣との密約。
全ては雪ノ下雪乃との関係の回復のために、葉山が比企谷八幡を利用してきたという事実を、彼女はつつみ隠さずに彼へと伝えた。
そして、その証拠とも言える、ついさっき撮影したばかりのデジカメの写真も。
彼女はここに来る前に、奉仕部の部室での会話とその後の葉山の行動を全て見ていたのだ。
彼女はあの時由比ヶ浜が受けたとった茶封筒を写真にしっかりと納めていた。
つつみ隠さず話す彼女の正面で、顔色をどんどん悪化させていく比企谷八幡。
だが、順を追って聞き進むそのうちに、彼はその瞳に光を灯した。
全てを話終えた彼女は彼に言った。
「あ、あの……こんなお話をして本当にすいませんでした。でも、耐えられなかったんです。私のせいで貴方が苦しんで、それだけじゃなく、こんなにも酷い仕打ちを身近な人達にされてたなんて……私、なんでもします!貴方のためになんでもしますから」
その少女の言葉に、瞳に宿った光をそのままに、彼はそっと呟いた。
「本当にありがとうな。俺のお願いを聞いてくれるか?」
「ええ、ええ!なんでも言ってください」
ふうっと深く息を吐いた比企谷八幡はそっと呟いた。
「俺はあいつらを絶対許さねえ。復讐を手伝ってくれ」
「はい!!」
頬を紅潮させたカラを見つめながら、比企谷八幡は静かに決意した。
続く
× × ×
「ぎぃゃぁああああああああああああああ……ぁぁ、あ?」
絶叫して跳ね上がって周りを見た。
えーと、なんだ、これ?
「だ、だいじょうぶか?比企谷八幡」
「ミアハ、いったい何を飲ませたんだい?明らかに悪夢を見てるようじゃないか」
「うむ、おかしいな、そんなはずはないのだが……ナァーザは何も問題ないと言っていたし……なあ、ナァーザ」
「ふぇっ!!」
急に振られたナァーザさんが、ピンと跳ね上がって顔から湯気が出るほど真っ赤になってるし……
ヘスティア様とミアハ様達が話してるその横を見れば、ベル君とアイズたんにリリ。それに神ロキまでいる。
「だいじょうぶ?ヒッキー」
「安心して、八幡」
そう聞こえて首を曲げてみれば、俺の背後……というか、俺に寄り添うように手で背中を擦る由比ヶ浜と雪ノ下の二人の姿。
「って、うわあああああああああ!!」
「きゃっ!!」
「え?な、なにかしら!?」
「ご、ごめん、お前ら。お前らないがしろにして本当に悪かった。あの修学旅行のときは、俺もどうかしてたんだ。お前らの気持ち全然考えられなかったし、とにかく解決しなきゃってばっかで、本当にあの時は悪かった。頼む、頼むからゆるしてくれー」
「ちょ、ちょっとヒッキー?なに?修学旅行?え?あの嘘の告白のこと?だ、だいじょうぶだよ、全然なんともないよ。あのときはあたしも事情知らないで色々言っちゃったし、ごめんしなきゃいけないのは、あたしの方だよ」
「そうよ、八幡。あの時私は何もできなかった自分に自己嫌悪していただけなのよ。最善の策を考えて行動していた貴方に本当に酷いことを言ってしまったわ。本当にごめんなさい」
「へ?」
俺の肩を抱く二人にそう言われ、どうもさっきまでの頭の中のビジョンと言ってる内容に食い違いがありまくりで、めちゃくちゃ混乱してしまっている。
あれ?俺ひょっとして夢を見てたのか?
