『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(10)ヒッキーと同棲したい

「やれやれ、やっと解放された」

 

「……うん」

 

 あたしとヒッキーは並んで警察署から出てきた。

 彼の手には、さっきあたしが襲われた時に落としてしまった、潰れたクリスマスケーキの箱がある。

 確認はしてはいないけど、きっと中身もつぶれちゃってるよね。

 そう思うと、少し悲しくなった。

 

 まさかクリスマスイブに警察署に来ることになるとは思いもしなかった。

 でも、しかたがない。

 だって、あたし達はあやうく、傷害事件の被害者になるところだったのだもの。

 

 つい今しがた、あたしは背の高い男の人に襲われた。

 でも、そこに江ノ島さんやヒッキー、それに千葉の高校の時に同級生だった葉山隼人君が現れたことで、あたしは助かって、その男の人も捕まえることができた。

 そのまま、被害届を書いたり、事情聴取を受けたりしなければならない関係で、全員でこの警察署に来たわけだけど、ここであたしはこの犯人が、ここ最近頻発していた変質者事件の容疑者であったことを知った。

 

 実はここ最近、この街ではOLや主婦、女子高生や、女子児童までもが、変質者に痴漢行為をされるという事件が何件も起きていたのだそう。

 幅広い年齢層に対しての事件だったため、警察も市内の各所に注意喚起の呼びかけをおこなっていたみたいで、あたしの通っている小学校にも、変質者の情報は送っていたらしい。

 どうもあたしはそのことをすっかり聞き漏らしていた様で、まったく変質者のことは理解していなかったのだけど、そういえばと思い当たることがたくさんあった。

 ここ最近子供たちには集団下校をさせていた。

 これは雪道での事故に遭わないようにとの配慮もあってのことだったけど、それだけではなかったみたい。

 次に、思い出してみれば教員も一人では帰宅しないように行動していた。

 みんな声を掛けて同じ方向の人は一緒に帰っていたし、あたしもちょくちょく青葉先生たちに誘われていたし。

 でも、あたしは基本ヒッキーが迎えに来てくれていたから、先生たちと帰ることはほとんどなかった。

 

 だからだったんだ。

 

 あたしはきちんとこの注意を聞いていなかったのだけど、基本子供たちの集団下校も対応していたし、帰宅も迎えに来て貰ったりと、ほぼほぼあたしの行動に問題が無かったから、誰にも指摘されずにきてしまったということ。

 なぜそのことが分かったかというと、つい今の今まで、うちの学校の副校長がここに来ていたから。

 副校長には、あたしが無事で安心したと言われ、あたしが今日一人で帰途についたことについてはきつく叱られてしまった。

 何一つ反論できないし、顔から火が出るほどに恥ずかしかったから本当に何も言えなかった。

 朝礼の内容を覚えてもいないまま過ごしていたなんて、あまりにも無責任すぎた。

 本当にこんなんじゃだめだ。

 

 結局、副校長からはそれ以上何も言われず、必要な書類を全て書いたうえで今日は帰宅することになり、みんなで出てきたというわけ。

 犯人は現行犯逮捕だから申し開きもせずにあたしへの暴行を認めたそうだけど、余罪が相当ありそうということで、警察は徹底的に調べあげることになる様子。

 後日裁判とかになったらどうしよう?

 と、そんな心配をしながらあたしは闇夜に浮かぶ警察署を見上げた。

 そこへ、ヒッキーが声を掛けてきた。

 

「さぁってと、もう遅えから帰るぞ? あー」

 

 ヒッキーはいったん立ち止まってから背後を振り返った。

 そこには今回の事件のもう二人の関係者が立っている。

 隼人くんと江ノ島さんだ。

 

 あたしはヒッキーに釣られてそっちを見ると、隼人君はさわやかににこりと微笑み返してくれて、そのあと一瞬江ノ島さんと視線が交差して思わず目を逸らした。

 江ノ島さんも、同じように横を向く。

 その動作の全てに胸が軋んだ。

 なんと言って接したらいいのか……

 あたしは江ノ島さんが犯人だとばかり思っていて、先ほどあの変質者に抱き着かれる寸前まで、ひょっとしてこの人は江ノ島さんなんじゃないかって疑っていたのだもの。

 でも、そうではなかった。

 江ノ島さんはあたしを助けてくれたから、あの変質者から。

 いったいどう彼と接すればいいのか。湧き上がるのは悔恨ばかりで、どう切り出していいかもわからない。

 まだきちんと謝れてもいないのに……

 そう気まずく思っていたら、ヒッキーが。

 

「そういや腹減ったな。お前らも減ったよな?」

 

「そうだな、お腹は大分すいているよ」

 

「え?」

 

 ヒッキーが軽くそう言うのに呼応して、隼人君がお腹を摩りながら応じた。

 すると。

 

「じゃあどうだ? これから飯を食わないか? うちで」

 

 と言って、あたしを見つめてくるヒッキー。

 その眼を見ていたら、なんとなくヒッキーの思惑が読めて、あたしも答えていた。

 

「うん。そうして‼ 材料もあるし、簡単なものならすぐ作れるし、だから……」

 

「というわけだから、葉山、それと、江ノ島さんも、うちに来いよ」

 

「いいね」

 

 ヒッキーの言葉にすぐに隼人君は応じたけど、江ノ島さんは何か気まずそうではあった。

 でも、すかさずヒッキーが言った。

 

「来てくれよ、江ノ島さん。あんたも大変だったんだから」

 

「い、いや……でも、私は……」

 

 遠慮がちな感じで言葉を濁していた江ノ島さんに、あたしも思い切っていってみた。

 

「どうぞ、是非来てください。その、た、たすけてもらったお礼もしたいので」

 

「結衣さん……」

 

 あたしの言葉に江ノ島さんはまだ戸惑っていたけど、漸く首を縦に振ってくれようとしていた。

 すると、そこへ……

 

「あ! じゃあ! 私もご相伴に預かっちゃおうかな! いいでしょ比企谷君!」

 

 そう言って急に隼人君と江ノ島さんの間に飛び込んで、二人の腕をしっかと掴んだのは、赤い毛皮のコート姿の橋本さんだった。

 えと……

 クリスマスイブに、警察署の前をなんで一人でふらついていたのかは……

 

 多分聞いちゃダメなやつだよね?

 

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