『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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八結ですよ!


Just Honne Christmas 

「じゃあ、今日はここで失礼するわね。おやすみなさい、由比ヶ浜さん。それと……卑屈ケ谷君?」

 

「いい加減ディスるのやめてね、クリスマスくらい。そんな奴いないからね」

 

「バイバイゆきのん! おやすみなさーい」

 

 車の後部座席の窓を開けて薄く微笑みながらこちらへ手を振る雪ノ下へと俺も手を振った。

 俺はマフラーでモコモコになっている由比ヶ浜とならんで車で帰っていく雪ノ下を見送った。

 とりあえず人をコケにしないと済まないあの性格本当になんとかならないものかね……あ、天地がひっくり返っても無理か。はい、知っていましたとも。

 

「えと……じゃ、じゃあ、いこっか」

 

「お、おう……」

 

「うん……」

 

 不意にそう声を掛けられて思わず返事をしてしまう。

 これも全て俺の優柔不断の為せる業と言えなくもないが、こうでもなければ女子とこうして会話など成立出来ないことを、俺は誰よりもよく理解しているのだからいたしかたない。

 まあ、この流れは至って自然だろう。なにせ雪ノ下にも由比ヶ浜をきちんと送って行くように言われたばかりだしな。

 

 今日俺達は戸塚や材木座、平塚先生や小町も交えてささやかなクリスマスパーティを開いていたのである。一応クリスマスパーティとは銘打ってあるが、実のところはお見合いに失敗した平塚先生の慰安の為のパーティであり、つい今しがたまでいた会場である幕張の高級ホテルのレストランの展望室は、実はお見合い成功を前提として先生がクリスマスデートの一環として自分で予約してしまったという痛い会場なのであった。というか、こういうのは普通男性が用意するのでは? 先走りすぎた挙句、破断になってしまった上、傷心に傷心を重ねた先生を慰労すべく奉仕部が動いたというわけである。

 本当に先生何やってんすか! ジッとしてれば凄くいい女なのに、どうしてこうイケメン男前に動いちゃうんすかね? 

 先走りすぎてもう目も当てられないです。本当に誰か貰ってあげて。

 そんな風に先生のことを心配していた俺だったが、突然全身を震えるほどの寒気に襲われた。そして……

 

「へっくし!」

「ちょっとヒッキー? だいじょうぶ?」

「あ、ああ、だ、大丈夫だ」

 

 心配そうに覗き込んでくる由比ヶ浜から仰け反って離れつつ、俺は鞄から薬の入った小袋を取り出した。

 もともと少し風邪気味ではあったんだがな、今日は流石に冷えるし、どうも少し体調も悪くなってきたようだ。

 

「薬あるの? なら大丈夫だ!」

 

 何がどう大丈夫なのかは不明だが、俺が薬を飲もうとしているのを見て由比ヶ浜はホッと胸を撫でおろしている。うん、そこに手を持っていかれるとどうしても大きなそれの動きを見てしまうので、ちょっと遠慮してね。次からでいいから。

 そう、ドギマギしていたときだった。

 

「うわぁあっ!」

 

「んぎっ」

 

 急に何かがぶつかって俺は前のめりに倒れ込む。その拍子に手にしていた薬も落としてしまったのだが、とりあえず俺はぶつかってきたそれに視線を向けた。

 俺のすぐそばに倒れていたのは一人の男の子。眼鏡をかけて、この寒いのに半ズボンで……その子は慌てた様子で地面をきょろきょろと見てそして何かを拾ってそのまま起き上がった。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「あ、あ、ご、ごめんなさーい!」

 

「おい……」

 

 慌てて駆けだしていくその子を俺はただ見ていることしか出来なかったわけだが……はて? いったいなんだったんだ?

 

「大丈夫ヒッキー? ケガしてない?」

 

「ん、おお」

 

 由比ヶ浜が再び俺に近づいてくるが、今度は俺も避けなかった。流石に何度もそうするのは申し訳ない気がしたしな。

 こんな遅い時間にあんな子供が出歩いているのもどうかと思うが、要は早く帰ろうとしていただけだろう。気にすることもないな。

 俺は落としてしまった薬を探してみた。さすがに土に汚れたのなら新しいのを飲もうと思ったが、見つけたそれは道脇のベンチの上に転がっていた。まあ、そこも汚いと言えばそれまでだが、地面に落ちたわけでもないからな。俺はまあいいかと、それをペットボトルのお茶で飲み干した。

 そして俺はふたたび由比ヶ浜と並んで歩き始めた。

 

 

    ×   ×   ×

 

 

「ねえヒッキー? 今日のクリスマスパーティ楽しかったね」

 

 まぁな。

 

「どこがだよ。あんなのただ面倒なだけで時間の無駄だったろうが。平塚先生一周まわって気の毒通り越して哀れすぎだったしな。マジで俺が嫁にもらっちゃうぞ」

 

「え? ええ?」

 

「ん?」

 

 由比ヶ浜が急に俺を振り向いてあわあわと口を動かしているし? なんなんだ急に?

 

 どうかしたのかよ?

