バカテスト 化学
以下の文章の( )に入る正しい物質を答えなさい。
『ハーバー法と呼ばれる方法にてアンモニアを生成する場合、用いられる材料は塩化アンモニウムと( )である』
姫路瑞希の答え
『水酸化カルシウム』
神白崇彰の答え
『Ca(OH)2』
教師のコメント
正解です。アンモニアを生成するハーバー法は工業的にも重要な内容なので、確実に覚えておいてください。
黒柳由梨乃の答え
『ハーバー』
教師のコメント
ハーバー法のハーバーは用いられる物質の事ではありません。
土屋康太の答え
『塩化吸収材』
教師のコメント
勝手に便利な物質を作らないように。
吉井明久の答え
『アンモニア』
教師のコメント
それは反則です。
「やりましたね!タカ!」
四回戦を無事勝利で終わり、はしゃぐユリ。
「やっぱり私たちは最強ですね!」
まぁ、今回はユリのおかげで勝てたのは嘘じゃない。
最初の発砲はユリに当たらないギリギリを狙って撃った。当然当たってないからダメージはないが、それをユリの召喚獣が倒れ、いかにもオレが裏切った的な発言をする。当然だがこいつの点数上いてもいなくても変わらない。すぐに観客もあの二人もユリの戦死を確認することなく注意はオレに向く。そして銃を吹き飛ばさせユリが回収。後は頃合いを見て連携攻撃で倒す。
もちろん事前の打ち合わせなど一切ない。その場で思いついた作戦通りユリが動いてくれただけだ。
「ふふん♪これなら優勝も夢じゃないですね♪」
まぁ、決勝戦ではうまいこと負けないといけないのだが……また後で考えるか。
「これでタカからご褒美が……」
「ちょっと待て。誰がそんなこと言った」
「ほへぇ?今活躍しましたよね?」
「そうだな」
「トドメも刺しましたよね?」
「そうだな」
「じゃあ、ご褒美を」
「おかしいよな」
こいつは古典だけでなく現代国語もできないのではないか?
「ぶぅ……」
「はぁ。そうむくれるな。分かったわ」
「やった♪」
まぁ、こいつがいて助かったのは事実。そこは評価すべきだろう。…………こいつがもっと点が取れていれば作戦の幅が広がったのだがな。
「お、崇彰に黒柳か。どうだった?」
「勝ってきた」
「そうか。なら、早速で悪いが二人とも頼んだぞ」
「へいへい。行くぞユリ」
「はい!」
1時間ほどすると、そろそろ雄二たちの準決勝の時間が近づいてきた。
「それじゃ、準決勝に行ってくるね」
「はい。頑張ってくださいね」
「アキ、負けたら承知しないからね!」
「吉井さん。ファイトです」
「わかってるって」
と、明久が姫路、島田、ユリの三人から声援を受けている。この時点で異端者だのでFFF団が暴れそうなものだが生憎今は客の波がいったん収まっているので、休憩させている。
「崇彰。ちょっといいか?」
そんな中、オレは雄二に呼ばれる。
「なんだ?」
「お前のことだから分かってるだろうが……」
「次の相手……だろ?」
雄二と明久の次の相手は霧島と木下姉。つまり、二年生を代表する二人。一方のオレとユリの相手は三年Aクラスの常村と夏川。
そう。同姓の別人とかそういうオチかと思いきやバッチリあの常夏コンビである。奴らは一言で言えば敵側の人間だ。
「ああ」
今回ババアの刺客と言うとあれだがババア側としてオレたちは参戦している。ババアが示すは優勝。しかも、雄二と明久がだ。で、問題はそれを阻止しようとする者の存在。常夏コンビを操っている敵側の黒幕がいるはずだ。
推理というと大袈裟だが、あいつらの動きは不自然すぎる。執拗にオレたちを狙っている嫌がらせに見えるが、果たしてそんなあほくさいことを目的もなしに本気でするだろうか?わざわざ何度もAクラスで大声で騒ぐ必要があっただろうか?答えは単純明快。奴らはオレたちを邪魔する存在の差し金。
なら黒幕にとって今必要なのは、オレとユリの確実な敗退。
