「さてと。行こうか雄二」
「そうだな。崇彰、俺たちは抜けるが大丈夫か?」
「誰に物言ってやがる。てか、行かねぇとマズいだろ?」
こいつらは結局三十分くらいしか働いてない。まぁ、そう手を回したのはオレたちだが。さすがに疲労困憊で決勝戦に行ってもらっても困る。冗談抜きで学校の存続がかかってるから。
「後で私たちも応援に行きますね」
「そうよ。しっかり見届けに行くからね」
「頑張ってくださいね」
「葉月も応援に行くです!」
と、女性陣。まぁ、今のところ好調なのもこいつらのおかげでもある。決勝戦は見に行かせるか。
「ここまで来たんじゃ。抜かるでないぞ?」
「…………優勝」
「わかってる。試召戦争の時のようなヘマはしないよ」
「やれやれ。耳が痛いな」
秀吉とムッツリーニが突き出した手に軽く拳をあてる二人。
「後は託したぞ。二人とも」
オレもこいつらに託す。決勝戦に干渉することはさすがに出来ないからな。
「うん。行ってくるよ」
「お前も警護は任せた」
オレの突き出した両手。右手に雄二、左手に明久がそれぞれ合わせる。
そして二人は教室を後にする。
「よし、女性陣、ムッツリーニ、秀吉。観客席に行って来い」
「店の方は……?」
「気にすんな。どうせ決勝戦を見に行く人が多いから客はそうこない。来てもFクラスの男どもを使うから問題ない」
「あれ?タカは一緒に行かないのですか?」
「ちょっと用事があってな。安心しろ。何かあったらそっちに行く」
「そう?じゃあ、頼んだわよ。神白」
そうして出て行く面々。
「さてと……」
オレはオレでやれることをするか。
『さて皆様。長らくお待たせ致しました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』
聞こえてくるアナウンスの声は今まで聞いた事のない声でした。なるほど……もしかするとプロを雇ったのかもしれないですね。
私たちは横並びで座っています。橋から土屋さん、木下さん、私、瑞希さん、葉月ちゃん、美波さんって感じです。それにしてもタカは何かしでかすつもりなのでしょうか?
『出場選手の入場です!二年Fクラス所属・吉井明久君と、同じくFクラス所属・坂本雄二君です!皆様拍手でお迎え下さい!』
お、二人が入場してきましたね。どこか緊張した様子です。
『なんと、決勝戦に進んだのは、二年生の最下級であるFクラスの生徒コンビです!これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません!』
いいこと言いますね。そうです。Fクラスは最下級ではないのです。
『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、同じくAクラス所属・常村勇作君です!皆様、こちらも拍手でお迎え下さい!』
コールを受けて吉井さんと坂本さんの前に姿を現したのは、昨日Aクラスで色々とおいたをした常夏コンビさんです。
『出場選手が少ない三年生ですか、それでもきっちりと決勝戦に食い込んできました。さてさて、最年長の意地を見せることができるでしょうか!』
一応拍手はしておきますが……むぅ。本来だったら私たちが立っていたかもしれないと思うと悔しいです。
『それではルールを簡単に説明します。試験召喚獣とはテストの点数に比例した──』
アナウンスでルール説明が入ります。
『ようセンパイ方。もうセコい小細工はネタ切れか?』
あれ?何故かここまで坂本さんの声が聞こえます。何故でしょう?
『お前らが公衆の面前で恥をかかないように、という優しい配慮だったんだがな。Fクラス程度のオツムじゃあ理解できなかったか?』
『残念ながら、お前らの言葉はAクラス所属でも理解出来ないだろうよ。まずは日本語を覚えてくるんだな。サル山の坊主大将』
『て、テメェ、先輩に向かって……!』
ふと、隣を見ると木下さんの手には何かラジオみたいなものが。あ、あれから聞こえてるんですね。納得です。
『先輩。一つ聞きたいことがあります』
『ぁんだ?』
『教頭先生に協力している理由は何ですか』
教頭先生?……………………そもそもうちの学園に教頭先生なんて居ましたっけ?
