"異"世界の駄っ作機   作:飛燕治三郎

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今更ながら拙作「“異”世界の駄っ作機」の執筆時に考えていたあれこれを公開いたします。



エルペシオ3駄作への道

神聖ミリシアル帝国の最新鋭制空戦闘機「エルペシオ3」、作中で全くと言っていいほどいいところがないままグラバルカス帝国の「アンタレス07型」戦闘機に敗れています。

曲がりなりにもジェット戦闘機が、何でたかだか1000馬力級のレシプロ艦戦にけちらされてしまったのか。

 

まずわかっていること

1:ミ帝の航空機(天の浮舟)のエンジンはバイパス比が滅茶苦茶になっておりオリジナルと比して推力が(かなり)低下している。(原作本文)

2:加速力・上昇力・旋回性能いずれもアンタレスが勝る。(原作本文)

3:エルペシオ3の速度はアンタレスより劣る。(編集の高松氏の発言)

4:エルペシオ3機体設計に非合理的な面が見受けられる(書籍四巻挿絵)

以上の点から推測を重ねてエルペシオ3の設計事情を考察してみました。

 

まずエンジンについて考察していきますが、作中でバイパス比が滅茶苦茶で推力の低下を招いていると指摘されていることから「ターボファンエンジン」であることが確定します。

そしてエルペシオのエンジンが「高バイパス比」か「低バイパス比」かを考察すると二つのパターンが予測されます。

 

甲案:「小型低出力のコアで過大なファンを回しているなんちゃって高バイパス比エンジン」

乙案:「高バイパス比として最適化されている設定をそのままにファンの外周だけぶった切った低バイパス比エンジン」

 

そして書籍版4巻挿絵のエルペシオ3を見るとエンジンは胴体内蔵型であることがわかりますので、甲案だと外周のバイパス部ファンが矢鱈とでかくなり胴体内蔵不可になるため、乙案すなわち「高バイパス比ターボファンのファンをぶった切って無理矢理低バイパス比にしたエンジン」を採用されているとしました……きっとジェット噴流の発生より(ぶった切った)低圧ファンの駆動にパワーを割いている設定なうえ、無駄に三軸式だったりするんでしょう。

……とはいえ、最終的に「アンタレス(零戦)以下の戦闘機」にしなければいけないのですから、そのための推力は相当お粗末なものにする必要があります。

「ロールス・ロイスRB203」のエンジンコアがジャギュアや三菱F1の「アドーア」そのものなので、そこからパイパス比を滅茶苦茶にして台無しになったエンジンの能力低下度合いを推測してみますと……

RB203:71.4kN

アドーアMk106:27kN

バイパス比3程度のターボファンでも、コア単体との出力差は2.6倍にもなるんですね。

とはいえ非力で知られるアドーアですらドライ推力27kN(2.75t)、改良前のバージョンでも2.3tもありますから、普通に作ればP80シューティングスター(推力2.4t)程度の戦闘機は作れちゃうんですよね。

つーかマトモなエンジン、例えばRB211とかCF6とか、そうでなくともF101あたりのエンジンコア出力はアドーアのはるか上でしょう。

大出力エンジンは七難隠します、P80を少々劣化させた程度では零戦に「圧倒される」にままるで足りません……はい、さらなる推力低下要因が必要となりました(笑)

バイパス部ファンを丸ごとだめにしてコアのみの出力にしても、最低限P80程度になっちゃうのだから、これ以下にするにはもうエンジンそのものの出力を制限するしかありません。

さてどうしよう……手っ取り早いのは「冶金技術の未熟故の運転制限」なんでしょうが、部材の耐熱性等を「魔法技術で補っている」ことが原作中で明かされていますから、これを原因としたあまり極端な性能低下はかえって違和感を生んでしまうと感じました。

もっと退っ引きならない制限要因をと考えているところにこれを思い出す。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ブリティッシュ・エアウェイズ9便エンジン故障事故

 

そういやミリシアル制航空機のマジックジェットは「魔石」を燃料としているじゃぁないか、魔石の精製度が低いせいで「燃えかす」の火山灰が高温で溶けてタービンに張り付いてエンストさせるってことで、運転制限かけちまおう。

きっと本家本元の魔帝制「液状魔石」は精製度99.999……%とかのレベルでシリカ成分を取り除いて居るんでしょう、うん、そーゆーことにしたw

 

