『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
俺は今、例の生徒指導室に居る。目の前には当然世紀末覇王もとい、正義の鉄拳教諭、平塚静先生が鋭い目つきで俺を見据えて座っている。まさに俺は蛇に睨まれたカエル……いや、拳王軍に睨まれた通行人Aと言ったところか。お願いします……命だけは……
「比企谷ぁ~……なんでここに呼ばれたのか、分かっているな」
「さ、さあ……清廉潔白が信条なんで……なんのことか、さっぱ……」
ぶおん!
風を切る音を立てて100倍くらいに巨大化した拳が、俺の頬を掠めた。ま、マジで死ぬな...これは...
「私に適当なことを話すと、どういう目に会うのか、まだ分かっていないようだな、君は」
「い、いえ……そんなつもりはありません。ただ、さっきから気になってることがありまして……」
「なんだ、言ってみろ」
先生は俺のすぐ横に立つと、腕を組んで見下ろした。いつも通りのポーズ。そう、ポーズだけならいつも通りなのだが……
「せ、先生……なんで白衣の前のボタンを全部留めてるんですか? それに……なんで今日はパンツスーツじゃないんですか…」
どう考えてもおかしい……。いつもはシャツにパンツルックで、白衣をはためかせる男らしい先生が、今日はまるで女医のようにきちんと白衣を身に着けている。
先生は待ってましたとばかりに口元をニヤリとさせると俺の後方に向かって歩いて行った。暫く固まっていると、背後のこの部屋の唯一の出入り口である、引き戸の辺りから、カチリと鍵が掛かる音が聞こえてきた。
さっきから嫌な予感しかしない。今日はなんて日だ! ついさっきの由比ヶ浜といい、雪ノ下といい、やっとあの地獄から解放されたと思ったら、今度は先生に拉致されてしまうとは……
先生が何を考えてるのか全く分からないが、どうやら普通のお説教ではないようだ。不意に俺の耳元に囁くように先生が口を開いた。
「さっきの事は見なかったことにしてやろう」
「本当ですか? あ、ありがとうございます」
ほぅ……これで何とか停学にはならなくて済みそうだ。
「しかしな」
先生が俺の両肩に手を置いて話す。
「だからと言って、君たちの不純交友を見逃す事は出来ない。まさか、君たちがあそこまでの関係になっていたとはな……監督者の私の責任だ」
「い、いや、ちょっと待って下さい。さっきも話しましたけど、本当に何もありませんよ」
ただ、雪ノ下と由比ヶ浜が全裸で、二人に押さえつけられた俺が下半身丸出しだっただけ……あ、これ完全にアウトでした。
先生は俺の頭をポンと叩いた。そして、突然優しげな表情になって、俺に顔を近付ける。
うっ……ヤニ臭い!!
「まあそれはいい。むしろ健康な男子はそうでなくてはな……比企谷……君は成長した」
は?何言ってんだこの人は……成長も何もただ下半身丸出しだっただけで……
「そこでな……成長した君に、一つ手伝ってもらいたいことがあるのだ」
先生は、赤い顔をして俺のすぐ前に立つと、おもむろに白衣の胸の辺りのボタンに手を掛けた。
な、なに?どういうこと!? お、俺、襲われちゃうの? 大人の階段上っちゃうの!?
ゴクリ……
唾を飲みこんで、先生を見上げる。そして、次の瞬間……先生は白衣を脱ぎさった。
俺は咄嗟に目を瞑る……
うう……なんで、俺ばっかりこんな目に……
「ほら……目を開け、比企谷。こ、こんな姿……私だって恥ずかしいのだ」
い、いや、恥ずかしいなら止めればいいでしょ……と、俺の無言の抵抗もむなしく、先生は俺の両目に指を食い込ませて、瞼を無理やり開かされる。新手の拷問なのかよ!
目を開いたそこには……
「ど、どうだ……私のこの姿は……お前の率直な感想を聞きたい」
そこにあったのは、ぱっつんぱっつんのスクール水着を着た、黒髪ロングヘアーでヤニ臭い一人の顔を赤らめた女教師の姿。
うっわ……!
とにかくおかしい……まず体形に全く水着が合ってない。っていうかいろんなところが食いこみすぎてて目のやり場に困るのはおいて置くとして、とにかく痛い……痛すぎる。
ボッチで彼女のいない歴年齢の俺が言うのもなんだが、一人の真面目(だと思っていた)な成人女性(アラサー)がする格好では、間違いなくない。ありえない。ドン引きである。
「先生……どうしちゃったんすか」
「うっ!?」
俺のその一言に、先生は顔を引きつらせる。そして、なぜか俺の股間を凝視する。
って、ど、どこ見てんですか!
「だ、だってぇ……」
先生が急に半泣きで甘えたような声を出した。
「この前の合コンの時に、『私、高校の先生やってまーす』って、言ったら、男性陣が、『静さんなら高校のスクール水着とか着ても、きっと似合うねぇ』とか『スク水で迫られたら堪らないねぇ』とか言ってたからぁ、ちょっとその気になっちゃってぇ……で、でも恥ずかしいから本当にその気になってくれるか男の子の反応が見たくてぇ!!」
先生は言いながら最後は半べそをかいて、ぼそぼそ小声なる。
「雪ノ下と由比ヶ浜の二人を手玉に取るくらいの比企谷が興奮したら、これも有りかなって期待してたのにぃ」
いやいやいや……全然手玉に取ってないし! そもそも、俺の興奮関係ないでしょ、その合コンとは!?
俺はなるべく先生の方を見ないようにしながら言った。
「あのですね……先生。先生の魅力はそんな水着とか、俺の興奮とか関係ないですよ。先生はそのままで……そのままの平塚静だから魅力的なんですよ。もっと自信もってください」
そう、俺はこの男らしい先生を尊敬している。この人はいつでも、俺達を見ていてくれる。間違ってもいいと言ってくれる。俺にとって先生は、この世界で唯一無二の大事な存在なんだ。こんな素敵な大人は他にいない。
俺は自分の思いの真っすぐさを確信して、先生に顔を向けた。すると……
「比企谷~! 君はなんて良い生徒なんだぁ」
え?
急に先生がぱっつんぱっつんのスク水姿のまま、俺に抱き付いてきた。はあああ? なななななんでいきなり抱き付くんですか? 話の流れ解ってます!? うう……色々なところが当たって、見えて、や、やばい! 柔らかい! ヤニ臭い!!
「あれぇ?」
先生は抱き付いたまま、なぜか俺の股間に手を当てて、嬉しそうな顔を俺に向ける。と、次の瞬間……
ばったーーん!?
「きゃ」「わッ」
短い悲鳴と共に、俺達の脇の間仕切りの衝立が倒れてきた。そこにいたのは。
「お、お前ら…」
椅子に座った俺と、俺の股間に手を伸ばすスク水アラサー教諭の二人を、雪ノ下と由比ヶ浜の二人が気まずそうに見上げていた。
了
平塚先生って可愛いよね。