恋愛感情ゼロの幼馴染と召喚獣   作:黒ハム

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Fクラスと書いて問題点の宝庫と読む

バカテスト 地理

 

 以下の問いに答えなさい。

『バルト三国と呼ばれる国名をすべてあげなさい』

 

 

 

 姫路瑞希の答え

『リトアニア、エストニア、ラトビア』

 

 教師のコメント

 そのとおりです。

 

 

 神白崇彰の答え

『エストニア(タリン)、ラトビア(リガ)、リトアニア(ビリニュス)』

 

 教師のコメント

 正解です。首都まで書く必要はなかったですが完璧です。 

 

 

 黒栁由梨乃の答え

『エンジニア、ラザニア、リニアカー』

 

 教師のコメント

 言葉は近いですが全て違います。国名は正しく覚えましょう。

 

 

 土屋康太の答え

『アジア、ヨーロッパ、浦安』

 

 教師のコメント

 土屋君にとっての国の定義が気になります。

 

 

 吉井明久の答え

『香川、徳島、愛媛、高知』

 

 教師のコメント

 正解不正解の前に、数が合っていないことに違和感を覚えましょう。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 帰りのHRも終わって放課後になりました。

 

「アキ、由梨乃。ちょっといい?」

 

 未だ寝ているタカを起こそうとした矢先、美波さんから呼び止めらます。

 

「ん?何か用?」

「どうかしましたか?」

「用って言うか相談なんだけど」

「相談?僕らで良ければ聞かせてもらうよ?ね。黒栁さん」

「はい。そうですよ」

「うん。まぁ、由梨乃にはあのことに関するって伝わるよね」

「あーそのことに関してですか」

「で、アキと由梨乃がそれぞれに言うのがベストだと思うんだけど――やっぱり、坂本と神白をなんとか学園祭に引っ張り出せないかな?」

 

 うーん。やはり、あのことが原因ですね。学園祭を絶対に成功させるには坂本さんの統率力とタカの頭脳が必要です。せめて、片方だけでも本気を出させればよいのですが……。

 

「う~ん。それは難しいかなぁ……。さっきも言ったけど、雄二は興味の無い事に徹底的に無関心だからね」

「はい。タカも自由人というか気分屋というかで、協力してくれるか怪しいです」

 

 というか、坂本さんもタカもそもそもうちのクラスの出し物を知りませんよね?

 

「でも、それぞれが頼めばきっと動いてくれるよね?」

 

 う~ん。どうでしょう。

 

「崇彰はともかく雄二はなぁ……僕が頼んだところで、アイツの返事は変わらないと思うよ」

「ううん。坂本はアキの頼みなら引き受けてくれるはず。だって――」

「そりゃあ、いつもつるんではいるけど、だからと言って別に」

「だってアンタと坂本って、愛し合ってるんでしょ?」

「えぇっ!?」

「もう僕お婿にいけないっ!」

 

 しょ、衝撃発言です。まさか、坂本さんと吉井さんが愛し合っていただなんて……!ま、まさか二人はそんな関係だったのですか!?

 

「黒栁さん!?今の話は嘘だからね!?」

 

 え?…………う……そ?

 

「というか誰が雄二なんかと!だったら僕は、断然秀吉の方がいいよ!」

「……あ、明久?」

 

 すると、偶然私たちの会話を聞いていた木下さんの動きが止まります。

 

「そ、その、お主の気持ちは嬉しいが、そんなことを言われても、ワシらには色々と障害があると思うのじゃ。その、ホラ。歳の差とか……」

「あれ?木下さんと吉井さんって同い歳ですよね……?ま、まさか吉井さん!留年していたのですか!?」

「違うよ黒柳さん!それに秀吉!僕らの間にある壁は決して歳の差じゃないと思う!」

 

 じゃあ、何が障害なのでしょう……?