『……そうかい。事情は理解してるってコトかい』
『大体は。それでどうなんですか?』
『進学だよ。うまくやれば推薦状を書いてくれるらしいからな。そうすりゃ受験勉強とはおさらばだ』
『そうですか。そっちの──常村先輩も同じ理由ですか?』
『まぁな』
『……そうですか』
うーん。よく分かりませんがきっと、タカも関わってたことなんでしょうね。
『本当は小細工なんて要らなかったんだよな。Aクラスの俺たちとFクラスのお前らじゃ、そもそもの実力が違い過ぎる』
『そうか。それなのにわざわざご苦労なことだな。そんなに俺と明久が怖かったのか?』
『ハッ!言ってろ!お前らの勝ち方なんて、相手の性格や弱味につけこんだ騙し討ちだろうが。俺たち相手じゃ何も出来ないだろ!』
『アンタらこそ。うちのクラスの崇彰と黒柳コンビを不戦敗させといてよく言えるな。そうだもんな。崇彰とアンタらじゃあそもそもの実力が違いすぎるもんなぁ?』
『テメェ……!』
何か罵倒合戦ですね……。あと坂本さん。ちゃっかり私の名前を省かないでください。私たちは二人で最強なのです。9割方はタカの力ですが1割くらい私の力もあるんです。
『それでは試合に入りましょう!選手の皆さん、どうぞ!』
気付けば説明が終わって、審判役の先生が対戦するペア同士の間に立ちます。
「「「「
掛け声をあげて、各々が召喚獣を喚び出します。
常夏コンビさんの召喚獣の装備はオーソドックスな剣と鎧ですね。高得点者の召喚獣ということもあり、質はかなり良さそうな物に見えます。
『Aクラス 常村勇作&夏川俊平
日本史 209点&197点』
な、なんですとぉ!?見かけとは裏腹に私の何倍も点数が上です!これには驚きです!
『どうした?俺たちの点数見て腰が引けたか?』
『Fクラスじゃお目にかかれないような点数だからな。無理もないな』
常夏コンビさんがディスプレイを示して、吉井さんたちに自慢してます。
あれ?でも、あれって、瑞希さんやタカの半分以下ですよね?何で自慢してるんでしょう?Fクラスだともう少し上の点数が見られますよ?
『ホラ、観客の皆様に見せてみろよ。お前らの貧相な点数をよ』
『夏川。あまり苛めるなよ。どうせすぐに晒されるんだぜ?』
煽る先輩方。それに対し、吉井さんが答えます。
『……前に』
『ぁん?』
『前に、クラスの子が言っていた』
『なんだ?晒し者にされた時の逃げ方でも教えてくれたのか?』
ギャハハハ、と笑ってる坊主の方の先輩。
『「好きな人の為なら頑張れる」って』
それって、瑞希さんが言っていたことですね。確か。
『ハァ?コイツ何言ってんだか』
『──僕も最近、心からそう思った』
『Fクラス 坂本雄二&吉井明久
日本史 215点&166点』
「「なっ!?」」
点数が表示されたディスプレイを見て、常夏コンビさんが驚愕の声をあげます。
すごいです。あの吉井さんがBクラス並の点数取ってます。むむ、これは私も頑張らないといけませんね……。
『アンタらは小細工無しの実力勝負でブッ倒してやる!』
それぞれの召喚獣が得物を構えます。
『明久。あそこまで俺と崇彰に付き合わせたんだ。ここで負けたら承知しねぇぞ』
『わかってる。勉強教えてくれてありがとね。二人ともそれなりに頭いいじゃん』
『お前に比べれば誰でもそうだがな。──行くぞっ』
坂本さんの召喚獣が最初に動きます。
『夏川!こっちは俺が引き受ける!』
対するのはモヒカンの方の先輩。
『それじゃ、僕の相手は先輩ですね』
『上等じゃねぇか!多少ヤマが当たったくらいでいい気になるなよ!』
一方、坊主の方の先輩の召喚獣が剣を構えて吉井さんの召喚獣に突進します。動きは速いですが……
『先輩、取り乱し過ぎですよ?ただの突撃じゃ避けてくれと言ってるようなもんです』
吉井さんの召喚獣は半身を右にずらし、小さな動きで相手の身体を避けていました。
『っと、この……!』
そのまま背中を向けそうになった相手は振り向きざまに横薙ぎの一撃を見舞います。
『ふっ!』
吉井さんの召喚獣はその一撃を小さく屈んでかわし、一呼吸の間に三度木刀を振るっていました。
『くぅっ!』
なんとか剣で防御した先輩。一旦仕切りなおすために大きく一歩下がります。
す、凄いです……さすが吉井さん。経験が違います。
『テメェ、試召戦争じゃ60点程度だったくせに……!』
ほへぇ……相手の情報をしっかり集めてるんですね。
『今でもそんなもんですよ。この教科以外は、ね?』
『野郎……!最初からこの勝負だけに絞ってやがったな……!』
『その通り。よくわかりましたね、先輩。まぁ絞っても崇彰みたいな点数はとれませんが』
『ッチ。400点オーバーがザラで500点を超えてくるとかしゃれにならねぇんだよ』
やっぱり、先輩方から見てもすごいんですね……。
『仕方ねぇ。二年相手に大人げないが、経験の差ってやつを教えてやるよ!』
そう告げると、坊主先輩の召喚獣は大きく跳び退って、吉井さんと坊主先輩本人からも距離を取ります。何でしょう?作戦ですかね?
