『ただいまの時刻をもって、清涼祭の一般公開を終了しました。各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』
「お、終わった……」
「さすがに疲れたのう……」
「…………(コクコク)」
「ふぅ……」
「お疲れです……」
放送を聞き安堵するオレ。ユリがもたれかかっているが気にしない。とりあえず、喉渇いたし缶のドリンクを飲む。
明久たちの優勝ということで、怒涛の勢いでお客さんがやってきた。さすがにあの数は疲れる。
「そう言えば、姫路さんのお父さんはどうしたんだろう?」
「ん?お義父さんが気になるのか?」
「そうか。流石、将来のことは考えているな」
「なっ!?ベ、べつにそういうわけじゃなくて!」
「後夜祭の後で話をしに行くと言っておったのう。結論はその時じゃな」
秀吉が返事をする。多分その辺は大丈夫だと思うけどな。
「じゃ、ウチらは着替えてくるわ」
「えぇっ!?どうして!?」
着替えさせてやれよ。普通に考えて。
「どうして、って言われても……恥ずかしいからに決まってるでしょ?」
「すいません。すぐ戻りますので」
「お前も行ってこい。ユリ」
「はぁーい」
「待って!三人とも考え直すんだ!カムバァーック!」
ちなみにだが葉月ちゃんはチャイナドレスを着たまま帰った。恐ろしいな……ユリも近いところはあるが。
「ふむ。ならばワシも──」
「させるかっ!せめて秀吉だけは着替えさせない!」
明久が秀吉の足にタックルする。
「なっ!?何をするのじゃ明久!」
「…………(フルフル)」
と、よく見るとムッツリーニも同じことしてた。お前ら絶対バカだろ。
「おい明久。遊んでないで学園長室に行くぞ」
明久とムッツリーニを呆れたような目で見ているのは疲れを感じさせない雄二。
「だな。さっさと行こうぜ。二人とも」
「学園長室じゃと?三人とも学園長に何か用でもあるのか?」
「ちょっとした取引の清算だ。喫茶店が忙しくて行けなかったからな。遅くなったが今から行こうと思う」
仕方ねぇが時間を空けるのもよろしくないしな。
「ならばその間にワシは着替えを」
「そうはいかない!秀吉も一緒に連れて行く!」
「…………(クイクイ)」
「あ、ムッツリーニも来る?」
「…………(コクコク)」
本当にどうしようもねぇな。こいつら。
「困ったのう。雄二に崇彰よ。なんとか言ってやってくれんか?」
「ん~……。ま、いいだろ。秀吉とムッツリーニも行こうぜ。明久を説得するのも面倒だし」
「確かに。バカを説得するほど疲れるものはねぇよな」
一人二人増えようが向こうは気にしないだろうし。
「やれやれ。雄二に崇彰まで……仕方ないのう。着替えは後回しじゃ」
「よし。ほら明久にムッツリーニ。足を放してやれ」
「うん」
「…………(コクリ)」
「やれやれ。ワシのこんな姿を見てもなんの足しにもならんじゃろうに………」
まぁ、諦めろ。
「失礼しまーす」
「邪魔するぞ」
明久と雄二はノックと挨拶をしながら学園長室の扉を開ける。
「お主ら、全く敬意を払っておらん気がするのじゃが……」
「そう?きちんとノックをして挨拶したけど?」
「普通は返事を待つだろ」
「その通りさね。それにアタシは前に返事を待つように言った筈だがねぇ」
まぁ、普通はだからババァ相手ならどうでもいいと思うが。
「あ、学園長。優勝の報告に来ました」
「言われなくてもわかっているよ。アンタたちに賞状を渡したのは誰だと思ってるんだい」
どっちもどっちなものの言い方だな。
「それにしても、随分と仲間を引き連れてきたもんだねぇ」
ムッツリーニと秀吉を見て咎めるように言い捨てる。
「コイツらもババァのせいで迷惑を被ったからな。元凶の顔くらい拝んでもばちはあたらないはずだ」
「てか、アンタのせいで迷惑を被ったやつはまだまだいるんだ。全員連れて乗り込まなかっただけありがたいと思え」
「……ふん、そうかい。そいつは悪かったね」
つまらなそうに鼻を鳴らすババァ。
「おい明久。まさかこんなババァに可愛さ求めてんじゃねぇのか?」
「いやいや!こんな醜悪ババァに可愛さ求めてどうするのさ!」
「そうだぞ。この妖怪ババァの全盛期は一世紀以上前に終わってるからな」
「アンタら言いたい放題だね……」
軽い談笑だ。真面目な話に入る前のな。
「それで、白金の腕輸は返却した方がいいですか?」
明久は持っている腕輪をババァに見せながら言う。今回の賞品である白金の腕輪は普通の腕輪と違い、召喚者自身が装備する物だったりする。
「いや、それは後でいいさね。どうせすぐに不具合は直せないんだ」
「む?明久、不具合とはなんじゃ?」
「…………?」
「なんとなく予想通りだが……」
「あ、そっか。三人は聞いていないから知らなかったんだね。白金の腕輪はちょっと欠陥があってね。得点の高い召喚者が使うと暴走してしまうんだ」
だから明久と雄二を……?ん?何かおかしくねぇか?
