「これで二対一ですね。次の方は?」
高橋先生は淡々と作業を進めている。最初は自分のクラスが負けたと言うことで少し焦りを見せていたが、今は落ち着き、最初の一戦は余り気にしてない様子だ。
「うぅ……タカ。負けてしまいました」
「大丈夫だ。予想通り過ぎる」
「ちょっと待って下さい!そこは私を慰めるところでしょ!」
「慰める?何で?」
「負けてクラスに迷惑をかけてしまったと心を病んでる幼馴染を慰めるのがタカの仕事でしょ!」
……そういうものなのか?
「そういうものです!」
あ、さらっと心読まれた。
「よしよし。次は三桁目指して勉強しような」
手をユリの頭の上に置いて撫でる。
「うん……」
「もし、お前が次のテスト、一科目でも三桁取れなかったたら」
「取れなかったら?」
「三日三晩寝せねぇから」
「それって……!」
顔を紅くするユリ。うん。彼女の考えてることとは違うけど、
「――地獄を見せてやるよ。勉強で」
「た、タカ?冗談ですよね?三日も寝なかったら、か弱い私は死んでしまいますよ?」
「安心しろ。何のために栄養ドリンクとかそういうもんがあると思ってんだ?」
「安心できないですよね!?後、それは地獄を生き延びる便利アイテムじゃありません!」
「……全く。半分冗談だバカ」
「何だ……え?残りの半分は?」
「ん?本当は一週間にするつもりだ」
「延びてません!?期間が延びてません!?」
気のせいだろ。
「おい、そこのバカップル。次の試合が始まるぞ」
「ん?あー久保利光と姫路瑞希の勝負か。……一番の心配所だなぁ。しかも、総合科目でか……」
総合科目勝負だと、学年順位がそのまま召喚獣の初期の強さに反映されてしまう。向こうは学年次席。姫路でも勝てるかは、点数次第だ。
「というか、坂本さん。私たちはバカップルじゃありません。幼馴染です」
「……幼馴染でそこまでベッタリしてるのは割とレアだと思うのだが?」
「そうなのか?」
「そうなんですか?」
きょとんとするオレとユリ。呆れた感じで頭を押さえる雄二。
「それでは……」
高橋先生が操作を行うと、姫路と久保の召喚獣が呼び出され…………一瞬で決着が付いた。
『Fクラス 姫路瑞希
総合科目 4409点
VS
Aクラス 久保利光
総合科目 3997点』
『ま、マジか!?』
『いつの間にこんな実力を!?』
『この点数、霧島翔子に匹敵するぞ……!』
敵から驚きの声が上がっている。味方?あーほぼ全員寝ているけど何か?
でも、これは凄い。姫路が4000点オーバーしていたのは普通に驚いたし、学年次席様との点数差も400点を超えている。何が彼女をそうさせたのか。
「ぐっ……!姫路さん、どうやってそんなに強くなったんだ……?」
相手の久保もここまでの実力差があったとは考えてもいなかっただろう。
「……私、Fクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」
「Fクラスが好き?」
「はい。だから、頑張れるんです」
ふーん。まぁ、Fクラスというより、その中の特定の誰か。明久が一番大きいと思うけどね。
Aクラス戦四回戦。
Aクラス、久保利光VSFクラス、姫路瑞希。
勝者、Fクラス、姫路瑞希。
「これで二対二です」
高橋先生の表情も若干の変化があったみたい。姫路の急成長に驚いているのか、それともFクラスがAクラスと此処まで渡り合っている事に戸惑っているのか。まぁ、その両方かもしれないな。
「最後の一人、どうぞ」
「……はい」
最終戦は言うまでもなく、相手はAクラス代表の霧島翔子。
そして、Fクラスからは……。
「俺の出番だな」
この男、坂本雄二出陣だ。
「教科はどうしますか?」
Aクラスの人たちは霧島が負けるわけが無いと思って静かに見ている。
「教科は日本史、内容は小学生レベルで方式は百点満点の上限ありだ!」
ざわ……!
