『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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天使降臨

「「「「えええー!?」」」」

 

 ヒッキーも、隼人君も、いろはちゃんも、当然あたしも絶叫。

 まさか、目の前のこの美少女がさいちゃんだなんて!

 でも……あはは、と頬を掻きながら照れ笑いをするその表情は、まさにさいちゃんで……

 その長く透き通った黒髪を揺らしながらかわいらしく微笑む姿に、女のあたしでもドくんってなっちゃう。

 

 はっ!

 ひ、ヒッキーは……

 

「と、戸塚!結婚してくれ、いや、しなさい」

 

「は、八幡っ!?」

 

 って、何でいきなりさいちゃんの手を握って迫ってんのー!?

 

「な、なにやってんの、ヒッキー!!」

 

「はっ?お、俺はいったいなにを~?」

 

「は、はっちまん~……ず、ずっる~い!!我も我も」

 

「ちょっと、八幡、材木座君!急に冗談やめてよー、びっくりするよ」

 

 と、にこにこ微笑みながら困った顔で小首を傾げるさいちゃん。

 長い髪がさらりと揺れて、本当に可愛い……って、本当に男の子だよね!?

 

「「はうあああああ……な、なんて破壊力……」」

 

 ヒッキーと中二が胸を押さえてうずくまってるし……もう、なんなのよ。

 あたしはヒッキーのそばに行って、頬をがっちり両手で押さえて、正面から睨んだ。

 めっちゃ泳ぎまくるヒッキーの目。なんかいつもより3割ましで濁ってるし。

 

「もう、ヒッキーのバカ!!、あたしにプロポーズしたくせに、冗談でもゆるさないんだから」

 

「え?」「はむん?」

 

 さいちゃんと中二が驚いた顔してこっちを見る。

 ヒッキーは、冷や汗をだらだら垂らしながら、あたしの目を見ながら言った。

 

「す、すまん、悪かった。つい戸塚を見て、条件反射で……その……」

 

「うん、ヒッキーがさいちゃん大好きなのは高校の頃から知ってるけど、本当に傷つくから冗談でもやめてね」

 

「ああ……本当に悪い。もうしないよ」

 

 そう言って、そっとあたしの腰に手を回して抱き寄せてくれた。

 さっきまでのイライラが嘘みたいに収まって、急に幸せな気分が沸き上がってくる。

 ヒッキーの温かさに身を委ねて、ポケーっとなったところに、誰かの声が聞こえた。

 

「あーあ。もうどうしてくれるんですか。あの二人ああなったら、暫く二人の世界ですよ。ザ・ワールドですよ。帰ってきませんよ」

 

「ねえねえ、一色さん。八幡が由比ヶ浜さんにプロポーズしたって本当?」

 

「うむ!よりによってあの八幡に、婦女子に求婚する甲斐性があるとは到底思えぬのだが」

 

「いやいや、戸塚君、財……津君?比企谷はあれでかなり由比ヶ浜さんを大事にしているんだ。だからなにもおかしくないし、ここは素直にお祝いしてあげるべきじゃないかな」

 

「現れたおったなイケメン帝王!!なにゆえにうぬがここにいるのかは問わぬが、イケメンの言に従う気は一切なし!!我は我の道をゆくのみーーーーー」

 

「材木座君、ここはお祝いしてあげようよ。友達同士が結ばれるなんて滅多にないよ」

 

「あっはい」

 

「よっわ!財津先輩、よっわ!もう、急に現れてなんなんですか、漫才ですか?ちょっと傷心の私を見つけたからって、声をかければどうにかなるとか、本当にキモくて気持ち悪いので近寄らないでください、ごめんなさい」

 

「はうぅっ!!こ、これが、伝説の告白してないのに振られる、ツンデレ・マシンガン・トーック!!略して、”T・M・T”!!義輝、あいしてるぅううう!!でも、心なしかデレてない気が……」

 

「本当にキモいです、デレるわけないです。さようなら」

 

「ぶひぃっ!!」

 

 なにか、豚の鳴き声というか、断末魔が聞こえた気がしたけど、ふっと目を開けてみれば、すぐそこにヒッキーの唇……

 あ、き、キスしちゃう……

 と、ドキドキしていたら、

 

「あのぅ、先輩?結衣先輩?みんな見てるので、そろそろ……」

 

「ひゃっ!」「うわっ!!」

 

 すぐその鼻先に顔を真っ赤にしたいろはちゃん。

 

 正気に戻ったあたしとヒッキーは二人揃って赤面。

 なんか、みんなも気まずそうな顔になっちゃってるし。

 もう、超ハズかシー

 

「あはは、本当に二人は仲がいいんだね。本当におめでとう」

 

 そう言って微笑むのはさいちゃん。

 本当に可愛いよー。

 そんなさいちゃんに、ヒッキーが声をかけた。

 

「戸塚は、どうして髪伸ばしたんだ?」

 

「え?似合わないかな」

 

「いや、違う違う、似合いすぎなんだよ。危なく告白して振られちまうとこだった」

 

「って、ヒッキー思いっきりさっきプロポーズしてたけど!!」

 

「ま、まあいいだろ、小さいことだ」

 

 ぷいっと顔を背けるヒッキー。

 むう、反省してないな。よし、これは後でお仕置き決定。

 

 さいちゃんは、自分のさらさらの髪を指でいじりながら話した。

 

「編集部に入ったら、先輩たちがこの髪型にしてって、みんなで勧めてきたんだよ。ちょっと今の季節は暑いかなって思うこともあるんだけど……やっぱり切った方がいいかな?」

 

「「「切らなくていいです」」」

 

「う、うん?」

 

 なぜか、ヒッキーと隼人くんと中二がハモって返事。

 みんななんか必死だー。

 そして、中二がヒッキーに近寄って、鞄からなにかを取り出して、にやりと笑う。ヒッキーはヒッキーで、それを見つつ満面の笑みでサムズアップしてるし。

 

「戸塚編集、これを!!」

 

 といいつつ、中二がさいちゃんの頭にそれをタシッっと被せた。

 それは、白い花の飾りが列に並んでついているカチューシャ。

 そこには、まるでおとぎ話に出てくるようなロングヘアーの美少女が!!