「そうじゃったのか。……む? どうしたのじゃ二人とも?」
なんだ?何かが引っかかる……
(なんでアイツらは俺たちがババァと繋がっていると知っていたんだ……?)
(黒幕は一体、どうやってオレたちがババァ側だと……?)
確かに黒幕とは最初入るときに会っている。でも、たったそれだけでこんなことはしねぇだろ。確信を持っていたはず。確信…………盗撮か盗聴?まさか……な。
「だから、教室の改修と交換条件で僕と雄二がこれをゲットするって言う取引を学園長と──」
「明久!一回静かにしろ!」
「え?」
「ここでその話はマズい!」
オレと雄二が叫ぶ……が。
「…………盗聴の気配」
「ッチ!」
「やられたか!」
オレと雄二が勢いよく学園長室のドアを開け放つ。あのヘアスタイル……!
「あいつら……!」
「追うぞ明久!崇彰!」
「ちょっ……崇彰、雄二、どういうこと!?」
「盗聴だ!向こうに加担してた連中は、この部屋に盗聴器を仕掛けていやがった!」
「なんだって!?」
「今の一連の会話も聞かれていたはずだ。もしも録音なんてされていたら、相当マズいことになる!」
明久からの問いに二人で怒鳴りながら答えると、ようやく事態の重大さが飲み込めた明久は青褪めた顔をする。
「録音!?冗談じゃない!」
そうだ。そんなのが公開されたら今までの努力が全て水の泡になってしまう。竹原は完膚なきまでに潰した。だが、そんな事になったら学園の信用は失墜、学園の存続自体が怪しくなる。そうなれば姫路一人の問題じゃねぇ。全員が転校になってしまう。クソが。最後の最後でやりやがったな!このままじゃ結局あいつらの思惑通りになっちまう!
「急げ!」
「わかった!秀吉とムッツリーニも協力して!」
「うむ!」
「…………(コクリ)」
五人揃って一緒に学園長室を飛び出すオレたち。
「雄二!崇彰!向こうは例の常夏コンビでしょ!」
「そうだ!ちらっと例の髪形が見えたから間違いない!」
「ってコトは二人組だよね!こっちは二人と三人に分かれよう!」
「いいやオレは一人でいい。二組より三組の方が効率はいいはずだ!」
「お前なら大丈夫か!分かった!」
「ワシとムッツリーニは外を探す!」
確かに、家に帰ってコピーでもされたら面倒だ。まずは学校から逃がさないよう出口から潰すってのはいい。
「…………明久」
「ん?」
走りながらムッツリーニが明久に何かを手渡した。
「ムッツリーニ愛用の双眼鏡?」
「…………予備」
予備どころか普通なら一個もいらないだろ。
「サンキュ、ムッツリーニ!」
「…………この学校は気に入っている」
オレたち五人。学園を守るという目的は同じでも理由が違う。まぁ、目的さえ合っていれば協力できる。
「目標を見つけたら携帯に連絡を入れてくれ!」
「うむ!」
「オレも行ってくる!オレは一旦旧校舎に向かう!」
「分かった!僕らは新校舎だね!気をつけてね!」
三組が一斉に別れる。
さて、走りながら頭を使う。まず、奴らが今の間に噂として広めようとしている可能性は低い。店の云々はともかくこんなシャレにならねぇこと普通は信じない。なら記録媒体をコピーして無差別配布か、何かしらの方法で流すかどっちか!まぁいい。まずは1階からだ!
