『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(19)由比ヶ浜の足掻き……対決の少し前

「ちょ、ちょっとヒキオ? あ、あーしまだ告白するとか言ってないし?」

 

「ならなんでここに来たんだよ? 葉山のことが気になってるからだろ? いいから俺の言う通りにしろよ。とにかく行くぞ」

 

 俺がそう言うと、一色が目をぱちくりとさせて聞いてきた。

 

「行くってどこへです?」

 

「決まってんだろ? 雪ノ下家が勢揃いしているところにだよ」

 

「「えええっ!!!」」

 

 二人はそう絶叫するが、もはやこんなところでウダウダしている場合ではない。今夜の行動方針は既に固まっているのだし、こいつらはといえば一応でも俺を助けようと思って来ているわけだ。なら、最後まで手伝ってもらっても何も支障はないだろう。ということで、十分役に立ってもらおうじゃないか。

 まあ、まだ約束の時間には少し早いが、現地入りしてからの準備期間と思えばそれほど早い訳でもない。

 それに気がかりなのは由比ヶ浜の方だ……

 一色の話では何か準備しているらしいが……

 とりあえず、移動しながらメールでもしてみるか? 一応教えてもらってもあるし。

 まあ、返信をもらうより先に、出くわしそうな感じもするのだけどな。

 俺は色々これからの流れを予測しつつ、さっさとバカ高い会計を済ませて店をでた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「な、なんで比企谷君と優美子といろはちゃんが一緒にいるの?」

 

「いや、それはこっちの台詞なんだが……お前が連れているその後ろの連中はいったいなんだ?」

 

 やはりというか……メールを送ったものの、それよりも早く由比ヶ浜と遭遇した。

 というか、由比ヶ浜は一人じゃなかった。

 

「あ、八幡も来たんだね? 良かった、心細かったんだ」

 

 そう言うのはめっちゃキュートな乙女男子、戸塚!

 心細そうな戸塚、マジ天使。守りたい、この笑顔!!

 

「八幡もかけ参じたのであるな? 我、本当に心細かったぁ」

 

 思いっきり俺に近づいてきた巨漢は当然こいつ、材木座。マジ近寄るな暑苦しい。殴りたい、このにやけ顔!

 

 とまあ、そんな感じでいるわいるわ色んなやつ。葉山グループの戸部や眼鏡女もそうだし、他にも不健康そうないかにもインドアなオタクといった具合の男子生徒や、柔道着姿のいかついおっさんみたいな連中までいやがる。それに城廻先輩と一緒に、申し訳なさそうにしょんぼり立っているのは、たしか相模とかいう文化祭の実行委員長だろう。聞いた感じ由比ヶ浜の友達らしいが、訴えを取り下げさせたあげく、ここまで連れてくるとかいったいどういう力業だよ。

 とにかくその大勢がこのホテルのロビーに集結していたのだ。よくもまあ、こんなにも連れてきたと感心してしまうが、男連中はどっちかと言えば由比ヶ浜に声をかけられて、ほいほいついてきちまったって感じだな。

 めっちゃ下心ありありなのが手に取るようにわかるぞ。

 俺はそっと由比ヶ浜へと耳打ちして聞いた。

 

「こいつらはいったいなんなんだよ?」

 

 その質問に、由比ヶ浜は少し困ったように答えた。

 

「えーとね。今まで奉仕部に依頼してきて、それで色々解決してあげてきた人たちだよ。ゆきのんが頑張ったってことを証明してほしくて来てもらったの」

 

「そ、そう……なのか?」

 

 俺は改めて見回してみた。

 そこにいるのは多分ほとんどがうちの学校の生徒なんだろうが、やはり面識が俺にはない。

 戸塚のテニスの依頼のことは聞いていたから分かるし、材木座にいたっては実際に毎回俺が小説の感想を言ってやっていたのだから理解できるのだが、他の面子は本当にわからない。聞けば、遊戯部だとか柔道部だとか、あとは、うちのクラスの奴らしい青みがかった黒髪の眼光鋭い女子生徒までいるのだが、いったいどれだけ依頼をこなしてきらんだよ、こっちの世界の奉仕部は。

 やはり俺はこの世界の人間ではないんだなと、再認識していたそこへ、こんどは下から声をかけられた。

 

「八幡!」

 

「ん? おまえは……」

 

「むぅ……お前じゃない。留美」

 

「る、ルミ?」

 

 は? だから誰だよ?