 

「それじゃ、坂本と神白は動いてくれないってこと?」

「え?あ、うん。そういうことになるかな」

「まぁ、そうですね」

「なんとかできないの?せめて片方でも参加してくれれば……このままじゃ喫茶店が失敗に終わるような……」

 

 そういえばそうです。私たちには絶対にこの喫茶店を成功させなくてはならない理由があります。

 

「ところで、お主らは何の話をしておるのじゃ?島田も黒栁もそんなに思いつめた顔をして、随分と深刻な話のようじゃが」

 

 どうしましょう。タカは私が何とかできても坂本さんは私ではどうにもなりません。

 

「深刻って程じゃないんだけど、喫茶店の経営とクラスの設備の話で――」

「アキ、そうじゃないの。本当に深刻なのよ……」

「はい。かなり深刻な話です」

「え?どういうこと?」

「本人には誰にも言わないで欲しいって言われたんだけど、事情が事情だし……けど、一応秘密の話だからね?」

「う、うん。わかった」

 

 美波さんの真剣な顔に気圧される吉井さん。

 

「実は瑞希なんだけど」

「姫路さん?姫路さんがどうしたの?」

「あの子、転校するかもしれないの」

「ほぇ?」

 

 美波さんの言葉に吉井さんがおかしな反応をします。

 

「む。マズイ。明久が処理落ちしかけておるぞ」

「このバカ!不測の事態に弱いんだから!」

「明久、目を覚ますのじゃ!」

 

 木下さんが吉井さんの肩を揺すって起こそうとします。

 

「秀吉……モヒカンになった僕でも、好きになってくれるかい……?」

「……どういう処理をしたら、瑞希の転校からこういう反応が得られるのかしら」

「ある意味、稀有な才能かもしれんのう」

「私にはもう理解出来ません」

 

 どうしたら、こんな反応を得られるのでしょうか?

 

「美波!黒栁さん!姫路さんが転校ってどういうこと?」

「どうもこうも、そのままの意味。このままだと瑞希は転校しちゃうかもしれないの」

「このままだと……?」

「二人とも、その姫路の転校と、さっきの話が全然繋がらんのじゃが」

「いいえ。瑞希さん転校の理由が『Fクラスの環境』なんです」

「ってコトは、転校の理由は両親の仕事の都合とかじゃなくて――」

「そうね。純粋に設備の問題ってことになるわ」

 

 はっきり言って、このクラスの環境は瑞希さんにとってよいものではありません。それは私でも分かります。だから転校という話は当然でしょう。

 

「それに瑞希は身体も弱いから……」

「そうだよね。それが一番マズイよね……」

 

 美波さんの言うとおり、この劣悪な教室の環境は瑞希さんの健康を害する可能性も十分あります。もし、このまま冬になろうものなら私たちは体調を崩すでしょう。

 

「なるほどのう。じゃから喫茶店を成功させ、設備を向上させたのじゃな」

「そうです。瑞希さんも抵抗して『召喚大会で優勝して両親にFクラスを見直してもらおう』と考えているみたいですが、やはり設備をどうにかしないと」

 

 それにこのFクラスがバカの集まりだからというのも転校を勧められる一因になっていると思います。ただ、それ以上に彼女の健康の方が問題になるのは分かっています。

 

「……アキはその……瑞希が転校したりとか嫌だよね……?」

「もちろん嫌に決まってる!姫路さんに限らず、それが美波や秀吉、黒栁さんであっても!」

「そっか……。うん、アンタはそうだよね!」

 

 やっぱり私も瑞希さんが転校するのは嫌です!よし。

 

「そういうことなら、なんとしても雄二を焚きつけるさ!」

「私もタカを頑張って説得します!」

「そうじゃな。ワシもクラスメイトの転校と聞いては黙っておれん」

「それじゃ、まずは雄二に連絡を取らないとね」

 

 吉井さんは気を取り直し、坂本さんに電話をかけます。すると、呼び出し音が受信器から聞こてきます。

 

「もしもし、あ、雄二。ちょっと話が」

 

 吉井さんが坂本さんに話をしようとします。

 

「え?雄二。今何をしてるの?」

 

 しかし、雲行きが怪しいです。

 

「雄二!?もしもし!もしもーし!」

 

 そして、こちらの用件を伝える前に切られたようです。

 

「坂本はなんて言ってた?」

「えっと『見つかっちまった』とか『鞄を頼む』とか言ってた」

「……なにそれ?」

 

 本当に何ですかそれ。

 

「大方、霧島翔子から逃げ回っているのじゃろう。アレはああ見えて異性には滅法弱いからのう」

 

 木下さんが腕を組んでうんうんと頷いています。何を分かったのでしょうか。

 

