『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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随分お久しぶりな更新となります。
ちょこっと、ウマ娘の世界に浸っておりましたもので大分間が空いてしまいました。
スぺちゃんとスズカは本当に良いですよ。愛でましょう、愛でました。

さて、この『北の国の由比ヶ浜結衣』は、実は第三章まで完結済み、某サイトでも公開済みでございましたが、今回のお話から書き直しております。
とある不遇なキャラをですね、救済したいなーみたいな、そんな理由でしょうかね。
ということで、ここからの第二章はほぼ新作になります。
では、どうぞ。スタートです。


(4)ヒッキーと同棲したい

「おい由比ヶ浜、そ、そっち側持ってくれ……た、頼む」

 

「ちょ! ヒッキー! なんでそんなの一人で持ってるの!? ちょ、すぐ行くし!」

 

「やばい、し、死む」

 

「はわわわわ」

 

 慌てて駆け寄って、空中でゆらゆら揺れている『洗濯機』にしがみ付く。

 そのまま上に持ち上げようと思って踏ん張るけど、重みが掛かるばっかりでびくともしなかった。

 

「お、もぉぉ~、ちょ、ちょっと重すぎなんだけど。あたし、これ無理」

 

 手が痺れて痛みを感じ始めて、これはもうだめと思ったのだけど、洗濯機の向こう側からヒッキーの声が聞こえてきた。

 

「いや、もう大丈夫だ、助かった。そのままもう少し踏ん張っててくれ。俺が今下に手を回す」

 

 そう言った直後、一瞬だけ重さが増したけど、すぐに軽くなって洗濯機が上に持ち上がった。

 あたしも下に手を回して、力を込めて、洗濯機を置く広めの洗面所まで運ぶ。

 それから、ヒッキーの掛け声に合わせてゆっくりと下に降ろしてなんとか定位置においた。

 

「めっちゃ重かったよー」

 

「ふぅ、助かった。いや、持てない重さじゃなかったんだが、指が滑って体勢が崩れちまったんだよ。わりぃな」

 

「もう、こんなのでケガとかやめてね。腰とか大丈夫?」

 

「腰!? ……とかいうな、何を心配してんだよ、スケベ」

 

「なっ!? ちょ!? スケベってなんだし!! そんなこと思ってないし!! ひ、ヒッキーこそ、頭の中そんなことばっかなんじゃないの!! スケベっ!! エッチ!!」

 

「んなわけねーだろ。だいたいお前がそんな薄着で歩き回ってる方がよっぽど猥褻だろうが」

 

「わいせ……もう!! あたしの胸見ながらそんなこと言うな、えっち!!」

 

「お前こそ、わかってやってんじゃねえかよ。我慢するこっちの身にもなれよ!!」

 

「我慢とか言うな変態!」

 

「ビッチ!!」

 

「「うぬぬぬぅ」」

 

 洗濯機を挟んで胸を隠してヒッキーを睨んだら、彼は顔が真っ赤でそっぽを向いた。

 それを見ていたらあたしもどんどん恥ずかしくなってきて、いたたまれなくて視線を下に。

 うう……

 もう、考えないようにしてたのに、なんで思い出させちゃうかなぁ……

 ううううう……

 ふたりでなんだか同じように悶々としてきているのを感じて、あたしは何も言わずに玄関へ。

 と、同時にヒッキーも玄関に向かうところで、立ち上がって身体が思いっきり密着。

 彼の汗ばんだ筋肉質の腕にあたしの腕の素肌が触れて、思わずドキリと心臓が跳ねた。

 その瞬間、先日の彼の肌の感触の全てがまざまざと蘇って……

 

「ひゃあっ!!」

 

「うお! いきなりデカい声出すなよ」

 

「だ、だってぇ……うう」

 

 もう本当に泣きそう。

 うう。

 あたしって、こんなにエッチだったんだ……。ふえぇ。

 自己嫌悪みたいな、本当に恥ずかしい想いを勝手に抱きながら、真っ赤な顔のヒッキーと顔を合わせないようにしながら、この引っ越しの荷物を運び入れ続けた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 今日あたしたちは引っ越しに追われていた。

 この前、橋本さんに勧められるままにやってきたこのマンションのこのお部屋。もともとシェアハウスとして設計されている関係で広めの共有スペースとして、リビング、ダイニングキッチン、洗面所とお風呂のスペースがあって、トイレは二つ。

 そのリビングからそれぞれ鍵のついた個室が全部で3つ連結している様式になっていて、そのうちの一部屋をあたしとヒッキー部屋。

 居室自体も結構広さがあって、一応間仕切りがもともとついているから、この部屋を二部屋に分割も出来るのだけど、圧迫感が出てしまうからということで一部屋として使うことに決めた。

 そこに、あたしの私物とヒッキーの私物の全部を運びこんでいるというわけ。

 

 自分たちだけで!

