『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
あったか~い……
とってもいい気持ち、ポカポカする。
はふぅん
あたしは冷え性だから、いつも布団の中で凍えちゃうのにな……
そっか……今日は旅行でホテルに泊まってたんだ……
道理でいつもと違う訳だよね。
それにしても、この
ん? 抱き枕?
不意に違和感を感じて、目を開けた。すると……
「んんーーー!!!!」
目の前にヒッキーの顔があった。しかも思いっきり背中に手を回して抱き付いちゃってた。
「もう!! ヒッキーのバカっ、エッチ、出てけー……」
「うおっ!」
思いっきり足でヒッキーを蹴っ飛ばして、ベッドから押し出した。
「うおぉ! な、何すんだよ。さ、さむい……頼む……布団に入れてくれ」
「だ、ダメに決まってんでしょ」
「い、いや、マジで頼む。明け方は、特にやばい……そ、それに、ここ俺の部屋だぞ?」
布団から目だけ出してヒッキーを見たら、ガタガタ震えていた。むぅ……
「じゃあ……ちょっとだけ……ね」
「助かる」
そう言うと、布団にもぐりこんできた。ていうか、ヒッキーの体、冷えすぎててあたしも寒くなった。
「今暖房強くしたからね。温かくなったら出てってね」
「だから、ここ俺の部屋だって」
背中合わせで一つの布団に入っている。これだけでもすごくドキドキしちゃうのに……いったい昨日の夜はどうなって……
はっ……
あたしは慌てて着衣を確認した。とりあえず、乱れてはいないみたいだけど……
っていうか昨日とまったく同じ服装だった。
「ヒッキー、まさか眠ってるあたしに変な事してないよね」
「変な事? ってどんな事だ?」
「言うか! バカー!」
「わわ……してない、何にもしてないし、見てもいない」
まったくもう……
なんで朝からこんなことに。
ええと、昨日の夜はヒッキーとお酒飲んで、色々文句を言ったんだっけ……それから、何か約束をしたような……思い出せないな……
暫く背中合わせの体勢でいたら、ヒッキーの体温でだんだん温かくなってきて、眠くなってきた。背中の方から、すぅすぅと寝息が聞こえる。ヒッキーも寝ちゃったのか……?
外はまだ暗い……あたしもこの温もりの中でもうひと眠りすることにした。
◇
「ヒッキー! 早く行かないと、朝御飯の時間終わっちゃうよ」
さっき、部屋に戻ってシャワーを浴びて、着替えてから、もう一度ヒッキーの部屋に来てみたら、まだ眠っていた。ヒッキーの部屋のキーはこんなことじゃないかと思って、一応持って出た。一応ね。
「ほら、起きなってば」
布団を剥ぎ取ったら、芋虫みたいに丸くなってるし……
「うーん……小町……後3分、いや、2分30秒でいいから……」
「あたしは、小町ちゃんじゃありません」
本当に小町ちゃん、毎日このお兄さんの世話してるかと思うと、尊敬しちゃうよ。
「あ、ああ、由比ヶ浜か……おはようさん。俺は変なことしてないからな」
「分かってるし。早く顔を洗ってきなよ。一緒にご飯に行くよ」
「へいへい……」
食堂に向かうと、入口のところに江ノ島さんが立って待っていた。
「おはようございます、結衣さん。昨日はよく眠れましたか?」
「え、ええ……」
まさか、ヒッキーと同衾してたとも言えないしね。
「良かったら一緒に食事にしましょう。お友達もご一緒にいかがですか?」
「うす」
ヒッキーが江ノ島さんに軽く会釈をして、後から食堂に入った。
朝食はヴィッフェスタイルで、和洋折衷になっていた。あたしはロールパンとスクランブルエッグとサラダ。ヒッキーは純和食で焼き魚とか、納豆とか、盛りつけてた。
「比企谷くーん……」
昨日ドレスを着ていた橋本さんがヒッキーを呼んだ。今日は赤いトレーナーにジーンズのスタイル。この人誰かに似ていると思ったら、雪ノ下陽乃さんに似てるんだ。髪型とかそっくりだし……
丁度、橋本さんの掛けているテーブルが、4人座れそうだったので、江ノ島さんが丁寧に聞いて、そこで朝食をとることになった。
「レセプションも終わりましたし、今日はゲレンデも解放されます。結衣さんはどうぞスキーでも楽しんでください」
「江ノ島さんは、どうなさるんですか?」
「ああ、私は、このあと社に戻って仕事です。夕方には支社長と奥様もおみえになられる予定ですよ」
江ノ島さんは、あたしが不安だと思ったらしく、わざわさ説明してくれた。この人、イイ人なんだけど、なんだか四六時中見られているみたいで落ち着かない。
江ノ島さんの話の後で、橋本さんが話した。
「わたしは、今日の昼の飛行機で千葉に行かなくちゃならないから、時間ないなあ。そうだ、比企谷君。今日一日接待ってことにして上げるから、由比ヶ浜ちゃんと遊んでおいでよ。せっかくの再会なんだし」
その提案に江ノ島さんがあわてて口を挟む。
「せっかくのお申し出ですが、お嬢さんとあまり面識のない方と一日一緒で、もし何かあれば色々困りますので……」
「大丈夫ですよ。二人は同級生ですし。それに、比企谷君は、今度立ち上げる雪ノ下建設の北見事業所に配属になりますから、これを機に仲良くさせて頂きましょうよ。ね、そうしましょう」
うわぁ、強引なとこまで陽乃さんにそっくりだ。
「ヒッキーって、北見に引っ越してきたの?」
「まあ、そういうことだ。体の良い窓際の島送り……網走送りだな」
網走じゃないし、北見だし。
「まあた、そうやっといじけるし。そんなんだから、前の彼女にも振られちゃったんだよ。いい? これは業務命令。今日一日きっちり由比ヶ浜ちゃんをエスコートすること」
え? ヒッキー……やっぱり誰かと付き合ってたんだ……そりゃそうだよね。そんなことで驚くなんて、あたしバカみたい。
「さて、わたしは帰りの準備があるからこれで失礼するわね。女満別まではタクシー使うから比企谷君は気にしなくていいよ。楽しんでね~」
橋本さんがサッと立ち上がってトレイを片付ける。江ノ島さんもなんだか不満そうな顔をしたまま、食事を続けてた。
「じゃあ、ヒッキー……今日はよろしくね。スキー出来るの?」
「まあ、そこそこな……」
「ふふん……じゃあ、私がコーチしてあげよっか。北海道在住者の実力を見せてあげよう」
そう言ったあたしは、少しワクワクしていた。