"異"世界の駄っ作機   作:飛燕治三郎

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エルペシオ1/2/4型の設定とか、マリンの前の主力機フルビアルとか、エンジン編以上にオリジナル設定山盛りですので、ご承知願います。



戦鳥無き里のマジックジェット 神聖ミリシアル帝国エルペシオ3型ー機体・戦歴編-

 元々が魔帝製超音速戦闘機の解析とコピーから始まった「エルペシオ開発計画」、エンジン部門が絶賛炎上中なのを横目に機体部門は「まずは模倣」とあちこち壊れた機体を繋ぎ合わせ、まずは外見だけでもと復元に勤しんだ。

 そうして出来た機体を見ながらミリシアルの技術者達は「なるほどこれがかつての空の王者か」と感心しながら眺めていたところにエンジン部門からの悲報が届く、どうやら技術的限界からエンジン出力がオリジナルからかなり低下するらしいと。

 エンジンの性能が低下するならば、その分は機体設計で取り戻さなくちゃならない。「エンジン部門の失点は俺たちが取り戻す!」そうして機体部門のメンバーは使命感に燃えに燃え……大炎上してしまった。

 エンジン出力が出ないってコトは、すなわち速度が出ないってことだ。1kmでも2kmでも速度が欲しい身として、まず出来ることとして徹底的に空気抵抗を減らすべく、機体の出っ張りという出っ張りをそぎ落とした。

 それから取り組んだのは機体の軽量化、ある意味開き直って「どうせ速度でないんだからある程度機体強度を妥協しても良いんじゃないかな?」とばかりに、外板の厚み削ったり、骨組みの肉抜きをやったりした上に、直接飛行と関係なさそうな未解析の装置を思い切って取っ払った。

 そんなこんなで出来上がった試作機に、やっとこさエンストしなくなったマジックジェットを乗っけて初飛行と相成ったわけだけど、どうにも機体が安定しない。

 原型機が超音速戦闘機だけあって、それを模倣したエルペシオの試作機も後退翼を備えていたんだけどエンジンの非力さから来る速度低下は著しく、試作機の速度は400km/hちょいというジェット機にあるまじき遅さ。当然こんな速度じゃぁ後退翼の恩恵は得られずかえって翼端失速の危険性などのデメリットばかりになってしまったのだ。

 本来だったら、鳥の翼型をまねてテーパー翼から後退翼・デルタ翼へと進化していくはずが、航空理論・技術を会得しないままいきなり超音速ジェットの研究……って言うか模倣から始めたモンだから、ミリシアルの技術者からして見れば「正解を手本に作っているはずなのに何故こうなる??」と頭を抱えるばかりだった。

 とにかく、試作機の飛行を安定させなきゃぁ空中戦どころの話じゃない。

 総当たり的に試行錯誤を繰り返しているエルペシオ開発班の横で、旅客・輸送タイプを担当している班は順調に開発を進めていた。旅客タイプのゲルニカ型は後退角が緩やかで殆どテーパー翼に近い翼型だったから、試作エルペシオほど後退翼のデメリットが出なかったのだ。

 さらにエルペシオ班の焦りを誘うニュースが飛び込んでくる。ムー国で開発中のフルビアル型(マリンの前の主力機)戦闘機がワイバーンを上回る250km/hの最高速度を引っさげてデビューしたのだ。

 パーパルディア皇国やレイフォルといった列強で使っているワイバーンロードには及ばないものの、宙返りやら背面飛行といったワイバーンが苦手とする曲芸飛行を難なくこなす安定ぶりに、未だに飛行場を一周してかえってくるだけで精一杯、曲芸飛行まして空中戦などまだまだ先のエルペシオ開発陣のプライドはズタズタに引き裂かれた。

 追い詰められた機体部門は、もはや薄っぺらいプライドに拘っている場合ではないと、恥も外聞もなくゲルニカやフルビアルの翼型をパクった、試作した一機に複葉型があったと言うから、彼らの焦りと混乱ぶりが忍ばれる。

 結局、複葉にせずとも単葉のテーパー翼で充分な安定性を発揮できたので、まずは一歩前進といったところ。速度は相変わらす400km/hちょいと言う鈍足だけど、当面の仮想敵がパーパルディアのワイバーンロード(最高速度350km/h)だったから、まぁこれで必要充分の性能だろうとその機体はエルペシオ1型として正式採用の運びとなった。

