『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「知人に彼女を紹介する我、今、かっこいい」
スマホを突きだしてしてニヤリと得意満面の中二に、みんな唖然呆然。
でも、確かに中二だから違和感あるんだけど、彼女を紹介するとかって、まあ普通と言えば普通なんだよね。
あれ?ヒッキーもあたしのことこうやって紹介したりするのかな……
な、な、なななんてみんなに紹介するんだろ……
か、か、かか可愛いとか言ってくれてるのかな……
想像して頭がきゅーっと熱くなる。
「どうした結衣?顔真っ赤だぞ」
「な、なんでもないし!」
ヒッキーに覗き込まれてますます赤面、うわあーもう、超恥ずかしいし。
あたしってば人に可愛いって紹介してほしいとか、本当に自意識過剰すぎ。でも、ヒッキーのことかっこいいよって、みんなにも言いたいし、思ってもらいたいし!うう~~
ぽふぽふと、ヒッキーが頭を撫でてくれたので、こてんと寄りかかっておきました。はい。
今はなんかなにも言えないよー。
「んで、その彼女さんに会いにきたんなら、こんなとこいねえでさっさと行けばいいだろ?」
あたしをぽふりぽふりしながら、ヒッキーが中二に声をかける。
その途端に……
「はっちえも~~~ん」
「ばっ!!材木座、それはもうやったろうが、暑いからさっさとはなれろー」
「助けてでござる、助けてほしいでござる~~」
「ばっか、だから何から助けるってんだよ。戸塚はもう大丈夫だろが!」
「いや、戸塚氏のことではなくてですね。その……あの……」
「急に素に戻ったあげく、モジモジするな気持ち悪い。んで?なんだって?」
「いやだから……その……」
目の前で指をくるくる回しながら中二がポツリポツリと話した。
× × ×
「ええー?その彼女にまだ会ったことがないーーー?」
思わず絶叫するあたしたちに、中二はコクリと頷く。
眼鏡越しに泣いているのか、明らかにしょんぼりしちゃってるし。さっきまでのテンションはどこに行っちゃったの?
そんな彼を見ながら、ヒッキーが頭を掻く。
「あー、だってお前、さっきのその子と付き合ってるって言ってたよな?」
「はい……」
「ってことはだ。当然会ったことあるんだろ?」
「いいえ……」
「だー、もう!ならどうやって付き合ってたんだよ。意味わかんねえよ……え?『date time❤』?なにそのアプリ」
頭を掻きまくるヒッキー(やめて!将来が心配になっちゃう(>_<))の前で、スマホの画面をちょいちょいいじった中二が再びみんなの前にそれを見せた。
ピンクの絵に白文字でアプリ名が浮かび上がるその画面は、どことなく緑の世界的なアプリっぽい。
中二はその画面のマイページを開いて、そこに出てきた名前をちょいちょいと指差した。
「なになに?
『樺太愛菜21才、美容師、北海道、旅行と食べ歩きが好きでいつもじゃらん片手におでかけしてまーす❤いつも一人で寂しいのでお話してくれる人大募集❤』
って、お前これ……」
「うむ!ものを知らぬとは悲しいこと……ならば我が教えてしんぜよう。古来より、男女が心を通わせるには文が必要であり、現代日本では、電子化された……」
「あ、これ、出会い系アプリだね」
「だな」「うん」「だね」「ですねー」
「はぽぉーーーーーん!!HAPON!HAPON!」
「だー。もう、うるさいよ材木座。お前これ完全に出会い系のやつじゃねえか、しかも、なにこの『フォロー250人』って、お前どんだけ頑張っちゃってんの?それにユーザーネーム『天草四郎』ってなんなんだよ。中二病まるだしじゃねえか。おまけになんで、自分の顔完全に晒しちゃってんだよ、気持ち悪いよ!ニヤケ顔のお前のアップ写メ。せめて手で口隠すとかしろよ、それにお前の部屋だってバレバレじゃねえか……背後にばりばりフィギュア写っちゃってるし!もう、見てて俺の方が恥ずかしいよ」
「詳しいねヒッキー」
「うっ……いや、まあ、世間一般の常識としてだな……」
「ふーん」
思いっきり目をそらしたヒッキーに、追撃の視線を送りつつ、つかんだ右手の甲を思いっきりつねっておいた。
これも後で追求だね!!まったく知らない間に何をやってんだか!!