 

「なんだよこいつは急に俺をじろじろ見やがって恥ずかしいな。お前にそんなに見つめられたらドキドキしちゃうだろうが」

 

「ええっ!? ど、ドキドキ? ヒッキーあたしでドキドキしちゃうの?」

 

「ん?」

 

 由比ヶ浜は俺を見たままで顔面がどんどん真っ赤になっていく。

 

「ってあれ? 俺ひょっとして全部声に出てる……のか?」

 

 すると由比ヶ浜はコクコクと頷いた。

 

「いや、マジか? マジなのかよ。それはちょっと恥ずかしすぎるだろう。っていうか、なんだこれ? 全然黙れてねえじゃねえかよ。いやだよ、なんだよ、これ、考えが全部だだ漏れじゃねえか……」

 

「落ち着いて、ね、ヒッキー大丈夫だから落ち着いて!」

 

 由比ヶ浜がぎゅっと俺の両方の手を握ってそう声を出した。

 俺はそれに少しだけホッとしながら……

 

「なんだよ、由比ヶ浜の手めっちゃ柔らかくて気持ちいいなあ、こんな俺に触るなんて物好きにもほどがあるだろおおおおっと、違う! 俺はこんなこと考えただけであってだな……」

 

 ババッと手を放した俺だったが、再び由比ヶ浜が俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

「なんだよ畜生、触んじゃねえよ。どうせ俺は女になら誰にでも反応しちまうむっつりスケベの妄想野郎だよ。ああ、なんで考えただけのことが全部言葉になっちまうんだよ、ちくしょう、こんなの聞くなよ言いたくねえよ」

 

 それでも由比ヶ浜はジッと俺を見つめていた。

 

「ああ、そうだよ。俺はお前が俺に気があるんじゃねえかなってずっと期待してたんだよ。でも、雪ノ下の事も気になっちまって、あいつに優しくされたらそれだけでああ、俺のこと好きなんじゃねえかなって考えたりもしたし、一色だってひょっとしたら俺を狙ってんじゃねえかって思って舞い上がっちまってたし、畜生、なんだよこれは。別にこんなこと言いたくなんかねえんだよ。どうせ世の中のリア充どもが勝手に青春の定義を押し付けてるだけで、そんな世界に俺はいけないからただずっと僻んでボッチを気取っていて、それを知られたくなくて俺は孤独を装い続けてただけで……」

 

「ねえ、ヒッキー?」

 

「はい」

 

 由比ヶ浜が急にぎゅっと抱き着いてきた。

 

「やめろよ、気持ちいい。やめてくれ。良い匂い。やめろぉ。たまらない。やめてくれよぉ」

 

 声が止まらない。言いたくないのに、思ったこと、思ってたことがどんどん出てきちまう。

 恥ずかしくて、苦しくて、辛くて……

 

「もう死にたい……死にてぇよぉ」

 

 そう言った時だった。

 

 チュッ……

 

 急に俺の唇に何かが触れた。

 泣きたいくらい辛くてぎゅっと目を瞑っていたけど、その瞬間に目を開いて、そこにいつものお団子さんの顔があって……

 俺は彼女とキスをしていた。

 頭が沸騰してしまうくらい恥ずかしくてたまらなくてどうしようもなかった。

 唇を塞がれているのにやはり思ってることをしゃべろうとしてしまっていたし。

 でも、彼女の唇がそれを防いでくれた。

 

 どれくらいそうしていたのか……

 

 ずっとキスをしたままで俺達はいつの間にかきつく抱き合っていた。

 そして……

 彼女がそっと離れた。

 

「もう……大丈夫だね?」

 

「あ……」

 

 そう由比ヶ浜に言われて自分の口に手を当ててみて、もう思ったことがダダ漏れになっていないことが分かった。

 俺はどんな顔をしていたのか、すればいいのか分からず思わず顔をそむけた。

 そして、ひとことだけ謝った。

 

「すまん」

 

 すると……

 

「ううん、あ、あのね……」

 

 由比ヶ浜はうつむいた感じで俺に言った。

 

「あのね、ヒッキーがどんなこと思っててもあたしは平気。きっとヒッキー一生懸命に答えを探しているだけだと思うから。だからさっきどうしてああなっちゃったのかは分からないけど、あれはヒッキーの一番大事な部分だと思うからあたしも助けたかったの」

 

 そう言いながら由比ヶ浜はそっと自分の唇に手を当てた。思わずその仕草にどきりとしてしまう。ひょっとしてこいつは俺のことを……

 再びそんなことが頭をよぎったその時、彼女が言った。

 

「だから、さっきの……これは……キスは……なしね。なかったことにして」

 

「え?」

 

 由比ヶ浜は微笑んでいた。

 

「きっとヒッキーはまだ答えが出てないから。それなのにあたしが強引にヒッキーに近づいたらダメだと思うから……だから、なし……ね」

 

 そう言ってくれた由比ヶ浜の横顔は優し気で、少し寂し気で……

 でも、それもこれも全部俺のせいなんだろう。

 きっと俺のこんな優柔不断も、心の弱さも全部をこの娘は包もうとしてくれているのだろう。それが分かっているのに、それでも今の俺には何も答えを出すことができないでいた。それが苦しくて……でも。

 

 俺は彼女を見つめながら言った。

 

「答えは……出す。きっと……だから……ありがとうな」

 

「うん」

 

 彼女は満面の笑顔で俺に返してくれた。

 そしてふたたび歩き始める。

 さっきの俺がいったいなんだったのかは本当にわからない。でも、何も決められず、前にも進むことのできない俺への何かの罰だったのかもしれない。

 俺はそう思うことにした。

 

「メリークリスマス、ヒッキー」

 

「ああ、メリークリスマス、由比ヶ浜。その……頑張るよ」

 

「うん」

 

 彼女の笑顔が俺の勇気に変わったような気がした。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「うわぁあああああん! 『ジャストホンネ』失くしちゃったよぉ~! これじゃ、しずかちゃんの気持ちが聞けないよ~! ドラえもぉん!」

 

「あれで最後だって言っただろう? のび太君! ボクはもう知らない!」

 

 

※1『ジャストホンネ』:瓶入りの錠剤。これを飲むと本音しかしゃべれなくなる。(Wikipedia:ドラえもんのひみつ道具 (しは-しん)より)。別称『自白剤』。

 

※2 タイトルをアルファベットにしてみたらなんか素敵な感じになりましたとさ。

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