『お前の知らない戦い方があるんだよ』
坊主先輩の召喚獣を見てみると、剣を腰だめに構え、まるで力を溜めているような感じです。おっと?私たち二年生の知らない特殊能力でもあるのでしょうか?
『おおおぉぉっ!』
『いけっ!』
力を込める先輩。吉井さんは牽制しようと召喚獣を敵に向かって走らせます。
『そら、引っかかった』
と、坊主先輩のからかうような声が聞こえます。すると、
『く──そぉっ!』
吉井さんがいきなり苦しそうな声を出します。え?何事ですか?
『これが経験の差ってやつだ』
経験の差ってそんなに便利な言葉でしたっけ?
そう思ってると、今度は坊主先輩の召喚獣が吉井さんの召喚獣に攻撃を仕掛けます。
『ぐぅぅぅっ!』
避けるのに失敗したのか脇腹を切り裂かれています。
『そういやお前、「観察処分者」なんだよな?こいつはさぞかし痛えだろうなぁ』
おまけと言わんばかりに吉井さんの召喚獣の顎に拳が叩き込まれます。
そして、フィードバックされた痛みのせいか倒れ始める吉井さん。
「吉井君!」
「アキっ!」
『明久っ!てめぇ根性みせろやっ!』
ダンッ!
吉井さんは思いっきり足を地面に叩きつけて踏み止まりました。
『よし。いけるな、相棒?』
『……当然っ!』
ほっとする瑞希さんと美波さん。凄いですね。あの二人は。
『悪あがきを!すぐに止めをくれてやるぜ!』
坊主先輩の召喚獣が駆けて吉井さんの召喚獣を攻撃をしようとします。
『──んのぉぉっ!』
吉井さんは召喚獣を動かして敵の脇をすり抜けます。そして、そのがら空きの背中に大きく蹴りを放ちます。威力はそこまでですが相手が体勢を崩しました。
『雄二っ!』
『おうっ!』
かけ声とともに坂本さんが自身の召喚獣をもう一方の敵であるモヒカン先輩の方に突っ込ませます。
『舐めんなっ!』
迎え撃つようにモヒカン先輩の召喚獣が剣を振り下ろします。対する坂本さんの召喚獣は防御も回避もしません。ただ一直線へと迫ります。
『もらったぁ!』
振り下ろされた剣が坂本さんの召喚獣の首を両断する。その寸前、
ギィンッ!
吉井さんの召喚獣が投げた木刀が当たり、敵の剣の軌道を変えました。
『ぐっ!しまっ──』
振り下ろされた剣が不発になりました。そうなった以上、坂本さんの召喚獣は絶好の攻撃ポジションにいることになります。
「吹き飛べやぁあっ!」
坂本さんの召喚獣の拳が叩き込まれます。
坂本さんの声と会場の歓声が重なります。
『野郎!得物を手放すなんて上等じゃねぇか!』
吉井さんの召喚獣には坊主先輩の召喚獣が迫っています。
『っ!?邪魔──!』
坊主先輩の召喚獣の動きが一瞬鈍ります。その原因は、坂本さんが吹き飛ばしたモヒカン先輩の召喚獣です。それが坊主先輩の視界を遮りました。
吉井さんはその隙を狙って召喚獣を前に出す。坊主先輩の召喚獣は剣を振り下ろしましたがタイミングがずれて攻撃を避けられました。
『チィッ!』
坊主先輩の召喚獣は空振りに終わった剣を戻し、再度吉井さんの召喚獣に攻撃を加えようとします。
『くらえっ!』
が、吉井さんは頭突きをさせました。威力は無いに等しいですが、相手の動きを牽制させるには充分でした。
『明久!』
坂本さんの召喚獣はさっきの木刀を吉井さんの召喚獣に向かって蹴り飛ばします。
『待ってました!』
勢いよく転がる木刀をしっかりキャッチする吉井さんの召喚獣。
『くそぉぉっ!お前ら如きに三年の俺が──!』
『くたばれえぇっ!』
二人の召喚獣が同時に攻撃します。見ると吉井さんの召喚獣は左腕が切り落とされていました。
『ま、お前にしては上出来だな。明久』
一方、坊主先輩の召喚獣の喉には木刀が突き刺さっていました。
『坂本・吉井ペアの勝利です!』
「ぃぃぃよっしゃぁああー!!」
拍手喝采。凄いです二人とも!