がっくり項垂れて、ふうふうと肩で息をしている中二が冷や汗をたしながら顔をあげた。
「ふふ……うすうすは我も出会い系ではないかと気がついてはおったのだ……」
「え?本当に気がついてなかったの?お前」
呆れ顔のヒッキーに中二が立ち上がって吠えた。
「だが!こんな我であっても、彼女はいつもいつもたくさんコメントをくれるのだ!我の一喜一憂に彼女は優しい言葉をかけてくれるのだー!これが恋でなくてなんであろう?いや、恋に違いない!そう英語で言えばL・O・V・E~ラヴゥ!!ラヴであろう?そうであろう?」
「あー、財津先輩盛り上がってるとこすいませんけど、このアプリ、女の子、お金入りますよ~」
「え?」
「おい、一色どういうことだよ?」
急に割って入ってきたいろはちゃんが、自分のスマホをタシタシっとさわりながら、画面を開いて見せてくれた。
「いや、私の友達の友達がですね、このアプリやってまして、すっごい稼いでるんですよー……なんかコメントもらうごとに、お金入るとかでー、電話でも、ビデオ通話でも、1分毎に入金される仕組みなんですよねー……ほら、あ、私の友達の友達に聞いた話ですからね」
いいながら、リロード画面を隠しつつ差し出されたスマホには、入金される金額が表示されていた。
「一色、お前なんでマイページ隠しながら見せてんだよ」
「え?まいぺーじ?何のことですかー?いろはわかんないですねー」
ひゅーひゅーと吹けない口笛を吹きつつ視線をそらすいろはちゃんをみんなが白い目で見つつ、その料金表を見る。
「なになに?コメント1通15円?電話が45円……1分毎に?で、ビデオ通話が1分で70円?他にも、写真の保存とか、秘密の写真とか、なにこれ、怪しさ満点なんですけど……??おまえ、これ1日いくらくらい稼げるの?」
「えー?そうですねー、頑張れば1万円くらいは……って、はっ!?……いえいえ、そ、そ、そんなことを言っていましたねー、友達の友達が!!」
友達の友達とどうやって話すんだろう……ってそれは気にしないでおいて、え?じゃあ、中二の方は?
そう思っていたら、真っ青な顔になってる中二からスマホを奪ったヒッキーがその料金表を開くと……
「コメント50円1通、電話120円1分、ビデオ通話170円1分、秘密の写真閲覧100円1回……」
「ええーーー!!そんなに高いんですかー!?ちょっと運営ぼりすぎ……はっ!?、いえ、友達の友達が……ごにょごにょ……」
うん、もう何も心配しないで大丈夫だと思うよ、いろはちゃん。あたしもちゃんとスルーしてあげるからね。
それにしても、なんか、中二かわいそう。
これ、男の人には女の子がお金もらってるのは知らせてないんだね。だったら、自分がお金払っても返事をくれる相手もお金払ってるんだから、お互い様って思いながら利用してたのかな。
な、なんかいたたまれない感じだ……
「それでも……、それでもだ……」
床に這いつくばってる中二がうめきながらも、振り絞るように声を出した。
なんか、背景に『ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ』とか、ヒッキーに借りたまんがみたいな擬音がつきそう!
