恋愛感情ゼロの幼馴染と召喚獣   作:黒ハム

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デートと書いてただでは終わらないと読む ②

「ここが如月ハイランド……!」

 

 キラキラした目で目の前のアミューズメントパークを見るユリ。

 電車とバスを乗り継いで二時間ほど。いつもより遠出にはなったもののこいつが喜んでるしいっか。…………まぁ、電車とバスの中ではこいつが凄いくっついてきていて注目の的……というよりはあれだ。断頭台に居る死刑囚の気分だった。流石純粋な銀髪美少女。お前は注目を無意識に集める天才だよ。

 

「ねぇね!早く行こうよ!」

 

 グイグイっと腕を引っ張ってくるユリ。テンション高いなぁ……。ま、いっか。

 

「でも、思ったよりすいてますね。もっと混んでると思いました」

 

 ここでユリのちょっと常識はずれな発言が見て取れる。

 

「いいか?今回はオープンではなくあくまでプレオープン。限定的であり、プレオープンでは事前にチケットを手に入れないと入れない」

「ほうほう」

「で、プレオープンのチケットには当然限りがあるんだよ。知ってるか?このチケットは、価値があるんだよ。もし、オークションなり出された日には結構な値段になるだろうな」

 

 まぁ、こういうチケットをオークションとかに出して儲けるってのはタブーだろうが。

 

「話を戻すがプレオープンのチケットに限りがある。つまり、ここに設定された期間に来られる人数は限られており、今日一日だけでないから客はある程度ばらける。だからかなりすいてるはずだ。アトラクションとかも何時間待ちってのはなく、最大でも三十分くらいだろうな」

 

 ここに来ている客が一斉に同じアトラクションに行かなければだが、そんな仮定は意味がないだろう。

 

「タカってやっぱり頭いいんですね……私に半分分けてほしいです」

「やらねぇよ。勉強しろ」

「はーい」

 

 たく……?ん?あれって……

 

「あ、坂本さんと霧島さんですね」

「だな」

 

 ん?そう言えば……ああ。まぁいいか。あのことはどうせすぐ気付くだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 似非外国人の受付を通った俺と翔子。クソ。明久やムッツリーニがこっちのスタッフで紛れ込んでいたって事は……

 

「最重要警戒人物は……アイツだな」

「……?」

 

 芋づる式に姫路と秀吉、島田辺りもこの場にいると考えて大丈夫だ。だが、正直言ってあいつらはそこまで脅威ではない。問題は崇彰。アイツが参加していた場合は厄介だ。

 先の清涼祭の大会であの男は本気を出せば全科目ムッツリーニの保健体育に近い点数を取れることが判明している。アイツは頭がいい。頭がいいだけなら姫路も該当するがアイツに関しては騙し討ち駆け引きなんかも得意中の得意。つまり、最大にして最悪の敵だ。

 

「うーっす。雄二、霧島」

「坂本さん。霧島さん。おはようございます」

「……おはよう。神白、黒柳」

 

 ……最大の敵が平然と目の前に現れた件について。

 ヤバい。これは予想外……さてはこいつら、オレたちを仕掛けのあるアトラクションへと案内するつもりだな。

 

「奇遇ですね。二人もデートですか?」

「……うん」

 

 一見するとこの二人は仕掛け人には見えない。ただの訪れたカップル(一般客)のようだ。だが、崇彰。お前は抜かったな。

 

「お前らもデートか?」

「はいです!」

 

 崇彰。お前のボロを出せなくとも、黒柳に駆け引きで負けるとは思えん。

 

「チケットはどうしたんだ?」

「学園長がくれたんです。お詫びだって言って……ほら!」

 

 そこには普通のペアチケット。俺らみたいなおかしなオプションはついてない。流石は崇彰。筋が通っていて、しっかり証拠も提示してきたか。なるほど。黒柳にも最低限の仕込みはしているようだな。

 

「そういやお前ら。明久たちが来ているのは知ってるか?」

「へ?吉井さん?…………ど、どうしましょうタカ!このままではマズいです!」

 

 ……ビンゴ。明久たちの存在がばれて黒柳が慌ててるぞ。

 

「はぁ?何がマズいんだよ」

 

 ふっ、崇彰。お前のその完璧とも言えるポーカーフェイスはいつまで持つ?