 俺の脇にちょこんと立っているのは、どう見ても中学生……いや、小学生か? そんなちびっこい女の子。俺を見上げつつにらんでいるのだが、なぜか俺から離れない。なんで?

 

「ルミちゃんね、たまたまお母さんに会いに学校に来てて、比企谷君もこまってるんだよって話したらついてきてくれたの。この子も千葉村でいろいろあったし、お礼を言いたかったんだって……だから、後できちんと送りますって言って連れてきてあげたの」

 

 千葉村なのかよ……なら俺が知らなくて当然だ。行っていないのだから。

 

「八幡達が大変なら、私も手伝ってあげる。感謝していいよ」

 

「は、はい。ありがとう……ございます?」

 

 そう言うと、ルミはにんまりと笑った。

 何この子、まさか俺が好きなのか? いや、俺じゃないな、ヒッキーだな。マジか……

 ヒッキーのやつ、こんな少女にまで手をだしてやがったのか……うらやま……じゃなくて、なんてロリコンだ! けしからん!!

 ヒッキーのやろう! どんだけ良い思いしてきやがったんだ! こっちはあの陰鬱毒舌な雪ノ下だけだったんだぞ!! くっそー!!

 うん、思わず叫びたくなったけど、これはしかたないよね、非モテ男子的に。

 

 とにかくだ。由比ヶ浜は様々な人脈を辿ってこれ人を集めたわけだな。奉仕部に……いや、雪ノ下に縁のある奴等を……

 昨日の今日で、いったいどれだけのことをしてきたんだか、目を見張る思いだが、並大抵の苦労ではなかったことだけは察することが出来る。

 

 だが……

 

 俺は改めて、緊張にその表情をこわばらせている由比ヶ浜を見て思った。

 

『これは違う……間違っている』……と。

 

 確かに青春ドラマ的な解決法としては至極自然なのだろうと思う。とくに、昭和臭漂うガチ青春物であれば、主人公かみんなのエールで再びやる気を取り戻してハッピーエンドな展開は王道中の王道だ。

 しかし、これは青春ドラマなどではない。

 台本なぞないし、俺達にとってのハッピーエンドなんて、当事者には望まれてもいないのだ。

 由比ヶ浜の頑張りは確かに認められるだろう。そして、雪ノ下が如何に高校で頑張っていたのかも明らかになるだろう。だが、それだけのことだ。

 雪ノ下の先行きは、すべて何者かの思惑の『ありき』で進んでいるのであって、目の前の事象に左右されるわけがないのだから。

 俺はそれを思い、由比ヶ浜へと考え直すように説得するつもりであった。

 しかし。

 

「ひゃっはろー、ガハマちゃん、比企谷君! おやあ? これは凄いねぇ、いっぱい集めたねえ」

 

 店の中からフォーマルなドレス姿の雪ノ下さんが現れて、唐突にその場の全員を見回して、驚きましたと言わんばかりの演技で声を出していた。

 そんな彼女へと、由比ヶ浜が詰め寄った。

 

「陽乃さん! ゆきのんをみんなで説得させてください。みんなゆきのんの関係者です。お願いします。人数は制限されていませんでしたから、みんなでゆきのんに話させてください」

 

 必死な形相でそう懇願する由比ヶ浜へと雪ノ下さんはにこりと微笑んで答えた。

 

「だめよ」

 

「え? そ、そんな……」

 

 微笑んだまま、そう冷徹に答える雪ノ下姉。

 俺はその場で凍り付いたようになってしまった由比ヶ浜をただジッと見ていた。

 

「そんなの当たり前でしょう? このお店にこんなに入れるわけないじゃない。それに柔道着の子までいるとか……あのね、ここは大人が利用する格式のあるお店なの。なんでも許されるわけじゃないのよ?」

 

「で、でも……でも、そういう話あたし、聞いてません。教えてもらってません。だから……」

 