雄二の宣言により、のAクラスにざわめきが生まれた。
『上限ありだって?』
『しかも小学生レベル。満点確実じゃないか』
『注意力と集中力の勝負になるぞ……』
まぁ、Fクラスに勝利の可能性があると思いAクラスからざわめきが生まれているみたいだが……はっきり言って負けるだろ。
「分かりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま待って下さい」
高橋先生は一度ノートパソコンを閉じて教室を出て行く。小学生レベルのテストを用意する為に職員室へと向かったのだろう。
そんな先生の背中を見送った明久は、雄二に近づく。
「雄二、あとは任せたよ」
グッと雄二の手を握る。
「ああ。任された」
明久に答えるよう雄二は力強く握り返す。
「…………(ビッ)」
「しっかりやるのじゃぞ」
雄二は輸血中のムッツリーニと秀吉の方に歩み寄り、ムッツリーニはピースサインを雄二に向ける。
「お前らの力には随分助けられた。感謝している」
「…………(フッ)」
「そう言われると照れくさいのう」
ムッツリーニは口の端を軽く持ち上げ、秀吉は少し照れるような感じになる。
「坂本君、あのこと、教えてくれてありがとうございました」
「ああ。明久のことか。気にするな。後は頑張れよ」
言い方からして雄二は姫路と何か話していたらしいな。明久関連で。
「はいっ」
姫路は元気な返事をして、雄二は楽しそうにやんわりとした笑みを浮かべた。
そして雄二はオレらに近づく、
「お前らにも助けられた。感謝している」
ムッツリーニや秀吉の方にわざわざ行ったのも礼を言うためか。律儀な奴だな。
「頑張ってくださいね」
「雄二。この作戦。要はお前だ」
「ん?そうだな」
「まぁ、ここにいる散った同胞たちの分まで頑張ってくれ」
「ああ。任せろ…………というか、散らせたのお前だよな」
大いに肯定してやろう。
「抜かるなよ」
「ああ」
そう言うと雄二はオレに背を向ける。
そして、何分かした後。先生の準備が出来たらしく雄二と霧島は別室に向かった。
「ねぇ、タカ。……タカはこの勝負勝てると思ってるのですか?」
ユリがオレの瞳を見て言ってくる。へぇ、
「勝てないだろうな。……絶対に」
「……坂本さんのこと信じてないんですか?」
「……はぁ。ユリ。油断大敵って言葉知ってるか?」
「さすがに分かります。バカにしないで下さい」
「ならいい。いいか?アイツは言っていた。大化の改新の問題が出れば勝てると。でも、オレはそうは思わない。何故か?少なくとも中学から勉強をサボってきた元神童様が小学生の日本史とは言え満点獲れる保障がないからだ」
「……なるほど」
納得した様子のユリ。
「そうだユリ」
「何でしょう?」
「問題がスクリーンを通してみられるからお前も解いてみろ」
「えぇー」
「仕方ない奴だ。1点取るごとにオレからご褒美にキスしてやるよ」
「タカ。私頑張ります。満点取って100回キスしてもらいます」
ちょロイ。
『では、問題を配ります。制限時間は五十分。満点は100点です』
霧島と雄二は視聴覚室におり、Aクラスにいる俺たちはその様子をスクリーンを通して見ていた。
画面の向こうでは、日本史担当の飯田先生が問題用紙を裏返しのまま二人の机に置く。
『不正行為等は即失格になります。いいですね?』
『……はい』
『わかってるさ』
『では、始めて下さい』
先生の合図に、二人は裏返しになってる問題用紙を表にした。
「吉井君、いよいよですね……」
「そうだね。いよいよだね」
「これで、あの問題が無かったら坂本君は……」
「集中力や注意力に劣る以上、延長戦で負けるだろうね。でも」
「はい。もし出ていたら」
「うん」
明久と姫路、そしてAクラス全員が固唾を呑んで見守っている。
そんな中、問題が映しだされ、オレは全て問題を暗記。ユリに問題を紙に書いて教える。さすがに、ユリに問題を全部覚えて解けというのは酷な話だ。出来るならオレが解かせたりしない。
画面の向こうでは霧島と雄二が解いている。
《次の( )に正しい年号を記入しなさい》
( )年 平城京に遷都
( )年 平安京に遷都
流石は小学生レベル。こんなの簡単に解ける。この様子なら出ていても不思議ではない。
( )年 鎌倉幕府設立
( )年 大化の改新
「あ……!」
明久が声を漏らす。
「よ、吉井君っ」
「うん」
「これで、私たちっ……!」
「うん!これで僕らの卓袱台が」
「「システムデスクに!」」
明久と姫路の揃った言葉。
「最下層に位置した僕らの、歴史的な勝利だ」
『うぉぉぉぉっ!!』
教室を揺るがすような歓喜の声。いつの間にかFクラスの面々が復活していた。
Fクラスの皆が試験が終了するのを楽しみにしながら待っている間。必死に解くユリを見ながらオレはあることを考えていた。雄二に関してだ。
坂本雄二という存在は小学校の頃から認知していた。別に水無月小学校出身というわけでは無いが坂本雄二という人間の噂ぐらいは聞いたことがある。そして、オレと同じく霜月大付属中学の推薦を取り消された人間。雄二は推薦を取り消されたことを笑いながら教えてくれたが、理由だけは教えてくれなかった。そのことから、オレと同じで何らかの事件が起きた、あるいは巻き込まれたからだと考える。それが原因かは知らないがアイツは中学時代に荒れ、悪鬼羅列と呼ばれるようになった。今では元不良ってだけで別に怖くもない。明久たちと同じでオレの大切な友人だ。
だからこそ、オレは残念に思う。アイツには能力がある。きっと、アイツが油断してなければAクラスぐらいあの穴だらけの作戦で落とせただろう。まぁ、後はユリに伝えた通りか。
「で、出来ました……!」
「そうか採点するから待ってろ」
「はい」
すると、丁度画面の向こうの雄二たちは試験が終了。採点も終わったみたいだ。
結果は……
《日本史勝負 限定テスト 100点満点》
《Aクラス 霧島翔子 97点》
VS
《Fクラス 坂本雄二 53点》
なるほど。こりゃ、油断し過ぎだ阿保雄二。ちなみに、ユリの点数は26点だった。……はぁ。
Aクラス戦五回戦。
Aクラス、霧島翔子VSFクラス、坂本雄二。
勝者、Aクラス、霧島翔子。
最終結果Aクラス勝利。
そしてオレたちFクラスの設備は卓袱台から蜜柑箱へとなった。