『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
中二もとい材木座君の恋愛をサポートすることになったあたし達。
まず初めにしたのは、その恋愛対象の女性の存在の確認から。
今回の情報源は、出会い系アプリという怪しさ満点の媒体のプロフィールのみ。
材木座君は、このアプリを通してのみ彼女に連絡をとっていたとのことで、このアプリを使用して呼び出すことは可能ではあったのかもだけど、実際の彼女がどのような人物なのかを知ることを優先することにしたの。
だからまず、ネットで彼女のプロフィールの名前を検索。
でも、愛菜という名前の美容師さんを見つけることは出来なかった。
それで、材木座君の強いれていた数少ない情報の中から、『湧別』そばにどうもお住まいらしいとのことだったから、そのエリアの『樺太』という名字の人を検索してみたら、タウンページで一軒だけその名前の美容室を発見。
でも、その名前は『樺太儀二亜須』となってた。
アイヌの人の当て字とかなのかな?
そんなことを思いつつも、可能性も高そうに感じたのと、湧別ならそんなに遠くはないので一応行ってみようということになって、ヒッキーに車を出してもらって早速確認へ。
結果は……
「ま、間違いないでござる。あ、愛菜たんに」
車の後部座席で顔を窓に貼りつけて凝視している材木座君。
それ、ちょっと皮脂とか汗とか涎とか付きそうだからやめて欲しいなって思っていたら、ヒッキーも凄く嫌そうな顔になって睨んでいた。そりゃそうだよね。
その小さな美容室の大きなガラス窓の内にはショートカットの女性が手慣れた手つきで地元のおばあちゃんの髪をカットしていた。遠目に見てる感じではあるけど、笑顔も可愛いし、とってもきれいな人。
材木座君が好きになっちゃうのも分かる気はするんだけど……
こんな感じの子が出会い系アプリとかしちゃうの? 怖いとか思わないのかな……
なんて、経験のないあたしには疑問附ばかりだったけど、いろはちゃんも楽しんでいるみたいだし、結構安全なのかもね。
それでもあたしは絶体しないけど。
そんなことを思っていたらヒッキーが声を出した。
「それでどうすんだよ、材木座。あれが彼女ならもう直接会って話してきちまえばいいだろ」
「ふぇええっ!? しょ、しょんなっ! わ、我にそんな試練を! チュートリもなしに!!」
「そもそも告白にチュートリアルはないのだが……必要と思うなら先にときメ〇でもやっておけ」
あ、それ前にヒッキーがやってた絵柄の古い恋愛ゲームだ。俺は全キャラに呼び捨てにされているとか、訳の分からないことを言っていた気がするけど、あれ一緒に遊ぼうってお願いすると、真顔で嫌がるんだよね。
材木座君は焦りまくってもう声も出なくなっている感じだけど、それを見ながらヒッキーと隼人君が向かいあって頷き合っていた。
「じゃあ……あれでいくか、葉山。お前お得意の『撒き餌作戦』で」
「『撒き餌作戦』って?」
あたしがそう聞けば、ヒッキーはさも当然とばかりに指を立てて教えてくれた。
「大概の女は葉山に即メロメロになるからな。とりあえず葉山を放り込んで彼女がどんな反応を示すか様子を見る」
「俺は別にそんなにモテるわけじゃないんだけどな。それに撒き餌とか、酷いな。俺は偵察に行ってみようかと言っただけだろ」
そう言った隼人君に、材木座君もヒッキーも座った目になった。
「そうやってさらりと非モテ発言しちゃうところがそもそも持てる者の余裕だとなぜ気が付かないんだ!!」
うんうんと激しく同意している材木座君と彩ちゃんと……なぜかいろはちゃんも。そ、そういうものなんだね。はは……
ヒッキーは表情も変えないままに続けた。
「葉山にいきなりアプローチかけてくるくらいなら材木座の脈は当然ないと言える。出会い系アプリをやっているくらいだからな、イイ男狙いの可能性の方が高いだろ。それなら即諦めれば良い。ま、そんな風にならなかったら、告白してみてもいいんじゃねえかってことだ……良く知らんけど」
