もし由梨乃がヤンデレだったらこの小説はかなりヤバくなっていた気がする。
清涼祭準備と書いてサボりと読む
清涼祭アンケート
学園祭の出し物を決める為のアンケートにご協力ください。
『あなたが今欲しいものはなんですか?』
姫路瑞希の答え
『クラスメイトとの思い出』
教師のコメント
なるほど。お客さんの思い出になる様な、そういった出し物も良いかもしれませんね。写真館とかも候補になりうると覚えておきます。
黒栁由梨乃の答え
『タカとの思い出』
教師のコメント
二人にとって、この清涼祭がいい思い出になることを先生は願っていますよ。
神白崇彰の答え
『休暇』
教師のコメント
そうですか。
土屋康太の答え
『Hな本(訂正) 成人向けの本』
教師のコメント
訂正の意味があるのでしょうか。
吉井明久の答え
『カロリー』
教師のコメント
この回答に、君の生命の危機が感じられます。
桜色の花びらたちが坂道から姿を消し、新緑が目を吹き始めた今日この頃。
オレたちの通う文月学園では、『清涼祭』と呼ばれる学園祭の準備が始まりつつあった。
学園祭準備の為、LHRの時間は清涼祭の準備に当てられていて、どのクラス、どの教室でもやる気や活気にあふれている。
そんな中、我らが二年Fクラスというと……
「吉井!こいっ!」
「勝負だ、須川君!」
「お前の球なんか、場外まで飛ばしてやる!」
準備なんてそっちのけで校庭で野球をしていた。ちなみに、出し物すら決まってない。
「言ったな!?こうなれば意地でも打たせるもんか!」
ピッチャーは明久。キャッチャーは雄二の問題児コンビ。現在のバッターは須川だ。
「えい」
可愛らしい声で投げられたボール。無論明久の声では無い。
「おー今回は上手くいったな」
ユリである。オレとユリは明久たちが野球をする傍らでキャッチボールをしていた。
「ふふん。私も成長するんですよ」
「確かにそうみたいだな。………………胸と知能以外」
「何かいいました?」
「何でもねぇよ」
ゆっくり取りやすいボールで投げ返す。さすがに本気で投げるようなことはしない。
ああ、でも、個人的には知力はもう少しあった方がいいと思うけど、胸はそのままでいいかな。だって、それくらいの貧しい胸の方がオレは好みだし。
「それ反則じゃないの!?」
キャッチャー雄二の指示に反論するピッチャー明久。位置的に雄二の指示は見えたが……反則?バッターの頭を狙う事は厳密には反則では無いと思うけど?
「えい」
「おーだいぶコントロールが良くなったな」
最初の暴投に比べたらだいぶ進歩したなぁ。
「貴様ら、学園祭の準備をサボって何をしているか!」
そう思っていると鉄人の怒声が聞こえ、こちらにやってきた。とりあえず、ボールを鉄人に見られないよう背中に隠しておく。
「吉井!貴様がサボりの主犯か!」
「ち、違います!どうしていつも僕を目の仇にするんですか!?」
そう言う宿命に生まれてきたからだろう。
「雄二です!クラス代表の坂本雄二が野球を提案したんです!」
まぁ、確かにそうだな。その通りだ。……ん?