「そうすると、坂本と連絡取るのは難しいわね」

「そうですね」

「いや、これはチャンスだ」

 

 私たちが坂本さんを諦めようとすると、吉井さんがいきなり声を出します。

 

「え?どういうこと?」

「雄二を喫茶店に引っ張り出すには丁度いい状況なんだよ。うん。ちょっと三人とも聞いてくれるかな?」

「それはいいけど……坂本の居場所はわかっているの?」

「大丈夫。相手の考えが読めるのは、なにも雄二だけじゃない」

「何か考えがあるようじゃな」

「まぁね」

「じゃあ、坂本さんの方は任せました」

「うん。崇彰の方はよろしくね」

 

 そして、二人を引き連れて吉井さんは教室をあとにしました。教室に残ったのは私とタカの二人だけです。

 

「ねぇ、タカ。起きて下さい」

 

 彼を揺すって起こします。

 

「……ん?もう授業は終わったのか?」

「……それどころか、HRも終わりましたよ。今は放課後です」

「ふーん。じゃあ、帰るかユリ」

 

 鞄を持って立ち上がるタカ。私はそんなタカに抱き着いて、耳元で甘い感じの声色で囁きます。

 

「ねぇ。タカ。私はあなたのことが大好きです。愛してます」

「そうか。オレもお前のことが好きだぞ」

「でも、何かを一生懸命にやっているタカの方がもっと好きです」

「…………」

「クラスのために動けるあなたはもっと好きです」

「…………」

「私はそんなかっこいいタカをもっとみたいです」

「…………」

「見せて……くれますか?」

「…………」

 

 すると、タカは教室を一瞥した後、

 

「で?何が狙いだ?」

 

 淡々と話を進めようとします。

 

「だから、清涼祭のクラス企画に参加して下さい」

「え?面倒」

 

 ……あれぇ?

 

「さ、さっきの話聞いてましたよね?心に響きませんでした?」

「ん?あーどうでもよくて聞き流してた」

 

 酷くないですか?それはさすがに傷付きますよ。

 

「で?何が狙いだ?」

「そ、それはタカにクラス企画を手伝ってもらおうと」

「ユリ。オレの眼を見ろ」

 

 言われたとおりにタカの眼を見ます。すると、

 

「……んんっ!?」

 

 そのまま顔を近付けて来て私にキスをします。しかも、舌が入って来るいわゆるディープキスってやつです。え?えぇっ!?こ、こんなところではダメですよ!

 

「んー!?んー……!」

 

 強引に私の後頭部を抑えつけ逃さないようにしてます。だ、ダメですよタカ!ここは学校です!しかも保健室じゃなくて普通のクラスの教室です!

 

「……ぷはぁ」

 

 そして、体感にして数分、恐らく実際は一分にも満たなかったでしょうが、タカが私を解放してくれました。

 

「……ふぅん。大体分かった」

「はぁ……はぁ……え?今ので何が分かったのですか?」

「『姫路がFクラスの環境の悪さのせいで転校する』だから『設備改善の為には中華喫茶の成功が必要不可欠』であり、『姫路の親を見返すため、姫路と島田、オレとユリがペアを組んで試験召喚大会に出場する』……ざっと、こんなもんか?」

 

 おかしいですね。全部合ってます。

 

「な、何でそこまで分かったのですか?」

「キスの味」

「……うわぁ」

 

 さすがにドン引きです。キスの味で普通そこまでわかります?キスっていうか私の唾液ですよね?まさか、考えを読むために舌をいれて来たのですか?

 

「冗談だ」

「なんだ冗談ですか……」

 

 良かったです。タカにそんな異能の力が宿ってたと知ったら私……あ、特に何もしませんね。

 

「お前の眼を見りゃ分かった」

 

 それはそれで凄いと思います。

 

「あれ?じゃあ、キスした理由って……」

「何となく。……嫌だったか?」

「……嫌ではないです」

 

 ……寧ろ嬉しいぐらいです。と、口元に手を当てながら思います。

 

「さてと、茶番はこれぐらいにして」

「茶番って酷くないですかぁっ!?」

 

 これが上げて落とすって奴ですか!?