最期はプイッと顔をそむけたヒッキーを見つつ、涙目の材木座君ががっしと隼人君の手を握った。
「葉山イケメン殿!! 頼むでござる頼むでござる!! どうか愛菜たんに言い寄られないでっ!! 義輝一生のお願いぃぃ!!!」
「は、ははは……善処するよ……じゃあ、とりあえず行ってくる」
そう言って車を降りた隼人君は通りを渡って彼女の美容室の中へと入って行った。
「う……うう……」
「大丈夫だよ材木座君。きっと上手くいくって」
「そうですかね? 女って結構みんな裏の顔って違うんですよぉ。ねえ、結衣先輩」
「あ、あはは、そ、そう? かな……」
「ぶひぃっ!!」
慰めている彩ちゃんの脇で、いろはちゃんが前髪をくしくしと整えながらそんなことを言ったもので、また材木座君が泣き始めてしまった。
というか、そんなに裏の顔違うの? それをあたしに同意求めないで欲しいかな。
なんかヒッキーもちらちらあたしを見ているけど、あたしそんなに裏の顔隠してないからね……多分。
「あ、葉山先輩アプローチ始めたみたいですよ」
いろはちゃんにそう言われて店内を覗いてみれば、例の愛菜さんが来店した葉山君に声をかけているところ。
頭を触っている彼に、愛菜さんはにこやかに微笑んでいる。
これはヒッキーの言う通り、かっこいい男の人が好きな子なのかな? とかそうおもっていたら、特に変わった様子もないままに椅子に座らせて、髪をカットしてそのまま終了。
お会計の後はすぐに次のお客さんに同じような笑顔を向けていたし、これは特に隼人君に興味があったわけではないのかも。
車へと隼人君が戻ってきた。
「やあ。いろいろ話がきけたよ」
そう言った彼の頭は、坊主に近いかなりの短髪になってしまっていたけど、返って爽やかさが際立った好青年になっていた。
「イケメンは坊主でもイケメンかよ。チッ!!」
ヒッキーが思いっきり舌打ちしていた。みっともないよ。
× × ×
「つまり、あの子はあそこが家で、病気の兄貴と二人で暮らしている……と、そういうわけか」
「ああ、あと犬が一匹いるな。大きなふさふさの犬が店の端に寝そべっていたよ」
隼人君の仕入れてきた情報に相槌をいれるヒッキー。
その話を要約するとこんな感じ。
愛菜さんは美容師であそこの美容室をきりもりしながら、臥せっているお兄さんのお世話もしている。
結婚は当然しいないし、付き合っている人も今はいないということで、お兄さんのことがあるので彼女も本気で好きになることはないということらしい。
そんなところまで聞いてきてしまえる隼人君はやっぱり普通じゃないよね。
それを聞いて考えていたヒッキーが顔を上げて言った。
「よし材木座。お前今からあの店で髪を切ってもらってこい」
「ぇえええ!! なんで!! 八幡なんで!!」
思いっきり叫んだ材木座君の横で耳を塞いだヒッキーが続けた。
「そ、そりゃあ、きっかけを作るためだろうが。まずお前は今日髪を切る。で、明日の朝、彼女が犬の散歩に出るのを見計らって、どこかで偶然を装って会って挨拶をするんだ。そうすれば、あ、昨日のお客さんだ。あ、良く見たらネットのあの人だ。とか、そんな風に話も広げやすいだろ。それで告白でもなんでもすればいい」
「ちょ、八幡、ハードル高すぎぃ!! 我そんなの出来る自信ない」
「うるせえよ。高くねえよ、むしろ低いくらいだよ。そもそもお前のハードルなんて知ったことか。とにかくもう決定。ほれ、さっさと髪切ってもらってこい。どうせ今日はお前からは話しかけられねえんだろうから」
そう言われてバンを追い出された材木座君がカチコチにかたまったままでギクシャクと歩いてみせに入った。
そして出てきた時には、隼人君と同じ髪型になっていて、みんな一斉に大爆笑したのだけどね。
本当にごめん(笑)