「それでも、我は彼女を愛しているんだぁーーーーー!!」
「材木座……お前……」
プルプル震える中二にヒッキーがゆっくり近づいて、その肩にポンと手を置いた。
そんなヒッキーを泣いた目で中二が見上げる。
ヒッキーはやっぱり優しいね。間違いなく呆れる場面なのに……
そして優しい笑顔でぽしょりと一言……
「あきらめろ」
「ぶひぃぃっつ!!!」
うん、ある意味最大の優しさだった。
そんなヒッキーに中二がなおも食い下がってる。
「頼むでござる、サポートしてほしいでござる、彼女となんとか会いたいのでござるー」
「だあっ!だから放せって、お前なあ、そもそも出会い系で本名名乗ったりするわけねえだろ!それに、その子だって一色と同じで金儲け目当てでいろんな男フォローしてたりするんだぞ!チャットにコメたくさん欲しいから色々質問したり、ちょっとエッチな写メ送って反応見たり、仲良くなってきたら、『えー?そんなー?はずかしー❤』とか言って、電話とかビデオ通話長引かせたりするんだぞ!一色みたいに!!」
「私を引き合いに出さないでくださいよー!!友達の友達……」
「いいか!材木座!現実を見ろ!お前は頑張って作家デビューもした!しかも人気作家だ。今度はアニメにもなるかもしれないんだろ?そうしたら、お前の念願だった声優さんと仲良くなれるかも知れない!ひょっとしたら、万が一、いや、億……いや、兆に一くらい、お前を好きになってくれるかもしれないんだぞ!」
「なんか、我ちょっと悲しい……」
「出会い系のお遊びで身を崩すんじゃねえって言ってんだよ!いいか材木座、そんないい加減な女なんてとっとと忘れちまえ」
「愛菜たんのことを悪く言うなーーー!!」
「んぐ」
突然立ち上がった中二がヒッキーに怒鳴った。
ヒッキーは中二を心配してただけで、なんの悪気もないのは分かってるはずだと思うのに。
「落ち着けって材木座……俺は別に……」
「彼女のことを侮辱することは我が許さん」
目を血走らせる中二はスマホを握りしめて真剣な形相に。あたしは、いろはちゃんと隼人くんと顔を見合わせた。
確かにあたしたちは出会い系だから、中二だからってきちんと話を聞いてなかった。
笑ったりはしてないけど、本気の話だとは思わなかったし。これは悪いことしちゃったかも……
ヒッキーも、なにか気まずい感じの表情で中二に謝る。
「悪かった材木座。よく知りもしないで、その人のこと貶したりして……お前が遊ばれてるかと思っちまったんだよ、わりぃ」
そのヒッキーの言葉に中二がまた項垂れて続ける。
「いや、我も身の程をわきまえずに悪かったと思っておる。しかしな、彼女は我にとって特別なのだ。これを……」
そう言って中二は懐からチェーンのついたアクセサリーを取り出す。
そして、それの蓋をカチリと開くと中を覗き込んだ。
「懐中……時計?」
「これを彼女が贈ってくれたのだ。我が就職も出来ず、小説も当たらず、途方にくれていた時に、『四郎、頑張ってください❤』と彼女は御守りにと、これをくれたのだ」
「え?住所を教えちゃったんですか?出会い系で?っていうか、ひょっとして本名も!?」
いろはちゃんの言葉は完全無視で。中二はその懐中時計をぎゅっと握る。
「そして、我は心に誓ったのだ。いつか、我の小説が陽の目を見た時、きっと彼女を迎えにいこうと!」
グッと拳を握る中二は一人で陶酔しちゃってるし。
そんな中二を他所に、ヒッキーがみんなを集めた。
「どう思う?お前ら」
「あたしは良い話しだし、助けてあげてもいいんじゃないかなっと思うけど」
「えー、でもこれ、出会い系サイトの話しですよ。100%騙されてますよ」
「そうなんだよね、メールとかのやり取りだけで、好きになるとか、材木座くんなら分かるけど、普通の女の人はどうなのかな?」
「戸塚君、普通そんなことはないと思うよ。男だって」
「イケメンリア充の葉山がそう言うんだからまず間違いねえだろ」
「でも、あんなに高そうな懐中時計普通贈らないよ」
「結衣先輩、それはあれですよ。『豚は太らせてから食べる』これですよ」
「ちょっ、いろはす怖っ!なにその肉食思考。お前そんなんだから、太らせる前に逃げられんだよ」