「だが、お前らが勝たないと結局意味がない。頼りにしてるぞ」
あくまでバックアップ。主はこの二人だ。
「任せろ。この試合は絶対に負けられないからな」
ただ、こいつの負けられない理由は多分ババア関連じゃない。別にあるだろう。
「俺の人生がかかってるからな……!」
そう。雄二としては霧島に優勝されると人生の墓場行きなのだ。いや、こいつの自業自得だがまぁいい。ともかく、今のやる気に満ちているこいつが負けるわけがないだろう。…………多分。
「行ってくる」
「おう」
そして雄二と明久はクラスを後にする。雄二が立てた作戦。そのために秀吉とムッツリー二もいない。ま、保健体育が対戦科目であることと木下優子が相手にいることから作戦は大体読める。
「おそらく、秀吉の方は失敗する」
向こうがこちらの動きをどこまで把握できているかは知らんが多分上手くは行かない。だが、それでも勝てはするだろう……雄二を犠牲にすれば。
「タカ?どうしたのです?」
「ん。ああ、人がいないなって」
今店にいるのはオレ、ユリ、姫路、島田、葉月の五人。
「大会の方が注目集めてますからね。ほとんどの人が向こうに行っちゃったんでしょう」
明日の午後から決勝戦。すなわち、準決勝は今日の最後の戦いの場。見に行く人が多くいても不思議じゃない。
「アンタたちも行ったら?」
「準決勝に遅れたらダメですからね」
二人からのありがたい提案。そうだな……
ガラッ
「あ、お客様です!いらっしゃいませ!」
入ってきた男は、
「おう。ちょっとおとなしくしてくれや」
入ると同時に葉月を捕まえ首元にカッターナイフを当てた。
「お客様?…………どういう冗談だ」
すると、その男の後ろからさらに男どもが現れる。……ッチ。
「坂本雄二。吉井明久。神白崇彰ってのはいるか?」
「坂本雄二と吉井明久はいねぇ」
「ッチ。一足遅かったか」
なるほどな。こいつらは送り込まれてきた刺客か。
「神白崇彰ってのはオレだ。何の用だ」
「そうか……最低限の目標は果たせそうだ」
「あぁ?」
「抵抗するとこの子がどうなるかなぁ?」
ッチ。人質を取るとはきたねぇ。
「やれ」
すると、一人の男がおもむろに近づき、
「オラッ!」
鳩尾に向かって膝を入れてきた。
「カハッ!」
たまらず膝をついてしまう。
「タカ!」
「やれ」
そして膝をついたところを蹴り飛ばされて机を巻き込み壁に激突してしまう。
「神白!」
「神白君!」
全身に痛みが走る。痛みをごまかそうと、サングラスがどっか飛んでったなぁと場違いなことを考えてみるが……容赦ねぇなクソ野郎ども。久々に感じたわ。気絶しそうになったところを舌を噛むことで何とか意識を保つ。
「お前たちこいつらも人質にするぞ。なぁに、人質は多い方が楽しめるだろう?」
「へへっ。そういうこと」
「や、やめてください!」
「は、放して!」
「おっと抵抗するとこの子が無事では済まなくなるぜ?」
「お姉ちゃん!」
「は、葉月ちゃんを解放してください!」
「ははっ。嫌だね」
女性陣の悲鳴と男どものウザい声が聞こえる。
「な、何でこんなことするんですか!?」
「そういう依頼だからだよ。コイツを無事に返したいならおとなしくしやがれ!」
「うぅ……」
恐怖を感じているはずなのに涙をこらえ、耐えようとする葉月。
……………………嫌なこと思い出させんなよクソが。
「へぇ。意外にしぶといなぁ」
「…………放せよ……クソ野郎」
「あぁ?」
「タカ!落ち着いてむぐっ」
「黙ってろ女!」
ユリが叫ぼうとしたとき、その口元は男の手によって押さえられる。
――――その瞬間、オレの中の何かがトんだ。
「……ハナセ……」
タカが頭を押さえながら低くつぶやいている。
「……ハナセ……!」
その声にいつものタカを感じられない。重く暗くそして……怖い。