 

「…………」

 

 もう一度言います。

 あたしとヒッキーの二人だけで、お引越し。

 

 そういうことになってしまったの。ひぇえん。

 

 だって、引っ越し業者の人たちにいろいろ電話したのだけど、今は繁忙期だから無理の一点張りで、ようやく見積もりをくれたところの金額がなんと「100万円」!!

 あんまりな金額に二人してびっくりして、これはもう無理だってなって、でも橋本さんから、『もう家賃発生してるからさっさと引っ越した方がいいよ』とか言われちゃうし、じゃあ自分たちでするしかないか……

 と、そういうわけで、今日に至りました。

 二人とも、もともとの家はここから距離もそんなに離れていないし、車はヒッキーのSUVが見た目大きいから結構荷物を積めそうだったし、ヒッキーに関しては私物も殆どなかったので、自分たちで案外簡単に終わるかもね。と、そう楽観していたのだけど、そんなわけなかったです。

 二人の私物をヒッキーの車に荷物を満載して運ぶこと、なんとのべ10往復。

 大きい車に見えたけど、積んでみたらそれほどでもなく、タンスとかベッドを入れてみればもう満杯。

 それを見て、二人して愕然となったのだけどね。

 

 二人とも休日の日曜日を利用して、こうやって朝からずっと動き詰めで、夕方になってようやく最後の段ボールを運びこんだ。

 

「ふううう……疲れたー、もう動けなーい」

 

「俺もだよっと」

 

 ヒッキーが最後の段ボールを床に置いて、息を吐いた。

 丸まっていた背中を伸ばしてそこをトントンと叩いている。

 あたしもそれを見てから大きく伸びをした。

 それからきょろきょろと見回してみると、大量の開いていない段ボールの山が。

 これを荷解きするんだよね。

 

「「はぁ」」

 

 ほぼ同時にヒッキーとため息をついた。

 それから言った。

 

「ねえ、外で食べよっか。片付け後に回して」

 

「だな」

 

 フライパンやらが入っているだろう段ボールから視線をそらしつつ、アタシとヒッキーは上着を羽織って、二台の空になった車へと乗り込んだ。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「なに食べよっか」

 

「んー?」

 

 特に何を食べるか決めないままに町中を走っていると、そう言えば美味しいって評判のイタリアンのお店が街のはずれにあるという話を思い出した。

 確か、青葉先生が初デートでつかったと言っていたような?

 

「ねえヒッキー、イタリアンでもいい?」

 

「ああ、なんでもいいぞ」

 

 その答えに、すぐにお店へと電話。

 席も空いているということなので予約をしてそのままお店へと向かった。

 レンガ作りのお洒落な外観からも、オーナーのこだわりが良くわかる。

 一見してとても良いお店に見えた。

 これは入るのがとっても楽しみ。

 へぇと、感心しながら車を降りたヒッキーも、どこか楽しそうに見える。

 これは当たりだったかも。

 

 そう嬉しく思いつつドアを開いて中に入ろうとすると……

 

「あれ? やあ結衣さんじゃないですか! こんばんは……?」

 

 そう速足に近づいてくる男性の姿。

 彼はあたしたちの少し手前で立ち止まってヒッキーを見つめていた。

 

「こんばんは、江ノ島さん。江ノ島さんもお食事ですか?」

 

「え? あ、はい。そ、そうです……そうですよ? ひょっとして結衣さんもですか? いやあ奇遇ですねえ」

 

「本当に」

 

 江ノ島さんはちらちらとヒッキーの方を見つつも、襟を正して私へと向きを変えた。

 それから朗らかに微笑みつつ言った。

 

「あの、もし()()()でしたら、私と一緒にお食事でもいかがですか? ()()()でしたら!!」

 

「あ、今日はヒッキー……彼もいっしょで――――」

 

「はい分かりました失礼しますさようなら」

 

 そうシュタタッと即答して彼はくるりと回れ右。

 そのまま足早に歩いて駐車場へ。

 途中一度雪で滑って転びかけていたけど、開いた足を踏ん張って構わず大股で歩み去った。

 あれ? どうしたのかな? 車に忘れ物?

 しばらくそっちを見ていたあたしの肩に、ヒッキーがポンと手を置いた。

 

「由比ヶ浜お前……基本恋愛脳のくせに、いくらなんでも鈍感すぎるだろ。ラノベの主人公かよ、鈍すぎだっつーの」

 

「へ? 鈍感? あたしが? そんなわけないじゃん、ぜーんぜん鈍くないし! むしろ速いよ、チョー速いし! ところでなんのこと?」

 

「はぁ……」

 

 なぜかヒッキーがあたしの目の前で大きなため息をついた。

 だから、なんでってばー!?




江ノ島さん闇落ち回避!!……なるか?
ということで、江ノ島さんの境遇やストーリーが変わります。
どうぞ次回もお楽しみに。
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