『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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この作品は、所謂『ユキ・トキ』の裏話になります。


【ユイ・トキ】
(1)由比ヶ浜結衣? お前、誰だよ


 その日……

 

 俺は人生で初めて、女子を泣かせた。

 

「何で……、どうして……?」

 

 彼女は俺をまっすぐに見つめながら、大粒の涙を溢れさせる。その苦しそうな表情に俺は心臓を握りつぶされるかのような痛みを覚えつつも、どうしたら良いのかまったく分からないでいた。

 彼女はなぜ俺を見つめる?

 彼女はなぜ俺に関わるのだ?

 答えの出ないその問答に苦しみつつ、でも、なんて声を掛けていいのかも分からないままに時だけが静かに過ぎていく。

 そして……

 

 俯いた彼女はただ黙って、俺の前から立ち去った。

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 高校生活とは、夢や希望に溢れた中で自己修練に勤しみながら進路を決定する大事な時期であると、いつか誰かが言っていたことを思い出す。

 しかし、果たしてそれは事実なのであろうか?

 確かにこの先に待ち受けるであろう大学入試、就職活動といった人生の一大分岐点を目前としたこの高校時代とは様々な経験を積む良い機会なのかもしれない。

 勉学に励んだり、部活動に邁進したり、多くの生徒はそれらステータスの獲得に躍起になっている。

 在学中にさまざまな未来予想を立てつつ、そこへ進むための勉強をするということこそ、高校生の本分であるようにも思えるくらいに。

 だが、考えてみて欲しい。

 どんなに知識として将来の望むべき姿を想像しようとも、それはあくまで脳内に描かれた妄想……空想の域を出ないものに他ならない。

 それにいったいどれだけの価値があるというのか?

 社会へ出れば、そこでは自分の思いも寄らない理不尽な要求がつぎつぎと投げかけられ、そしてそれに押しつぶされそうになりながらも、金を稼ぐ為に働かざるを得ないことは目に見えている。

 心の病に陥りそうになりながらも、仕事がなくなってはまずいからと押して働いて家と会社と病院を行き来する日々。

 そんな人生の予定を一体誰が立てられるというのだ?

 しかるに高校生活では、そんな分かりもしない将来の為にわざわざ無駄な労力を割く必要などないと考える。それこそ、大学受験のための最低限の勉強さえしておくくらいで、後は自らのパーソナリティの補完の為に全力を尽くした方が何十倍も有益なのである。

 具体的に言えば、ゲームやラノベ。

 

「ふひ」

 

 煩わしい交友関係や、著しく時間を束縛される部活動など、本来はまったく関わりたいものではないのだ。

 しかし……

 残念ながら俺は部活動に所属してしまっている。

 俺の高尚な思想を理解しない暴力女教師によって、俺はなんの因果か『奉仕部』なる得体の知れない部活動へと放り込まれたのだ。

 まったくこれほどの時間の無駄はない。

 まず活動内容が不明瞭。そして部員もたった一人しかおらず、その部長にはさんざん罵詈雑言を食らう始末。まあ、絶世の美少女であることは認めよう、本人も言っていたしな。だが、あれはない。

 何をして良いのか分からない部活で、暴言を吐きまくる女部長(可愛い)を相手に、いったい何をどうしろというのだ? 少なくとも、俺にはあんな傍若無人な女に合わせる気はまったくないし、そんなことに労力を割こうなどとは微塵も思っていない。

 そう、俺は達観した。

 入部してから半年……

 文化祭も終わり、ほぼ東西冷戦と呼んでも良い会話のないこの部活の活動にも大分なれてきた。

 要は一人でいると思えばいいのだ。同じ教室にいる彼女は、絵画かなにかだと思えばそれでいい。

 なるほど、そう思えば、雪ノ下さんは中々に良い作品であると謂える。

 独創的というよりは、単に毒舌なだけなんだけども。

 まあ、いい。今日もいつもと変わらない部活をすれば良いだけだ。

 そう……部活動と言う名の読書を。

 丁度新作のラノベも購入してきたところだし、ふひひ。

 

 そして俺は部室の戸を開けた。

 

「やっはろーヒッキー」

 

「こんにちは、比企谷君」

 

「は?」

 

「でさ、ゆきのん、このお店ね……」

 

 瞬間、俺の思考は停止した。

 

 だって……

 

 目の前に、知らない女がいて、楽しそうにあの鉄面皮の筈の雪ノ下と話をしていたのだから。

 

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