優勝おめでとうございます!
『クソ……まさか失敗するとは……!ここまで計画が……!』
コンコン
『誰だ?』
「失礼しま-す」
オレはある一室に来ていた。
「どーも。作戦失敗した黒幕の面拝みに来ましたぁ。ねぇ?竹原教頭」
まぁ、教頭室だが。
「作戦失敗?君は一体何を言ってるのかね?」
「いやぁ。デモンストレーションも腕輪が無事、暴走することなく終わってハッピーですね。ああ、アンタにとってはアンハッピーか」
「やれやれ。すまないが私はこれから予定が入っていてね」
「おいおい。アンタがこの後、予定がないことくらい把握済みだ。戯れ言ぬかしてんじゃねぇよ」
オレは教頭室の扉を後ろ手で閉める。
「さてと、報復させてもらおうか」
「ま、待ちたまえ。一体私が君に何をしたと言うんだ」
「あぁ?不良けしかけた黒幕野郎が何を言ってんだよ」
「不良?一体何のこ――――」
とぼけさせる前にある会話を流す。
ピッ
『不良さんたち?正直に言いやがれ。誰の差し金だ』
『た、竹原だ!ここの教頭をやっている奴だ!』
『ほぅ。で?内容は?』
『坂本、吉井、神白の三名の動きを封じること……特に神白を準決勝に出させるなって話だった』
『それで女子たちを……ねぇ』
『あ、あぁ。動きさえ封じれば好きにやっていいって……』
ピッ
「まぁ、これ以上流す必要はねぇだろう」
「で、デタラメだ!そんなことあるわけないだろ!」
やれやれ。やっぱり、
「これでも見な」
オレはあるものをばらまく。こっちは正真正銘の
「これは……っ!」
「バッチリ写ってますねぇ?これでも言い逃れするつもりですかぁ?」
不良たちに金を渡しながら頼む教頭の姿。それを収めた写真に加え、
「それにこの人は他校の経営者……あらら?何話してるんでしょうねぇ?」
また別の写真。こっちは裏切った証拠をとらえたものだ。
「……取引しよう」
「はぁ?」
「君は何がほしい。金か?成績か?君が望むものなら何でも用意しよう。だから頼む。見逃してくれ」
「あははははははははは」
オレは腹を抱えて大笑いする。そして、
「い・や・だ」
丁重に断らせていただく。
いやぁ実際に居るんだな。追い詰められたときにこういう台詞を吐く奴。
「おいおい。オレは言ったろ?報復しに来たって」
オレはこう見えて怒っている。
「オレはさ。きっちりとお返しした上に利子をつけてあげないと気が済まないタイプなんだよ」
オレが一歩前に進むと教頭は一歩下がる。
「勘違いすんなよ?別にオレが狙われたのも、明久や雄二が狙われたのもどうでもいい」
正直、そこはどうでもいい。問題は、
「女子たちを人質に取り、小学生を刃物で脅し、オレの幼馴染みに手を出そうとしたんだ」
「そ、そんなの不良たちが勝手にやった――」
ダンッ!
「誰が口を開いていいと言った。勝手にやったことだぁ?ざけんなよ。テメェが頼まなきゃそもそもこんな事態になってねぇんだよクソ野郎が。テメェの頭は都合よくできすぎだろ?あんなのに頼めばどうなるかぐらい想像付くだろうがこの無能。だから失敗してんだろうが雑魚」
こいつが失敗している要因はこいつの策の甘さにある。こいつがもっと賢く追い詰めればよかったのにこんな手でしか出来なかった。その時点で負けてるんだよ。
「ああ、いいこと教えてやるよ。オレはオレ自身が手を出されようが怒らねぇよ。鳩尾に拳を叩き込まれようが、蹴り飛ばされようが別にそんなことじゃ怒らねぇ。だがな、ユリに手を出そうもんなら話は別だ。ユリを傷つけようとするやつは全員ぶちのめす。地獄?はっ、そんなの可愛く見えるようなものを味合わせてやるよ」
アイツだけは傷つけさせねぇ。傷つけようもんなら命はないと思え。
「既に社会的にお前を殺し終えた。残るは精神と肉体。さすがに殺しはしない。壊すだけだ」
また一歩進むと向こうは後退する。
「さぁ――――」
――――報復の時間だ。黒幕野郎。