とりあえず橘花の475kg/f×2=950kg/f程度の推力を基準において、ここから機体設計のまずさで100km/h程度の速度低下とかやったら話は作れるかなと、機体設計のストーリーを捻り出す。

 

そもそもミリシアルが生き残りの魔帝民から各種技術を吸収したって設定の割に工業技術がちぐはぐかつ未熟なのは……残された魔帝民がどんな方々か考えると、まぁ中核技術を持ったバリバリのエンジニア等は残さないだろうし、残してもいいと考えるのは札付きのワルか、「異種族に対し(比較的)寛容な異端者」あたりでしょうか。

……まぁ技術持ちではなさそうな感じがしますわな、発掘~解析だよりになるわけだ。

 

エンジンがパイパス比設定台無しの残念エンジンになったのは、何らかの理由で機体とエンジンが一緒に出土しなかったためだろうと想定。

構造がわからないところに別口で発見された「旅客型のエンジン」をやっつけ改造で胴体に納めたとしました。

高バイパス比エンジンのファン外周ぶった切っていろいろ台無しにしていたところで、後に戦闘機用低バイパス比エンジンが見つかっても外見で「バイパス部のファンが短い、俺たちの改良は合っていたじゃないか」って思いそう。

 

魔石精製度の問題はどうにもならないから、苦肉の策でエンジンの運転制限を課したとしてそれを聞いた機体設計部門の思考を予測すると……そう、軽量化です。

取りあえず飛ばそう、直接飛行に関係なさそうなものは取っ払って、削れるとことは削って軽量化、マッハ出ないんだからマッハに耐えられる強度は不必要ってことであれも取るこれも削る、結果的に急降下制限速度が600km/h前後になっちゃって急降下でアンタレス(零戦)から逃げられないオリジナル仕様をぶち込む。

空気抵抗源に"なりそうな"出っ張り(境界層隔壁・DSI・ショックコーンの類)も取っ払おう。

おし、エアインテークが境界層を吸い込んでエンジン性能がさらに低下したぞw

後で気づいてDSIとかを取り付けても設計が拙くて効果が出ないという罠。

その問題の対するミ帝の答えが開口部面積の増大、あの胴体を半周するエアインテーク。

平べったいまんま横に広げたモンだから境界層を吸い込む欠点はそのまんま、微妙に改善されたけど根本的問題が未解決なところがミ帝クオリティ。

 

水平尾翼が後退角を備えているのに主翼がテーパー翼なのは、書籍版の注釈等で説明されているとおり元々後退翼だったのが速度低下により後退翼の恩恵が受けられなかったため採用されたものですが、翼形のパクリ元にムー国の最新鋭戦闘機「マリン」が例示されているのは、「出来て間もないムーの最新鋭機をパクったのが2代前のミリシアル戦闘機」ってのはどうなのかと思ったので、「マリンの前の主力機」をモデルにしたのだろうと考えて設定をでっち上げる。

「marine(海の)」に連なる用語でなんかいい感じのが無いかなと探して「fluvial(河川の)」という語を見つける。

うん、マリン(海)に関連した下位互換ぽさが良いなとこれを採用、性能は……列強のワイバーンロード(350km/h)に及ばないけど、文明国のワイバーン(235km/h)が脅威に感じる程度ってことで250km/hとしておいた。多分、マリン採用前の最終型では300km/h超えてくるだろう。

試作エルペシオが翼型に悩んでいる時分にムーのフルビアル戦闘機が自在に空を舞うのを見聞きしたエルペシオ開発チームが恥も外聞もなく翼型をパクったってことは……わざわざ複葉型のエルペシオを試作していてもおかしくないなと更にミ帝風味を追加。

 

コンダイノズルとテールコーンが同棲しているあのノズルはどう考えるか……コンダイノズル採用ってことは、エルペシオのエンジンがアフターバーナー(AB)装備ってことで、それ以前に備えていたテールコーンがそのまま残された結果ってのが自然な考え方なんだけど、原作での戦績を見て再度考え直す。

「……AB焚いてアレ(零戦(アンタレス)に完全敗北)???」

4巻の挿絵を見る限り、空戦中のエルペシオがノズルから光の尾を引いていることから、それをABの炎と解釈することは何の問題もないけれど、それだとエルペシオはAB焚いて推力が5割り増しになったにもかかわらず最大速度550km/hのアンタレスに及ばないって情けないことになる。