 

「とりあえず、オレに隠れて強制的にペアを組んで試験召喚大会に出場をした件について詳しく聞きますか」

「あ……っ」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「そうか。姫路の転校か……」

 

 ユリへの尋問を終わらせ今度オシオキをすると決めた後、ユリを夕食を作らせるために帰らせ、Fクラスの教室に戻った雄二たちと話を進める。

 

「そうなると、喫茶店の成功だけでは不十分だ」

「ああ。そうだ」

 

 雄二は教室内を見渡し、オレと同じ結論に至った。

 

「不十分?どうして?」

「姫路が転校を勧められた要因は恐らく三つ」

 

 そう言うと、雄二は指を三本立てて見せた。

 

「まず一つ目。ござとみかん箱という貧相な設備。快適な学習環境ではない、という面だな。これは喫茶店が成功した利益でなんとかなるだろう」

 

 そう言いながら指を一本引っ込める。

 

「二つ目は、老朽化した教室。これは健康に害のある学習環境という面だ」

「一つ目は道具で、二つ目は教室自体ってこと?」

「そういうことだ。この問題は学園祭の喫茶店の利益程度で何とかなるものでもない。しかも、教室自体の改善なんだ。学校側の協力が必要不可欠」

 

 教室に関してはオレたちだけでは対処できない問題だ。

 

「そして最後の三つ目。レベルの低いクラスメイト。つまり姫路の成長を促すことのできない学習環境という面だ」

 

 部活動とかでもそうだが、能力を伸ばすためには実力の近い競争相手という存在は大きい。しかしこのFクラスではそんな相手は望めないからな。

 

「参ったね。随分と問題だらけだ」

「そうじゃな。一つ目だけならともかく、二つ目と三つ目は難しいのう」

「細かく言うとキリがないがまだ解決の糸口は残ってる」

「ああ。三つ目の方は女性陣が対策を練ってるはずだ」

 

 そう。召喚大会なら解決は出来るはずだ。

 

「この前、瑞希に頼まれちゃったからね。『どうしても転校したくないから協力して下さい』って。召喚大会なんて見せ物にされるだけみたいで嫌だけど、あそこまで必死に頼まれたら、ね?」

「翔子が参加するようなら優勝は難しいが、アイツはこういった行事には無関心だしな。姫路と島田の優勝は充分ありえるだろう」

 

 まぁ、霧島が参加するとなるとパートナーもAクラスの生徒だろう。そうなるとオレたちもだが、教科によっては姫路たちの勝てる見込みはゼロに近くなる。

 

「本当なら姫路抜きでFクラスの生徒が優勝するのが望ましいけどな」

 

 それを含めてオレとユリも出るのだが……まぁ言うタイミング逃したし後でいっか。

 

「さすがに、そんな贅沢は言えねぇだろ」

「まぁまぁ。姫路と島田が優勝したら、喫茶店の宣伝にもなるし一石二鳥じゃな」

 

 そう。我らがFクラスは古臭くて汚れた旧校舎にあるからな。これによる宣伝の効果は見込めるはずだ。

 

「で、坂本。それはそうと、二つ目の問題はどうするの?」

 

 二つ目の問題の教室の改修。これはオレたちだけでどうにかなる問題じゃない。まぁ、だからこそ、

 

「どうするも何も、学園長に直訴したらいいだけだろ?」

「まぁ、当然のことだな」

「それだけ?僕らが学園長に言ったくらいで何とかしてくれるかな?」

「あのな。ここは曲がりなりにも教育機関だぞ?いくら方針とは言え、生徒の健康に害を及ぼすような状態であるなら、改善要求は当然の権利だ」

「いくらクラス間に設備の差があるといえども、この教室は改善する必要はあるだろう」

 

 健康に害をきたすレベルならこちらが言う権利もある筈だ。

 

「それなら、早速学園長に会いに行こうよ」

「オーケー。オレも一緒に行くわ」

「そうだな。三人で学園長室に乗り込むか。秀吉と島田は学園祭の準備計画でも考えておいてくれ。それと、鉄人が来たら俺たちは帰ったと伝えてくれ」

「うむ。了解じゃ。鉄人と、ついでに霧島翔子にも見かけたらそう伝えておこう」

 

 さてと、行きますか

 

「アキ、しっかりやってきなさいよ」

「オッケー。任せといてよ」

 

 島田の声援も受け、オレたち三人は教室をあとにする。


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