『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(3)北の国の由比ヶ浜結衣

「ぷはー! 美味しい。ねえヒッキー、飲んでる? ん?」

 

「はいはい、飲んでるよ。お前……そろそろ控えた方がいいんじゃないか?」

 

「まだまだ飲めるし……こんなんじゃ酔ったうち入んないし」

 

「酔ったやつほどそう言うんだよ。まあ……いいんだけどね」

 

 正直言えば、勢いに任せて結構飲んじゃったから、割とキツイ。ヒッキーもなんだか呆れたような顔をしてるし。でも、良いの。こうでもしないと、今のあたしには何にも出来ないから。

 でもヒッキーってば、あたしを誘ったのに、さっきからつまみを食べながらチビチビ飲んでばっかだし。何か話したいことがあったんじゃないのかな?

 

「ねえヒッキー……何で話さないの?」

 

「ん……お前が聞かないから」

 

「むう。なにそれ」

 

 これじゃあ、飲みまくってるあたしがバカみたいじゃない。

 

「……じゃあ、聞く。ゆきのんとなんで付き合わなかったの?」

 

 ぶふっと、ヒッキーがむせ込んだ。

 

「い、いきなりだな……」

 

「だって、聞けって言ったし」

 

「それはそうなんだけどな……。あのな……俺と雪ノ下は元々なんでもなかったんだよ。なんていうの? そう、天敵? みたいな? 俺が何かすれば、アイツが喰いついてきて、俺をネタにいじくってただけだ。頭と口じゃ、アイツに全く歯が立たなかったしな。ずっとそういう関係だった」

 

「それって、あたしには超仲良しに見えてたんですけど。あたし、二人の間に割って入れなかったし」

 

「だから、それが勘違いなんだよ。大体、アイツと俺で釣り合う訳ないだろ」

 

 ヒッキーは不貞腐れた顔をして、頭を掻きながら話した。

 ふふ……昔のまんまだね。でも、やっぱり分かってないし。ゆきのんの本当の気持ち。ヒッキーが大切だから、大事だからあんなに口を出したっていうのに……

 好きじゃなければ、ゆきのんは口もきかないよ。

 梅酒ソーダの缶を開けながら聞いた。

 

「あたしが転校した後……」

 

「ん?」

 

「あの後、『奉仕部』ってどうなったの?」

 

 ヒッキーは少し目を細めた。そして、ぽつりぽつりと話した。

 

「お前が居なくなった後は……寂しいもんだったよ。依頼があっても、俺と雪ノ下の二人じゃすぐ喧嘩になってな、まるで上手くいかなかった。そのうちに受験も近づいて、自動的に廃部。まあ、仕方ない。平塚先生の個人的な管理の部活だったしな」

 

 やっぱり無くなってしまったんだ。私の大切な青春のつまった部活が。それはやっぱり辛い。

 

「でもな……俺達が卒業した後に、小町達が復活させてな。確か、今でも奉仕部は残ってるぞ。何する部活か良く分からないのは一緒みたいだけどな」

 

「そうなんだ。それは嬉しいね」

 

 あたしの言葉を聞いて、ヒッキーもちょっと笑ってる。嬉しかったんだね。

 

「さっきの話、ゆきのんのこと」

 

「ああ」

 

「ゆきのんはヒッキーの事、本当に好きだったんだよ。ヒッキーだって分かってたのに、いつも必死になって分からないふりをして……それを見てるあたしも辛かったし。なんで素直にならなかったの?」

 

「……あの時の俺には、そんなこと分からなかったよ」

 

「嘘だよ。だってヒッキーはいつも優しかったもん。あたし達の気持ちをいつも考えてくれてたし。それで、ゆきのんの気持ちが分からないなんて、絶対嘘だよ」

 

 ヒッキーは、するめを噛みながら遠くを眺めた。

 

「本当に分からなかったんだ。ていうか、分かりたくなかった。だって、俺の勘違いなら、全て何も無かったことにできるだろ。本気で俺を好きになる奴なんていないと思ってたんだ。あの時までな……」

 

 あたしにはそれ以上言えなかった。だって、本気でこの人を好きになったのは、他でもない、あたし自身だもの。

 

「なあ、由比ヶ浜……今度は俺が聞きたい。お前なんであの時、俺にあんな告白したんだよ。なんで別れ際なんだよ」

 

 そうだ……”ヒッキーの事……大好きだったよ”あんなに酷い告白はない。でも、ああ言わなければ、あたしも、ヒッキーも一歩を踏み出せないと思ったんだもの。大切な物との別れの告白。あたしにはあれ以上の言葉はなかった。

 

「あの言葉でヒッキーを傷つけたのなら、謝るよ……。でもね、あの時、ヒッキーの事大切に想ってる気持ちを知っていて欲しかったの。それから、あたしが居なくなれば、ヒッキーとゆきのんはきっと上手く行くと思ったし」

 

「そんなわけないだろ」

 

「そうなんだってば。だって、ヒッキーの事を好きだって気持ちは、あたしもゆきのんも同じだったもの」

 

 そこまで言って、我に返った。

 この想いは今の物ではない。5年前のあの時、二人と別れた時の私の気持ち。あの時のヒッキーと、ゆきのんと……

 それを今話したところでどうなる物でもないことだ。

 

 ヒッキーは顔を赤くして頬をポリポリ掻いてた。

 

「ま、面と向かって好きって言われるのも……悪い気はしないな……」

 

「ばーか。ヒッキーがもっと早く素直になってればこんなになってやしないよ。この偏屈、捻くれもの。ゆきのんのこと大事に思ってたくせに、なんで、好きだの一言も言ってあげなかったの」

 

「だから、そうじゃない。俺が本当に好きだったのは……」

 

 そこまで言って、ヒッキーは黙ってしまった。あたしも何も言わなかった。その先の言葉は、今は聞きたくなかったから。暫くチビチビとチューハイを飲んでいると、ヒッキーが話しかけてきた。

 

「なあ、由比ヶ浜……お前今付き合ってるやついるか?」

 

「べつに、いないけど……ヒッキーは?」

 

「俺はまあ……付き合ってるやつはいないな」

 

 むぅ。何かありそうな言い方。気に入らないな。

 

「どうせ陽乃さんとかと仲が良いんでしょ。いいですね。モテる男は」

 

「ばっか、そうじゃねえよ。ただ、『もっと一緒に居たい』と思ってる相手はいるってことだよ」

 

 もうやだ……人の惚気なんて聞きたくない。

 5年も経って、あの時のままでいるなんてあるわけない。もうあの頃にはどうしたって戻れない。ヒッキーがボッチで自虐的だったのなんて昔の話。だって今のヒッキー、カッコいいもんね。以前とは大違いだ。

 

「なあ、由比ヶ浜……もしよかったらな」

 

「ん? なに?」

 

「今度………しよう」

 

 あれ? 今なんて言ったの?

 

 目の前がぐにゃりと歪んだ。やっぱりお酒はほどほどに……ね……

 

 

 

 

 ぱたり。

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