まぁ、ミリシアル制戦艦の主砲弾が光の尾を引いて飛んでいくって描写があるから、エルペシオのノズルの光もABじゃなくって単なる魔法の残滓ってことにしておこう。

ミリシアルのことだ、訳もわからずとりあえずコンダイノズルをくっつけちゃった可能性は十分あるでしょう:p

しかしどのみちAB付きだったとしてもアレ(アンタレスに完敗)なのだから、この辺の考察はあまり意味がないのでありました。

コンダイノズルとテールコーンを同棲させた結果、尾部が重くなって昇降舵と方向舵の効きが悪くなりそうですが、元々格闘戦向きの機体じゃないので問題が顕在化していなかったとして、その辺のエピソードを作っておく。

 

ああ、加速力の貧弱さもあったなぁ……つか、エルペシオって艦載化もしているじゃないかってのを思い出し、離陸促進装置(カタパルト&RATO)をエルペシオ1の時代から開発していたってことにする。

後述するけど、エルペシオのエンジンパワーは最新型の3型においてすら悲惨of悲惨としか云えないレベルと想定されるのです。

そのままじゃぁ絶対空母から飛び立てませんね、橘花より下の性能なんだもの。

 

ということでエルペシオ1の時代から加速性能の悪さ、特に離陸時のアンダーパワーぶりは問題視されていたから、陸上運用にもかかわらずカタパルトやRATOが開発使用されており、結果的にそれが艦載化に際して大きな助けとなったって設定を作り上げる。

 

よし、これで「アンダーパワーで零戦より速度が出なくて、運動性能がイマイチで加速性能がスカタンだけどRATOやカタパルトのおかげで艦載可能」なジェット戦闘機が出来たぞって書き上げた日本国召還二時創作が拙作「"異"世界の駄っ作機」なのですが……実はかなり後になって起こった後日談がありまして…………

 

日本国召還第99話にて登場した超重爆撃機「グティマウン」。

モデルとなったのは旧日本軍が計画した超重爆撃機「富嶽」ですが、登場時点で「いくら何でもグラバルカス帝国の技術レベルでフルスペックの富嶽は考え難い」と考えて、実在した大型重爆撃機「B-36」を元に「WW2末時点で実用化~開発中の日本製エンジンで富嶽を作った際の予測性能」を試算したんですが、その際「そういやエルペシオ3のエンジン性能って具体的にどのくらいになるんだろうか」って改めて電卓弾いてみたんです。

 

エルペシオ3の速度がアンタレス07型に及ばず完敗したという戦績、マルチロール型のジグラント2型の最大速度が510kn/hってところから、エルペシオ3の速度を530km/hと仮定し、橘花の速度(677km/h)と比較してエンジン性能を割り出そうとしてみました。

エンジン出力は速度の3乗に比例することから以下のように計算。

 

(530/677)^3=0.4798……

 

『は???』

……橘花の半分以下???

いやいやいや……元々橘花以下の性能だから、エルペシオ3のエンジン性能を橘花の推力950kg(475kg×2基)から何割か割り込む程度で考えていたけど、半分以下はいくら何でも(汗)

 

さ、さすがに双発機(橘花)と単発機(エルペシオ3)を並べちゃぁいけませんよ……ってことで同じ単発機のP80シューティングスター(965km/h)を元に再度計算。

 

(530/965)^3=0.16567……

 

『ろくぶんのいち……』

J33やアドーアの1/6って、ネー20単発以下って……

オリジナルからドンだけ性能低下しとんねんな!!

70年代のまともなエンジンってコア部分だけでも推力4~5tはあるはずやぞ、1割あるか無いかやないか(呆

某タウイ泊地のKSRさん、ミリシアルに怒鳴り込む以前に膝から崩れ落ちんぞコレ……

 

もはやAB装備しているかどうか考察する意味が無い劣化ぶり、そりゃ零戦に勝てませんわ。

 

PS.

P80みたいな傑作機じゃなくてP59(664km/h、748㎏*2)とか初期型のミーティア(668km/h、771㎏*2)みたいな駄作機を基準にすると、エンジン出力の関係で相対的にもっとましな数字が出ます。

 

(530/664)^3=0.5085……

(530/668)^3=0.4994……

それでも片肺だけどなぁhahaha(しろめ)




まぁ、こんな性能でもマリン(380km/h複葉機)やワイバーンロード(350km/h羽ばたきメイン)相手なら無双出来たんで変に自信つけちゃってたんでしょうねぇ。

※故につけたサブタイトル、「鳥無き里の蝙蝠」を捩った「戦鳥無き里のマジックジェット」

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