預言者と孤高の姫君   作:公私混同侍

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大罪

滅びゆく帝国を背に恭夜達は丘陵へ急いだ。丘陵には預言者が目印にするために植えた大木がある。夕陽に雲が重なり心地良い風を運ぶ。

大木の下には預言者、サリー、ゲルマが到着した。時が流れ三者三様の影が細くなる。

恭夜は城塞から目を離さず後ろ向きで歩く。ヘレナは「双頭の鷲」の首飾りを手に取り大木を見上げた。

 

「ルナはどうした?」

 

「大木に寄りかかって寝ている。体調も良くなく、この三日間休む暇もなかった。そっとしといてやればいい」

 

ゲルマはサリーの問いに即答した。ヘレナが大木の背後を覗いた。ルナは寝てはいなかったが夕陽を眺めている。

 

「俺たち、ビザンツ帝国が滅びる三日前に飛ばされたんだな……」

 

「ごめんなさい、恭夜様。ワタシがしっかり説明しなかったせいで辛い思いを――」

 

「やはり大ぼら吹きだったようだな。この女狐が!」

 

サリーが怒気に満ちた顔つきでヘレナを罵る。ヘレナは顔を何度も横に振った。

 

「ち、違うのです!ビザンツ帝国は滅亡から一年後に再興され、小国ながら生き長らえるのです!本当なのです!信じてください!」

 

「だが、ビザンツ帝国最後の皇帝は死に子供もいなかったはず。それではヘレナが言う帝国はどのようにして生まれた?」

 

ゲルマは揺るぎない事実を突きつけた。ヘレナは恭夜の目を見て訴えかける。すると、預言者がヘレナに近づく。

 

「なるほど、そうであったか。余はこの瞬間の為に生かされたというわけだ――」

 

聞き覚えのある声、格式ばった喋り方。預言者は鉄の仮面とフードを取った。

サリーは預言者の素顔を見て身震いした。

 

「あ、あなたは――」

 

「まさかと思ったが、やはり預言者がビザンツ帝国最後の皇帝コンスタンティノス」

 

ヘレナが手を口を当て驚いている。恭夜は状況が飲み込めていない。

 

「何故あなたがここにいるのだ!?オスマン帝国軍に攻めこまれ戦死したはずだ!」

 

「えっ!?死んでるの!?」

 

恭夜はサリーの説明で更に混乱しているようだ。

 

「余は預言者に真実を聞かされた。帝国の終焉、余の運命、そして生まれ変わったビザンツ帝国のことも」

 

「預言者……いや、陛下が聞かされた事実には矛盾がある」

 

ゲルマは意義を唱える。サリーが追及する。

 

「私たちがビザンツ帝国で目撃した玉座に座る人物は間違いなく最後の皇帝コンスタンティノスだ。それにゲルマの頭脳には歴史に関する膨大なデータが集約されている。見間違いは考えにくい。史実であればビザンツ帝国はこの日に滅亡しているんだ。私たちの時代の書物にはあなたが生きていたという事実も、生まれ変わったビザンツ帝国などいう事実も存在しない」

 

「なれば余は何故(なにゆえ)生かされたのか?余が亡霊だと申すのか?」

 

赤き眼光が静かに輝いた。ゲルマが冷静に分析する。

 

「確かに目の前にいるのは皇帝コンスタンティノスだ」

 

「至極当然である。余はもう一人の余と入れ替わるよう命令されたのだ。もう一人の余は未来からやって来たとぬかしていたが、あやつの目に偽りはなかった。そして帝国を再興するためには余に生き延びよと言い放ったのだ」

 

「預言者を騙る男がどうやってこの時代に来たのか気になるところだが」

 

「預言者は記憶喪失を装って素性を隠していたのだな。だとしても、私たちがこの時代に飛ばされたことと関係してるのか?」

 

サリーの疑問にゲルマは黙ってしまった。静かに三人の会話に耳を傾けていた恭夜はヘレナの異変に気づく。ヘレナは涙を拭う仕草をしていた。

 

「ヘレナさん、どうしたの?」

 

「うぅ……ワタシは思い違いを……しておりました……」

 

「本当は預言者なんていなかったってこと?」

 

「いいえ、違います……預言者を名乗る人物は――私の父なのです」

 

「ヘレナさんのお父さん?目の前にいる預言者が?」

 

「ですが、目の前にいるのは過去の父です」

 

陛下は狼狽している。未来から来た娘との対面に動揺しないものなどいない。

 

「よ、余に娘などおらぬ!妄言など聞きとうない!」

 

ここでふと疑問が湧く。娘がいるのなら当然、生みの親がいるはずだ。それなら相手は一体誰なのか?

 

「――なんだよ、みんなして恐い顔してさ」

 

大木から声がする。一同は木を見上げた。葉が夕陽を遮り人の形をしたシルエットが見下ろす。太い枝に腰をかけ足をブラブラさせている。

 

「ハドリア!お前、今までどこにいたんだ?」

 

ハドリアが軽々と飛び降りた。手のひらの汚れを落としている。

初対面のサリーと陛下は茫然としている。ゲルマは赤き眼光を拡散させた。「警戒」を表しているようだ。

 

「今さら挨拶なんてする気はないね。なんていったってお姫様に用があるんだからさ」

 

「ワ、ワタシに何のご用でしょうか?」

 

「そこで隠れてんだろ?生まれ変わったビザンツ帝国の王妃がさ」

 

ハドリアは大木に話しかけている。大木の裏からゆっくりとルナが現れた。

 

「よもやと思ったが……」

 

「信じ難い話だが、新生ビザンツ帝国はルナの選択によって存亡を左右されるというワケだ」

 

「クッ、バカな!?ルナがビザンツ帝国最後の皇帝の王妃だと!?」

 

ゲルマの言葉にサリーの開いた口が塞がらない。恭夜は落ち着いた口調で、

 

「それじゃ、ヘレナさんのお母さんって……」

 

「ルナ様がワタシの母?」

 

「びっくりだよな。まさか新生ビザンツ帝国の王妃が未来から来たなんて、ホントふざけてるよな――」

 

ハドリアはおもむろに腰から拳銃を抜いた。弾数を確認すると銃口を恭夜に向ける。

 

「ハドリア様!?一体何の真似なのですか!?」

 

温厚なハドリアの目つきが変わった。黒い気が体を通して出る。サリーは先手必勝とばかりに背後から斬りつけた。ところが、ハドリアは黒い霧となり姿を消した。

 

「ハドリア様を侮ってもらっちゃあ困るね。アンタらには償ってもらわなきゃいけないんだ。歴史を変えた罪をね」

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