 最高速度400km/hを引っさげて華々しいデビューを飾ったエルペシオ1型だったが、運用していた部隊の評判は芳しくなかった。

 兎にも角にも加速性能が怖ろしく悪く、爆装するわけでもないのに長大な滑走路が必要だったから、陸上基地での運用にもかかわらず離陸促進装置(要はカタパルトやRATO)が開発され、それを用いての運用が常態となった……おかげで2型以降の艦載機化がすんなり進んだけど。

 離陸時もそうだけど、空戦機動中に失った速度の回復も酷いものだった。オマケにエンジンも過熱気味で、どうもエンジンに思うように空気が流れていないんじゃないかって疑いがかかった。

 後で分かったことだが、これはエアインテークの設計が悪く境界層をモロに吸い込んでタダでさえ非力なエンジンの更なる性能低下を引き起こしていた訳なんだけど、当時のミリシアルの知識では、「空気が思うように取り込めないのは分かったけど、どうしてそうなるのかが分からない」という状態だった。

 兎にも角にも空気の取り入れ量を増やさないとならないから、単純にインテークの開口面積を増やすことにしたわけだけど、空気抵抗の増大を気にしすぎてインテークの嵩上げではなく横にぐぐ~っと広げて、最終的には機体横のインテークが胴体下部まで回り込み、あの胴体をぐるりと半周するエルペシオ特有のエアインテークになった。

 開口部の面積自体は倍以上になったから、空気の取り入れ量も曲がりなりにも増大したものの、思ったより効率は上がらなかった。ええ、境界層隔壁もダイバータレス超音速インレット(DSI)も設けていない平べったいインテークなモンだから、横に広げたって境界層を吸い込む欠点はそのままだったのだ……というより、空気抵抗削減のために原型機から取っ払った突起って完全にDSIとかショックコーンの類だよね?速度域が全然違って来ちゃうから、どのみちDSIは再設計になるけど。(一概に余計な手間かけたとは言い切れないのがなんとも……)

 そんなこんなで欠点を残しつつも多少はエンジンパワーの低下も緩和され、まぁなんとか最高速度も加速も改善した機体は、人工的に気圧差を作り出すマジックアイテム「風神の涙」を利用してコクピットの与圧も施し、エルペシオ2型として採用され急速に1型と更新されていった。

 2型の操縦席の与圧は大きな武器となった、圧倒的な飛行能力を誇るものの空気の薄い高空を苦手とする、エモール国の風竜騎士に対して高々度性能で対抗できるようになり、「低空ではエモールの風竜、高空ではエルペシオ(2型)が世界最強」と世界中から讃えられるようになったのだ。

 讃えられながらも運用部隊は満足していなかった、加速性能はもう仕方がないとしても、もっと速度は上がらないのかと矢のような催促を開発陣に連日送り続けた中、エンジン開発部門があることに気付いた。「あれ?このトンガリ(テールコーン)動くぞ!」

 それまでエンジン推力と機体速度の調整はスロットル操作一本だった所に、テールコーンの操作で推力調整が出来るという事実にエンジン部門は躍り上がって喜んだ。エンジンの回転数を上げずに事実上のパワーアップが出来る技術は非常に有り難かったのだ。

 更に古代兵器発掘チームから朗報が届いた、「戦闘型天の浮舟のエンジンを発見!ノズル部分に特徴有り。」コンダイノズルの機構がしっかりと残っていた良品が見つかったのだ。

 アフターバーナーを使わないかぎりテールコーンもコンダイノズルも機能はほぼ一緒、ジェット噴流の流速調整ってのは変わらない。ぶっちゃけどっちか片方採用すれば事は足りるんだけど、エンジン部門が連日やかましく改善要求されていた為キレちゃっていたのかどうかは知らないけど、本当に何を思ったのか両方いっぺんに採用しちゃった。

 かくてコンダイノズルとテールコーンが同棲したへんてこりんなノズルを備えたエルペシオ3が生み出されたわけだけど、機能が被っている装置を同棲させたモンだから尾部が無駄に重くなっちゃって、昇降舵と方向舵の利きが悪くなってしまった。

 さぞや現場からのクレームが激しかったんだろうと思えば、世の中何が幸いするか分からないもので、利きの悪い舵が「過剰な方向転換による速度低下」を防止するってんで好評を持って受け入れられた。

 なにせ加速性能が劣悪なのは1型からの伝統で、エルペシオのパイロットは「速度を殺さず一撃離脱、旋回は極力ゆったりと、急旋回は死に繋がる。」という戦い方を徹底して仕込まれている。(つまりMe262の戦い方と同じだ。)

 模擬空戦中、新人パイロットがすぐに急旋回してエネルギーを失い、相手の先任パイロットにさんざんに打ち負かされる中、フツーに曲がらないからエネルギーも失わない3型は、新人パイロットにとって錬成が早い上にそのまま乗り続けられる、オマケに速度も風竜を上回るで良いこと尽くめだったわけだ。