「うるせぇなぁ!」
近くにいた男がタカを殴りに行く。が、
「……な、何だよその目は!」
その拳はタカによって受け止められる。そして、タカの両目は大きく見開かれ、
「……死ね」
威圧するとともに、男の腹を思い切り膝で蹴り沈めた。
「おい!テメェそれ以上うご……!」
葉月ちゃんを押さえていた男の言葉は続きませんでした。タカの目を見て恐怖している。恐怖で震え、カッターナイフを落としたその刹那。
「遅い」
タカがナイフに視線が行った男を葉月ちゃんから離れさせると同時に蹴り飛ばし、後ろの仲間たちのもとへ吹き飛ばす。
「あ、アンタ……その目……」
「オッドアイ……」
タカが隠してきたオッドアイ。サングラスはすでになく、そのあらわになった瞳。そこには普段感じない色が見える。怒り、殺意、冷たさ……そして、ほんのわずかな恐怖。いや、あれは恐怖だが恐怖ではない。最悪のシナリオを構築し、それを回避しようとしているだけ。だから、多分時間切れという恐怖。
ただ、その恐怖を持つ中、彼一人にこの空間は完全に支配される。
おそらく、オッドアイというのが大きな要因でしょう。どうしてもタカの両目にこの場にいる全員の視線が誘導されてしまう。その状況でタカは不良たちに殺気を放って威圧している。
「殺す」
一瞬で近づき、私を拘束していた男の首を掴み私を離すと同時に床に叩きつける。
普段の彼なら解放した私に何か言ったり、余裕そうな顔でへらへらするが、一切ない。ただ冷たく。ただ燃え上がる炎で暴走している。そんなタカを見て、嫌な予感がよぎってしまう。
「次」
続けざまに美波さんと瑞希さんを拘束していた男たちの顔に一撃ずつ叩き込み、二人が解放されるのと同時に地に沈める。
――――ダメだ。早く止めないと。
「て、テメごふっ!?」
不良のやぶれかぶれの特攻。その特攻を足払いをかけ踵落としで沈めた。
――――止めたいのに。身体が動かない。
「く、来るなぁ!」
「殺す」
私が金縛りにあったかのように動けないでいる間もタカは逃げようとし始めた男たちを淡々と一人ずつたたきのめしていく。
「さて」
辺りには不良たちの屍が。一人ずつ投げ飛ばすように積み上げてゆき、そして、山積みとなった不良の中から何かを探している様子。その何か――二人の男を引っ張り出して転がす。
――――ダメ!それ以上は……!
「殺す」
その二人というのは葉月ちゃんにカッターナイフを突きつけていた男と私を捕らえていた男。既に意識はない男たちに向け、冷たく言い放つ。そして、
「死ね」
足を振り上げて、勢いよく振り下ろそうとする。
「止まって!」
その足が不良たちに当たる寸前。私はようやく声が出せた。私の声を聞いて動きを止めるタカ。
「私は大丈夫だよ?葉月ちゃんもあの時の私みたいに大丈夫」
足を動かしてタカの正面に回り、彼を優しく抱擁する。
「タカのお陰で大丈夫。だから、それ以上はダメ」
タカには人を殺して……壊してほしくない。きっと彼はこのままこの人たちを殺すつもりだった。殺すのが大袈裟でもきっと再起不能となるまで壊すつもりだった。理性なんてとうにとんでいただろう。
「ほら見て?無事でしょ?」
美波さんにしがみつく葉月ちゃんを指さす。タカはその方を向いて、
「よか…………った」
ドサッ
無事を確認すると同時に気絶し、倒れ込んだ。
「明久。今日という日はお前をコロス」
「あはは。やだなぁ雄二。目が怖いよ?」
準決勝は雄二の犠牲もあり、僕らの勝利で終わった。
とりあえず、腹を殴り、薬を吐かせた後で冷水につけたら、なんとか雄二は正気に戻った。
「だいたい、雄二の作戦が読まれていたのがいけないんじゃないか。相手はあの霧島さんだよ?」
「ぐっ。それを言われると反論できん……」
全く。霧島さん相手なんだから……ってあれ?
