『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
IKE〇とは……
スウェーデン発祥で、ヨーロッパ・北米・アジア・オセアニアなど世界各地に出店している世界最大の家具量販店であり、世界的にブランドが浸透している。家具にはそれぞれスウェーデン語の名前がついている事が特徴。郊外に「イケ〇ストア」と呼ばれる大規模な店舗を構える方法で展開している(wikipedi〇より抜粋)
つまるところは『巨大な家具屋』である。
この施設が湾岸エリアへと進出を果たし、元超大型屋内スキー場跡地に完成したことは、千葉に住むものとして本当に喜ばしいことであり、そして我が故郷の価値がもう一段高まったことを如実に表していた。
さてそんな家具屋ではあるが、今俺達がいるのはその家具屋にあってある種異色な場所である。
「わあ、ヒッキー見てみて、ミートボールだって! こんなに大きなのがいっぱい入ってこの値段とかほんと凄いね!」
そんなことを言いながら俺の腕に自分の腕を絡めて、頭のお団子をぴょこぴょこ飛び跳ねさせているのはアホの子こと由比ヶ浜結衣その人。
あのですね、ミートボールがどうとか言いながら俺にもっと巨大なミートボールをバインバインぶつけるように飛び跳ねるのはそもそも反則のような気がするのですけどね。
そんな俺にはお構いなしに、俺を挟んでちょうど反対にいる人物に向かって前の人がよそってもらった真っ黒なカレーについてのあれ失敗作だよね、ね、ね、と驚きを伝えまくるお団子さん。そんな彼女にむかって、『由比ヶ浜さん、あれはもともと黒いのであって、貴方お得意の消し炭調理法とはまったくの別物よ』とかそんな辛辣なことを宣いながら俺のそでをちょいとつまんで離さないでいるのは、雪ノ下雪乃その人である。
そしてその中央で二人にあっちへこっちへ連れまわされている俺の名は、当然比企谷八幡……
ここは幕張にある巨大家具店、IKE〇……の広大なレストランコーナー。そこで昼食を購入すべくまるで学食に並ぶかの様に俺たちは列となって順番待ちをしている最中である。
ちなみに、そんな俺たち3人は、3人で付き合っている……
うん、大事なことなのでもう一度言おう。
そんな俺たち3人は、3人で付き合っている……
『らしい』
そうらしい。
まだまったく理解できていないが、俺たちは3人で付き合っていて、そして今はこのIKE〇に3人で家具を買いに来ているのだ。
なぜだ!
いや、ほんと八幡、なんで? なんでこうなった?
とりあえず適当にメニューを頼んでトレイにのせたそれの会計をしてテーブルに着く。すると当然のように左に由比ヶ浜、右に雪ノ下が座ってくる。いや、おかしいでしょ、この配置。3人でテーブルなら、こっち俺一人、反対側女二人の方が安定するでしょ? しかもこの混みあってる店内で片側3席占領とかいくら相席当たり前でも、対面に座る人たちすごくすわりにくいよね! そうでしょ!
うう……なんなんだこれは……由比ヶ浜も雪ノ下も俺にぴったり寄り添ってきてるし、いったいこれは何の罰ゲームだよ。というか、なんでふたりとも恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなんだよ。
これはあれか、前によくやられた『比企谷菌感染我慢ゲーム』か?
中学の時に、『お前負けたんだから比企谷菌感染な! 比企谷に触ったまま1分我慢しろよ。いいか、楽しそうにしてろよ』とか、そんなことを言われた連中がかわるがわる俺の背中に手をおいて、必死に苦笑いを浮かべて写メを取られまくっていたあの光景。まさか、今、それのハード版を喰らわされてるんじゃなかろうか?