 

「だって!吉井さんが葉月ちゃんとここにオトナのデートをしに来たんですよ!」

「「……はぁ?」」

 

 俺と崇彰の声が重なる。

 

「ほ、ほら!吉井さんが葉月ちゃんを誘おうとしてるって言ってたじゃないですか!どどどうしましょう!吉井さんがロリコンであることが……!」

「「…………」」

 

 慌てる黒柳と固まる俺と崇彰。ヤバい。この返しは俺の想像の遙か斜め上を行った……!

 

『ねぇね、お姉さん。その話。フィーにも教えてくれませんか?』

 

 すると、気付けば近くにキツネの着ぐるみ……大きなリボンをつけ、中から人間の女性の声がすることからメスなんだろう。というか、この声はどう考えてもクラスメートの優等生にしか思えない。

 やれやれ確認を――

 

「お前。姫路だろ。バイトか?」

 

 ――する前にドストレートに崇彰が言ってのけた。

 

『うぇ!?どうして神白君と由梨乃ちゃんがここに……じゃ、じゃなくて!ち、違います!私――じゃなくてフィーは姫路なんて人じゃないよ?見ての通りキツネの女の子だよっ♪』

 

 こんな状況でも必死に取り繕おうとする姫路は真面目だと思う。

 というか、さっきから何かがおかしい。黒柳の反応(あれは多分誤解が解けてない)はともかく、崇彰のするはずのない質問(アイツがあっち側なら、今の発言はありえない)に姫路の崇彰と黒柳がいたことに対する純粋な驚き。

 これは、この二人はシロ濃厚だな。ただまぁ、確認はしておくか。

 

「おい崇彰。お前明久から今日の事聞いてないか?」

「ん?ああ、何か『雄二&霧島さん結婚大作戦』を開催するから協力してほしいって言われたな。まぁ、ユリとデートするから断ったけど」

 

 あの野郎。ぶち殺す。

 

「もうタカに坂本さん!ダメじゃないですか!」

「「なにが?」」

「……フィーちゃんはキツネの女の子。いじめたら可哀想」

「フィーちゃんはフィーちゃんです!中に人が居るだなんてあり得ないですよ!」

 

 ……翔子の方はともかく、黒柳の発言には固まった。

 

「なぁ、崇彰。まさか黒柳って……」

「言うな。夢が壊されてない純粋な子供だ。だから何も言うな」

 

 崇彰が遠い目をする。…………そうかぁ。高校二年生になって、未だに夢を抱き続けているのかぁ……。きっと、こいつは未だに『サンタが実在する』と思い込みこういう『フィーとか某有名な夢の国のネズミが実在する』と信じてるんだなぁ……泣けてきた。

 こいつはこいつで成長の方向を間違えてるんだろう。

 

「なぁ崇彰」

「なんだよ」

「一発ぶん殴っていいか?」

 

 こんな夢の世界に住んでる純粋な少女が(ピーーー)とか(ピーーーー)を崇彰と平然とヤッっているのはきっと、こいつの悪影響なんだろう。羨ましいとは言わん。とりあえず一発殴らせろ。

 

「ねぇね。フィーちゃんフィーちゃん」

『なんですか?お姉さん』

「おすすめのアトラクション教えて」

 

 ナイス黒柳。俺の聞きたいことを怪しまれずによく聞いてくれた。崇彰を殴るのをやめるくらいの働きだ。

 

『フィーのおすすめはね。あそこに見えてるお化け屋敷だよっ』

 

 噴水の向こうに見える建物。確か廃病院を改造したってやつか。

 

「うっ……私……怖いのは苦手です……」

『だ、大丈夫ですよっ。きっと楽しめるはずですっ』

「よし翔子。俺たちはお化け屋敷()()のアトラクションに行くぞ」

 

 フィーの相手は黒柳に任せて俺と翔子は歩き出そうとする。

 

『ままま待って下さいっ!どうしておすすめ以外のところに行くんですか?』

「どーせ、雄二と霧島を嵌めるための工作をしてるんだろ?バレバレだてっの」

 

 何故だろう。これほど味方になって頼もしい奴は居ないと思う。お前は俺の救世主か?