「じゃあ、今言うわ。入っていいのは、ガハマちゃんと比企谷君……そうね、あともう一人だけならいいわよ」

 

「そんな……」

 

 雪ノ下姉の言葉は正論だ。

 知らないから、聞いていないからなんて、そんな理由は社会では通用しない。知らなかったのは、教えてくれなかった向こうが悪いのではなく、聞きに行かなかった自分が悪いのだ。

 特に今回は向こうがホストだ。ゲストであるこっちが無茶な要求など出来ようはずがないのである。

 困惑しつつ、自分が連れてきたメンバーを眺め見る由比ヶ浜。一人と言われた以上、もっとも有効な話を出来そうな一人を選ばなくてはならないのだと彼女はここに来て必死に悩んでいるのだろう。

 だが、それで選べようはずがないのだ。

 彼女が選択した方法は、今回は『数』なのだから。

 実際にその通りなのだろうが、雪ノ下を説得できる個人を由比ヶ浜は見繕うことが出来なかった。だからこそ数の論理に頼り、彼女はこれだけのメンバーを集めたのだ。一人では及ばずとも、大勢ならあるいは……と。

 

「どうするの? 誰か一緒に入る? それともあなた達二人だけで来る?」

 

 にこりと微笑んでそう詰め寄ってくる雪ノ下さんに、首を廻す由比ヶ浜はもう泣き出してしまいそうだった。

 俺はそんな彼女の袖をくいとひっぱる。俺を振り向いた苦しそうな彼女を見つつ、言った。

 

「連れて行くのは三浦だ」

 

「え?」「へ……? え? ま、マジであーしひとりで?」

 

 驚愕する由比ヶ浜と三浦の二人。

 

「ゆ、優美子を? な、なんで……」

 

 慌てて俺に詰め寄る由比ヶ浜に、俺は答えた。

 

「別に全くのノープランというわけじゃない。ただ確信があるだけだ。由比ヶ浜……今回俺にまかせてくれないか?」

 

「え?」

 

 再び驚いた声を出した由比ヶ浜。

 彼女は俺と連れてきたメンバーと、それと三浦を繰り返し見つつ、そして静かに一度目を閉じた。

 由比ヶ浜なりにいろいろと考えて、思っていることがあるのだろう。何にしても、彼女は本気で雪ノ下をこのまま失いたくないと考えているのだから。

 そして、ここにいない『ヒッキー』になり替わろうとしているのだから。

 だから俺には分かっている。

 優しくて、強い彼女がどんな選択をしようとしているのかを。

 

「分かった」

 

 由比ヶ浜はその瞳を見開いて俺をまっすぐに見る。そして言い切った。

 

「全部比企谷君に任せる」

 

「ああ」

 

 分かってはいたが、改まってこう彼女の言葉を聞くと、何やら胸が弾むようにも感じた。

 ああ、俺も大概だな……

 こいつは他に好きな奴がいるってのによ。

 

「先輩、こっちにいるメンバーのことは私に任せてください。どこかでお茶でもしてますから。あ、請求は先輩にまわしますのでー」

 

 笑顔の一色にそう言われ、俺は愕然となってまったく軽くなった自分の財布のことを思い出しつつ、言った。

 

「さ、サイゼか、ガストでお、御願いします」

 

 明らかに蒼白になっているだろう俺に、由比ヶ浜が、あ、あたしが払うし! とか、そんなことを言っているのだけど、多分普通にお金貸してくださいになりそうだから本当に甘えちゃおうとか、考えていた。

 三浦は三浦で、もう完全に真っ青でガクブルになっている感じなのだが……大丈夫だ三浦、上手くいかなくても、きっといい思い出にはなるから。と、そう安心させてやろうと思って言ってみたら、思いっきり脛を蹴られた、半泣きで。いや、俺が泣きたいよ、というか号泣だよ、痛すぎて!

 

「うん? メンバーは決まったみたいだね。なら、行こっか?」

 

 そう言って先に立つ雪ノ下さん。

 彼女の傍に控えていたタキシード姿の店員が白手袋をした手で、店のドアをそっと開いて彼女を招きいれた。

 その後に、俺と由比ヶ浜と三浦の三人が続いた。

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