まさか、こいつらにそんな仕打ちをうける羽目になったとでもいうのかよ。
いやまじでなんなんだこれは。
せっかく好きなハンバーグなのに、まったく味がわかりゃしねえ。
二人を見れば、楽しそうに食事をしながらおしゃべりをしているし、定期的に俺に抱き着いてきたりしている。
いや、だからこれはいったいなんだ。
「比企谷君、由比ヶ浜さん、そろそろ見て回らないと時間が無くなってしまうわ。このお店は最後に商品をピックアップしなくてはならないのだし、急いだ方が良いと思うのだけれど」
「あ、そだね。ここすごく居心地がよくてついのんびりしちゃったね。じゃさ、ヒッキー、ゆきのん、行こ!」
「お、おお」
「ええ」
ぴょこんと立ち上がった由比ヶ浜が俺たちの食器をさささっとまとめるとそのまま返却口に返しに行く。
残された俺と雪ノ下。
ちらりと雪ノ下を見れば、その手に持ったメモ用紙にめちゃくちゃきれいな字で書かれた購入品のリストを眺めているところだった。
「えーと、比企谷君? 一応あなたの意見も聞いておきたいのだけれど、ベッドのサイズはキングサイズ一つではなくてクイーンサイズ二つということでいいわよね」
「へ?」
いや、良いわよねって、何がどうなったらそんな判断になるんだよ。いやいや判断基準がまったく分からないんだが。
「あ、あー。それはあれだ。それでいいんじゃねえか?」
「そう、ありがとう。ではそうするわね」
え? これでもう決定なの? なにそれ八幡全然わかんない。あれ? 今こいつ何を買うって言った? ベッド……たしかベッドって言ったよな。そうベッドだ。ペットじゃなくて、ベリトッドでも、ベヘリッドでもないベッドだ。しかもキング? クイーン? なに? 時間飛ばしちゃうの?、もしくは戻しちゃうの? ってか、完全に俺の『この二人とこうなっている理由』が消し飛んでしまっているんだが。うわぁ、ぜんぜんわからん。
「おまたせー。じゃあいこっか」
「ええ」
帰ってきた由比ヶ浜が俺の腕に自分の腕を絡みつけてくる。そして雪ノ下も同様に今度は完全に俺に抱き着いてきた。いや、え? ちょ、ちょっとまて。いったいどうしちゃったんだ今日は。お前らいったいなんなんだ。
二人に引っ張られて行った先はたくさんの小物が売られている一階の売り場。
蛍光灯やらシャンデリアやらの照明コーナー。
カーペットなどの敷物がぎっしり用意されたコーナーや、ペールボックスやキッチン用品などのサニタリーコーナーに壁掛け用の絵画やポスターなどの売られたコーナー。
そんな多種多様なものが売られている中を歩きながら、二人はこれがいいかな、あれがいいね。などと言いながら俺が手にした籠に小物を次々と放り込んでいく。
「ヒッキーもちゃんと選んでね。せっかく来たんだからね」
と、由比ヶ浜に言われるも、一体何をどう選んでいけばいいのか皆目見当がつかない。え? なに俺も絶対買わないといけないやつなの?
どうしていいやらと、視線を雪ノ下の方へと向けてみれば……
「にゃー……にゃぁ?……にゃー……」
と、腹を出して寝転がっている猫の置物に話しかけてるし。
何この子、周り見えてないのかしら。非常にほほえましい物でも見る目で周囲の家族連れが貴女を見つめて微笑んでいますよ。
「ねえねえ、ゆきのん。この絵! この絵買おうよ! 仔猫と仔犬がじゃれてるのぉ、超かわいいよ!」
「ええ、買いましょう!」
え? 即決なんですか? それでいいんですか? いいんですね。もともと貴女猫と由比ヶ浜さんにはメロメロですしね。
そんなこんなで買い物籠がいっぱいになった俺たちがたどり着いたのは見上げるほどに高い天井の倉庫な空間。柱のいたるところに番号が振られていて、そこかしこの棚に所番地が張り付けられている。
おお、こんなところにトヨ〇式が。スウェーデンもやっぱり『カイゼン』なんですね。日本逆輸入しちゃいましたね。
それにしてもここは見覚えがありすぎる。
おかしいな、俺IKE〇に来た経験なんてあったかな。
「なあ、由比ヶ浜……俺、IKE〇さ……」
来たことあったっけか? そんな質問をしようとしたところで、急に由比ヶ浜の奴がポッと頬を赤らめさせた。