「ぎゃー、さっきからなんですか、先輩!私になんか恨みでもあるんですか?今私関係ないじゃないですか」
「一色さん可愛いから気にしなくて大丈夫だと思うよ」
「うわ~戸塚さんだけですよ、優しくしてくるの~どうですか?私とお付き合いしませんか?」
「駄目に決まってんだろ、人の戸塚に手を出そうとしてんじゃねえよ」
「ちょっとヒッキー!!」
「まあまあ、みんな落ちついて……」
「お前仕切ってんじゃねえよ、葉山」
「なんか、我、寂しい」
「「「「ひゃっ!!」」」」
ぬぼーっと突然顔を出した中二に、思わずみんなで飛び上がる。ううん別に気持ち悪かったとか、そういうんではないんだけどね。
生気のない中二がポソリと呟いた。
「なあ、八幡。我には貴様が羨ましいのだ。あんなにもたくさんの女子を侍らせておきながら、結局は一途に想い続けたそのゆ、ゆいがはま嬢と結ばれた」
「なんか、めっちゃ人聞き悪いな、おい」
「我も……我も……憧れたのだ、一途な恋というものに。どうか助けてもらえないだろうか?頼む」
そう言って頭を下げる中二に、みんなは言葉もない。
正直、ここまで強く思っているんなら、自分で頑張ればいいのにとも思っちゃうけど、それは難しいよね。
だって自分のこと振り返ればそうだけど、告白したりその返事をしたり、本当に怖いもの。
多分、中二も今回のことが難しいって、分かってるんだと思う。
いくら何度もメールしてるっていっても、会ったこともないんだしね。
あたしは中二に向き直った。
「『頼む』ってことは依頼ってことでいいのかな?ねえ、ヒッキー」
ヒッキーはあたしの言葉に、困ったように微笑んで頭を掻く。
「まあ……これだけ奉仕部関係者がいて見ぬふりは出来ねえな、なあ、葉山、一色」
「そうだな……大学以来か……腕がなるよ」
「えー?私なんか、高校以来ですよー。っていうか正式部員じゃないですし」
「あー、そうだねー。僕は奉仕部員じゃないけど、早く材木座君に作品書いて貰わないと困るし、それに友達だし、僕も当然手伝うよ」
「は、はちまん、由比ヶ浜嬢、一色嬢、それに、葉山氏に戸塚氏も……ありがとうでござる。ありがとうでござるぅ」
泣きながら頭を下げる中二の姿に思わず笑ってしまった。
そんなあたしの頭をぽんぽんとヒッキーが撫でて微笑んでくれる。
えへへ……なんかこういうの嬉しい。
「ま、手伝ってやることにはなったが、材木座。分かってると思うが、この依頼、ほぼ達成不可能だと俺たちは思ってる。だから、あくまでお前がその子と会うまでのサポートだけだ。それでいいな?」
中二はヒッキーの手をぎゅっとつかんで、号泣!
「それで十分!感謝感謝でござる!」
「おい、やめろって……それにしても、お前。そんなにその子が好きなら、なんで直接アドレス交換とかしねえんだよ。そんな怪しいアプリでやり取りしてっから怪しまれんだよ」
「そ、それは……それを言い出すのはなにか亭主関白っぽくて気がひけて、むむぅ……し、しかし、愛菜嬢に想いを寄せるようになってからは断じて他の娘とやり取りなどはしてござらん!神に誓って!!」
「と、いうことは、その前までは結構やり取りしてたの?」
「ゴラムゴラム、うむ!それまでは、たくさんの女子とお話したくて寝る間も惜しんでチャットしていたのだが、我、モテモテすぎて困った困った、はっはっはっー」
「つまり、毎夜毎夜課金しまくってたわけだな、そりゃモテるわ」
「うむ、金で済むことは金で解決すべしが我のモットーである」
「こいつ、言い切りやがった。しかも今や印税生活者か……なんだ?すごくムカついてきたぞ。で、他にも好きになった子はいなかったのか?」
「うむうむ、いないことはなかったが、毎晩毎晩、我にセクスィーな写メを大量に贈ってくれる女子がいて、そのこは気になっていたが、我は愛菜嬢を選ばせてもらった」
「奇特な女の子もいるんですねー。なんて子なんですか?」
「うむ!『はすはす☆』という子でな。我そのときのアカウント名は『よっしー』で……」
得意気になっている中二から少し離れたところで、いろはちゃんがすごいスピードでスマホを叩いてた……真っ青な顔で!
いろはちゃんてば……黒歴史はなかなか消えないと思うよ……うん。