マクロスΔで生存戦略 作:雑食
アクション難産
ロイド・ブレーム。
このインテリ眼鏡は記憶が違わなければ、キースでさえ1度も勝ったことがないと言わしめた強者である。
冷静に考えて勝ちは無い。
ここはそこそこ手を抜いて大人しく時間いっぱい床に転がせられるべきだろう。さっさと終わらせてキースの試合でも見学に行きたい。ここで初めての友達にもなったボーグもちょっと気になるし。
「手を抜こう、等と馬鹿な事は考えていませんよね?」
この腹黒…鋭い。
「まさか。先輩相手に出来るわけないですよ。」
眼鏡は少し考える素振りを見せると耳にこう囁いた。
「……1分もたなかったらお兄様に言いつけますからね。」
酷い。鬼畜だ。女の子と分かった上でかかってこいやとコイツは言っているのか。豆腐の角で眼鏡かちわればいいのに。
「どうして、分かったんですか。」
「貴方の事はお兄様によく聞いていましたし、宮殿に王の庶子が戻ってきたと城の噂がありましたから。」
え、昨日の夜に来たのに噂回るの早すぎ…。怖いな。今度から気を付けようか。
さて、やりましょう、と情報通眼鏡の一言で、空気が変わった。
一定の距離をとって円を書くように動く。私は絶対に自分から動かないと決めた。1分保てば実質勝ちなのだ。とにかく観察することに徹する。観察しろ。考えろ。じゃなきゃ、もつモノも、もたない。
「そっちが来ないならこちらから行きますよ!」
急に距離を詰め右ストレートで腹に決めようとしてくるロイドの腕を半身をずらしてよけ、肘と膝で腕を挟んで、左脚を軸に腹に向かって蹴りを入れる。
手応えが薄い。直前で後ろに飛ばれたのと、単純なパワーが足りない。
きついなあ。
いくらウィンダミアボディのスペックが高かろうと、たかが7歳児、しかも相手もウィンダミアボディだ。
きつい。
こっちのアドバンテージは背の小ささと小回り。もうそこしかない。
低姿勢で抉るようなイメージで助走をつけてタックルする。すかさず蹴りが横から飛んでくるが腕でガードして、上から来る拳ももう1回クロスした両腕で受け止める。怯んだところに腹にもう一回殴る。防がれた。今度は顔…いや、眼鏡に向かって殴って距離を置いた。
吹っ飛んだ眼鏡のガラスが丁度いい場所で先輩の誰かと試合をしていたボーグの踏み込みによって割れた。
「ふふっふふふ…うぐっ」
笑っていたら頭を掴まれて膝を入れられた。一発重いのをくらって意識が飛かけるのを何とかこらえるが、ロイドの目からハイライトが消えているのを見て背筋が冷える。
腹黒眼鏡がキレている。
横から蹴りが飛んでうずくまった所に、肩に手を置かれて挟まれたように体を固定される。そのまま景色がぐるりと回って床に無様に転がった。
「30秒。お兄様を呼んできますね。」
逃げようとしたら教官に首根っこを掴まれた。タイミング悪く眼鏡とキースも現れる。
私が何をしたっていうんだよ…。
生徒は次の授業を受けに移動して人のいなくなったそこで、キース、ソフィア、教官の3人の前で立たされていた。
「弁明は。」
「正直一日中マナー講座で勉強もさせてくれないとか死ねと言っているようなものでしょう。」
「反省点は。」
「次はもっと上手くバレないようにやります。」
キースの拳骨が降ってきた。
「でもキース。私は未来の政治道具にされるのは嫌です。私は、生きる力を自分でつけようとしただけです。飼い殺しなんて真っ平御免なんですよ。どうせならこの国の手足どころか手足を動かす側になりたいじゃないですか。」
まだ私と3つしか変わらないのに既に苦労人の顔をもつキースの眉間に皺がよる。
「まさか、この小僧が
教官もため息をつく。
望んで王女になったわけではない。この国に縛られるのは確定してしまったのだからどうにかして数年後の戦いで生き残る術を身に付けたいのだ。
「エリシャ様!!」
いきなりの大声にビクッとしてしまう。
「エリシャ様の教育は私に一任されていると申しましたよね?」
「は、はい。」
「ならこうしましょう。エリシャ様がそこまで仰るならなら、訓練所で学ぶのを認めましょう。」
「え、本当ですか!」
「ただし!そこまで仰ったからには生半可な覚悟ではいけませんからね!絶対に弱音を吐かないことと、帰ってきたらマナーのレッスンもしっかり受けてもらいますからね!」
「ソフィアあああぁ!」
感極まってソフィアに抱きついた。
「……確かにソフィアに一任したのは俺だな。俺からはこれ以上言うことはない。」
感極まってキースに抱きついた。
「…仕方ない。授業の間はボーグに言って面倒見てもらうか。」
教官はやめた。
すまんな、教官。私は可愛い女の子とかっこいいお兄さんにしか抱きつくつもりは無い。
「教官!そろそろ次の時間が始まるので教室に戻らせて頂きますね!」
敬礼をして私は走り出す。
つかの間の楽しい日々が始まった。
走れ、走れ!
息が切れて心臓がドキドキしてうるさい。いつもだったら短く感じる距離が煩わしいほど遠くに見える。
上級生の扉を勢いよく開ける。
大きな音になかにいた生徒が一斉にこちらを向いた。
「キース先輩お借りします!」
戸惑う友人の輪の中にいるキースの手を引っ張って外へ連れ出して走らせる。この際周りの目など知ったことではない。フォローは教官に任せればいい。後で何らかのお礼をしておこうとは思うけど。
「走って!」
「待て、そっちは正妃様のお部屋の方だぞ!」
「察しが悪い兄ですね!」
待てるわけあるか。今は一刻でも早く向かわなければいけない。
「まさか、」
閉まりきった正妃様の扉の前で止まる。中からは『頑張ってください!』『あともう少しですよ!』と使用人達の励ます声が届いていた。きっと隣では王が正妃様の手を握っているのだろう。
何時間待っただろうか。
キースの手がずっと離せない。期待と不安で目線がずっと泳いでいたその時。
風が吹いた。
閉まっているはずの扉から新しい生命の風が吹き抜ける。必死に生を掴もうとする産声が聴こえる。ああ、男の子、私たちの弟が生まれたようだ。
私はキースの顔が珍しく綻ぶのを見た。
きっと私の顔もとても見せられるものではなかっただろう。
用語集
『私が何をしたって言うんだよ…』
お前はやらかしている。
補足
エリシャ=エリックを知っている人
・兄
・教官
・眼鏡
・ボーグ
・ソフィア
・王(キースからの報告)