「うん。あたしもIKE〇好きだよ。やっぱりさ、こうやってヒッキーと一緒に来るのが一番好きだよ」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
あれ? なんというか前にもこんなことがやっぱりあった気がする。由比ヶ浜と二人でここを歩いて……
「二人とも、少しはピックアップを手伝ってくれないかしら? 今回は相当な量にすでになっているのだから」
「あ、あ、ごめんねゆきのん。ほらヒッキーも早く」
「お、おお」
言われて番地を書いたメモや撮影してあった写メを見ながら段ボールに梱包された商品を自分たちで台車へと積み込んでいく。
この店は基本自分たちで買って帰ってそれを自分たちで組み立てる方式だったはずだ。だから商品もこうやって自分たちで運ばなくてはならないわけだけど、その分店員の負担が少ないから商品の単価が下がるとそういうメリットがあるわけだな。うんうん。
「ふう……それにしても多いな」
ピックアップした商品はすでに台車2台分に及ぶ。これほどの買い物を一度にするなんてやはり大変だが、こんなに買うなら店員に全部頼んだ方が良かったんじゃないかと思ってしまう。
一つ一つがかなり重かったためにふらふらになりながら運んでいた俺はいい加減疲れていたからそのことを雪ノ下に言ってみたのだが……
「あら……お金が勿体ないから自分たちで買おうと言い出したのは貴方ではなかったかしら?」
「へ?」
あれ? 俺そんなこと言ったか? いや言ったか? いや言わねえと思うぞ? 何が悲しくてここまで労力割いてこんな巨大な家具一式をへろへろになりながら運ばなくちゃいけないんだよ。
そもそもそれこそ社畜が滅私奉公ですべき案件だろう。IKE〇の社畜さんはどこですか?
などとレジに並びながら考える。
ほかの客も俺たちとまあ似たり寄ったりで、ここまで多くはないがみんな台車山盛りで購入している。いや、まあ、凄い量だよ本当に。
そんなことをしていたら俺たちの番に……
籠に入れた小物もレジを通り、そしてピッピッと次々にスキャンされていく段ボールたち。
あ、あれ? なんか小計がどんどん増えて凄い金額になって行っているんだが……
あまりにも多くの買い物にだんだん戦々恐々としてきてしまった俺。いや、当たり前だし。
こんな高額の買い物できるかってんだよ。
これまさか全部俺の買い物じゃねえよな。雪ノ下の奴のだよな。そうだよな。
そう思って雪ノ下に言えば。
「何を言っているのかしら? お金を払うのは貴方に決まっているでしょう?」
「はああ!?」
な、何を言ってるんだこいつは?
お、お、おおお俺に払える分けねえだろうが。
「はい、合計で19万4562円になります」
「ひっ!」
目の前でニコニコとそんなことを宣言する黄色い服を着たIKE〇のお姉さん。
そんな金を持っているはずもない俺は慌てて雪ノ下達を見渡すも、二人とも早く会計してなどとほざきやがる。
い、いや、こんな金絶対払えないから、もう無理だから。
もう少し後ろへと視線を向ければ、そこには順番待ちをしている長蛇の列が。
やばひっ! ここまで来てお金がないので全部要らないですとか、そんな恥ずかしいこと絶対に言えない。言ったら最後、由比ヶ浜と雪ノ下はおろかこのフロア全体の連中に、あ、あいつ金払えない恥ずかしい奴だとか、後ろ指刺されることになっちまう。はわわ……、ど、どうすれば……
「もう、どうしたのヒッキー?」
急に俺の肩をポンと叩いたのは由比ヶ浜。
いや、単純に金がないだけだから、どうもしてないから、俺はただ、拷問を受けてるだけだからー
「カード忘れちゃった? もう仕方ないなー。じゃああたしが払っておくね。はい、これで、一回で!」
「へ? え?」
見れば由比ヶ浜が財布から可愛らしい絵柄の某カード会社の青いカードを取り出して何の躊躇もなしに黄色い服のお姉さんへと差し出した。そして、普通にサイン……
ってあれ? お前カード持ってたの? ってか、俺がカード持ってる前提だったの? え? あれ?
