『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
結局あのクリスマスパーティというか飲み会は、橋本さんと江ノ島さんの二人が酔いつぶれてしまってお開きとなった。
というか、橋本さんにキモイと言われた直後から江ノ島さんが日本酒を浴びる様に飲み始めてしまい、それに付き合う形で橋本さんも更に飲んで……、気が付いたら二人してノックダウン。
ヒッキーと隼人君が江ノ島さんを介抱して、あたしは橋本さんのお世話。
ちょっと、言葉にできないくらい惨憺たる状況になってしまってはいたのだけどね、二人の名誉のためにも、そのことは胸の奥底にぐっと沈めて今後一切、二度と気にしないことにした。
うん、それがいい。思い出すと自分が憂鬱になっちゃうし。
ほんと、お酒は怖い。
怖すぎる。
ええと、まあ、その話はもう終わり。
隼人君はもともとヒッキーがこの家に泊めることにしていたということで、パーティの最中にあたしに良いかどうか聞いてくれたんだけど、当然泊まることは了解した。
友達が来てくれたんだもの、それくらいは当然だよ。
それに、この家は広いし、使っていない部屋もたくさんあるから、まあ、ちょこっと寝床に使うくらいはかまわないと思っていたし。
ということで、隼人君はまだ入居者の決まっていないあたしたちの隣の部屋に入ってもらってそこで寝てもらった。
ダウンしてしまった江ノ島さんと橋本さんはリビングで。
ある程度片付けも終わって、ようやく落ち着いたところであたしとヒッキーはお風呂に入ってから自室へと入った。
なんというか、もうかなり疲れ切っていた。
だって、本当に色々あったんだもの。
夕方に暴漢に襲われて、みんなに助けられて、警察に行って、それからパーティの準備をして、食べて、飲んで、介抱して、片付けて、お布団に。今ここ。
「はぁっ……つかれたー」
髪をドライヤーで乾かしてから、お布団の上でカーディガンを脱ぎつつため息をついていた。
すると、頭をタオルで拭きながら入ってきたTシャツ短パン姿のヒッキーが、部屋のドアにカギをかけてからベッドの上に昇ってきた。
「お疲れさん。よく頑張ったな」
そう言って頭を撫でつつあたしを抱きしめてくれる。
「えへへー。ありがと。本当にいろいろあったし、怖い思いもしたけど、今は全然大丈夫だよ。みんなと、ヒッキーのおかげ」
そう言ってから、彼の唇にキスをした。
真っ赤になって視線を泳がせるヒッキー。
そういう反応、本当に嬉しいな。
ヒッキーは頬を掻きながらあたしを見た。
それから、ベッドわきに置いてあるカバンを引き寄せて、中から小さなリボンのついた箱を取り出した。
「あのな、今日……クリスマスだろ? だから、ほれ、ぷ、プレゼントだ」
「あ! そうだった。あたしも用意したんだった」
「そうなのか?」
ヒッキーがプレゼントの箱を手にしたままあたしを見ていたから、あたしもクローゼットに置いてある手提げのところまで行って、中から今日買ったプレゼントを取り出した。
その小さな箱を持ったままベッドまで戻って彼へとそれを差し出した。
「はい、あたしもヒッキーにプレゼント。付き合うようになって初めてのクリスマスで、一緒に住むようになった記念にもなるかなって」
「おお……俺も同じような感じで選んだよ。そのあれだ、これから宜しくお願いしますってとこだな」
「だね」
二人して微笑みあってお互いにプレゼントを差し出して、二人きりのプレゼント交換会。
でも、よく見てみたら二人とも同じ柄の包装紙の同じ大きさの箱。
これはひょっとしてと、ふたりして同じような期待をしたまま箱を開けてみると、そこにはやはりというか、まったく同じものが入っていた。
「お前もこれを買ったのかよ?」
「うん、可愛い!! ありがとう!!」
そう言いあって取り出したのは、同じ柄、同じ模様のシルバーのピンキーリング。
ただサイズだけが違うそれを、あたしとヒッキーはお互いの小指にそれぞれ嵌めた。
そしてそれを眺めつつ言った。
「不思議だね。これ買うとか決めてなかったのに」
「まあ、お前この前こんな指輪欲しいとか言ってたからな、俺はそれを思い出しただけだ」
「言ったっけ?」
「言ったな、3回くらい」
「覚えてない」
「ひでえ」
「ふふ、ヒッキーも良く似合ってるよ」
「なんか男がするとちゃらちゃらしてるみたいにならねえか?」
「ならないよ。だってヒッキーカッコいいもん」
「そんなわけねえだろ」
「ううん。かっこいい。あたしにとっては最高にかっこいい人だよ」
「おま……恥ずかしげもなくそんなこと」
「かっこいいし、大好きだから……だから」
あたしは彼の指輪の嵌まっている手を取ってぎゅっと握った。それからまた口づけをして言った。
「だから、この指輪であたしを思い出して? ね?」
「おう……分かった」
「浮気しちゃだめだからね」
「当たり前だ。というか、そもそも俺に浮気できるような相手なんかいるわけない。というか、お前の方こそ……だな……」
「あたしにはヒッキーだけだよ。ヒッキーが好きなの。好き。大好き」
「そ、そうか……」
ヒッキーはそれ以上何も言わなかった。
なぜって、あたしの唇が彼の唇を完全にふさいでしまったから。
キスをしながら彼の手を握って、二人して布団の中に沈みこんだ。
好き……大好き……
彼に抱かれながら、愛する人と過ごす初めてのクリスマスの夜は更けていった。