「あ、タカです」
流す……となると、放送が手っ取り早いか。ならば放送室が一番可能性が高い。いや、この程度なら明久でも分かる。おそらく放送室にはいないしあいつらが確認はする。
「おーい。聞こえてないのですか?」
ならば一体……!クソ。どうすればいい?
「全く考えながら走ると怪我を」
「おいユリ!」
「ひゃ、ひゃい!?」
「お前高いところは好きか!」
「へ?まぁ好きか嫌いかだと好きですよ?」
なら屋上だ。バカは高いところが好きってのはどうにも本当だったらしい。
「あれ?今凄く失礼なことを思われている気がします?」
目的地が分かりゃ周りを気にする必要はねぇ。一旦全速力で屋上だ。
「わわっ。速すぎて追いつけません……でも負けません!」
階段を二段飛ばしで上がり、たどり着いた屋上の扉を勢いよく蹴り破る。
「いねぇ!外したか!」
だが屋上からなら外の様子も見える。一旦グラウンドの方を見るか!
「クソ!ムッツリーニから予備をもらうべきだったか……!」
もう一つくらいアイツなら持ってるだろ。なら外にいるムッツリーニたちに信号を……!
「ッチ!屋上違いか!」
と、新校舎の屋上を見ると、常夏が見えた。クソッタレ。確か新校舎の屋上にも放送設備があるはず。なるほど。そっちか!
引き返して階段を何段も飛ばして降りていく。
「ッチ邪魔が多い!」
こういうときはパワーで突き進もうとすると遅くなる。だから敏捷性をフルに生かし、時には壁を蹴り、時には空中で何回転かしながら前へと進む。
「はぁ……はぁ……どうしましょう……私の幼なじみが人間やめてます……あ、前からでした」
何か後ろから聞き覚えのある声がするがスルーだ。
prrrr!
とここで携帯電話が鳴る。
「もしもし!」
『…………崇彰!』
「ムッツリーニか!」
『…………発見した!』
「こっちもだ!新校舎の屋上で間違いないな!?」
『…………間違いない』
「問題児コンビの方は!」
『…………グラウンドの隅。そっちは?』
「四階渡り廊下全力疾走中!」
『…………了解』
電話を切るオレ。ッチ。急がねぇとマズいな!
そう思いながら階段を駆け上がり、扉を蹴破る。
「なっ……!」
「喰らえやこの野郎!」
持っていた空き缶をオーバーヘッドの要領で蹴りつける。
「うおっ!?危ねぇなこの野郎!」
ッチ。ギリギリのとこで避けやがった。だが手は離れている。今のうちに接近して……!
「ぅおい!なんかきてんぞぉ!?」
「「はぁ!?」」
すると、花火玉のようなものがこっちに飛んでくるだと!?
ドォン! パラパラパラ
よし。とりあえず、近くに落ちていた石を放送器具にぶつけて、
prrrr!
電話をかける。
『も、もしもし?』
「ユリ。お前どこにいる?」
『どこって……新校舎の屋上に向かって』
プツッと切る。よし、
「じゃあ常夏コンビ!オレはこれで!」
屋上の扉を開けて出て行くオレ。
出て行く直前に見るとすでに二発目が飛んできている。命中すればいいが(普通に考えてよくない)万が一外されたらたまったもんじゃねぇ。学校存続云々よりもユリを連れて避難する方が優先に決まってんだろ。
「た、タカ?えーっと……」
「説明してる余裕はねぇ。とりあえず行くぞ」
見るからに疲れていたのでユリを背負って走る。
「ぜってぇ離すなよ」
「もうなにがなんだか――」
ドォン!
「――な、何ですか!?この音!」
「バカ。花火玉。屋上。投げる」
「あはは~タカってばこんな時に冗談を」
「…………」
「……え?じょ、冗談って言って下さいよ!?」
「ユリ」
「な、何ですか?」
「オレが冗談でこんなに必死にお前を背負って走ると思うか?」
「…………」
ドォン!
上の方から三発目の音がする。あいつら。学校にぶち当てねぇだろうな?
「とりあえず外まで来れば……」
振り返ると、
ドォン!
校舎の一角が見事に崩れていた。
「……………………」
「……………………」
しばし無言になるオレたち。
『誰か助けてぇっ!変態教師に犯されそうですーっ!』
『貴様よりによってなんて悲鳴を上げるんだ!』
響くバカと鉄人の声。
「ねぇタカ……」
「なんだ」
「ちょっと私。現実逃避していいですか?」
するなとはとてもじゃないが言えなかった。