「ほら、さっさと駐車場行こ」
「ちゅ、駐車場? なんで」
「なんでも何も、車に運ばないとこの荷物持って帰れないじゃん」
「い、いや、そうじゃなくて、なんで駐車場なんだよ。誰が運転するんだよ」
「誰がってそりゃ……あ、そうか! そういうことか! あ、ごめんねヒッキー」
なぜか急にぱちんと手を合わせて舌をぺろりと出した由比ヶ浜。なんだこの反応は。
いや、そもそもなんなんだ、これは。
運転? 車? カード? 小物? 家具? IKE〇? 由比ヶ浜? 雪ノ下?
もう全てがまったく繋がらない。まるで白昼夢でも見ているようだ。
俺はとりあえず普通に立っていられなくなってふらふらと近くにあった椅子へと座った。ちょうどそこはマクドナルドのようなファーストフード店のような場所。ソフトクリームやホットドックを売っているらしいのだが、今の俺にはよくわからなかった。
眩暈を覚えて頭を抱えた俺に向かって、雪ノ下が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫? だいぶ疲れたわよね。少し休んでから帰りましょうか」
「あ、じゃあ、あたしソフトクリーム買ってくるね」
そんなことを言いながらポシェットの財布をふたたび取りだした由比ヶ浜がファーストフードコーナーのレジに並ぶ。
俺は妙にずきずきと痛む頭を擦りながら唸っていたようだが、そんな俺の頭を雪ノ下がそっと撫でてきた。
細い指が優しく触れて、少しだけ気分が落ち着いていく。
「本当に大丈夫? なにか貴方やっぱり今日は変ね」
そんなことを言われて、はあっと息を吐いてから顔を上げると、そこにはソフトクリームを三つ手に持った由比ヶ浜の姿。彼女は微笑みながら俺へとその一つを差し出してきた。
俺はそれをうけとって舐める。
うん、確かにうまい。そしてホッと気分が楽になった。
「これ美味しいねゆきのん」
「ええ、そうね」
二人して楽しそうにそう会話している。
「なあ、お前ら……俺にとってはまったくもって異常なしなんだが、お前らからみて非常に俺が意味不明なことを口走る可能性があるんだが、聞いてくれるか?」
座ったままそう言った俺に雪ノ下が小首をかしげて答える。
「貴方が意味不明なことを口走るのは今に始まったことではないのだけれど、もしそうならそう思って聞くことにするわ」
「よくわからないけど、気にしないで話していいよ」
「ああ、すまない」
俺はふうともう一度息を吐いた。
とりあえずここまで起きてきたことの全てが俺にとっては超異常事態である。
なぜIKE〇で家具を買っているのか、買わなくてはならないのか、そもそもなぜ俺は二人とこんなに恋人のように接しているのか。とにかく聞かなくては始まらない。
「なあ、お前ら。この今日の買い物はなんなんだ」
「なんなんだとは?」
速攻で雪ノ下に返されてたじろぐも、とにかく続ける。
「あ、いや、だから今買った物をどこに置くかということであってだな」
「? えーと部屋割りはすでに終わっているのだし、寸法を測って購入したのだから今更別の物に変えようとかいうのはなるべく勘弁願いたいところなのだけれど」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
くそっ! 話の要領を得ない。仕方ない。家具からではなく、俺たちの関係から攻めるか。となれば、由比ヶ浜か……
「なあ、由比ヶ浜。その、なんだ。俺たちの関係は今なんなんだ? これはあれか? こ、こ、ここここ恋人ってやつか?」
「へぇ?」
由比ヶ浜がびっくりしたように飛び上がって頬を赤らめる。だが次の瞬間言った。
「えと……その、違う……よ?」
なんで最後疑問形? え? 違うのか。って、違うのかよー。違うのに、なんでこんなにイチャイチャしてたんだ。俺は馬鹿か。やっぱりただの罰ゲームだったんじゃねえか。何を勘違いしてんだ俺は。ばーか、ばーか、ばーーーーーーか。くふっ……しにたい……
俺はテーブルに思わずつっぷしたんだが、そこにまたもや怪訝そうな声で雪ノ下が声を掛けてきた。
「前口上は了解していたのだけれど、今日の比企谷君はまた一味ちがうわね。これは何かのゲームなのかしら?」
「ヒッキーどうしたの? だいじょうぶ?」
二人が俺に声をかけてくるもどう反応していいのやらまったく分からない。
くっそ。もうほっといてくれ。俺はこのまま静かに死んでいくだけなんだから……
「やっぱりさっき飲んだ【ビール】がまずかったのかな? ヒッキー初めてだって言ってたし」
「そうね。今日は記念だからとか言って、一人で先に買って飲んでいたものね。あれで酔っ払ってしまったのかしらね」
は? び、ビールだと?