 

『そ、そんなことないですって!』

「諦めろ。もうばれた以上、雄二は自ら行こうとはしねぇよ」

 

 ちょっと言い回しは気になるが、何なんだお前は。最高の味方かよ。すまんな。さっきは殴ろうとして。

 

『そこまでだ雄二と……崇彰!?えぇっ!?何で君がここに居るの!?』

「その頭の悪そうな仕草……明久かっ!」

 

 颯爽と登場して崇彰に疑問をぶつけたのは、雄ギツネの着ぐるみだった。

 

『失礼なっ!僕――じゃなくてノインのどこが頭悪いって言うんだ!』

「ふえええぇぇぇん!」

 

 するとすぐそばで誰かがガチ泣きする声が聞こえた。

 

「タカぁあああああ!あのキツネ頭部が前後逆で怖いですぅ……うぇえええええん!」

「「『…………』」」

 

 崇彰にしがみついて泣きじゃくる黒柳を見て固まる男性陣。おい。早く誰か現実を見せてやれよ。というか、どうしたらここまで純粋に育つんだよ。確かにあれを実在する生物だと思い込んでる子供からしたら恐怖以外の何でもないけどさ。

 そんな中、翔子が黒柳の頭をなでながら慰める。

 

「……大丈夫。黒柳。ノイちゃんはうっかりさんだから」

 

 正直、その慰め方はどうかと思う。

 

『あ、明久君っ。頭が逆です!そのせいで由梨乃ちゃんと小さな子たちが明久君を見て泣き出しちゃってます!』

 

 泣き出しているうちの一人が高校二年生という衝撃の事実。しかもクラスメートである。どうしようか。こいつらと赤の他人でいたい。何の関わりもない、学校が一緒なんてあり得ない純粋な赤の他人でいたい。

 

『うわっ、しまった!どうりで前が見えないと思った!』

『早く直さないと坂本君たちにバレちゃいます!』

 

 そして、未だにごまかせると思っているこの二人はつくづくお似合いのカップルだと思う。

 

「霧島」

 

 そんな中、崇彰が妙に重い声で翔子を呼ぶ。

 

「……何?神白」

「お化け屋敷なら雄二に抱きつき放題じゃねぇか?」

「……雄二。お化け屋敷に行きたい」

「ちょ、テメッ崇彰っ!?どういうつもりだ!お前は俺の味方じゃないのか!」

 

 あの男はやっぱり敵だった。畜生ぜってぇ許さねぇ……!

 翔子に肘関節を極められ抵抗すべもなく、お化け屋敷に連れてかれる俺。

 後ろでは、

 

「邪魔者は排除した……おい明久……!」

『ちょっ!待って待って!崇彰が見たことないくらいキレてるんだけどぉ!?』

「ぶちのめす。歯ぁ食いしばれよ……!三下ぁ……っ!」

『ヘルプミー!僕――じゃなくてノインが殺されちゃうよ!誰かぁああああ!』

「死にさらせぇえええええ!」

『ぎゃあああああああああ!』

 

 修羅となった(背後に死神が見えるのは気のせいと信じたい)崇彰がノインを葬っていた。なるほど。邪魔者は俺たちか。この野郎。まぁ、明久のやられるざまを見てちょっとすっきりしたがこの時俺は誓った。

 

 黒柳を泣かせないようにしよう。

 

 泣かせようものならあの男がブチギレる。あれは容赦とか一切感じない。着ぐるみのおかげでダメージは軽減されてるだろうが生身で受けたら……死ぬだろうな。なるほど。これが黒柳を傷つけたものの末路か。いや、まだ肉体的ダメージで済んでいる分マシか。……マシ……なのか?




前の話の結果よりバイトは両方やることにします。
どのようにやるかはまたお伝えします。

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