預言者と孤高の姫君   作:公私混同侍

10 / 17
コンスタンティノープルの攻防

命からがら難を逃れた恭夜は水が流れてきた方向に向かい歩き出した。音を立てれば周りの兵士達に気づかれてしまう。水溜まりを避けながら慎重に足を運ぶ。角を曲がり物陰に隠れた。腰を下ろし乱れた呼吸を整える。

足音が聞こえる。バシャバシャっと水を踏み鳴らしている。恭夜の瞳に刃が映った。

 

「ヒッ……」

 

「こんなとこにいたのか?さっきから騒がしいが、何があったんだ?」

 

サリーが刀を抜き、刃こぼれの酷い刀身を見せつける。恭夜の身を心配しているのだろうが、恐怖心で視野が狭まっている。刃が目先にちらついて正常な判断ができる人間はそうそういないであろう。こんな混沌した状況なら尚更だ。

 

「恭夜、大丈夫?」

 

サリーの横にいたルナがか弱い声を出す。まだ体調は万全ではないようだ。

 

「あ、ああ、やっぱりルナがいたんだ。助かったよ」

 

恭夜は頼もしい女剣士に助けられホッとしたのも束の間、城内の兵士を退けたイェニチェリが目と鼻の先まで来ていた。

恭夜がこの場から逃げることを二人に提案するが、

 

「恭夜は先に帰っていてくれ。私たちもこの辺りの警備を依頼されて見回っていたんだ」

 

「ゲルマも一緒にいるよ」

 

ルナはそう言うがゲルマの姿は見当たらない。どこかに潜んでいるのだろうか?

 

「ゲルマは城壁の上にいる。どうやら預言者が敵の侵入を予測していたみたいだが……」

 

「預言者?」

 

当然の反応だ。恭夜はまだ預言者と会っていない。

焦げ臭い匂いが充満する。兵士が火を放っているようだ。

 

「後で説明する。だから恭夜は先に帰っていてくれ。私が必ず守るから」

 

「うん」

 

サリーに追随するようにルナが頷いた。

 

「俺は刀を振るったり銃を扱ったりはできないけど、二人が戦ってるのをただ見てるだけなんて耐えられないよ」

 

「ならどうする?敵に石でもぶつけて陽動でもするのか?」

 

「あんな大勢いるのに囮なんかできない。それに石なんてどこにも……」

 

「コワイおじさんがあそこにいる――」

 

ルナが城の上を指さす。鉄仮面の男が手招きしている。恭夜は訝しげに男を眺めた。

 

「来るぞ!」

 

イェニチェリの集団が恭夜達に接近する。サリーとルナは前進し迎え撃つ。

 

「サリー、ルナ。時間を稼いでくれ!」

 

恭夜は崖を登る要領で城壁を駆け上がる。以前はヘレナをおぶっていたが今回は一人。疲れはあるが取るに足らないことだ。

三分で到達した。預言者は恭夜が到達したのを確認すると「こっちだ」というようにフードを被った。

一方、地上ではルナが水で押し返していた。本調子でないのか敵の戦意を削ぐまでに至らない。異教徒の軍勢は怯むことなくルナ達に襲いかかる。ルナは斬り合いにならないよう水攻めで応戦する。敵の機動力を奪っていき士気を低下させるのがルナの十八番だ。

他方、好戦的なサリーは実戦で血が疼いたのか容赦なく斬りつけていく。刀は満月の時にその力を発揮する。刀身は満月の光を吸収し刃は延伸する。距離は関係なく敵を薙ぎ倒していく。驚いた敵は散り散りになった。しかし、怖じ気づくことなく態勢を立て直し再度突撃を繰り出す。

サリーは獅子奮迅の如く応戦するが、いかんせん数が多い。呼吸が乱れ光の刃が距離を置くイェニチェリに届かなくなった。

預言者の跡を追っていた恭夜はゲルマを見つけた。預言者とゲルマは共に行動していたようだ。

 

「ゲルマ、この人が預言者……なのか?」

 

「さすがはマスター、勘が相変わらず冴えている」

 

「せっかくの出会いを歓待したいのだが、今はそうとも言っていらない状況なのだ」

 

「わかってるよ。俺は預言者に二人を助け出す方法を聞きに来たんだ」

 

「できれば無用な殺生は避けたい。歴史への不当な介入は悲惨な結末をもたらす」

 

「難しい問題だとも。いつの時代も戦争には死がついて回る。果たしてそのような策が見つかるだろうか?君のような純粋な心を持つ青年に、この現状を打開する術を持ち得ているか?」

 

恭夜はサリーとルナが必死に戦う姿に胸を押さえる。己の非力さを嘆いているのだろうか?二人を助けてしまえば歴史が変わってしまうことを恐れているのだろうか?おそらく両方とも正しく、両方とも間違いだ。正解などない。

 

「俺は二人を守る。もちろんヘレナさんもだ。それに誰も傷つかせない」

 

「ならば聞かせもらおう。君の答えを」

 

恭夜は自らの経験に基づいて語りだした。この状況を打開する最良の策を。

預言者は樽の中に大量の石が入ってると助言する。しかし、恭夜の力では持ち上げることは不可能。ならばゲルマの怪力を用いるしかないと力説した。ゲルマは一切物言いせず受け入れた。その表情にはどことなく嬉しさが垣間見れる。親が子供の成長を喜んでいるようだ。

 

「ならすぐ行動に移そう。時間がない」

 

ゲルマは恭夜の作戦に基づいて実行した。城壁を駆け下りると側面から敵陣に突っ込んでいく。丸腰だが体が人間ではないので考えるだけ無駄だ。敵の弓矢や刀剣もものともしない。無論、応戦する必要もないので誰も死ぬことはない。

ゲルマは一点突破しピラミッド状に積まれている樽を担ぎ上げる。星たちが煌めく夜空に向かって放り投げた。樽は敵の上空を舞っていく。

サリーは樽が飛んでくることに気づき剣先を後方に構える。樽目掛けて刀を振り抜いた。明滅する刀身から光の刃が放たれる。三日月の刃が樽を真っ二つに切り裂いた。中から大量の石が飛散する。敵の頭上から石が雨のように降り注ぎ釘付けにした。足留めにはなったが、この程度では時間稼ぎしかならない。

だが、恭夜の狙いはそれだけに留まらなかった。

サリーはルナと目を合わせると大きく頷く。持っていた刀を宙に放り投げた。車輪のように回転する刀が弧を描くように敵の頭上を舞う。それを見たルナは刀に水を纏わせ、水の大剣を作り出す。持てる力を振り絞り強引に振り抜いた。巨大な水の塊がサリーの刀に命中。凄まじい水飛沫を上げ水の刃が降り注ぐ。敵は恐怖のあまり悲鳴を上げ逃げ惑う。氷柱のような鋭利な液体が身体中を掠めていく。中には深手を負った者もいたが、致命傷になったものはいない。手当てが遅れれば命に関わるかもしれないが……。

目を疑うような光景の数々にイェニチェリの集団はおめおめと退散を始めた。崩落した門から這いずるように撤収する。

混戦後の残骸が戦闘の激しさを物語る。兵士達の死体、重症者の搬送などで城内は混迷をより深めていく。

サリーの刀が地面に突き刺さり、水が滴り落ちた。場内に放たれた火は未だ治まる気配はない。人々はパニックに陥っている。

恭夜達に眠ってる暇などありはしなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。