 高々度ならば世界最強と讃えられたエルペシオ2型の更なる性能向上型、エルペシオ3型の名声は天を突かんばかりであり、それを操るパイロット達は「最強の天の浮舟乗り」の誇りと共に来るべきラヴァーナル帝国との戦いに備え腕を磨き、後進を育てていき……予定より早く実戦デビューの時が来た、フォーク海峡海戦である。

 相手は不遜にも世界会議(G11)の場で、全世界に対し宣戦布告したグラ・バルカス帝国のアンタレス艦戦。

 全人類の守り手となるべく研鑽を重ねた第7征空戦闘団のエルペシオ3四十二機は果敢に戦いを挑み……殆ど歯が立たないまま文字通り全滅した。

 まず、初手から不利な戦いを強いられた。電波レーダーと魔法探知レーダーという彼我の管制方式の差から、アンタレス隊からはエルペシオ隊が(後方の管制レーダー上では)丸見え常態なのに対し、エルペシオ隊(後方の基地管制官)からするとアンタレス隊は魔法を使用しない分、魔法探知レーダーからはステルス状態なわけで、結果エルペシオ隊は敵に気付かないまま上空から被られた。

 エルペシオの基本戦術は優速を生かした一撃離脱だけど、列強国のワイバーンロードや複葉機のマリンに対してならともかく、全金属単葉で550km/hの最高速度を誇るアンタレス07型艦戦に対しては最高速度その物が劣ったため有効な戦術たり得なかった。

 訓練通り「速度を保持したままゆったりと旋回」なんてやってたらたちまち後ろに付かれ20mm弾を浴びせられる羽目に陥った。

 相手の攻撃を回避するために急旋回などしようものなら、タダでさえ回復し辛い運動エネルギーを失いドツボに嵌って蜂の巣にされた。

 零戦そっくりのアンタレス型艦戦も、零戦と同じような弱点(急降下制限速度の低さ)を持っていたけど、徹底して軽量化を施したエルペシオも似たような物で、両者間に急降下性能の有意差は生じなかった。

 自慢の高々度能力を発揮しようとしても、エルペシオの想定していた高々度戦闘空域は上空5,500m~6,000m(NAエンジンのマリンや、与圧室も空気ボンベも持っていない風竜騎士にとっては到達不能な高度)であり……これは1段2速過給器を備えたレシプロ戦闘機の全開高度と一致しちゃっていたからますます不利になった。

 速度で勝てない、急降下でも逃げられない、旋回性能や上昇能力も劣り、加速性能の差に至っては目を覆わんばかり……空戦時に必要とされる能力ほぼ全てにおいて、エルペシオ3はアンタレス07に劣っていたのだ。

 救われないことに第7征空戦闘団の全滅とアンタレス艦戦の驚異的性能の情報は「エルペシオ3に匹敵する性能と第7征空戦闘団の戦術ミス」という、歪んだ形でミリシアル空・海軍に伝わった。

 結果としてフォーク海峡海戦に続くバルチスタ大海戦においても、ミリシアル海軍航空隊所属のエルペシオ3隊は第7征空戦闘団と同じ経緯と末路を辿った。

 田舎でブイブイ言わしていたヤンキー(エルペシオ)は、異世界からの転校生(アンタレス)に完膚無きまでに叩き伏せられたのである。

 その後、日本の書籍で学んだ航空理論に基づきエアインテークに境界層隔壁を設け、機体強度を増し急降下制限を緩和した試作機(後のエルペシオ4型)はあっさりと650~700km/hを記録し、一撃離脱戦法でアンタレスに対抗出来るようになって、なんとか神聖ミリシアル帝国は面目を保ったけど、エルペシオ3型は「世界最強から悲惨なやられ役への転落」というイメージが定着しちゃって、「世紀の駄作機」として世界に流布されちゃったのはさすがにちょっと可哀相な気がするな。

 

……戦後、燃料系統をいじくって液状魔石の代わりにケロシン焚いて作動させるようにしたマジックジェット改造のジェットエンジンを搭載したエルペシオの各型、そろいも揃って機体強度限界の速度を記録し「この速度があればアンタレスなど敵ではないわ!」とエルペシオの開発陣は胸を張ったけど、戦争終わってから気付いてもねぇ……




取りあえず「"異"世界の駄っ作機」はこれにて終了。
仮に続きがあるとしたら、「マリン・ターボ」になると思いますが、現状では本編に未登場故、投稿予定はありません。

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