ん?そうだ、たしか俺は夢を見るためにここに来たはず……
「えと……俺、いままで寝てた?……のか?」
その言葉に由比ヶ浜は即答。
「そ、そうだよ。ヒッキーは『夢をどうしても見たいんだー』とか言って、ミアハ様になんとかっていう……「ユメミール
ゆめみーるあるふぁ……
「えっと、一応確認なんだが由比ヶ浜、お前、葉山に金を貰ったから俺に近づいたのか?無い色気まで使って」
「ちょっ!!無い色気って……んもう!そんなわけないでしょ!隼人君にはお金どころか、ジュースだっておごってもらったことないよ!ヒッキーに近づいたのだって、それは、え、えと、えーと、その、あの、あのね、えと、す、す、すすー「じゃあ、雪ノ下は」もう、最後まで言わせてよ!!ヒッキーが好きだからヒッキーのいる奉仕部に行ったの!!」
「お、おう」
顔を真っ赤にして、ふうふう言ってる由比ヶ浜に最後まで言われて、俺も胸がドクンと跳ねる。
でも、こんな公衆の面前でこいつみたいな告白は当然できねえ。だから、俺は由比ヶ浜の頭に手を置いて、力一杯くしゃくしゃ撫でた。
「え、えと、雪ノ下?お前は、葉山に言い寄られたりしてたのか?その、俺の悪口とか、葉山から言われたりとかしたことあるか?」
「そうね、ついこの前、ここに来る前に葉山くんに仲直りしたいようなことを言われたりはしたけれど、それまで彼から接触してくることは殆どなかったわ。それに、仮にも彼はあの葉山君よ?影で人の悪口なんて絶対言ったりしないわ。それは幼馴染みとして私が保証します。それと、彼と私の話は以前少しした通り、小学校の時にいじめられていた私を彼が助けることが出来なかったというだけのこと。勝手に彼が思い悩み苦しんでいるだけのことよだから、何も心配しないでいいわ」
と、つらつら言い終わった雪ノ下は、スッと俺に向かって首をかしげて頭を差し出してきた。
うっ……
これはあれだな、由比ヶ浜と同様に頭を撫でろと……
はい、素直に撫でり撫でリしましたとも。
そんな俺たち三人を周囲の連中がジト目で見てくるが……
ん?なんかアイズたんだけ、視線が違うような……
なんでベル君の頭を見てるの君は……
うん、なんだか、だんだん覚醒してきた。
そう、ここはミアハ様の薬局(笑)……【ミアハ・ファミリア】のホームの一室だった。
ここで俺は夢を見るために、ナァーザさんが作った新薬、ユメミール
俺はこの場に居合わせた全員を見る……
神様が3人もいるし、この原作の主人公の二人まで居やがるし(本編と外伝ね)!
「っていうか、なんでこんなに集まってんだよ!!さっきまで俺とミアハ様しかいなかったじゃねえか!!」
「うむ、それはだな比企谷八幡、それそれこれこれというわけで、私が呼んだのだよ」
「呼んだの
「せっかく被験者がいるのだ。顧客に声を掛けるのは当然であろう?」
「そ、そうだぜ、八幡くん。ミアハにはこの薬は優先して譲ってくれる様に頼んでいたんだ。だから当然ボク達は来るに決まってるぜ?」
「何を偉そうに、このド貧乏ドチビが!!先に買うたるって言ったのはウチらや!金もない癖にしゃしゃり出るやないぃ!!」
「なんだいっ、この糸目洗濯板!お金ならボクらだってこうして用意してあるさ!ちょっとオラリオで有名だからって成金気取りかい?」
「ぬあ!じゃがまるおっぱいが!」
「見栄っ張りエセ関西人!!」
「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」」
「ちょ、止めましょうよ神様」
「ロキ……人に迷惑かけちゃ……だめ」
額を突き合わせて唸る二柱の女神にそれぞれの眷属が抑えにはいってる。
そんな中を、フードを被った
「あの、ミアハ様?八幡様が飲まれたものは、この前の幸せな夢を見れる『ユメミール』ではないのですか?」
「おお、リリルカ・アーデ。そういえばまだお前たちには教えてはいなかったな。今回のこれはただのユメミールではない。『ユメミール
「な?」
「え?」
「うぇ?」
「へっ?」
「い?」
「えぇ?」
全員一斉に変な声を上げ、そして、ミアハ様を覗き見る。そして……