 

「レ○ゥゥゥゥゥゥゥゥ!嫁バージョン!断章だ!!材木座よくやったぁ!!」

 

「然り然り!それでこそ我が朋友!!八幡ならツボると我は信じていたぁ!!」

 

 あれあれと、カチューシャをさわってオタオタしている

さいちゃんを他所に、抱き合ってはしゃぐ二人のオタク。

 まったくもう、ヒッキーは……

 あたしはヒッキーにそっと耳打ちした。

 

「いい加減にしないと、もう夜は……ごにょごにょ……」

 

「あ、わかりましたすいませんでした二度としませんです、はい」

 

 突然素直に謝るヒッキーを見つつ、とりあえず頷くあたし。

 うん、なんか複雑な気分だけど、まあこれでよし。

 そして、こほんと咳払いをしたヒッキーが中二に向き直った。

 

「で、材木座お前本当になにしにきたんだ?いくらなんでも戸塚から逃げるだけで釧路から北見までは来ないだろ?それに、お前のラノベ、今度アニメ化するかもしれないんだろ?こんなとこ来てていいのかよ」

 

「え?中二の小説アニメになるの?そんなにすごいの!?」

 

 驚くあたしに、ヒッキーが頷く。それから、さいちゃんが説明してくれた。

 

「材木座君の小説、投稿サイトの『小説家になっちゃおう!』のファンタジー小説大賞で大賞を受賞してね。うちの出版社から書籍化したんだけど、これがすごい人気なんだよ。特に主人公の『ウショー・F・ヌードゥルガイ』と、ヒロインの『アロエ・グリーンリーフ』が、今年人気キャラクター一位も獲っちゃったんだ!」

 

「へ、へぇー」

 

 目を輝かせて説明してくれるさいちゃんには申し訳ないけど、あたしにはなんのことかさっぱりだった。

 まあ、でも中二がすごい小説家さんということは理解できた。

 そういえば、子供たちがなにかそんなキャラクターの話をしていたような……?

 今度、学校で聞いてみようかな。

 

 知ってるひとが有名になるって凄く不思議な感じ。きっと中二はこれからお金持ちになっていくんだなー。

 あたしのなかでは、今の見た目が昔と全然変わっていなくて逆に違和感がすごいんだけど。

 

「えーと、それで、中二……さんは本当になにしにきたの」

 

 それに彼は腕を組んで咳払いをしてからこっちに向きなった。

 

「けぷこんけぷこん、我が心の盟友八幡!!我はいつも思っていた……なぜ、いつも貴様ばかりモテるのか……なぜ、貴様のまわりにばかり女子が集まるのか……と!」

 

「いや、別に集まってねーだろ。っていうか、俺にまとわりついてきたのは結衣くらいしかいねーよ。あとは全部勘違いだ」

 

 手をヒラヒラさせて呆れ顔のヒッキーの後ろで、なぜかいろはちゃんが膨れっ面。

 

「じゃすたもーめんと!八幡。貴様のその天然ジゴロっぷりに我は何度も苦渋を飲んだのだ!そして、我は考えた。我と貴様のいったいなにが違うのかを!!」

 

「それ、単に財津さんが太ってて気持ち悪いからじゃないですかー?」

 

「はばろふすく!!」

 

「いや、一色。いくらなんでもストレートすぎだろ、もっとオブラートに包んでだな。ほら、こいつこれで物凄いグラスハートだから」

 

「えー?こういうのははっきり言ってあげた方が本人のためなんですよー。大体23にもなって、真夏に指ぬきグローブにロングコートって、変質者にしか見えなくて、怖くて近寄れませんよー。普通の女子は」

 

「くくく……くははは……くははははははははははh」

 

 と、突然中二が笑いだした。

 どうしたんだろう?

 お腹痛いのかな?

 

「そうやって、人を見下すことに関しては最強であるな!リア充どもよ!だが、こんな我を求める婦女子がこの世にもあることを思いしるが良い!!見よ!!」

 

 そう言って、コートの内ポケットから取り出したのは、ゴテゴテと装飾された、大きなスマホ。

 あ、あれ、なんかのアニメとタイアップしてたやつだ。

 なんかのロボットのデザインの奴だ。

 

 そして、その掲げられたスマホの画面には、かわいらしく微笑んだ一人の女性の姿。それを、全員で眺めた。

 そこには、薄紅をさした唇と大きな瞳で微笑んだそのショートヘアーの美人さんが。

 うん、確かに、すごく綺麗な人だけど、恋人さんなのかな?

 

 それを見たヒッキーが一言。

 

「材木座……勝手に人の写真待ち受けにしちゃだめじゃないか。黙っててやるからすぐに消せ」

 

「いやいやいや八幡?これ、この子から貰ったのよ?本当よ?我、この子に会いにきたのよ、北見まで」

 

「え?」

 

 その中二の言葉に一同唖然。

 みんなでぽかーんとしたままでいると、胸をそらして立ち上がった中二が高らかに宣言した。

 

「むおっほん!!彼女の名前は、樺太愛菜、21才。我、彼女と結婚を前提にお付き合いしているのである!これは前世から紡がれた赤い糸、千葉大妙見のお導きぃぃ!」

 

 あれ?千葉神社って、縁結びだったっけ?

 自信満々の中二を見つつ、そんなことを考えていた。

 

 

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