『フォークを 鉄人の 股間に』
なるほど。ボールを人差し指と中指の間に挟んで……
「えい」
「違う!今は球種やコースを求めているんじゃない!しかも、それをやったら――」
ゴスッ
「誰だ……!俺の尻にボールを投げ込んだ馬鹿者は……!」
ビシッ(男子全員が明久を指差す音)
「吉井貴様……!」
「ま、待って下さい!明らかに僕が投げたわけじゃないですよね!?」
「吉井明久が投げました!」
「崇彰!?どう考えても君だよね!?」
「冤罪です鉄人!オレがそんな鉄人の
「ま、まさか貴様!雄二の指示に従ったのか!」
「やれやれ何を言ってるんだ明久。俺はお前の指示通りにしただけだぞ」
「雄二もちゃっかり僕に全責任を押し付けるんじゃない!」
「ええい!全員教室へ戻れ!この時期になっても出し物が決まっていないなんて、うちのクラスだけだぞ!」
こうして渋々教室に戻ることになったオレたちFクラス男子全員+αだった。
「さて。そろそろ春の学園祭、『清涼祭』の出し物についてきめなくちゃならないのだが――」
教室に戻った私たちFクラスの面々。ござに座る私たちを見ながら代表である坂本さんは……
「とりあえず議事進行並びに実行委員に誰かを任命する。そいつに全権を委ねるから後は任せた」
面倒くさそうな感じで答えていました。なるほど、野球を提案していたのはそのためですか。要するに誰かがやってくれるだろうと。
「由梨乃ちゃん」
「何でしょう?瑞希さん」
Fクラスには女子が3.5人しかいません。そのため、このクラスになってからよく話すうちに名前で呼ぶことになりました。
「神白君も学園祭って楽しみじゃないんですか?」
私の膝を枕に気持ちよさそうに寝ている男を指差しながら瑞希さんが聞いてきます。
「うーん。楽しみか楽しみじゃないかじゃなくてタカの場合はやる気が起きないだけだと思います」
「やる気……ですか」
「タカは面白そうなことには楽しもうとしますが、それ以外は……」
「そうですか……」
この幼馴染。実を言うと、祭りというものが好きじゃないそうです。理由を聞くとお前には関係ないとか言われました。確かに昔から淡白というか何と言うかで、祭りとかでも興味なさそうでしたが、中学に入ってからは顕著です。うーん……何ででしょう?
「んじゃ、学園祭実行委員は島田ということでいいな?」
おっと、坂本さんの話が進んでいました。どうやら実行委員は美波さんのようです。理由として、瑞希さんは全員の話を丁寧に聞いてるうちにタイムアップ。私は全員の話を理解する役が寝ているため戦力外とのことです。……あれ?戦力外って酷くないですか?
しかし、美波さんは『試験召喚大会』に出るため時間的余裕がないです。私もタカと組んでエントリーしました(タカには隠れてで本人は知りませんが)。瑞希さんが家でFクラスをバカにされたから優勝して鼻を明かそうというわけです。本当なら瑞希さんとタカが組めば、学年でも最強になれそうですが生憎タカはやる気ゼロです。そのため、私がタカと組んで出ることにしました。
「なら、副実行委員を選出しよう。というわけで、皆には候補を挙げてもらいたい。その候補の中から島田が二人を選んで決選投票をする。これでいいだろう」
さらに話は進んで実行委員の補佐を作るようです。すると、ちらほらと推薦の声が上がります。
『吉井が適任だと思う』
『やはり坂本がやるべきじゃないか?』
『いやいや神白の方がいいだろ』
『姫路さんと結婚したい』
『ここは須川にやってもらいたい』
なるほど。声が上がったのはこの五人ですか。あれ?私は?
「むにゃ……ユリにはむりむり~」
寝言で何か言いましたね。……否定してやりたいですが否定できません。ここはグッとこらえて今日の夕食はタカの嫌いなものを混ぜましょう。ええ、そうしましょう。
「よし。じゃあ島田。今挙がった連中から二人を選んでくれ」
「そうね~。それじゃ……」
そう言うと美波さんは黒板に決選投票候補者の名前を書き連ねます。
『候補①……吉井』
『候補②……明久』
ふむふむ。吉井さんと明久さんですか……。
「され。この二人のどちらかが良いか、選んでくれ」
「ねぇ雄二。明らかに美波の候補の挙げ方はおかしいと思わない?」
どうしましょう。どちらがいいと思うか悩み始めました。正直どちらも大差ないですが……うーん。
「坂本さん。私は明久さんより吉井さんの方がいいと思います」
「あの、黒栁さん。それはどういう意味かな?」
「え?そのままの意味ですが」
何か問題あったでしょうか?
「吉井さんと明久さんの二人が候補ですので吉井さんの方がいいかと……」
「諦めろ吉井さん。頭脳担当が仕事してないんだ。きっと吉井さんと明久さんが別人だと思われている」
「そ、そんな……」
え?まさか吉井さんと明久さんって…………同一人物だったんですか?
