『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(5)近寄る終わり

   ×   ×   ×

 

「わー、遊んだねぇ!」

 

「この程度で本当に満足なの? 由比ヶ浜さん。さっきはラウンジで3人で寝てしまって大分ロスしたのよ? あと1時間あれば、あれとあれとあれにも間に合うわよ!!」

 

「おいおい、雪ノ下。お前いったい今日一日でどこまで求めているんだよ。もう相当楽しんだと思うぞ? それこそ、あとはショーのひとつでも見て終わりでいいんじゃないか? 正直俺はもう相当に疲れた」

 

 おっさんだしな……

 

「あはははは……、あ、あたしも結構疲れちゃったかなぁ、でもね、ゆきのんのお陰で細かいところまで教えてもらえて、いつもよりすっごく楽しかったよ! 隠しパンさんとかね!! 本当にありがとう!!」

 

 いや、マジでどんだけ隠しパンさん知ってるんだよ。わざわざ列から一度抜け出してまで見に行くとか本当に根性が凄すぎだ。

 

「そう……あなた達は満足できてしまったのね……」

 

 それ、私は全然物足りないにしか聞こえないからね、これ本当。はあっとかため息つくなよな、なんか悪い事している気がしてくるだろう?

 由比ヶ浜はそんな雪ノ下に、ふふっと微笑みながら手に隠していたそれを手渡した。

 手渡された雪ノ下はそれを見て、目を見開いてしまう。

 

「由比ヶ浜さん、これ……」

 

 彼女が手にしていたのは、小さな海賊衣装のパンさんのパペット人形。片手を突っ込んで口をパクパクさせるあれだった。

 

「あ、えとね? 本当はもっと大きいやつ買いたかったんだけど、なんかどれもすっごく高くなっててね……流石17年後だよね、あたしの今持ってるお金じゃこれしか買えなかったんだ」

 

「でも、こんなことしてもらって悪いわ?」

 

「いいのいいの。なんかいっぱい迷惑かけちゃったみたいだし、今日はここにも連れてきてもらっちゃったし。だからお礼だよ。それとヒッキー……」

 

「なんだ?」

 

 由比ヶ浜は今度は俺を向く。そしてその手にしていた鞄から何やら手紙の様なものを取り出した。

 彼女は頬を染めてもじもじしながら俺へと差し出してきたのだ。

 

「これは?」

 

 彼女は俺のその言葉にふいと横を向いて小声で言った。

 

「ほ、本当はね、この手紙を渡さないって決めてたんだ。だって、この気持ちはあたしのただの自分勝手だから。ヒッキーのことも、ゆきのんのこともなんにも考えてないあたしの為だけに書いた言葉だったから……だから渡したくなかったの……でもね」

 

 由比ヶ浜は今度は微笑みながら俺を見上げて口を開いた。

 

「でも……もう……全部が終わっちゃって……無くなっちゃったって……、もう、ヒッキーやゆきのんと一緒に居られないって分かっちゃったから……だから……あの時のあたしの気持ちを今のヒッキーに渡したくなったの」

 

 俺はその手紙を受け取りながら言った。

 

「まだ、一緒には居られる……」

 

 それに由比ヶ浜は首を振る。

 

「二人はもう大人だよ。あたしはまだ子供のまま……あーあ、ヒッキーとゆきのんともっと青春したかったなー! あはは!!」

 

 そうくるくるっと回りながら笑う由比ヶ浜は、本当に楽し気で……

 泣いているようだった。

 それを俺と雪ノ下はただ見ていることしか出来なかった。

 

「由比ヶ浜……」

 

 その時、

 

 PLLLLLLL…………

 

 雪ノ下のスマホが光りながらその音を出す。彼女はそれを耳に当てるとすぐに話しかけた。

 

「どうしたの、都筑さん? 何かありました?」

 

『お嬢様、それが……』

 

 微かに漏れ聞こえた深刻そうな男性の声。

 都筑さんと言っているから、雪ノ下の家に昔からいるあの執事風の人のことだろう。雪ノ下は何やら険しい顔で会話をしているようだったが、突然俺と由比ヶ浜に向き直って通話を切った。

 

「比企谷君、由比ヶ浜さん! すぐにここを離れましょう」

 

「いったいどうした? 何かあったのか?」

 

 そう聞いてみれば彼女はすでに由比ヶ浜の手をとって走り始めていた。

 

「あの燃料のことが北○○の工作員(エージェント)に漏れてしまったようね、今、○○総〇の知り合いから都筑さんに連絡が入って、燃料の最終的な行先が私であることを突き止められてしまったようなの」

 

「はあ? だってお前はあれを足のつかない安全な闇市場(ブラックマーケット)で購入したって……金だって俺が渡した2000万円で……」

 

 雪ノ下は微笑んだ。

 

「ごめんなさいあれは嘘よ。貴方を安心させたくて言っただけ。本当は北○○の核〇〇の○○〇○○を、○○総〇経由で交渉して譲ってもらったのよ。価格は1000万USドル。それでもリビ〇やカザ〇から購入するよりはよほど安全ではあったのだけれど、でもこれは表には出せない話。そのままじゃ済まなかったようね」

 

「くそっ!」

 

「???」

 

 自嘲気な彼女の言葉に、俺は自分を殴りたい衝動に駆られていた。そして不安げにわけも分からないと言った顔で俺を見つめる由比ヶ浜を見つつ、酷い後悔に蹂躙された。

 こんなに簡単に事が進むわけはなかったのだ。

 俺はただあのマシンの完成を急いでしまっただけ。だが、肝心の燃料の入手は困難であったから、金だけを用意して雪ノ下に頼んでしまった。

 そして彼女は予定通りに現れた。

 それが当然のことだと? 

 そんなわけなかったのだ。

 少し考えれば分かりそうなことなのに、俺はまったくそれに気が付かないままに彼女を……雪ノ下をこの件に巻き込んでしまった。

 本当に俺はいったい何をやっているんだ!!

 ただ、由比ヶ浜に逢いたいというその一心のみで、この窮地を招いてしまったのだ。

 

「ねえ、ヒッキー、ゆきのん? 何があったの? これからどうなるの?」

 

 走りながらそう言った由比ヶ浜に俺はなんとも言えなかった。

 とにかく今はここを離れるしかない。

 あの国のエージェントがどこまでするのかは想像の範囲内だが、少なくとも殺人くらいは平気で行うはずだ。

 なにしろ俺達が持っている物は、戦争をすることだって、脅して金をせしめることにだって使える代物。しかもそれの出どころが自分達であるというのだから、本気度が違ってくるだろう。

 俺達は急いで駐車場へ向かった。

 

 

   ×   ×   ×

 

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