「と、と、と、ということはなにかい?ミアハ……この前見た、『ベル君とお花畑ラブラブデート』も、もう一度見れたりするってことなのかい?」
「ええー!!な、なに見てるんですか、神様」
「ああ、もちろんだとも」
「じゃ、じゃあ、リリが見た、『白馬の王子様ベル様ベッドツアー』もですかぁ?」
「えええー!!リリもなのっ!!何見てるの二人とも!!」
「当然だな」
「な、なら、ウチが見た、『ミニスカ猫耳メイドアイズたん』もなんかぁ!?」
「ロキ……刺しちゃうよ」
「あ、はいすいません、調子にのりましたごめんなさい」
「うむ、可能であるな」
「でも……そうなんだ……またあの夢……アイズお姉ちゃん……て」
「あ、あの、アイズさん?なんで僕の方を見ながらブツブツ言ってるんですか、ちょ、ちょっと怖いですから」
とかなんとか、ベル君達がみんなにやけながら、ブツブツ言い合ってるし。
そんな中で、頷き続けていたミアハ様だったが、ここに来て腕を組んでうーんと唸った。
「うむ、だがナァーザは予定通りの夢を見れたようだが、八幡君は……違ったのであろう?」
言われてコクリと、俺は頷くしかない。
当然だが、あんなそら恐ろしい夢を誰が好き好んで見ようなんて思うものか。
その様子を見つつ、再び頷いたミアハ様がナァーザさんを向く。
「ナァーザはどんな夢を見たんだ?」
「ひぇ!!」
急な質問に今度こそ真っ赤になったナァーザさんが今にも倒れるんじゃないかってくらい震えだした。
それをみつつ、その場の全員が、『聞いてやるなよ~』と冷たい視線を一斉にミアハ様へと送った。
「ねえ、ヒッキーはどんな夢を見たの?」
「ああ、実は、かくかくしかじか……って感じだった」
「えええ!!あ、あたしがそんなことしたの!?隼人君と一緒に!?そんなばかなー」
「それよりも、私も八幡にそんなことを言ったと言うの?信じられないわ」
「俺だって信じたくねえよ。そもそも、あの時あそこまでお前らに嫌われたら、一緒にクリパとか料理教室とかできなかったろうし、今絶対一緒にいねえよ。っていうか、あの『織 伽羅』っていったい誰だよ?」
と、言いつつ、多分『オリキャラ』なんだろうなーとか、勝手に解釈したけどな。
ま、とはいえ、夢で本当に良かった。
マジでビビったし。
あんな状況に実際に放り込まれたら、もう普通に誰とも会話なんかできやしねえよ。っていうか、100%鬱病になって外出不能になる自信があるな。って、もともと外出しない俺にとっちゃ大した違いじゃねえか、はあ。
そんなこんなで、安心した俺は、大きく伸びをして帰り支度を始めようとした。
そこへ由比ヶ浜の声。
「そういえばさ、ヒッキー。ヒッキーは夢を見ようとしてきたんでしょ?どんな夢を見たかったの?」
「え?べ、べ、べ、べべべべべつにいいだろ……そんなの」
「ええ?教えてよー!あ、そうだ!じゃあさ、こうしよ。確認の意味も兼ねて、みんなで一緒に見るの!ね!そうしよ!!」
「はああ!?だ、ダメにきまってんだろうが!!」
「なんでよ!!」
「なんでもなの!!」
「えー?ヒッキーの夢みたいよー!ねえ、ゆきのんもそうでしょ!?」
「え、ええ。そうね、結衣さんがそうしたいなら、そうしましょうか」
「いやいやいや、ちょっと、雪ノ下さん?あなた由比ヶ浜さんに甘すぎると思いますよ」
「あら、別にかまわないのではない?私たちは三人で付き合っているのだから、一緒に夢を共有しても問題ないわ」
いや、それプライバシー侵害しまくりだからね。
まったく、こいつらは、鋭いンだか、鈍いンだか、本気で分からねえ。
くっそ、言えねえ。
絶対言えねえ。
素っ裸の雪ノ下と由比ヶ浜と三人で……なんて、げふんげふん。
わいわいがやがやと始まった俺達全員をよそに、ミアハ様が、俺が飲んだユメミールαの容器を手にもって首をかしげている。
その瓶の中には、俺が見たい夢の情報の書かれた魔法的な羊皮紙が。
それを眺めながら、ミアハ様はポツリとつぶやいた。
「確かに『HACHIMAN』と書いたんだがなあ?」
了