「ほらほら、アキってば。そんなことより、ウチとアンタでやることに決まったんだから、前に出て議事をやらないと」
「なんだか僕はいつもこんな貧乏くじを引かされている気がするよ……」
「んじゃ、あとは任せたぞ。ふあ~……」
怠そうな坂本さんと入れ替わるように吉井さんが教卓のところで立ちます。おっと、
「坂本さん」
「なんだ黒栁。清涼祭関係は明久たちに言えよ」
こちらに来た坂本さんに声をかけると眠そうな感じで返してきました。
「いいえ。そんなことよりもっと重要なことです」
「ふーん。手短にな」
横になり今にも寝そうな体勢で私の話を聞こうとします。
「ズバリ、どうしたらタカを辱められると思いますか?」
「諦めろ」
即答でした。
「坂本さん。私は些細な仕返しがしたいのです。今一度、タカに『調子に乗ると痛い目を見る』と教えてやりたいのです」
思い出されるのは少し前のお買い物。公園でのアレは凄く恥ずかしかったんですからね。いくら温厚な私でもあんなことをされれば些細な仕返しがしたくなると言うものです。……まぁ、その一日でタカからのキスしてもらう権利を全部使ってしまったのも今思えば惜しかったです。
「でも、私の頭脳では到底タカに仕返しをするような策が『タカの嫌いなものを夕食に混ぜる』しか思いつきません。どうしたらいいですか?」
「諦めろ」
「何でですか?」
「この
「うーん。じゃあ、坂本さんが霧島さんにやられたくないことを教えてください」
「断る」
「何でですか?」
「俺らを基準に考えても無駄だ。お前らの関係はこっちから見れば異常だからな」
「え?普通ですよ?」
何を言ってるのでしょうか。私たちが異常?どちらかというと坂本さんたちの方が異常ですよ。
「まぁいい。今言えることは『
……そんな
「仕方ありません。顔に落書きでもしておきましょう」
とりあえず、水性のマジックを取り出して……
ガラッ
「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」
気付けば、西村先生がやってきました。あ、落書きしているところが見つかると厄介です。タカめ、命拾いしましたね……っと、そう言えば出し物はどうなったのでしょう?
【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】
【候補② ウェディング喫茶『人生の墓場』】
【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】
ふむふむ。候補はこの三つですか。中々に斬新なネーミングセンスですね。これは吉井さんが名付けたのでしょうか。私は悪くないと思いますよ。奇抜で斬新でなんだかカッコイイです。
「……補習の時間を倍にしたほうが良いかもしれんな」
あれぇ?おかしいですね。もしかしなくとも私たちがバカだと思われてますか?
『せ、先生!それは違うんです!』
『そうです!それは吉井が勝手に書いたんです!』
『僕らがバカなわけじゃありません!』
クラスの皆さんが吉井さんをバカ扱いして自分だけ逃れようとしてます。まぁ、私は関係ありませんね。だって、バカじゃありませんし。
「馬鹿者!みっともない言い訳をするな!」
西村先生の一喝で、思わず背筋が伸びる皆さん。
なるほど。そうですもんね。教師ですからクラスメートを売ってその場を逃れようとする根性が気に入らないのでしょう。
「先生は、バカな吉井を選んだ事自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」
それは盲点でした。
「まったくお前たちは……少しは真面目にやったらどうだ稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そういった気持ちすらないのか?」
溜息まじりの西村先生の台詞。そんなことが出来るのですか?
『そうか!その手があったか!』
『なにも試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』
『いい加減この設備にも我慢の限界だ!』
先ほどから一転。一気に活気づく教室内。そりゃそうですよね。設備に不満を感じて試召戦争を始めたのに、最初より更に低い設備では我慢ならないのも当然です。設備改善を要求します。
「み、皆さんっ!頑張りましょう!」
これは瑞希さんの声です。見ると、彼女は立ち上がって胸の前で手を握ってやる気を見せています。そう言えば、瑞希さん。彼女には改善しないといけない理由がありましたね。
『出し物はどうする?利潤の多い喫茶店が良いんじゃないか?』
『いや、初期投資の少ない写真館の方が』
『けど、それだと運営委員会の見回りで営業停止処分を受ける可能性もあるぞ』
『中華喫茶ならはずれはないだろう』
『それだと目新しさに欠けるな。汚いせいであまり人が来ない旧校舎だと、その特徴のなさは致命傷じゃないか?」
