『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(4)北の国の由比ヶ浜結衣

 あったか~い……

 

 とってもいい気持ち、ポカポカする。

 

 はふぅん

 

 あたしは冷え性だから、いつも布団の中で凍えちゃうのにな……

 

 そっか……今日は旅行でホテルに泊まってたんだ……

 

 道理でいつもと違う訳だよね。

 

 それにしても、この抱き枕(・・・)温かくて、もうサイコー……

 

 

 

 

 ん? 抱き枕?

 

 

 

 不意に違和感を感じて、目を開けた。すると……

 

「んんーーー!!!!」

 

 目の前にヒッキーの顔があった。しかも思いっきり背中に手を回して抱き付いちゃってた。

 

「もう!! ヒッキーのバカっ、エッチ、出てけー……」

 

「うおっ!」

 

 思いっきり足でヒッキーを蹴っ飛ばして、ベッドから押し出した。

 

「うおぉ! な、何すんだよ。さ、さむい……頼む……布団に入れてくれ」

 

「だ、ダメに決まってんでしょ」

 

「い、いや、マジで頼む。明け方は、特にやばい……そ、それに、ここ俺の部屋だぞ?」

 

 布団から目だけ出してヒッキーを見たら、ガタガタ震えていた。むぅ……

 

「じゃあ……ちょっとだけ……ね」

 

「助かる」

 

 そう言うと、布団にもぐりこんできた。ていうか、ヒッキーの体、冷えすぎててあたしも寒くなった。

 

「今暖房強くしたからね。温かくなったら出てってね」

 

「だから、ここ俺の部屋だって」

 

 背中合わせで一つの布団に入っている。これだけでもすごくドキドキしちゃうのに……いったい昨日の夜はどうなって……

 はっ……

 あたしは慌てて着衣を確認した。とりあえず、乱れてはいないみたいだけど……

 っていうか昨日とまったく同じ服装だった。

 

「ヒッキー、まさか眠ってるあたしに変な事してないよね」

 

「変な事? ってどんな事だ?」

 

「言うか! バカー!」

 

「わわ……してない、何にもしてないし、見てもいない」

 

 まったくもう……

 なんで朝からこんなことに。

 ええと、昨日の夜はヒッキーとお酒飲んで、色々文句を言ったんだっけ……それから、何か約束をしたような……思い出せないな……

 暫く背中合わせの体勢でいたら、ヒッキーの体温でだんだん温かくなってきて、眠くなってきた。背中の方から、すぅすぅと寝息が聞こえる。ヒッキーも寝ちゃったのか……?

 外はまだ暗い……あたしもこの温もりの中でもうひと眠りすることにした。

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー! 早く行かないと、朝御飯の時間終わっちゃうよ」

 

 さっき、部屋に戻ってシャワーを浴びて、着替えてから、もう一度ヒッキーの部屋に来てみたら、まだ眠っていた。ヒッキーの部屋のキーはこんなことじゃないかと思って、一応持って出た。一応ね。

 

「ほら、起きなってば」

 

 布団を剥ぎ取ったら、芋虫みたいに丸くなってるし……

 

「うーん……小町……後3分、いや、2分30秒でいいから……」

 

「あたしは、小町ちゃんじゃありません」

 

 本当に小町ちゃん、毎日このお兄さんの世話してるかと思うと、尊敬しちゃうよ。

 

「あ、ああ、由比ヶ浜か……おはようさん。俺は変なことしてないからな」

 

「分かってるし。早く顔を洗ってきなよ。一緒にご飯に行くよ」

 

「へいへい……」

 

 

 

 食堂に向かうと、入口のところに江ノ島さんが立って待っていた。

 

「おはようございます、結衣さん。昨日はよく眠れましたか?」

 

「え、ええ……」

 

 まさか、ヒッキーと同衾してたとも言えないしね。

 

「良かったら一緒に食事にしましょう。お友達もご一緒にいかがですか?」

 

「うす」

 

 ヒッキーが江ノ島さんに軽く会釈をして、後から食堂に入った。

 

 朝食はヴィッフェスタイルで、和洋折衷になっていた。あたしはロールパンとスクランブルエッグとサラダ。ヒッキーは純和食で焼き魚とか、納豆とか、盛りつけてた。

 

「比企谷くーん……」

 

 昨日ドレスを着ていた橋本さんがヒッキーを呼んだ。今日は赤いトレーナーにジーンズのスタイル。この人誰かに似ていると思ったら、雪ノ下陽乃さんに似てるんだ。髪型とかそっくりだし……

 丁度、橋本さんの掛けているテーブルが、4人座れそうだったので、江ノ島さんが丁寧に聞いて、そこで朝食をとることになった。

 

「レセプションも終わりましたし、今日はゲレンデも解放されます。結衣さんはどうぞスキーでも楽しんでください」

 

「江ノ島さんは、どうなさるんですか?」

 

「ああ、私は、このあと社に戻って仕事です。夕方には支社長と奥様もおみえになられる予定ですよ」

 

 江ノ島さんは、あたしが不安だと思ったらしく、わざわさ説明してくれた。この人、イイ人なんだけど、なんだか四六時中見られているみたいで落ち着かない。

 江ノ島さんの話の後で、橋本さんが話した。

 

「わたしは、今日の昼の飛行機で千葉に行かなくちゃならないから、時間ないなあ。そうだ、比企谷君。今日一日接待ってことにして上げるから、由比ヶ浜ちゃんと遊んでおいでよ。せっかくの再会なんだし」

 

 その提案に江ノ島さんがあわてて口を挟む。

 

「せっかくのお申し出ですが、お嬢さんとあまり面識のない方と一日一緒で、もし何かあれば色々困りますので……」

 

「大丈夫ですよ。二人は同級生ですし。それに、比企谷君は、今度立ち上げる雪ノ下建設の北見事業所に配属になりますから、これを機に仲良くさせて頂きましょうよ。ね、そうしましょう」

 

 うわぁ、強引なとこまで陽乃さんにそっくりだ。

 

「ヒッキーって、北見に引っ越してきたの?」

 

「まあ、そういうことだ。体の良い窓際の島送り……網走送りだな」

 

 網走じゃないし、北見だし。

 

「まあた、そうやっといじけるし。そんなんだから、前の彼女にも振られちゃったんだよ。いい? これは業務命令。今日一日きっちり由比ヶ浜ちゃんをエスコートすること」

 

 え? ヒッキー……やっぱり誰かと付き合ってたんだ……そりゃそうだよね。そんなことで驚くなんて、あたしバカみたい。

 

「さて、わたしは帰りの準備があるからこれで失礼するわね。女満別まではタクシー使うから比企谷君は気にしなくていいよ。楽しんでね~」

 

 橋本さんがサッと立ち上がってトレイを片付ける。江ノ島さんもなんだか不満そうな顔をしたまま、食事を続けてた。

 

「じゃあ、ヒッキー……今日はよろしくね。スキー出来るの?」

 

「まあ、そこそこな……」

 

「ふふん……じゃあ、私がコーチしてあげよっか。北海道在住者の実力を見せてあげよう」

 

 そう言ったあたしは、少しワクワクしていた。

 

 

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