「ちょっと待てお前ら、そこのところ詳しく」
「え?」「なんで?」
がばりと起き上がった俺に目を見開く二人。いや、だからその辺の話を早くしてほしいのだがな。
「いや、だから、ビールだよビール。なんで高校生の俺がビールなんて飲んでんだよ」
「へ? 高校生? ヒッキーが」「どういうことかしら?」
不思議そうに顔を見合わせている二人。しばらくして二人は俺を見ながら変な質問をしてきた。
「ねえヒッキー、あたしたち何歳くらいに見える?」
「はあ? そんなの17か18に決まってんだろ?」
きゃっ、本当に、めっちゃ嬉しいとか言って由比ヶ浜が喜びだした。
「では、昨日3人で市役所に一緒に出掛けたのを覚えているかしら」
「き、昨日? 昨日はえ、えーと。いや、出かけてなんかないだろう。市役所がどうかしたのかよ」
それを聞いてはあっとため息を吐く雪ノ下。そんな雪ノ下に耳打ちしている由比ヶ浜が、ねえゆきのん今のヒッキーってさーとかぽそぽそ言っているのがまるぎこえなんだが、そもそもそれを聞きたいんだよ俺は。
「なあ、俺はなんでここにいるんだよ」
もう一度そう聞いた俺に雪ノ下が言った。
「でははっきり全部説明するわね。比企谷君、あなたは昨日私と由比ヶ浜さんと3人で入籍したのよ。式はまだだけれど、新居として幕張に一軒家も購入したし、だから今日はその引っ越しのためのいろいろな家具を買いに来たの。それと、貴方と私は雪ノ下建設に就職して今同じ部署で働いているの。結衣さんは保育士ね。あなたは去年免許をとって、中古のミニバンを購入したわ。今日はそれに3人で乗ってここまで買いにきたの。だから帰りは当然その車にこの荷物を全部載せて帰るのだけれど、あなたお酒を飲んでしまったから運転はできないのよね。仕方がないので私が運転します。つまりそういうことよ。理解できたかしら」
一気にそうまくしたてるように話し切った雪ノ下。
い、いや、え? な、なに? にゅ、入籍? 結婚? 就職? 車だって?
「ちょ、ちょっと待て。何を言ってんだお前は。そもそも3人で結婚なんかできるわけねえだろうが。しかも俺が就職? 車? え? 運転って……お前ら俺に【嘘】ついて遊んでやがるだろう?」
「ふふ……全部嘘よ」
「はあっ?」
意地悪そうに面白そうにそう嘘と断言して笑う雪ノ下。そしてパッと立ち上がった由比ヶ浜。
「そう、嘘嘘。ほら、もう全部嘘だから、このまま荷物積んで帰ろうね。ヒッキーは寝ながら帰っていいから。さあ、行こう」
「あ、いや、ちょ、お前ら……」
追いすがろうとする俺を見て、急に戻ってきた二人が同時に俺の頬にキスをした。
「え?」
そして……
「愛してるわ八幡。幸せにしてね」
「あたしも大好きだよ、ヒッキ……八幡。絶対幸せになろうね」
「ちょ、と、え? へ? ええ?」
「ふふ……」「えへへ……」
幸せそうに微笑む彼女たちを俺は……
全力で追いかけた。
了