『ウェディング喫茶はどうだ?』
『初期投資が高すぎる。たった二日の清涼祭じゃ儲けは出ないんじゃないか』
『リスクが高いからこそリターンも大きいはずだ』
クラスの皆はやる気になりましたが、意見が多く飛び交って、まとまりそうに無いです。
「はいはい!ちょっと静かにして!」
美波さんがパンパンと手を叩いて注意するしますが、効果はあまりないようです。皆が次から次へと自分の意見を口にしています。
『お化け屋敷なんかの方が受けると思う』
『簡単なカジノを作ろう』
『焼きとうもろこしを作ろう』
ど、どんどん意見がバラバラになっていきますね……。この前の試召戦争のときとは比べ物にならないほどのまとまりの無さですよ。坂本さんはこんなクラスをまとめていたのですか……。彼のクラス代表としての手腕は相当なものだと思い知らされますね。
「もうっ。とにかく静かにして!決まりそうにないから、店はさっきの挙がった候補から選ぶからね!」
業を煮やした美波さんが無理矢理話をまとめた。強引ですね……とても私には無理です。
「ほらっ!ブーブー言わないの!この三つの中から一つだけ選んで手を挙げる事いいわね!」
反論を眼力で押さえ、決を採りにかかる美波さん。
なるほど。坂本さんが美波さんを議事に推薦したのはこういうことですか。適当ではなかったのですね。
「それじゃ、写真館に賛成の人!――はい、次はウェディング喫茶!――最後、中華喫茶!」
美波さんの声が教室に響きます。しかし、喧騒は収まる気配がありません。
こんな騒がしい中、美波さんが挙げられた手の本数をカウントし始めました。ちなみに私は無難な中華喫茶に一票です。
「Fクラスの出し物は中華喫茶にします!全員、協力するように!」
結果、接戦だったそうですが僅差で中華喫茶が勝利となりました。良かったです。
「それなら、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」
すると須川さんが立ち上がる。そう言えば彼がこの中華喫茶を提案していましたね。
「…………(スクッ)」
そして土屋さんも立ち上がりました。
「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」
「…………紳士の嗜み」
中華料理が紳士の嗜みなんですか?そんな話聞いたことありません。今度タカに聞いてみますか。
「まずは厨房班とホール班に分かれてねもらうからね。厨房班は須川と土屋のところ、ホール班はアキのところに集まって!」
吉井さんはホール班のトップにされていました。私は料理も出来ますし、どうしましょうか?
「それじゃ、私は厨房班に――」
「ダメだ姫路さん!キミはホール班じゃないと!」
平然と厨房班に入ろうとした瑞希さんを吉井さんが止める。
『明久、グッジョブじゃ』
『…………!(コクコク)』
彼女の料理の破壊能力を知っている木下さんと土屋さんが、吉井さんにアイコンタクトを送ります。内容はよくわかりませんがきっと『よくやった』的なことでしょう。
最大の犠牲者であった坂本さんとタカは寝ている為気付いていない――はずですが、見ると小刻みに震えていました。夢の中で、瑞希さんの料理が出て来たのでしょうか?仕方ありません。
「タカ。震えなくても私が傍にいますから。安心してください」
そっと震えるタカの肩の上に手を置きます。
タカが夢の中とはいえ恐怖するとは瑞希さんの料理はヤバいですね。…………あれ?思い返せば瑞希さんの料理を無理やりタカに食べさせたのって私ですね。まぁ、そこは触れない方向で。
「え?吉井君、どうして私はホール班じゃないとダメなんですか?」
自覚のない
吉井さん曰く、本当のことを話すと彼女が傷つくから言わないそうです。私なんてまだ料理が苦手だったころタカに『マズッ。お前料理下手だな』とドストレートに言われたので泣きながら頑張ったんですよ。本当にタカは人の心を持ち合わせていませんね。……まぁ、何だかんだで料理の練習に付き合ってくれましたし、残さず完食してくれましたが。
「あ、えーと、ほら、姫路さんは可愛いから、ホールでお客さんに接したほうがお店として利益が痛あっ!み、美波!僕の背中はサンドバックじゃないよ!?」
「か、可愛いだなんて……吉井君がそう言うなら、ホール
ごめんなさい。ホール
「アキ。ウチは厨房にしようかな~?」
「うん。適任だと思う」
「…………」
「それなら、ワシも厨房にしようかの」
「じゃあ、私も厨房にしますね」
「秀吉に黒栁さん。何を馬鹿なことを言ってるのさ。二人ともそんなに可愛いんだから、もちろんホールに決まってみぎゃあぁっ!み、美波様!折れます!腰骨が!命に関わる大事な骨が!」
「……ウチもホールにするわ」
「そ、そうですね……それが、いいと、思います……」
こんなスタートから波乱が起きそうな学園祭は幕を開けました。