「おい明久。崇彰と黒柳を見たか?あいつらは次の試合のはずだぞ?」
「見てないよ。おかしいなぁ。忘れるとは思えないんだけど」
黒柳さんの記憶力は僕と同等らしいからおいといて、あの崇彰が忘れるとは思えない。かといってあの崇彰に何かあったとも、考えにくいし……
「た、大変じゃお主ら!」
と、ここで秀吉が息を切らして走ってきた。
「どうした。秀吉」
「う、うむ。Fクラスの教室が大変なことになっておる!」
「えぇっ!?」
「とにかく走るぞ」
雄二を先頭に走り出す僕ら三人。
「秀吉。ひとまずウェイトレスは無事か?」
「崇彰以外は全員無事じゃ!」
「……ッチ。やっぱりかよ」
「やっぱり?」
「ああ。もう一度俺たちに何か仕掛けてくるか喫茶店を妨害するかっていうのは予想できた」
「凄い物騒な予想だね」
「引っかかることは随所あった。無論崇彰も同じ事を考えていただろうが」
思い返せばこいつと崇彰は何かを考え、妨害工作されても冷静に対処していた。違和感は抱いていたのだろう。
と、そんなこと思ってるうちに教室に着いた。
「皆無事!?」
教室に着いて周りを見渡す。美波に抱きついている葉月ちゃん。美波と姫路さんは葉月ちゃんをなだめるようにしている。座り込む黒柳さん。その膝の上に頭を乗せ気絶している崇彰。そして、
「な、何これ……」
そして、山のように積み上げられた不良たち。全員気絶しているようだ。
「…………雄二たちか」
「ムッツリー二……」
「ワシらが来た時には既に……」
「これから指示を出す。まずは崇彰を保健室に連れてく。次にこの山は俺が処理する。ムッツリー二は厨房、明久と秀吉はここを綺麗にしてくれ。流石にこのままじゃマズい」
迅速にかつ冷静に指示を出す雄二。
「で、でも何が起きたか……」
「状況把握は後でもできる。今はここをきれいにしておくことが先決だ」
「分かった」
「私も……ついて行きます」
「ああ。そうしてくれ」
崇彰を保健室まで僕と雄二で運ぶ。ただ、この男がなぜやられたのか。こいつは雄二と同等、あるいはそれ以上に強い。簡単にやられるはずがない……
その後はしっかりと片付けをし、Fクラスの
「大体推察はできるが……何があった?」
聞くと姫路さんと美波が話してくれた。不良乱入のこと。葉月ちゃんや皆が人質に取られたこと。そして、崇彰が暴走したこと。
一通りの事を聞いて、
「……いくつか疑問があるな」
と雄二が呟く。
「確かに……何で崇彰はオッドアイなの?普段は普通の感じなのに……」
「それはおそらくカラーコンタクトじゃな。大方、許可を取って身につけていたのじゃろう」
「そんなのはどうでもいい。ただ、今のを聞く限り崇彰がそこまで暴走した意味が分からん」
「え?黒柳さんが捕まっていたからじゃないの?」
「それだったら黒柳を解放した時点で戻ってるだろうし、遅くとも不良を全員気絶させたら戻ってるはず」
あ、確かに。その後に追い打ちをかけようとしていたのはやり過ぎというか無駄というか……崇彰らしくない。
「トラウマですよ」
「トラウマ……だと?」
「はい。今回の状況が彼の中にあるものを呼び起こしたんです」
真剣な口調で話す黒柳さん。
「私は彼によって救われた。でも、彼は私を救った時に深い傷を負い。後悔をした」
彼女は淡々としていると思った。なんとなく目の前の文章をただ朗読しているみたいに感じた。でもそれは冷たいからじゃない。あまり思い出したくないことだから感情を入れたくないんだろう。
「彼は私が根に持っているのではと言った。でも本当は逆。私は彼に恨まれている。本人は恨んでないといってるが私は恨まれても仕方ない。だって――」
崇彰が黒柳さんを……?
「――私は彼から奪ってしまったから」